91 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:11:38 No.5655482
この愛おしい生き物を守りたい
卵の殻を破って彼女は一番最初にそう思った
彼女よりすこし前に生まれたラプトル清蘭がぺろぺろと優しく体を嘗め回してくる
そして『キュイ!』だいすきだよラプトル鈴瑚!と鳴いた
既にラプトル鈴瑚の頭の中はラプトル清蘭で一杯だった 
好きだ わたしもあなたが好きだ
わたしはラプトル清蘭を守りたい この世の全ての災厄からラプトル清蘭を守りたい
彼女は生まれて十秒でラプトル清蘭の騎士になることを決めたのだ
幸い彼女はラプトル鈴瑚の中でも特に頭が良かった
姉妹であるラプトル清蘭たち(鈴瑚トプスは生まれてこなかった)がお腹をすかしていると両親よりずっとはやく食べ物を集めてきた
ラプトル清蘭が病気の時もそれを治す薬草をすぐに見つけた
ディープラプトルの危険性に気づきいち早く追い払うことが出来た
ラプトル清蘭を守りたい 彼女はそれだけを考え続けた

93 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:12:04 No.5655489
ある日のことである
ラプトル鈴瑚が食べ物を集めに森へと入っていった
その時『ブオオオオオオ!』不快だと思わざるを得ない大きな鳴き声が聞こえてくる
なんだろうと思いその音のなる方へと向かった
『キュイイイイイイ!』一匹の成体ラプトル清蘭が何かから逃げ回っている 恐慌状態だ  一心不乱に駆けている
『ブオオオオオオオオ!!』鈴瑚トプス! 擬似ペニスは自分の体長ほどに長くなり鼻息荒くラプトル清蘭を追いかけまくっている
鈴瑚トプスはラプトル清蘭に馬乗りになると擬似ペニスを何の遠慮もなくラプトル清蘭の膣に突き刺した
『ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』そしてラプトル清蘭は破裂する
膨大な精液が飛び散って隠れていたラプトル鈴瑚の顔にもかかった

95 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:12:41 No.5655495
なにを見た 一体自分はなにを見たんだ
鈴瑚トプスはラプトル清蘭の頼れる相方ではなかったのか? 常にラプトル清蘭のことを考える優しいジュラシックではなかったのか?
呆然としながらラプトル鈴瑚は立ち尽くす 
あいつはラプトル清蘭を自分の性の捌け口にしやがった
…そうか…そうだったんだ
やがてラプトル鈴瑚はふらふらと歩き出しある場所へとむかう
そこはラプトル鈴瑚が食糧を貯めるために利用している洞窟 そこの最奥 岩によって隠された「それ」がある場所
「それ」はディープラプトルの尻尾だった 以前ディープラプトルを追い払ったとき奴が落としていった尻尾 奴が簡単に落とす尻尾 この尻尾にもウィルスが存在する
ラプトル鈴瑚は尻尾にも「毒」があることを知っていた そしてこれを利用しようと決意した
まず最初に彼女は自分の親の鈴瑚トプスを殺した

96 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:13:29 No.5655500
『キュイイイイイイイイイイ!!』ラプトル清蘭はラプトル鈴瑚の尻尾を咥え離そうとはしない 
『キュウ…キュウ』危ないよラプトル清蘭いまわたしはあなたを殺せるものを持っているのだから ラプトル鈴瑚の手にはディープラプトルの尻尾が入った袋がある
彼女は木の枝を加工した「箸」で掴んだ尻尾を親の鈴瑚トプスに押し付け殺した それが必要なことだからだ
そしてこれは始まりにすぎない 全てのラプトル清蘭の安全のためには鈴瑚トプスの存在は危険なのだ 彼女のたがは外れた
彼女は全ての鈴瑚トプスを殺すつもりだった
『キュイイイイイイイイイイ!』いっちゃだめ!ラプトル鈴瑚が生まれたときその体を舐めてくれたラプトル清蘭が引き止める ラプトル清蘭の本能が叫んでいた ラプトル鈴瑚をいま行かせたら駄目だ
ラプトル鈴瑚が帰ってこれなくなる!
『キュウ…キュウ!』だがラプトル鈴瑚は自らの尻尾を切り離し姉妹の束縛から離れた 駆け出す そして殺戮の旅に出掛ける

101 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:22:51 No.5655552
鈴瑚トプスに近づくことは簡単だった
他の家のラプトル清蘭が迷子のラプトル鈴瑚を見つけたと親の鈴瑚トプスに教える 鈴瑚トプスがのこのこやってきたら「箸」で掴んだディープラプトルの尻尾をその体に押し付けた
鈴瑚トプスはあのとぼけた顔のままやがて泡を吹きつつ死んでいった
彼女は別にそれに喜びは感じなかった これはあくまでラプトル清蘭たちを守るための作業でしかないのだから
ラプトル鈴瑚は鈴瑚トプスを殺して殺して殺し続けた
鈴瑚トプスに対してかわいそうだとは一切思わない
どうせお前らはラプトル清蘭を性の捌け口としてしか考えていないのだろう?
ラプトル清蘭はみな自分のつがいがあっけなく死ぬ姿に呆然と立ち尽くすのみだった
『キュウウウ…』ラプトル清蘭のこんな鳴き声がサバンナを満たした

103 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:23:44 No.5655559
『キュウ!』ラプトル鈴瑚にはどうして清蘭トプスがこんなことをするのか分からなかった
足を折り動けなくなった鈴瑚トプスを見つけこれ幸いと殺そうとしたら突然清蘭トプスが立ちふさがった
『キュウウウ!』必死に傷ついた鈴瑚トプスを守ろうとする
『キュイ?』鈴瑚トプスがどんな生き物か知っているだろう? 
『キュイ!キュイイイイイ!』あなたこそ鈴瑚トプスのことを何も知らない!
ラプトル鈴瑚は考える 
今まで一番考える
清蘭トプスは殺したくないな だってラプトル清蘭と同じ顔なのだから
結局彼女が考えている間に清蘭トプスは死んだ 彼女の行動に賛同した他のラプトル鈴瑚が集めたディープラプトルの尻尾を使ったのだ
彼女は清蘭トプスのみを哀れんだ

104 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:26:45 No.5655575
鈴瑚トプスを殺し始めて10年が経った 仲間のラプトル鈴瑚もだいぶ増えた
仲間たちは鈴瑚トプスが死んだ後のラプトル清蘭の庇護も担当した ラプトル清蘭は一箇所に集められ『つきのみやこ』が立ち並ぶ街に住む 仲間のラプトル鈴瑚はその周囲で警護にあたった
街ではラプトル清蘭が「平和」に暮らしている 食糧は配給され一切の不足も無い 他のジュラシックの襲撃も大量に用意されたディープラプトルの尻尾で万全
だが子供を産むときには制限がある もし卵から鈴瑚トプスが孵ったらその鈴瑚トプスは殺される

105 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:27:14 No.5655577
『キュイイイイイイイイイ!』母親のラプトル清蘭が叫ぼうがそれを無視して彼女は生まれたばかりの鈴瑚トプスを踏み続ける 
あれからもう10年の月日が流れた だがディープラプトルの尻尾に関わり続けたせいだろうか? 
彼女は幼体の姿のままであり尻尾も生えてこない
今の姿は幼子が幼子とプロレスごっこをしているようにも見えるかもしれない
だがやがて鈴瑚トプスの首が折れる音がした『キュイイイイイイイイイイ!』どうしこんなことを!母親のラプトル清蘭は絶叫する
あなたたちのためだよ
『尻尾なし』はにっこりと笑った
『尻尾なし』それが彼女の通称 サバンナにおける新たなる女王もしくは魔王である

109 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:33:08 No.5655603
この一帯の鈴瑚トプスをあらかた殺し尽くしたあと『尻尾なし』はまた別の地域に進出しようとした
だがそれを人間たちが邪魔する 人間たちは鈴瑚トプスの怪死を新たなる伝染病と判断 この地域を封鎖したのだ
『尻尾なし』はジュラシックにゃんにゃんなどを脅しこの封鎖を突破してやろうと考えた そのための準備を始める
鈴瑚トプスはこの地域から一掃された 同じラプトル鈴瑚たちが掃除してくれたのだ
ここはラプトル清蘭の天国だ 良かった 本当に良かった
…だが『尻尾なし』には疑問が一つだけあった
どうして最近はディープラプトルがこんなに生まれるのだろうか? まあ武器が手に入って万々歳だが

110 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:34:32 No.5655612
卵という卵がすべて濃い青色をしている
ディープラプトルを閉じ込めておく牢屋は既にもう一杯だ
彼女は呆然とする どうしてディープラプトルしか生まれてこないんだ!?
『キュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイ』
出して出して一緒に遊ぼう ディープラプトルがそう言っている
『キュウウウウウウウ!?』なぜだ!?彼女は叫ぶ
……彼女は知らなかったのだけど
ディープラプトルはラプトル清蘭とラプトル鈴瑚の間に生まれる その間にしか生まれない
特異体であるディープラプトルの誕生を抑えるためには鈴瑚トプスの遺伝子が必要だったのだ 鈴瑚トプスの血だけがウィルスの発現を抑えることが出来たのだ
だがもう鈴瑚トプスはこの地域にはいない

111 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:34:51 No.5655616
人間たちが放つ機関銃の乱射音が遠くに聞こえた 『尻尾なし』とラプトル清蘭たちは必死に逃亡を続ける
どうしてだ どうしてこうなったんだ 
人間たちは街を見つけそして何百匹ものディープラプトルに恐怖した こんな大量のディープラプトルが他の地域に行ったら本当にジュラシックが絶滅してしまうかもしれない
軍用ヘリが持ち出され機関銃の雨が街を襲った なすすべもない
ディープラプトルと一緒にたくさんのラプトル清蘭たちも殺された
今はその僅かな生き残りと一緒に逃げている 仲間のラプトル鈴瑚は皆死んだ
逃げ切れない
『キュウ……キュウウウウウウウウウウウウウ!』

114 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:37:31 No.5655634
引き裂かれバラバラになったラプトル清蘭の死骸があちこちに飛び散っている
『尻尾なし』はただ一人生き残った 
一番小賢しい自分が生き残った 『尻尾なし』はそう自嘲する
血溜まりのなかに何かが転がっている まるで干物のような細長いそれ
『尻尾なし』は即座に悟った 

あれは自分の尻尾だ 

あのとき姉妹の束縛から逃れたときに切り離した尻尾だ もしかしたら姉妹のラプトル清蘭はずっと尻尾を持ち続けてそれをその子供達が持っていたのではないか
周りを見渡す もう誰が誰だか分からなかった
『キュウ』この愛おしい生き物を守りたい 『尻尾なし』は呟く
わたしはラプトル清蘭が大好きだ 大好きだ

115 無題 Name としあき 15/10/23(金)18:38:25 No.5655640
『尻尾なし』はそれから本能に従いとある場所を目指した
サバンナから遠く離れた荒涼たる山脈 そこはつがいを失ったジュラシックたちが身を投げる崖である
崖下には大量の鈴瑚トプスの骨があった
その傍らにはラプトル清蘭の骨もある
『キュウ…』ああそうか 
お前もラプトル清蘭が好きだったんだな
ラプトル鈴瑚は忘れていた何かを思い出しつつ身を投げた
その手には干からびた尻尾が握られている

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