37無題Nameとしあき 22/05/20(金)01:18:22No.15381677そうだねx8
テンキュウヴェルソルは、深い山の産まれであった。
産まれ出でた頃には生き物の生死を目の当たりにしてきた。
餓えて眠れぬ日も凍えて眠れぬ日も、辛抱して生きてきた。
親も友ジュラも無く、己の血塗れた手や牙を誇るしかなかった。
怪我をした時は安静にし、治療と言うものは知らなかった。
渇望そのものが人生であったテンキュウヴェルソルは、
ジュラにゃんという生物と出逢った。 敵対すれば、まず
共倒れになるであろう体躯の大きな肉食ジュラシックだった。
「…君、元気がなさそうましね。」
ジュラにゃんは山の獣に、愛と真実と言うものを理解させた。
目の前には、牛丼があった。 それは食事だと言う。
ジュラにゃんは、自分に食料を分け与えてくれるのである。
調理された牛肉は、心も体も余すところなく満たした。
「あ… いが、と、う。」
ジュラにゃんの真似をして、言葉を話したのが始まりだった。(続)

38無題Nameとしあき 22/05/20(金)01:19:05No.15381678そうだねx8
テンキュウヴェルソルは、ゆっくりではあるが言葉を覚え始めた。
「ジュラにゃん…。」
「呼んだまし?」
情緒溢れるとは言えないが、確かな言葉を話す事ができた。
「す、き。」
「……。」
ジュラにゃんは狼狽してしまった。 確かにその言葉は教えた。
しかし、そう活用する事までは教えていない。 返事に悩む。
「…ジュラにゃんも好きましよ。 テンキュウ。」 
「へへへぇ。」
ジュラにゃんから見ればそれは赤子のような早さではあったが、
言葉を覚え、意思表示をし始めた、この山の犬は賢くなり始めた。
牛丼を何杯食べた頃だろうか。 彼女はもう見違えるほどに
成長してしまった。 ジュラにゃんはそれを喜んだが、同時に
テンキュウヴェルソルが賢いと認めざるを得ない事を恐れた。(続)

39無題Nameとしあき 22/05/20(金)01:19:44No.15381679そうだねx9
「ジュラにゃん。 ジュラにゃんっ♪」
すっかりと懐いてしまったテンキュウヴェルソルが、頬を擦り付ける。
「…そろそろ、頃合いかも知れんまし。」
ジュラにゃんは、自分の作る牛丼の話をし始めた。 これを食べさせ、
全てのジュラシックを牛丼中毒にする計画を立てていた。 しかし、
現実は牛丼中毒になどならなかった。 何度牛丼を食べさせても、
ジュラにゃんありがとう! ジュラにゃん大好き! という健気な言葉を
テンキュウヴェルソルは言った。 これでは、計画は失敗だ。
「…お前は、どうして牛丼中毒になってくれなかったまし。」
「……?」
突然にそんな身の上を説明されて、困惑してしまうテンキュウ。
「…もう撤退しなくちゃならんまし。 お別れましよ。」
「お別れ? ジュラにゃん!?」
明らかにいつもと違う雰囲気を感じ取り、不安を言葉にする。
「テンキュウ。 その… お前は、特別な存在ましっ。」(続)

40無題Nameとしあき 22/05/20(金)01:20:13No.15381680そうだねx8
とても歯切れの悪い言葉をぶつけて、ジュラにゃんは
テンキュウヴェルソルを置いて、捨てて行こうとした。
「ジュラにゃん! 待って! 待って!」
テンキュウヴェルソルは涙を零して叫んでいた。
「付いてきちゃダメましっ!」
「!?」
ジュラにゃんがそう咆哮すると、足を止めてしまう。
そのスキにジュラにゃんは走って撤退していったのだ。
「ジュラにゃん…。」
涙が止まらなくても、ジュラにゃんを見つめ続けた。
「ジュラにゃー−んっ!!」
何度も何度も、愛しいジュラシックの名前を叫んだ。
「ジュラにゃー−−んっ!!!」
テンキュウヴェルソルは、また孤独なジュラシックになった。
「ジュラにゃん…。」(終)

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