38 無題 Name としあき 18/01/04(木)00:21:36 No.9895369
トプスライオンは憤慨し続ける
「ライオンではないプス!ライオンではないプス!」
尊厳を守らんと張り上げられる必死の訴えも虚しくも、闇へ消えた

そこにはライオン扱いの末にその檻へ入れられた哀れな一頭のジュラシックがいる。

真鍮から光沢を消したような色の肌は檻の寒さに震え、眼からは光が失せつつあった
最初にここに入れられたのもこんな寒い日だったのをトプスライオンは思い出していた。

故郷、モンゴル、遥かに広がる大草原を駆け回れた自由はもはや埋もれるばかりの過去の幻影となりつつあった
種の中で少しばかりだけ、ライオンのような姿に生まれた所為でトプスライオンはライオン扱いを受け捕獲され今は動物園の見世物であった

39 無題 Name としあき 18/01/04(木)00:22:33 No.9895377
『あなたライオンです、トプスではないだろうと思う、河の水が好物。』
覚束ない合成清蘭の音声が檻へ響き渡るとトプスライオンは記憶の海から浮上した
神を騙るような飼育鈴瑚達はこの聴く拷問器具を動物園の開園まで使い続け、トプスライオンの自己認識を捻じ曲げてしまおうと言うのだ。

目論見の通り、トプスライオンの自我には植えつけられたライオンである事への誇りが聳り立ちつつあった
きっと、自我をいずれはライオンが支配するだろう

つきのみやこ動物園にはこのようにして自我の塗り替えが行われたジュラシックが多数飼育されている。

40 無題 Name としあき 18/01/04(木)00:31:12 No.9895428
『プス〜!じゃない、ガオ〜!繰り返せ、河の水が好物』
「ガオー!ガオー!」

磨耗した自己の意識へとライオンを植えつけられる
毎日続けられるライオン化誘導により精神は半壊し虚ろに合成清蘭の指示に従ってしまう
今は声をライオンにされている、その前は歩き方をライオンにされていた

『よし、行動を終了していい、河の水が好物』
「ガオー」
河の水が好物とは暗示のパスワードのようなもの
これを語尾に付けられればその時点で発言に対しトプスライオンは逆らう事の一切が封じられてしまう

もはや、トプスライオンはライオンになった

43 無題 Name としあき 18/01/04(木)00:45:47 No.9895510
ライオンにされたトプスライオンは、滑稽さから愛されるマスコットになるだろう、そして、欺瞞的なショーの主役にも

『ライオン、火の輪をくぐれ』

そう命令されるとライオンは火の付いた輪へと飛び込んで行く
迷いもない、躊躇いもない、全身が丸焼けになる危険もライオンには見えない
「ガオー!」

煤まみれになったライオンは、火の輪を越えた事を誇らしく思ったのか、一鳴きして見せる
感嘆の拍手に包まれ、ライオンは幸せだった

その脳裏に哀しんだトプスの鳴き声が響くが、ライオンはトプスではなかったのでその意味も分からなかった。

44 無題 Name としあき 18/01/04(木)00:51:46 No.9895548
ある日ライオンはラプトルが自分の檻の前で見つめてくるのに気づいた。ラプトルはキュイキュイと「トプスだ、トプスだ」と繰り返した。ライオンはラプトルの視力と知識を疑った。

「ガオー!」そう勇ましく吠えると、自分がライオンである誇りで胸がいっぱいになった。それでもラプトルはキュイキュイ鳴く。ライオンは怒り、檻の柵に突進した。がだー、ん……大きな揺れる音でラプトルはキュイキュイ逃げてゆく。

ライオンは何故かとても悲しくなった。その感情はライオンらしくないので振り払おうと努めたが、どうにも脳裏にこびりつき、むしろ懐かしささえもあった。ライオンはライオンにすぎないというのに。

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