前:玉兎とトプスと海

10 無題 Name としあき 18/12/21(金)22:23:33 No.11196725 del
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「それにしても、言葉が通じないとはね。」
青い髪の、ハンチング帽をかぶった兎が言った。足元にいたトプスが、フイ、と返した。
「大きな街だし、探すの、苦労しそうだなあ。」
二人は、人間とジュラシックの入り乱れる大通りの雑踏の中にいた。左右の建物からは無数の看板が突き出し、通りの上空を覆っている。埃っぽい風が、建物の間を吹き抜けていく。灰色の空は、今にも降り出しそうだ。
「とりあえず、なにか食べよう。」

11 無題 Name としあき 18/12/21(金)22:23:52 No.11196726 del
「ここ、いい匂いがする。」
兎が言った。看板の文字は読めないが、なにかのレストランなのは間違いない。トプスも匂いを嗅いで納得したようだ。
「ジュラシック向けのメニューがあるといいけど。」

薄暗い店に入ると、奥からジュラにゃんが出てきた。
「いらっしゃいまし!」
「あ、言葉が通じる!よかったあ。」
「旅人さんまし?見れば分かりまし。さあさ、好きな席に座りまし。」
奇妙な語尾に違和感を持ちつつも、兎は言われるままに丸椅子に座り、チェック柄のシートのかかったテーブルに置かれていたメニューを開いた。
「私は…。これ。チャーハン。」
「かしこまりまし。トプスちゃんは…。yasaiの盛り合わせでいいまし?」
トプスは嬉しそうにフイ、と鳴いた。

12 無題 Name としあき 18/12/21(金)22:24:40 No.11196730 del
ジュラにゃんが厨房に入り、料理ができるのを待つ間、兎は店の中を見回していた。埃をかぶったランプが、店の中をオレンジ色に照らしている。壁の隅にかかったテレビは、兎の分からない言葉で何かを喋っている。白いタイルの床は、いくつもひびが入っていた。

しばらくすると、店の奥から再びジュラにゃんが現れた。
「はいお待ち、チャーハンとyasai盛り合わせまし。召し上がれまし。」
「ありがとう、いただきます。」
ジュラにゃんはテーブルにチャーハンを、床にyasaiの盛り合わせを置くと、兎の隣の席に座った。
「旅のお話、聞かせてくれまし?」

13 無題 Name としあき 18/12/21(金)22:25:02 No.11196731 del
兎はこれまでのいきさつを、かいつまんで話した。友人を探していること。トプスとの出会いのこと。共に歩いた日々のこと…。
「なるほど。」
ジュラにゃんが言った。
「その兎、多分この店に来たことがありまし。」
「えっ!」
「ただ、もう随分前まし。多分…一年は前まし。今どこにいるかは分からないまし。」
「そうですか…。」
兎はがっくりと肩を落とした。いつの間にか食べ終わったトプスが、テーブルの下から二人をじっと見ている。
「そういえば、彼女、こんなことを言ってたまし。」
兎が顔を上げた。
「友達を置いてきてしまった、って。きっとあなたのことまし。随分悩んでたみたいましよ。」
「そんなことを…。」
「さっさと追いついて、安心させてやりまし。」
「…はい!」

14 無題 Name としあき 18/12/21(金)22:25:42 No.11196735 del
「520ジュラまし。…はい、丁度いただきまし。彼女はここから北に向かうと言ってたまし。その後は自分で探しまし。」
「ありがとう、ジュラにゃんさん。チャーハン、おいしかったです。」
「どうもまし。…二人を見てると、旅人だった頃を思い出しまし。」
「えっ、旅人だったんですか?」
「昔の話まし。ささ、行きまし。ジュラにゃんはこれからお昼休みまし。…幸運を祈ってましよ。」
「そうですか…。さようなら。本当にありがとう。」
ジュラにゃんは小さく手を振って、何も言わずに店の奥に消えていった。
「思わぬところで、手掛かりが見つかったね。」
兎は嬉しそうにそう言った。

15 無題 Name としあき 18/12/21(金)22:26:02 No.11196737 del

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「そういえば」
ジュラにゃんが呟いた。
「彼女、結界がどうとか、って言ってたまし。すっかり忘れてたまし。まあ、なんとかなりましね。」

終わり

続き:玉兎とトプスと無限の青空

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