前:玉兎とトプスと平原、そして列車

9 無題 Name としあき 18/12/18(火)23:59:20 No.11189285 del
「黄色い髪の兎ねえ。」
船頭の、赤い髪の少女が言いました。
「見たことないなあ。」
「そう、それは残念。」
青い髪の兎が答えました。
「この先にいるって保証はあるのかい?」
「…いいえ。」
「…恋人かい?」
「まさか!友達よ。…腐れ縁といった方がいいかしら。」
「でも探してやってるじゃないか。いい友達持ったね、その人。ところで。」
「何?」
「その生き物、何?さっきから気になってたんだ。」
「あら、トプスよ。知らないの?」
「初めて見るなあ。」
トプスは少し不満そうな顔をして、フイ、と鳴きました。

30 無題 Name としあき 18/12/18(火)23:59:36 No.11189287 del
三人がいるのは、青く透き通った浅い海の上でした。潮の香りのする風が吹いています。美しい海でしたが、魚は一匹もいませんでした。先ほどまで三人がいた海辺は、遠く離れていました。白い砂浜が、きらきらと輝いているのが見えました。
「月にも海があったっけ。」
「あれ、あんた月から来たの?」
少女はそう言って笑いました。

31 無題 Name としあき 18/12/18(火)23:59:55 No.11189288 del
「そうそう。」
少女が言いました。
「この辺りの海底をよく見てみるといいよ。」
兎は言われるままに海の底を覗きました。トプスも、船のへりから身を乗り出そうとしています。
「あっ!」
そこにあったのは、無数の機械の残骸でした。なかには、兎には見覚えのあるものもありました。
「月の機械…。」
「そうなのかい?知らなかったな。」
「いつからここに?」
「分からない。ずっとずっと昔。」
「どうしてこんなところに…。」
兎は水底を覗き込んだまま、しばし考えこんでいました。しかし、トプスがうまく体を持ち上げられずに苦しんでいることに気づくと、慌てて抱き上げて、水底を見せてやりました。

32 無題 Name としあき 18/12/19(水)00:02:02 No.11189295 del
1545145322742.png-(356786 B) サムネ表示

「はい、着いたよ。じゃああたいはこれで。」
そういって少女は再び船を漕ぎだしました。
「どうもありがとう。助かったわ。」
兎は少女に礼を言って、砂浜を歩き始めました。
「…ねえ、この海、本物だと思う?」
兎が訊きました。
「なんだか変よ。生き物の気配がしないもの。それに、この感じ…。」
トプスは何も言わず兎の話に耳を傾けています。
「この場所、繋がってるんじゃないかな、月と。」
兎は青空を見上げました。昼の月が、青空に登っていました。それは、いつもより大きく見えました。

33 無題 Name としあき 18/12/19(水)00:02:29 No.11189299 del
二人が砂浜に沿って歩き続けていたときでした。急にトプスがフイッ、と叫んで走り出しました。そして、少し離れたところで立ち止まりました。何度も鳴いて、兎を呼んでいるようです。
「あら、どうしたの。」
兎が駆け寄ると、浜辺に何か倒れているのが判りました。それは、小さなラプトルでした。
「生きてる?」
よく見ると、ラプトルのお腹はゆっくりと波打っています。どうやら眠っているようでした。しばらく見ていると、ラプトルはゆっくりと目を開けました。そして、目の前の存在に気づくと、キュイッ、と悲鳴を上げて逃げていきました。
「待って。敵じゃないよ。」
兎がそう言うと、ラプトルは立ち止まって振り向きました。そして、兎の足元にトプスがいるのを見ると、ゆっくりと近づいてきました。そして、トプスに向かってキュイ、と鳴きました。すると、トプスもフイ、と返します。そんなやり取りを何度か繰り返した後、二匹は互いに体をすり合わせ始めました。
「あらあら、おませさんね。ところで、お腹空いてる?林檎があるんだけど。」
兎がそう聞くと、ラプトルは嬉しそうに鳴いて、兎を見上げました。

34 無題 Name としあき 18/12/19(水)00:02:52 No.11189301 del
「それじゃあ、またね。」
林檎を受け取ったラプトルに手を振り、二人はまた歩き始めました。ラプトルはきょとんとして、二人をじっと見ていました。
「あの子、どうしてこんなところにいたんだろうね。」
トプスは何も言いません。別れが寂しかったのかもしれません。兎がふと振り向くと、そこにはもう、ラプトルの姿はありませんでした。

終わり

続き:玉兎とトプスと混沌の街

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