前:砂漠の玉兎とトプスと月と



35 無題 Name としあき 18/12/18(火)00:38:17 No.11186822 del
1545061097155.png-(340957 B) サムネ表示
広い草原に、線路が走っていました。青い髪の兎とちいさなトプスが、線路に沿って歩いていました。兎は大きな鞄をしょって、オレンジ色のハンチング帽をかぶっていました。
「この線路、どこまで続いてるんだろ。」
兎が言います。しかし、トプスはそれを気にも留めず、兎の前を早足に歩き続けました。
空はよく晴れて、優しい風が吹いていました。草がそよぐかすかな音以外に聞こえてくるものはなく、とても、とても静かでした

36 無題 Name としあき 18/12/18(火)00:38:36 No.11186823 del
二人はもう随分とこの線路に沿って歩いていました。途中、何度か列車が通るのを見ました。トプスは、おそらく初めて見る列車に興奮していました。興奮するあまり電車に駆け寄ろうとしたので、兎はトプスを抱き留めなければなりませんでした。
兎は特にどこかを目指していたわけではありませんでした。ただ、立派な線路の先なら大きな町があるかもしれない、大きな町ならあの人の手掛かりが見つかるかもしれない、と考えたために、線路に沿って歩いているのでした。
「おなか、すいたね。」
兎が言いました。トプスは、今度は立ち止まりました。なかなか現金なようです。兎は笑って、鞄から青林檎を取り出しました。兎がトプスの前に林檎を置くと、トプスは勢いよくかじりついて、丸ごとぺろりと平らげてしまいました。
「いい子。」
そう言うと兎はもう一つ林檎を出して、皮ごとかじりました。

37 無題 Name としあき 18/12/18(火)00:39:01 No.11186824 del
ゴトンゴトンと、小さな音が聞こえてきました。
「列車が来る。」
兎が呟きました。トプスも足を止めて、線路の先を見ています。
地平線に、小さな黒い点が見えました。それは徐々に大きくなって、それに伴って音も大きくなりました。
やがて、轟音を立てて列車が二人の前を横切りました。その時、窓から中の様子が一瞬、見えました。
「あっ!」
兎が声を上げました。それは、半ば悲鳴のようでした。
兎はほんの一瞬でしたが、確かに見たのです。列車の中にいた少女の姿を。彼女とよく似た、しかし垂れた耳。黄色い髪。少し小柄な体。後ろ姿でしたが、間違いないと確信していました。
「待って!」
兎は何度も叫びました。彼女の名を。列車が遠く離れ、地平線の向こうに消えた後も叫び続けました。
気が付くと、足元でトプスが心配そうに見上げていました

38 無題 Name としあき 18/12/18(火)00:39:22 No.11186825 del
「あの列車、どこまで行ったんだろう。」
兎が名残惜しそうに言いました。
「とにかく、この先にいる。きっと追いつける。」
兎がそう自分に言い聞かせていると、トプスがフイ、と短く鳴きました。
「ふふ、そうね。」
それだけ言うと、兎は口をつぐんで、また歩き始めました。トプスもあとに続きます。
暖かい風が、草原を吹き抜けていました。

終わり

続き:玉兎とトプスと海

■ SEARCH

■ JURASSICS BIRTHDAY

■ SHELTER

■ OMAKE ver.2024

どなたでも編集できます