砂漠の玉兎とトプスと月と
最終更新：ID:Mz5GXVJtOw 2018年12月18日(火) 13:08:26履歴
9 無題 Name としあき 18/12/15(土)19:13:14 No.11179495 del
広い砂漠でした。暑い風が吹いておりました。青い空でした。雲一つありませんでした。
青い髪の兎が、ひとり寂しく歩いておりました。
兎はオレンジ色のハンチング帽をかぶっていました。それは、まるでほかのだれかのもののように、青い髪の兎には似合っておりませんでした。
兎は喉がからからでした。水はもうほとんどありませんでした。砂漠がどこまで続くのか、見当もつきませんでした。
いつまでも、いつまでも歩き続けました。やがて日が傾いてきました。もうすぐ長く冷たい夜が来ます。砂のうねりが、長い影を作っていました。兎は、その陰で眠ることにしました。
10 無題 Name としあき 18/12/15(土)19:13:32 No.11179496 del
兎は腰を下ろして、重い荷物を置きました。その時、砂の上に何かが倒れているのに気が付きました。
それは、ちいさな恐竜でした。小さくても立派な襟をもった、トプスの子供でした。ずいぶんと弱っているようでした。
兎は、荷物からなべを出して、水筒の水を少し汲みました。そして、トプスの前に差し出しました。すると、トプスはゆっくりと起き上がって、水を飲みはじめました。それを見て、兎は少し安心した様子で、水筒の残りの水を全部飲んでしまいました。
「あなた、なんだかあの人に似てる。」
兎はそう言って、トプスの頭を撫でました。トプスは少し体をこわばらせましたが、やがてやめました。
11 無題 Name としあき 18/12/15(土)19:13:50 No.11179498 del
やがて夜になりました。空に大きな銀色の月が昇り、その周りに星が輝いていました。
二人はまだ起きていました。いつの間にか兎は火をおこして、テントを張っていました。
「私ね、人を探してるの。」
兎が言いました。
「この帽子の、本当の持ち主。いなくなっちゃったんだ。」
トプスは小さくフイ、と返しました。
「ふふ。かわいい。」
兎はまたトプスを撫でました。
「あなたはどこから来たの？」
トプスは何も言いませんでした。
「私はね、」
兎は空の、大きな月を指差しました。
「あそこから来たんだよ___」
12 無題 Name としあき 18/12/15(土)19:14:05 No.11179501 del
次の日の朝兎が目覚めると、トプスはもう起きていて、枕もとで兎の顔を覗き込んでいました。
「＿＿＿おはよう。」
兎は手際よくテントをたたみ、大きな鞄に詰めました。
トプスは兎の周りを走り回っています。少しの水で、すっかり元気になってしまったようです。
ですが、今日中にこの砂漠を抜けなければ、二人とも命はないでしょう。兎は顔には出しませんが、本当は怖くてたまりませんでした。
兎が鞄をしょって、歩き出そうとした時でした。
足にトプスが体を押し付けてきました。
どうしたの、と聞くと、フイ、と返します。そして、兎が行こうとしている方角とは違う方を向いて、フイ、フイ、と鳴いています。
「そっちに行きたいの？」
と聞くと、トプスは勢いよく走りだしました。
「ああ、待って。」
13 無題 Name としあき 18/12/15(土)19:14:23 No.11179502 del
トプスは、どこまでも走っていきました。兎はその後ろを、息を切らしてついていきます。
一体どれくらい走ったでしょうか。いくつかめの砂の丘を越えようとした時でした。兎の耳に、小さな音が聞こえてきました。とても小さな音でしたが、それは間違いなく___
「水の音がする。」
兎は立ち止まって、また歩き出しました。丘の向こうの大地が、ゆっくりと見えてきました。
川が流れていました。それに沿って、草木が生えていました。よく見ると、川のほとりでトプスが待っています。兎は走り出しました。そして、鞄を放り出して、勢いよく川に飛び込みました。
14 無題 Name としあき 18/12/15(土)19:14:41 No.11179504 del
「助けられちゃったね。」
兎が言いました。
「これから、どうしようか。私は、この川に沿って歩いてみようと思うの。ねえ、もしよかったらなんだけど＿＿＿」
トプスは、フイ、と嬉しそうに返しました。
「ふふ、決まりね。」
ふたりは、川に沿って歩き出しました。
どこまでも、どこまでも。
終わり
22 無題 Name としあき 18/12/15(土)20:56:48 No.11179875 del
1544875008650.png-(334869 B) サムネ表示
お話の雰囲気がとてもいい…
続き:玉兎とトプスと平原、そして列車
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