19 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:38:36 No.11210214 del
12月25日は、私にとって特別な日ではない。それは「今となっては」であり、「現時点では」でもある。
サンタクロースを心待ちにする年齢ではもはやなく、この日を特別な日たらしめる特別な相手はいまだない。
故に私にとっては今日もいつもと同じ一日で、いつもと同じようにクリスマスムードに浮かれるコンビニで買ってきた惣菜を部屋で食べている。

20 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:38:53 No.11210216 del
しかし私は寂しくない。こう言うと強がりだと取られそうだが、本当に寂しくない。本当に。本当だ。断じて。
と言うのも私は部屋に一人でいるのではなく、愛らしいペットであるレイセンフォドンと暮らしているのだ。
レイセンフォドンは可愛い。
まず見た目が可愛い。小さな体に大きめの頭。そして常に笑っているように見える顔。
しぐさも可愛い。可愛い動物は何をやっても可愛いので当たり前ではあるが。見た目の可愛さを裏切るようないたずらをやってきて、それを叱っても表情が変わらないところもまた可愛い。
そんなフォドンは今私が自分の夕食のついで買ってきたninjinをコリコリと齧っている。可愛い。
こんなに可愛いフォドンと暮らしているのだから、私が全く寂しさを覚えていないことは容易に理解してもらえたことと思う。

21 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:39:08 No.11210218 del
さてそんなレイセンフォドンの様子を愛でながら夕食を食べていると、来客を告げるチャイムが鳴った。誰だろう、と私は訝しむ。
人を訪ねるには憚られる時間だし、そもそもこんな日に私を訪ねようとする人に心当たりはない。何か荷物の配達を頼んだ覚えもない。
玄関へと向かう私の胸にはどこか恐々とした気分が沸き上がってきている。
サンタクロースがやってきたとする可能性よりも、押し込み強盗がやってきたとする可能性のほうを、私はいくらか現実味があると考えている。

22 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:39:24 No.11210220 del
玄関へ近づき「どちら様ですか」とドア越しに声をかけるも返事はない。
不審に思いドアスコープを覗く。……誰もいない。
私の警戒心が一段階引き上げられる。ドアチェーンがかかっていることを確かめ、ドアをゆっくりと開ける。
すると、ドアが何かにぶつかる音がした。
一度ドアを閉めチェーンを外してから、再び用心しながらドアを開ける。何かドアの前に置かれたものがドアに押されている感触が伝わってくる。

23 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:39:40 No.11210223 del
外に出ると、ドアの前に置いてあるものの正体がわかった。箱だ。30cm四方ぐらいの大きさに、カラフルなラッピングとリボン。
持ち上げてよく見ると、箱を戒めるリボンにはカードが挟まっていた。そのカードにはなんと私の名前が宛先として、送り主として『サンタクロース』と書かれている……ようだ。暗くてよく見えないが。
自称サンタクロースからの、いかにもクリスマスプレゼント然とした箱。
これを無邪気に本物のサンタクロースからのプレゼントだと信じたわけではないが、私の名前が書かれているなら私が持って入っても問題なかろうと判断し私はその箱を部屋へと持って帰った。

24 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:39:56 No.11210224 del
部屋に戻りとりあえず開けてみるかとリボンに手を掛けたところで、あることに気が付いた。
カードに書かれている送り主の名前だ。よく見ると『サンタクロース』ではない。
『サンクロタニス』だ。
サンクロタニス……たしかジュラシックにそんな奴がいた。私の好みに合わないのでこれまであまり意識したことがなかったが。
つまりこれは、『サンタクロース』と『サンクロタニス』をかけた、サンクロタニス自身からのプロモーションか何かなのか? 「ラプトルやトプスもいいけど、サンクロタニスもよろしくね」的な。

25 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:40:30 No.11210226 del
1545752430116.png-(52171 B) サムネ表示

仮説を確かめるべく箱を開けると、中に入っていたのはぬいぐるみだった。

「これは……」

可愛い!
デフォルメされたサンクロタニスのぬいぐるみだ。
確かサンクロタニスは平べったい体をしていて、人によって好みの別そうな外見だったはずだが、それが全体的に丸みを帯びたデザインでデフォルメされることで愛らしさを増している。
机に置くと、自立できずころころと転がってしまう。普通だったら欠陥デザインと言われそうなものだが、このぬいぐるみに至ってはそれも許せてしまう。

26 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:40:50 No.11210228 del
サンクロタニスのプロモーションは非常に効果的だ。少なくとも私にとっては。
そうやって私が思わぬプレゼントにはしゃぎ、机の上で何度も立たせて転がせてを繰り返していると、フォドンがいつの間にか机の上へ登ってきて、箱の中を覗いて何かを取り出した。

まだ箱の中に何かあったのか。
気付いた私にフォドンが取り出したそれを差し出してくる。

27 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:41:07 No.11210230 del
魚の刺身が入ったパックだった。
どこかのスーパーで買ってきたのか、値札がそのままついている。
ハマチ。298円。消費期限は今日まで。

「……なにこれ」

28 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:41:23 No.11210231 del
刺身? 間違えて入れたのか? いや一体どんな間違いをしたらぬいぐるみと魚を一緒の箱に入れることになるのだ。
そうなるとこれは明確に入れられたものなのか。
戸惑いながらビニールを剥がす。
パックを開けたところで何か変化するわけでもない。普通の切り身だ。
匂いを嗅いでみると、わずかに酸っぱい匂いがした。真冬とはいえ、傷んでいるのかもしれない。
食べるのはやめたほうがよさそうだ……と考えていると、フォドンがさっと手を出し、刺身を食べてしまった。

29 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:41:41 No.11210232 del
「あっ、こら!」

私が叫んだのと、フォドンの体に変化が起きたのはほぼ同時だった。
切り身を口にしたフォドンの体は瞬く間に淡い桜色へとその見た目を変えた。
歩くリトマス試験紙とも呼ばれる、レイセンフォドンの体色が薄ピンクへと変化した、これはつまり……。

このハマチ、弱酸性だ。

30 無題 Name としあき 18/12/26(水)00:42:01 No.11210235 del
フォドンは口にした刺身を吐き出す様子はない。
傷んではいないのかもしれない、と私もおそるおそる刺身を口にする。
食べてみると、酸味が口の中へ広がる。
何のことはない、酢締めだ。酸っぱい匂いは酢の匂いだったのだ。

「おいしい……」

おいしい、けど。
何故ハマチ?
何故酢締め?
何故ハマチ弱酸性?

疑問符に包まれながらクリスマスの夜は更けていった。

終わり

■ SEARCH

■ JURASSICS BIRTHDAY

■ SHELTER

■ OMAKE ver.2024

どなたでも編集できます