無題 Name としあき 19/02/15(金)21:14:20 No.11389450 del
山合いの自然豊かなサグメ研から電車で二時間、都会の小さなアパートで私はサグメ博士から只の稀神サグメへと変わる。
床に置かれた学術雑誌の束を乗り越え、ようやく愛すべき居間にたどり着いた。夕飯のカップ麺にお湯を入れると、こたつに滑り込み漫然とテレビをつける。画面の中ではいたいけな少女がラプトルとじゃれ合っていた。バラエティ番組の1コーナーらしい、特に見たい番組も無かあので、惰性でテレビを眺め続ける。

画面の中の少女は楽しそうだった。少女は一片の曇りもない済んだ眼差しでラプトルを捉えている。その少女に既視感を覚え、その直後に急激な涙腺の緩みを感じた。画面の少女が無性に羨ましく、恨めしくてたまらない。

無題 Name としあき 19/02/15(金)21:14:52 No.11389454 del
ジュラシックの研究は万人が思うよりも退屈なものだ。
仕事の殆どは膨大なデータ整理と論文検索、ジュラシック自体に触れる機会は週に数時間もない。単調な反復作業の前では探究心など容易く吹き飛んでしまう。おまけに連日の残業。それでもこの仕事を続けられるのは、ひとえにジュラシックへの興味と好意があるからだ。

そうだ、私は昔からジュラシックが好きだった。愛くるしいラプトルやトプス、邪悪なジュラにゃん、その全てが鮮やかに輝いていた。その世界に一歩でも近づくために私はあらゆる苦労も惜しまなかった。切磋琢磨の末に私はジュラシックの権威とまで言われる存在となった。

無題 Name としあき 19/02/15(金)21:15:21 No.11389456 del
それなのに何故だろう。誰よりもジュラシックに詳しい自分よりも、ラプトルとふれあう画面の少女の方がジュラシックに近く、親しく思えてならない。ジュラシックに憧れ、その世界を追いかける私はもういない。智慧と引き換えに私はジュラシックか遠く離れてしまったのだ。耐えられない。感情と涙が洪水となって溢れ出し、悔しさに身をよじった。

日が昇る。泣き疲れた上に寝落ちしてしまったらしい、のそのそと立ち上がり付けっ放しのテレビを消して身支度を始める。昨夜の冬の海のような感情は、不思議なことに朝日と共にすっかり引いてしまっていた。

たとえジュラシックから遠ざかっていたとしても、今の私がジュラシックを愛しているのは確かな事だ。少女の頃に戻れなくとも、私は私として生きるしかない。
都会の小さなアパートから電車で二時間、私は稀神サグメからジュラシックの権威、サグメ博士へと変わる。

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