前:まめトプとまゆマジロの雛まつり

71無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:25:05No.15182920そうだねx7
「フイー、今年も始まったプスな」
「キュイキュイ」
「はに・・・・・・」

3月3日の雛祭り。毎年恒例のこの奇祭、あるいは奇災に、トプスたちは家に篭ることで耐え忍んでいた。テレビでは各地の凄惨な映像が次々と映し出される。

『今私は華扇ちゃんスレ、人里の上空に来ています! 飛行型が飛び交っているためこれ以上近づけませんが、人里のあちこちで火の手が上がっているのが見えます。時折銃声や爆発音も、あ! 今稗田タワーが倒壊しました!』

72無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:25:37No.15182921そうだねx5
人里封鎖前に入った情報によると特定の住居を持たないホームレスなどが自衛のために武装。一個大隊の武装集団となり雛山さんの軍勢に立ち向かったという。当然のことながら結果は大敗。TVの映像は取材班の悲鳴とカメラの揺れ、画面いっぱいに広がる緑色を最後に切り替わった。

「あ、これ近所じゃないプス?」
「キュイ!」
トプスが声を上げる。言われて目を向けると確かに、切り替わった映像はつきのみやこの近くを映していた。見覚えのある建物や風景の中に、緑色の何かが蠢いている。その中に、見覚えのあるシルエットがあった。

73無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:26:18No.15182922そうだねx5
「はに!?」
慌てて確認しようとしたまゆマジロの目の前で映像は次の場面に切り替わった。一瞬しか見えなかった。それでもあれは間違いない。まゆマジロは一年前の出来事を思い出していた。
1年前の3月3日、まゆマジロはまめトプスと一緒に雛祭りの中外に出かけてしまった。そしてまめトプスは1人助けを呼ぼうとして、その犠牲になった。祭とともに姿を消したまめトプスのことをまゆマジロは忘れたことはなかった。

74無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:26:53No.15182924そうだねx5
「・・・・・・はに!」
まゆマジロはTVに見入っているトプスやラプトルに気づかれないよう、こっそり部屋を出た。そのまま、台に乗って玄関の鍵を開けると静かに戸を開ける。この辺りはまだ侵食が進んでいないらしく、風景に様変わりした様子はない。まだ間に合う。意を決したまゆマジロはそのまま外に飛び出した。
目指す先はTVに映っていた公園だ。そこはまめトプスと最後に別れたところだった。祭の侵食が進む前に辿り着かなければならない。まゆマジロは近道を通り抜け、一生懸命走った。

75無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:27:30No.15182925そうだねx5
「はに・・・はに・・・・・・」
公園にたどり着いたまゆマジロは息を整える間も惜しんで周囲を探した。少しずつ空の色が澱んできている。そこかしこの物陰に蠢く緑色が見える。これ以上は危険だ。まゆマジロは踏みとどまりたい気持ちを抑え、家に戻ることにした。
「やめて・・・」
「はに!?」
ところが行きと同じ近道を通ろうとするまゆマジロの前に立ち塞がるものがいた。雛祭り仕様の緑色の紺魔理だ。まゆマジロが右を通ろうとするとそちらに腰を振り、反対に回り込むとまたそっちに腰を振る。通せんぼしているのだ。
まごつくまゆマジロの周りで、ざわりざわりと気配が増えていくのを感じる。ここで立ち往生している暇はない。やむなくまゆマジロは近道を諦め、踵を返した。去りゆくまゆマジロの背中を眺めながら、紺魔理は腰を降っている。その背後、近道の先から小さく舌打ちの音が響いた。

76無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:27:59No.15182926そうだねx5
「はに・・・! はに・・・!」
家路を駆け抜けるまゆマジロ。既に空は赤と緑のまだらに濁り、空気も澱んでいる。完全に雛祭りが始まってしまった。それでもあと少し、もう数分で帰り着くその前にまゆマジロの足は止まった。
目の前には幾多もの影が立ち並び壁を作っている。その先を見通せない密度だ。慌てて後ろを振り返ればそちらにも雛の壁。いつの間にまゆマジロは完全に囲まれてしまっていた。逃げなければ、走らなければ。そう思っても足が震えて動くことができない。とうとうまゆマジロはその場にうずくまり丸まってしまった。
そんなことをしても意味はない。わかっていても怖くて怖くて動けない。やがてざわめく気配のうち一つが近づいてくるのがわかった。

【フイフイ】

77無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:28:32No.15182928そうだねx5
それは聞き覚えのある声だった。思わず顔を覗かせようとするも、外から抑え込まれ丸まりを解くことができない。そのままコロコロとまゆマジロは転がされていった。
「はに!? はにはに!」
そばにいるのが誰か、まゆマジロにはわかっていた。まめトプスだ。あのとき離れ離れになったまめトプスに違いない。丸まった体勢のまままゆマジロは必死に叫んだ。何度も何度もまゆマジロは謝った。
あの時、外に行くのを止めていれば。あの時、1人でいかせていなければ。ずっとずっと後悔していたのだ。

78無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:29:06No.15182929そうだねx5
【謝るのはトプの方フイ。いじわるして、怖い思いさせてごめんフイ】
外からはそんな声が聞こえた。そしてほんの少し微笑むような、空気が和らぐ感覚。
【ああ、やっと謝れたフイ。よかったフイ】
声が段々と遠くなっていく。身体が重く、意識が沈んでいく。
【来てくれてありがとうフイ。会えて嬉しかったフイ。でも、もう来ちゃダメフイ。次はーー】
そこでまゆマジロの意識は途切れた。


79無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:29:34No.15182931そうだねx5
「はに!!」
「あ、まゆマジ起きたー」
気付けばそこは見慣れたつきのみやこの一室だった。重みを感じて目を向けると、仰向けになったまゆマジロの腹を枕に清蘭が寝ていた。
「あんた玄関で寝てたのよ。何であんなとこで寝てたの?」
「はに・・・・・・」
寝ぼけた頭で記憶を探るが覚えがない。確か、外に出ようとしたことまでは覚えているがそこから先が曖昧で思い出せない。
隣の部屋では叱られているトプスが泣き言を言っていた。
「ちゃんと戸締りしてって言ったでしょ」
「キュイキュイ!」
「トプじゃないプスよー。トプちゃんと鍵かけたプスー」
「キュイ!」

80無題Nameとしあき 22/03/03(木)15:30:06No.15182932そうだねx6
「あれ、あんたそんなポシェット持ってたっけ?」
「はに?」
指さされた先を見れば小さなポシェットが肩から下げられていた。覗いてみればキラキラとしたドングリが転がり出てくる。
同時に、頭の中に不思議な記憶が蘇る。誰か、友達と一緒に遊んだ記憶。それは夢の続きだったのだろうか。まゆマジロは嬉しいような、寂しいような気持ちになった。
だけどどうしても最後までその相手が誰なのか思い出せなかった。

「はに・・・・・・」
窓の外は緑と赤のまだらに模様が広がり、異形の影が歩き回っている。まゆマジロは不思議な宝物をいつまでもずっと眺めていた。

■ SEARCH

■ JURASSICS BIRTHDAY

■ SHELTER

■ OMAKE ver.2024

どなたでも編集できます