幼少期は非常に優れた才能を持っていたらしく、故に自分以外の人間が何故自分のやるように上手く物事をこなせないのか疑問に思っていた。
その理由こそ「自分以外は生まれが不完全だから」と考えている。故にどんな境遇で生まれようと、どんなに成長や才能が劣等でも、みんなが平等に"幸せ"になれる手段を求めていた。
かつてはそれを『金』と考えていたが、金銭では結局格差を生むだけだと悟り、最終的に「物理的制約に囚われず、みんなが等しく笑顔になれる」麻薬という手段に行きついた。
麻薬を服用した人間はみんな揃って笑顔になり、自分だけの夢に酔い痴れる。それこそ人類のあるべき姿であり幸福の終着点だと、彼は信じて疑わない。
『麻薬王』の側面が強く出た結果得てしまった精神汚染により、その思考は更に拍車がかかっている。
史実においてコロンビアの貧困層へ住宅を建設するなど慈善事業に熱心であり、現地ではメデジン市民を中心に支持を得て英雄扱いされていた。
現代ではこの行為は安全を確保するための行為だったと分析されているが、これは彼なりに自分という存在と自分以外の劣等の格差を埋めるための慈善事業であった。
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このように、根は(その根幹が狂っているとはいえ)非常に他人を慮る事の出来る人物。だがその手段も結局は、犯罪で稼いだ金による施しや麻薬の流通という行為へと至る。
天性の業か、あるいはそういった星の下に生まれているのか、彼はどこまでも犯罪として扱われる行為でしか他人を救う事が出来ずにいる。
と、ここだけ書けばまだ良い人物なのだが、これらは全て「他人は自分より劣っている」という極端な選民思想ゆえである。
聖人の如き言葉を謡うが、結局のところはまずパブロという人間が最初にあり、彼はそれを愛している。自分を愛しているからこそ、彼は他人を慮るのだ。
第一に自分、第二に全人類。そういう方程式が彼の中に成立している。だからこそ、『彼が考えた』麻薬の流布という救済を否定する人間には容赦しない。
麻薬を世界中に流通させるのは麻薬で幸せな人間を増やしたいがためであるが、それ以上に「そうする自分は美しい」と陶酔するためでもある。
故に、それを否定されると激昂し、そしてあらゆる手を使って排除を試みる。何故なら自分より劣っている他人が、自分を否定するなど有り得ないから。
表向きは聖人の如き存在だが、一皮めくればその内側にはどす黒い傲慢性と苛烈さが潜んでいる……というのが、生前の彼の本性である。
だが、現在の彼は『麻薬王』の側面で召喚された事により、恍惚の夢に酔い痴れ続けている。故に、基本的に全ての他者の言動を"肯定"としてのみ受け取る。
史実においては敵対者へのテロリズムなど過激な行為に走ることが多々あったが、現在の彼はそういった面は失われ、ただ笑顔という恍惚に溺れるだけの人格となっている。
生前のアウトローの王としての苛烈性は確かに身を潜めているが、その代わり常時酩酊状態によって得た痛覚などの感覚機能の麻痺と、他人の言動を都合良く曲解する感覚が非常に厄介。
それは即ち「説得の余地が皆無な状態」と言ってもよく、たとえどれだけ罵声を浴びようと、暴力を振るわれようと『自分に構って欲しいだけ』と聞く耳もたず解釈し、麻薬の餌食にされるであろう。
彼を相手取って説得を試みたり戦闘を行ったとしても、それは単なる独り芝居のパントマイムでしかない。肉体的頑丈性が近代英霊故に低いのが最後の救いと言えるだろう。
それでも尚も引き下がらず戦闘を続けていれば、酩酊が覚めて痛覚の遮断などは消え去るが、それは即ち最悪の宝具の引き金になる……という諸刃の剣の性質を持つ。