女は血溜まりより現れた。深く頭を下げながら、そして屍のように青白い顔を召喚者に向けた。
その所作が、落ちた首を拾って繋ぎ直したように見えたのは、気のせいだったかもしれない。
白瀧弓美の召喚する
魔術師のサーヴァント。騎士達の母。魔女の分け身。あるべき運命の冒涜者。
- 白瀧弓美
- 素敵な貴女。
「マスターのこと、私は随分と気に入りましたよ?一目見て察しました。出生に期待と呪いをかけられた哀れな女だと」
「ええ、まあ。向こうからは随分と嫌われたものです。……別に構いませんよ?強く拒まれるのも、ほら。熱くなって尚更近づきたくなるでしょう?」
「子供を無遠慮に奪っている。という評価には少し意見したいものですが……やるとしたら、愛されることも未来に望みも無い子ですね。現代も、そんな忌み子が少なくないとか」
「まあ、愛情の捉え方が異なるのでしょうね。それは善い、彼女が正しい愛の形を与えられた証左です。―――私と違って」
「必ずしも、マスターの意向のみに従う訳ではありません。最初は因子を集めて我が子を成し、彼女と私を補佐する騎士を揃えることが得策かと」
「マスターの生存能力の強さは高く評価します。要石たる彼女が生きる限り、私には準備を整え、策を弄する猶予があるのだから」
「因子の採り方?……ここではお話しできません。ですが知りたいのであれば、夜にまたお会いしましょう」
「ただ、彼女、少々割り切ろうとしすぎる面もありますね。魔術使いとして非情たれ。そうすれば、傷つける苦しみを麻痺させられる、と?」
「そう簡単に捨てきれないでしょう。それでも気を張って徹したつもりでいては、ここぞ、で牙が鈍ってしまう」
「故に、私は相手を深く愛することを勧めるでしょうね。犠牲もまた愛さなければ意味がない。失いたくないものを失い、苦悩し、血塗れで掴んだ願いこそ格別に値するでしょう?」
「日中は市井に紛れて過ごすこともあります。周囲に輪を広げておけば、欲しい人間の確保にも繋がりやすいですからね」
「時代が変われば、我が欲求をくすぐる物は数多い、衣装・食事・生活機器……まあ、食事を作り部屋を掃除しても、マスターは不審がるでしょうが。ふふ」
彼女の身体ですか?
「好みですよ?同性の趣味はあるようですし、気が変わったなら是非抱いて欲しいと―――いえ失礼、身を蝕む呪いですね」
「私が呼べたなら簡単に解決、とはいかないでしょう。この地の神話にはまだ疎いですが、かの呪いは世代を跨ぐ筋金入りのようです。聖遺物の怒りにでも触れましたか?」
「研究を重ね、慎重に呪いの裏道を整えるには手段と時間が厳しいと予見しています―――それ以前に、マスターが私の理論を信用するとも思えません」
「ただ、そう。そうですね」
「私も、運命を受け入れることは大嫌いなので―――苦悩や努力を台無しにするのが愉しいから、ですよ?」
- セイバー
- 眩しいです…
「かつて、私の分け身が星の神秘に見えました。人々の願いの結晶、眩く暖かな光。彼女の姿に、剣に、それを思い出しました」
「あの兵装に選ばれる者は名だたる英霊でもごく僅かでしょう。きっと彼女も、私がよく知る名と並ぶ、人々の願いに煌めく存在に思えます」
「―――それでいて、彼女には私の知り得ない欠落を感じます。忌むべき理の手で何かを失ったのか、奪われたのか。それを理解することは難しいですが」
「欠けたままでは、可哀想でしょう?ちょうど、彼女の連れた主は実に愛らしい。うまく仕立てれば可愛い子にも、優しき母にも生まれ変われるでしょうね」
「彼女にとって、何が幸せになるでしょう?主の胎に愛を宿させるか、あるいは、知古を再現して彼女に愛を与えるか。どれも捨てがたい愉しみですね」
「しかし、セイバーが相手では捕えるまでに骨が折れるでしょうね。モルガンの如き悪辣非道の謀は、私には難しいのですが…」
- アーチャー
- 美しいです…
「ええ。あまりに美しく、他の言葉を許しません。研ぎ澄まされた鋭さと美が、彼女の身体に隙間なく塗り込められている」
「ですが、それは武器の美しさでもあります……身体が躍動しても心に動きがない。あるいは、彼女の心はそれに歓びを見出していないのかもしれません」
「だとすれば、実に残酷なことでしょう。武器の身体に無垢な心。心身の不一致が齎す苦痛は、私も良く知る病の一つでしたから」
「ならば彼女は愛を知るべきであり、それが失われることはあってはなりません……私であれば、愛を一体に繋ぎとめてでも、分かたれぬ形に加工してみせますが」
「この聖杯戦争で彼女を打ち破ることは難しいですが。彼女が強固であるが故に、危惧する懸念が一つ……あぁ、恐ろしい。恐ろしい光景ほど、強く惹かれてしまいます……」
- ランサー
- 昂ります…
「槍兵のクラスというのは、実にらしいというか。武器に違わぬ実直さを感じさせる英霊が多いですね……彼の姿を、思い出してしまいました」
「彼の輝きは激しく猛り、願いを齎すのではなく願いへと導く、その道を切り開く不屈を感じさせます」
「神の領域に挑み、天を目指すとは、実に逞しいこと。その決意を斯様に溶かしていくか、考えただけで身体が熱くなってきます……」
「彼も、そして彼の主も実に良い。二人で掲げる高潔の旗は、どの色で染めても良く映えることでしょう……」
「そのためにも、切り替えの早い頭をどう鈍らせるかを考えないといけませんね。彼女達の働きに期待をしましょうか」
- ライダー
- 可愛いです…
「これほど見事な獣はブリテンでも見ることは叶いませんでした。その神秘を余さず凝縮した肢体の、なんと可愛らしいことか……」
「姿は乙女、中身は獣。その不均衡の端々にこそ、命の揺れ動く美しさが満ちる。人の英霊では表現し難い繊細な色遣いを感じさせます」
「彼女が願うものは一体何か……想像は俗なるものを否定します。その精神の奥底には、無垢に煌めく望みが眠っているに違いない」
「その主、幼きマスターもまた興味をそそりました。宝石の眼の奥、欺瞞のさらに底、深淵まで暴けば何を曝け出すか、それを従者たる彼女に突きつければどうなるか」
「不安定な心の萌芽、瑞々しい願い。あぁ、もっと間近で味わいたい……羽が腐って落ちてしまうまで……」
- アサシン
- ゾクゾクします…
「大事な処に冷たい刃を突きつけられるような、臓腑がこみ上げ、しかしなんとも甘く痺れるような感覚を覚えました……実に刺激的な被害の現場ですね」
「余人が行うにはやや難しい犯行です。されどサーヴァントとも断定できない。巧妙に嘘を撒き、不可視の殺人鬼という身の凍る恐怖を演出しているのでしょう」
「そう、演出です。本物の殺人の場、我が子が私を殺した閨とは異なる空気を感じます。この悍ましい状況を演出して魅せようという思惟が読み取れる」
「何故、までを推測はできません。ですが、合理的な偽装のそれには思えない。病的なまでに作りこまれた、ある種の芸術……他者の表現に学ぶこともまた愉しいものですね」
「しかし、残念ですがこの犯人を追い、犯人に追われる追跡は私には叶いません……私とて魔術師。この路地を歩いていたとしても、我が身は常に城の中にあるのですから」
- バーサーカー
- ミステリアスです…
「身体が変化するのですね。可愛くも逞しくも厳かにもなる……そして触手。一人でたいへんお得ですね。一応彼と呼びますが、彼自身も、彼から産まれる子も期待が持てそうです」
「想像していた狂戦士のクラスとは異なりますが、固い執念によって歪んだ破綻者とは正しく狂気としか呼べないでしょう。初めから三つに分けられた私とは異となる存在ですね」
「ただ、彼の子は少々やんちゃに過ぎるようですね。神秘のルーツからして異なる、根源的な恐怖を誘うもの。心胆を寒からしめる感覚は……これはこれで、堪りません」
「それにしても、彼のマスター……虚無を湛えた磁器人形のような女性は……ふふ。少し、興味があります、ね」
- 真アサシン
- うーん…
「傾国の美姫とは噂に違いませんね。力あるもの悉くを魅了し、利用し、終いに捨てる。―――申し訳ありませんが、私の好みではありません」
「彼女から感じるものは獣の哀れと人の愚か。無垢も誠実もなければ、私が穢す余地がどこにもない、というのが正直なところです。私が穢せないとは敗北感すら覚えますね」
「まあ、私も所詮は悪女と語られるもの。大それた文句は口にできませんが」
「私の首を落とす、ですか。残念ですが実践済みです。愛する男の前で、我が子に首を切らせ―――あぁ、ああ……っ! 言葉に、なりません……はぁ……あなたも、体感なさいませんか?」