大きく二つの逸話が知られる、日本神話の神。
「アメノハヅチ(オ)」としては、天照大神が天岩戸に隠れた時に、誘き出す為の祭りの飾り付けとして初めて布を織り、以来機織りの祖神となった逸話を持つ。
そして「タケハヅチ」としては、天照大神による地上──葦原中国平定の際、単騎で制圧に逆らったまつろわぬ神「
天津甕星」の制圧の逸話が有名である。
ただし、雷神であるタケミカヅチ、武神であるフツヌシを一蹴するほどに強力な天津甕星を、機織りの神である彼がどうやって制圧したのかは謎に包まれている。
例としては「タケハヅチ」は「武刃槌」とも書き、実はとても強い武神でもあったから普通に暴力で平定できたとする説や、機織りの力を用いて天女の羽衣を織り、天を飛ぶことで空へ浮かぶ「星」である天津甕星を落としたという説、タケハヅチは元々天津甕星側の存在であったため、潜入させて騙し討ちしたという説、など様々な顛末が語られている。
ただし、いずれの説にも何かしらの矛盾があるうえ、他の反抗した神々と違って天津甕星には「征服できた」以上の事を書いていなかったりと、何かしら、事実を天照側がねじ曲げて後生に残したのでは、という疑いが強い。
───『この世界』においては、彼女は平和的解決を選んだ。
戦乱の中を生き抜き、争いに争いを重ねてきた天津甕星に対して、話術を使い平穏と娯楽の素晴らしさを説くことで、仲間…というか、自らの臑齧りへと退化させたのである。
かなりの武芸者でもあった彼は天津甕星にも物怖じせず、ともすれば献身的ともとれるほどに徹底的に、数ヶ月を費やして甘やかし続けた。
…最終的には半ば無理矢理に同棲の約束を取り付け、天津甕星が寝ている間に高天原に誘拐してくるという行動に出、見事に成功したのだった。
…その後の神話において、彼は天岩戸事件以外でほぼ登場しない。
それもそのはず、天羽槌は、持ち帰ってきた天津甕星を監視、兼世話係としてずっと彼女の隣にいたのだから。
…最期の時まで。
銀靴により天津甕星の変じた岩を砕いたのは事実。
「復活とかそういうのを防止するため」として天照より与えられた銀靴により、天津甕星の残滓を完全に砕く役目を負ったのだ。
執行から暫くの時が経った後、天羽槌はその場所に自らの社を建てさせ、其処で眠りについた。