平成25年神奈川県議会予算委員会3月14日

市川よし子議員（民主党・かながわクラブ）の質疑

市川委員

それでは、次に県立図書館や文化施設についてお伺いさせていただきます。
財政の健全化が喫緊の課題であることは言うまでもありません。しかし、その一方で、財政がどれだけ厳しかろうと、公の役割として守らなければいけないものがあると思います。一昨日は福祉について、同様の熱い議論がこの場でもございましたが、私は教育や文化についても、米一俵の精神ではありませんけれども、本当に財政や生活が厳しいときだからこそ守るべきものではないか。特に図書館や文化施設というのは、知の集積する拠点であり、人類の文化を育むもとになるものであって、一度失われたら取り戻すことができないものであると思います。こうした視点から、さらに図書館や文化施設のあり方、活用について質問してまいりたいと思います。
まず最初に、川崎図書館につきましては、この委員会で自民党の土井委員のご質問の中で特区地区において統合したような形での機能移転という方向が示されました。これは一昨年、自分でも一般質問でこうしたことを取り上げて、その方向を示されたことで、個人的にも非常によかったと安堵しているところなのですが、今度は横浜にある紅葉坂の県立図書館についても、県の総合的な図書館としてはもちろん、その資源を生かした一層の活用がなされるべきと考えます。
例えば県立図書館には、寄贈などにより貴重な資料が多くあると伺っていますけれども、どのような資料があるのか、またそうした資料は県民共有の貴重な財産だと思うんですけれども、例えばこれまでどのように活用されてきているのかあわせて伺います。

福地生涯学習課長

お答えします。
県立図書館が所蔵している貴重な本でございますけども、江戸の初期から、そのほとんどが1900年以前に刊行された和紙をこよりでとじたような和装本、これが2,400点ほどございます。主なものとしては、杉田玄白の「解体新書」ですとか、本居宣長の「玉あられ」、こういうものの原書がございます。このほかにもテーマを設けて、貴重な本を集めてございますけども、明治の初めごろから130年間のベストセラーを集めたベストセラーズコレクションですとか、それから全国の地方自治体から寄贈などで集まってきました市町村史、本だけではなくて、横浜の開港期を描いた横浜の浮世絵とか、松尾芭蕉、与謝蕪村の自筆の短冊などもございます。
ご質問の中で、こういう貴重な資料をどういうふうに活用しているのかということでございましたけども、展示会とか、特別講座を開催して、これまで集めてきたものを県民の皆様になるべく広くご紹介するようにしてございます。そのときは、地元の神奈川に関連したテーマですとか、現代のニュースとか、話題に関連したテーマを設けて、なるべく関心を持っていただけるような形でやってございます。
最近の例といたしましては、ことしの２月でございますけども、神奈川の東海道の八つの宿場があったのですが、その様子を描いた講座を設けまして、これは司書が直接紹介するような講座もございました。それから、昨年、全国の市町村から収集した古い資料の中から過去の震災の記録を持ってきまして、東日本大震災がもたらした影響について、改めて県民の皆様に考えていただく、そういう機会としてございます。
以上でございます。

市川委員

今、伺いました「解体新書」があるんですね。私も実際行かせていただいて見せていただきました。博物館と違って、図書館ですから、手にとることかできるんですね。「解体新書」といえば、江戸時代のライフサイエンス、まさにそういうことを思いはせながら見たんですけれども、本といえば、文学と結びつくと思うのですが、神奈川近代文学館にも同じような貴重な資料があると聞いておりますが、どういうものがあるのか、また同じように活用というのは今どうされているのか伺います。

山﨑文化課長

お答えいたします。
神奈川近代文学館は、神奈川県ゆかりの芥川龍之介、川端康成、井上ひさしといった作家の書籍のほか、肉筆原稿や創作ノートなど、作品が生み出された当時の推敲の跡をたどることができる資料や愛用の万年筆、机といった遺品など、貴重な資料を所蔵しており、その多くは文学関係者から寄贈されています。
文学館では、こうした資料を活用して、神奈川の文学を紹介する常設展を行っているほか、神奈川ゆかりの文豪の個人展を開催するなど、県民の皆様に文学に親しむ機会を提供しております。さらに、子供のころから文字、活字に親しんでもらうよう児童文学展や映画会、紙芝居、読み聞かせ会などを夏休みに開催したり、夏目漱石、井上やすしといった授業で取り上げられる作家の肖像や原稿の写真パネルを作成して、中学や高校へ貸し出すといった取り組みを行っております。
以上でございます。

市川委員

今伺ったんですけれども、展示などで活用されるのは当然だと思うんですけれども、先ほど伺った県立図書館の書庫を奥深く保管されている貴重本などは、その存在をもっと外に向けて情報発信することも考えるべきだと思います、有効活用ですね。県立図書館は、もっと博物館やその他の文化施設、例えば近代文学館とのコラボとか、市町の図書館との相互の貸し出し等によっての活用なども考えるべきだと思うんですけれども、そういう展開というのは考えていかれないのだろうか伺います。

福地生涯学習課長

お答えします。
まず、貴重本の活用について、外へ向けて発信していくということ、私どもも大変新しい図書館の利用者をふやすという意味では重要だなというふうに思ってございます。先ほど委員のほうからお話がございましたけれども、ふだんは立ち入ることができない図書館のバックヤード、ここを見学するツアーを開催して、先ほどお話が出ました「解体新書」、こういうものに直接手が触れるような、「お宝発見ツアー」と名前をつけてございますけども、こういうものもやってございます。
それから、もっと多くの方に知っていただくという意味では、神奈川県内の古地図とか、浮世絵、こういうものをデジタルアーカイブにして、ご紹介もしてございます。インターネットで公開してございますので、開館時間に関係なく見ていただけるというようなことでございます。こういうものは学術的、専門的な活用だけでなくて、もっと地域振興に活用できるような、そういう視点からもこれからは情報発信していきたいなというふうに考えてございます。
それから、他の施設との連携でございますけれども、これも大変今、重要視されてございまして、今現在、県立公文書館との間で「記録に見る関東大震災・東日本大震災」と、こういうテーマで共同展示会をやってございます。これなどはことし平成25年がちょうど関東大震災から90年、東日本大震災からも２年ということで、時宜を得たテーマかなというふうに思ってございます。
それから、横浜の県の博物館の中で鎌倉と鎌倉彫をテーマにした展示会をやってございますけれども、これにも今、図書館のほうで資料を貸し出してやってございます。これなども一つの世界遺産登録に向けたプロモーションということで考えてございますけども、こういうことをやると、展示の中に大変厚みが出てきますので、委員ご指摘のとおり、これからも積極的に取り組んでいきたいというふうに考えてございます。
以上でございます。

市川委員

私もいろいろ見て、貴重な本を見せていただいたのですが、例えば鎌倉の武家の江戸時代の小説というんでしょうか、絵の入っていた、「武家鏡」といったか、そういうのもあって、こういうのも今、世界遺産登録のプロモーションなどに観光振興でも使えるかなと思ったり、例えば川崎図書館になりますけれども、実は川崎図書館には、公害裁判、これの全ての裁判記録が寄贈されてあると聞いております。今、ＰＭ2.5などで環境問題、世界的な課題になっていますが、いろいろな垣根をもっと越えて、有効活用をもっともっとできる余地があると思いますので、ここはお願いということにしておきますけれども、ぜひ宝をどうやって生かしていくか、それも文化、教育の垣根を越えて、産業振興、あるいはそうした世界的な課題解決にもやっていただきたいということもあわせてお願いさせていただきます。
そこで、今、本県の財政状況が非常に厳しい中で、緊急財政対策として、さまざまな見直しに取り組んでいるところなんですが、一方で、今ご紹介したように、私たち、あるいは先達がこれまで培ってきた本県の教育や文化については、これは将来の世代に引き継ぐのが私たちの責務であると思います。
そこで、文化振興に関する施策の取り組みについて、これは水田理事のご所見をお伺いさせていただきたいと思います。

水田理事

お答え申し上げます。
県では、中長期的な視点に立ちまして、文化芸術を振興するために、平成20年に「文化芸術振興条例」と「文化芸術振興計画」を定めまして、県民ホール本館や神奈川芸術劇場など、県立文化施設に専門の技術スタッフを置きまして、県民の文化芸術活動を支援しております。この条例の制定時に議会の皆様から、長い歴史に育まれた神奈川の地域的、伝統的な文化芸術の振興を十分考慮すべきと意見をいただいてございます。そこで、伝統芸能の鑑賞会や子供のためのワークショップなどを実施しております。
今年度からは、文化資源を活用した地域の活性化事業、いわゆるマグカル事業の取り組みを文化施設の集積した横浜の中心市街地において始めておりますが、一方、厚木や小田原などの地域で継承されている神奈川独自の相模人形芝居や里神楽といった伝統芸能の後継者養成のための地域間連携の強化や鎌倉の建長寺などで能楽と神奈フィルの競演を行いまして、新しい文化発信の試みを始めております。
文化事業は一朝にしてならず、一旦事業をやめてしまいますと、蓄積されてきました技能や優秀な人材が散逸し、県にとって大きなマイナスとなってしまいます。厳しい財政状況の中ではございますけれども、文化芸術を担い支えてきた文化施設と専門家の力を結集いたしまして、文化芸術の魅力で人々を引きつける神奈川の実現を目指していきたいと、このように考えております。
以上でございます。

市川委員

ありがとうございました。ぜひ財政は本当に厳しいんですけれども、本物をしっかりと守っていただきたいとお願いしたいと思います。図書館についてもいろいろ伺ってきました。近代図書館を最初に紹介したのは福沢諭吉先生の著書「西洋事情」だそうでございます。私、県立図書館に行きましたら、「西洋事情」ですね、本物が図書館にありました。本当に日本で唯一の県立図書館がない県になってしまうというようなおそれがあったのですが、本当に「西洋事情」を見ながら存続してよかったなと改めて思った次第ですが、しかし私も今のままの形で存続していくことに関しては多少疑問に思うところであります。図書館は時代とともにニーズも変わってきますし、また学究目的で一部の方々のためにあるべきものでもなく、広くさまざまな分野で県民に利用、活用されるべきものと思います。県民の知識・教養を高める知の拠点である県立図書館について、どのように見直していこうと考えているのか、図書館のこれからについて教育長のご所見を伺います。

藤井教育長

お答えいたします。
県立図書館は、資料を収集、保存して、県民に利用していただくことで、教育と文化を発展させることを目的に活動してまいりました。県立図書館が所有している資料は、歴史、自然科学、芸術、あるいは産業まで、あらゆる分野にわたり、300年以上も昔の書籍から現代までの貴重な資料が集積しておりまして、まさに知の宝庫となっております。これらは先人たちの努力により収集されてきた県民共有の貴重な財産でありまして、後世に引き継いでいくとともに、今後も収集、保存に努めまして、県民の皆様に提供していかなければならないと考えております。
見直しに当たっては、こうした図書館の持つ資源が最大限に活用されることで、個人の知識、教養が高められるとともに、地域の課題の解決や地域振興、観光振興にも資する地域の情報の拠点になるよう、分野の異なる施設や機関とも、これまで以上に連携していく必要があると考えております。今後、こうした視点を持って、県内の図書館と連携して、広く県民に愛され、利用される図書館を目指してまいります。
以上でございます。

市川委員

ありがとうございます。私が本当に尊敬するマーガレット・サッチャー女史は、「経済で国が滅ぶことはないが、教育で国は滅ぶ」という名言を残されています。文明開化期、「坂の上の雲」の時代ですね、「西洋事情」のころですが、貧しい中でも日本人は懸命に学び、文化を高め、近代国家をつくり上げてきました。もちろん最大限の活用を考えることが前提ですが、財政が苦しくても、守るべきものは何か、ぜひ守っていただくことを要望し、私の質問を終わります。