◆qqtckwrihのSSのまとめです。完結した作品および、新作告知、Wiki限定連載等を行っております(ハル SS Wiki)

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――――【 1時間後 食卓 】


魔法士「う、うわぁ〜…!」キラキラ…

乙女剣士「私も少し手伝ったんだからね」エッヘン


グツグツ…モワモワ……


美人店員「今晩のメニューは、ビーフシチューとフランスパンの切り落とし…。」

美人店員「それにバジルを加えたトマトのサラダね♪」


魔法士「お、おいしそう……」ジュルリ

拳闘家「うちの姉ちゃんは、料理だけは上手くて旨いからな」


美人店員「料理だけ、は…ね」ボソッ


拳闘家「い、いや!?」



 
 
 
美人店員「なんてね」クスッ

美人店員「それじゃ、あったかいうちにいただきましょうか」ニコッ


魔法士「はい、ごちそうになります!」

乙女剣士「お姉さんと知り合えてよかったです…」

美人店員「お代わりもあるから、どんどん食べてね〜」

拳闘家「食い尽くす」ムフー


美人店員「それじゃ……」

3人「いただきますっ」ペコッ…



 
 
 
 
カチャカチャ……

魔法士「…はむっ」パクッ

魔法士「…」

魔法士「お、おいひぃ……!!」トロッ…


乙女剣士「牛肉がすごく柔らかくて、シチューのデミグラスソースと合ってる……」ハフッ…

拳闘家「サラダもオススメだぜ。バジルが効いてて、トマトとの相性も抜群だ」モグモグ…

美人店員「シチューは味が濃いから、あっさりしたサラダが美味しいんだから♪」


魔法士「て、手が止まらないぃ……」モグモグ…!

魔法士「ごろごろしたお肉に、シチューが溶け込んでて、もう…美味しすぎます……」


美人店員「嬉しいこと言ってくれるね♪」



 
 
 
乙女剣士「お料理、本当に上手なんですね…。」

乙女剣士「私も、このくらいは覚えてみたいなぁ……」


拳闘家「…くはは、このくらい?」

拳闘家「これ以上、の間違いだろうが」ハッハッハ


乙女剣士「むっ、どういうこと」


拳闘家「…教えてやる。冒険者の楽しみは"冒険"だけじゃなく、その過酷な状況でも食べられる"料理"もその1つなんだよ」


乙女剣士「!」


拳闘家「女の冒険者は少ないが、男女ともに冒険者は料理が上手い。」

拳闘家「それは当然でな。その場で手に入れた魔獣なんかも美味しく調理したり、毒抜きなんかの知識も必要だ。」

拳闘家「つまり、それ以前に…"普通の家庭料理"よりも調理する技術が必要ってこった」


 
 
 
乙女剣士「…そ、そういうことか」

魔法士「じゃあ僕も、そういうのは覚えないといけないんだ……」


拳闘家「だから、ギルドとかでも意外と料理が出来るやつってのは重宝される。」

拳闘家「俺は料理の技術はそれほどじゃないが、基本の知識はある。」

拳闘家「その魔獣に対し、どんな風に捌くか、どんな風に調理をするかくらいはな」


美人店員「…そうそう、拳闘家が仲間のために料理を覚えるって私に教えてくれってね」クスッ

拳闘家「ちょ、姉ちゃん!」

美人店員「最初の頃、すごく酷くてね…。扱いなれてない包丁で、まな板ごと力任せに切り裂いたり……」ハァ

拳闘家「」


魔法士「へぇ〜、そういう時もあったんですね」



 
 
 
乙女剣士「そういう純粋な時代もあったのに、今は人の胸を触りまくったり盗んだり…」チラッ

拳闘家「……う、うっせぇ〜〜!!姉ちゃんがいる前で、そういうことは言うなっつってんだろうが!」

乙女剣士「ふーんだ」プイッ

拳闘家「こ、この……」プルプル


美人店員「……ふふっ」クスッ

魔法士「…お姉さん?」

美人店員「なんだかね、こういう賑やかなご飯も久しぶりだったから」

魔法士「…そうなんですか?」


美人店員「いつも一人だし、たまに拳闘家が帰ってきて二人の食事も楽しくて。」

美人店員「だけど、こんなに大勢で食べれるのは久しぶりで…楽しくなって…つい笑顔がね」フフ


魔法士「そうでしたか」ニコッ



 
 
 
拳闘家「……ったく!」ゼェゼェ

拳闘家「疲れる飯だぜ……。余計なことばかり……」ハァァ……


乙女剣士「ふんだ。アンタがいろいろしてくるのが悪いんでしょっ!イー、だ!」イー

拳闘家「古いな。ババァかよ」

乙女剣士「…」プルプル

拳闘家「イーだ、だってよ。イーだ、イ〜……」

乙女剣士「…この!」


美人店員「……拳闘家?」ボソッ


拳闘家「…はっ!」

拳闘家「申し訳ありませんでした」



 
 
美人店員「…賑やかなのもいいけど、食事は静かにおいしく食べましょうね」ニコッ


拳闘家「は、はひ…」ガタガタ


乙女剣士「は、はいっ!」


魔法士「…は、はいっ!」


美人店員「うん、いい返事ネ♪」


…………
……




 
 
 

……
…………
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――――【 そして夜中…… 】


…ゴロンッ

拳闘家「…ふぅ、やっと休めるぜ」

魔法士「お風呂から、お布団から、全部ご用意していただいてありがとうございました」

拳闘家「俺じゃねえよ、姉ちゃんがやれっつったことだろ」

魔法士「でも、拳闘家さんが準備もお手伝いしてくれましたし……」


拳闘家「…あの二人は寝室でベッド、お前はオフトゥン、俺はソファーだよ」

拳闘家「そこまで礼をするなら、俺と交換しろって」


魔法士「あ、そ、そうですか…?」


拳闘家「……バカ、冗談だよ!」



 
 
 
魔法士「あ、あう……」

拳闘家「……お前さぁ、冒険者を目指してるくせに本当にバカ素直だな」

魔法士「そ、そうでしょうか…」

拳闘家「…欲もないように見えるし、素直だし、冒険者に向いてないんじゃねーか?」

魔法士「うぅ……」

拳闘家「冒険者は貪欲で、何事にも勢いが必要だ。お前にゃそれがなさすぎる」

魔法士「……学園の落ちこぼれって呼ばれてますからね」シクシク…

拳闘家「……ふーん。お前さぁ、うちの姉ちゃん見てどう思った?」

魔法士「え?」

拳闘家「どう思った?」

魔法士「…普通にきれいな方で、美人で…とかでしょうか」



 
 
 
拳闘家「抱きたいとか思わなかったか?」

魔法士「ふぇ!?」

拳闘家「つーか、お前の仲間のあの女子。あれとか見てて、身体を触りたいなーとか思わないか?」

魔法士「は、はいっ!?なんの話ですか!?」

拳闘家「……性欲もねぇのか」

魔法士「えぇっ!?」


拳闘家「…そういう経験もねぇからなのか、単にそういう性格なのか。」

拳闘家「ガキっつっても、もう15、6じゃねえのか?」

拳闘家「食い気もいいが、色気もねーと…。冒険者なら、欲に忠実なほうがいいぜ?」


魔法士「えぇ……」

魔法士「そ、そりゃあ……。気になることもあるっていうか……ありますけど……」ボソボソ

 
 
 
拳闘家「…ほう?」

魔法士「だけど、僕はそういうの苦手っていうか……」

拳闘家「はい?ホモ?」

魔法士「ちちち、違いますから!」

拳闘家「やだわー、俺狙われてるの?」

魔法士「違いますってば!!ちゃんと女の子が好きです!!」

拳闘家「……ほう?」ニヤリ

魔法士「あうぅ……」


拳闘家「なぁんだ、普通に女が好きなんじゃねえか。」

拳闘家「恥ずかしがるのもいいけど、もっと欲を押し出した方がいいなお前は」


魔法士「そ、そうですかね…?」



 
 
 
拳闘家「……お前が、お前らが飛び込もうとしている世界はな。」

拳闘家「冒険稼業は、表じゃ華やかな舞台とされているが…裏の世界は怖いんだ。」

拳闘家「それこそ犯罪なんか当たり前、暴力沙汰ばかり。」

拳闘家「光ばかり見ている人間は、身を滅ぼすっつーか……喰われるんだよ」


魔法士「く、喰われる…?」


拳闘家「そんな時、己の欲があればこそ…自身の力になる。」

拳闘家「強くなりたい、生きたい、とにかく何でもいい。」

拳闘家「普段から、そんな欲に生きていれば……いざという時に行動が出来るのさ」


魔法士「ど、どういうことでしょうか…?」



 
 
 
拳闘家「人は弱い。」

拳闘家「俺らの世界は、強き者が弱き者を喰う世界だ。」

拳闘家「そんな時、最後の最後に足掻くという瞬間、普段から"欲に生きる"奴ほど行動できる。」

拳闘家「だが、お前みたいに心の奥底に欲を眠らせていると、奥底では思っていても表に出せずに行動に動かせないんだよ」


魔法士「…!」

魔法士(確かに、今回の夏休みの冒険だって…行動できたのは奥底にあったからなんだよね…)

魔法士(僕がもっと素直なら、乙女剣士に迷惑もかけなかった……。)

魔法士(欲に素直なことは、悪いことじゃない…のかな……)


拳闘家「……あっ」

拳闘家「だから、こういう話は俺の性格にあわねーっつうに自分に言ってるのによ……!」ガシガシ!!

拳闘家「お前を見てると、何かと心配になってきてつい口走っちまう……」



 
 
 
魔法士「…あ、ありがとうございます。」

魔法士「いろいろとタメになるっていうか、拳闘家さんと会えてよかった…です」


拳闘家「…」

拳闘家「……う、うっせぇ!」

拳闘家「さっきの話も、俺の元パーティの兄貴分から言われてた言葉の受け売りだ!」

拳闘家「お前もさっさと寝ろ!お前と話すとなんか色々と言っちまいそうだ!」プイッ!


魔法士「は、はいっ!」

魔法士「おやすみなさいです……」


拳闘家「おう、おやすみ」



 
 
 
…ゴロンッ、パサッ

魔法士(……)

魔法士(……拳闘家さんってば、やっぱりなんかいい人っぽいなぁ)

魔法士(でも、知識もあって行動力もあるのに、どうして冒険者を引退しちゃったんだろう……)

魔法士(まだ20代に見えるし、まだまだ現役じゃなかったのかな……)


拳闘家(……クソッ!)

拳闘家(こんなやつが冒険者になれるほど、この世界は甘くねぇんだよ……!)

拳闘家(現に俺も、俺のアニキも、この世界を甘く見すぎていたがために……っ)

拳闘家(……もう、俺は守れるモノしか守らないと決めたんだ。)

拳闘家(俺は今、一番大事なのは…姉ちゃんなんだから…。姉ちゃんを守るんだ……)


…………
……

 
 

 

 
 
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そして、雪山の猛吹雪"山下り"は三日三晩続いた。

予想外の出来事だったが、魔法士と乙女剣士は、拳闘家とその姉の家にて厄介に。

それを何とか切り抜けた二人は、4日目の朝……ようやく北方博物館へと向かう……。

 
 
 
 
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――――【 夏休み9日目 晴れ! 】
 
…ザッ!


乙女剣士「…それじゃ、ありがとうございました!」

魔法士「本当にお世話になりました」


美人店員「うん、今日は凄く晴れたね!」

拳闘家「山下りの終わりの次の日は、いつも晴れるからな」


乙女剣士「…本当に助かりました。」

乙女剣士「またこの港へ戻ってくるので、その時はこの喫茶店へご挨拶に来ますね」


美人店員「えぇ、是非よってね♪」



 
 
 
乙女剣士「あとは、あの山下りを起こした山を越えれば……」

乙女剣士「私たちの目的の、北方大陸の首都、大雪国が見えるってわけ!」ビシッ!


拳闘家「お前らの実力だと、あそこの山の登山ルートは無理だろうけどな」ハハハ

乙女剣士「はい?」ギロッ

拳闘家「今日は天気がいいし、一般人が通る馬車が動いてるはずだ。それを使ってけ」

乙女剣士「…そんなに危険なの?」

拳闘家「危険っつーか、お前ら山下りすら俺らがいなかったら死んでたじゃねえか」

乙女剣士「うっ…」

拳闘家「そんな初心者が、登山ルートを登ったら二度と帰ってこれるか、ボケ」

乙女剣士「…」ピクピク



 
 
 
拳闘家「大人しく、初心者なら初心者らしく身の丈にあったルートでいけっつーことだよ」

乙女剣士「……わ、分かってますよーだ!」イー!!

拳闘家「ふん…」プイッ

乙女剣士「……」プイッ


魔法士「…拳闘家さんの言葉は悪いけど、僕らを心配して言ってくれたんだよ」

魔法士「素直にお礼を言おうよ、ね?」


乙女剣士「う、う〜……」


拳闘家「…だ、誰が心配なんか!」


魔法士「ち、違ったんですか……?」シュン



 
 
 
拳闘家「うっ…!」

拳闘家「…」

拳闘家「……お、お前らが死んだら姉ちゃんが哀しむから忠告しただけだっつーの!!」

拳闘家「さっさと行っちまえ、俺は俺で仕事があるんだからな!」シッシッ!!


魔法士「やっぱり心配してくれたんですね、ありがとうございます!」ペコッ

乙女剣士「……そ、そうなんだ。ありがとう…」


拳闘家「…っ」プイッ


美人店員「ごめんなさいね、最後の最後までこんな弟で」ハァ


魔法士「いえ、楽しかったです!」


美人店員「ふふ、そう言ってもらえると」




 
 
 
乙女剣士「…それじゃ、魔法士!」

魔法士「うんっ!」

乙女剣士「博物館に向かって〜……」

魔法士「しゅっぱーつ!」

ダッ!!タタタタタッ………

…………
……



美人店員「…」

拳闘家「…」

美人店員「……行っちゃったね」

拳闘家「あーあ、やっと静かになるな」

美人店員「私はちょっとさみしいかな。今日で拳闘家も船に戻っちゃうしね」



 
 
 
拳闘家「……また山下りの前には戻るっつーの。」

美人店員「今度は、悪いことをしちゃダメだからね?」

拳闘家「…へいへい」

美人店員「じゃ、拳闘家も元気にいってらっしゃい!」ソッ

…ポンッ!

拳闘家「…」

拳闘家「行ってきますよ!またな、姉ちゃん!」


美人店員「うんっ!」


…………
……












 
その後、二人は拳闘家に教えてもらった通り、

2,000ゴールドを支払い、町から出ている大雪国への馬車へと乗り…………
 

……
…………
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――――【 大雪国への道 (大多人数用の馬車) 】

ガラガラガラ……


乙女剣士「…ねぇ魔法士」ボソボソ

魔法士「ん…?」

乙女剣士「聞いてはいたけど、やっぱり大雪国への馬車に乗っている人が多いね」チラチラ

魔法士「…確かに多いね」


ザワザワ…

観光者たち「…でさぁ、そうなんだよねぇ」

冒険者たち「ハッハッハ!登山道なんて面倒で登ってられないっつーのな!」

ガヤガヤ…




 
 
 
乙女剣士「……えへっ」

魔法士「どうしたの?」

乙女剣士「馬車から見える景色を見てよ。それに、他の人たちの格好とかさ」

魔法士「うん…?」

乙女剣士「私たちの王都は、今は暑い夏休みなんだよ?」

魔法士「うん…」

乙女剣士「なのに、外は雪が降ってる。大雪で、みんながあったかい恰好してる。」

魔法士「そりゃ寒いから……」

乙女剣士「…そういうことじゃなくて。なんかドキドキしない?」

魔法士「…あぁっ」


乙女剣士「旅行といえばただの旅行なんだろうけど、私たちは冒険者の勉強のために来てるんだしさ」

乙女剣士「そう考えると、いつかこういう風景も普通になるのかなとか、なんかいろいろ考えちゃうっていうか」



 
 
 
魔法士「……あぁ、そういうことかぁ」

乙女剣士「…思わない?」

魔法士「僕は、なんだか現実味がないなーってフワフワしてボーっとしちゃってたよ」アハハ…

乙女剣士「あ、そーいうこと♪」

魔法士「来たことがない場所だし、ドキドキはしてるに決まってるじゃないか」

乙女剣士「だよね〜♪」


冒険者の男「…」

冒険者の男「……へぇ、君たちは冒険者を目指してるのかい?」


乙女剣士「え?」

魔法士「へ?」


冒険者の男「…いや失礼、つい言葉が聞こえたものでね」ニコッ



 
 
 
乙女剣士「あ、声が大きくてごめんなさい…」

魔法士「すみません……」


冒険者の男「…いやいや、俺にもそういう時期があったなってさ。」

冒険者の男「この馬車に乗ってるということは、大雪国へ行くのかい?」


乙女剣士「あっ、そうです。大雪国の博物館を見に行きたくて」

冒険者の男「なるほどね。どこから来たんだい?」

乙女剣士「セントラルランド(中央大地)の王都です」

冒険者の男「…ずいぶんと、遠い場所から来たんだねぇ」

乙女剣士「へへ、はいっ」



 
 
 
冒険者の男「…俺は故郷が大雪国でね。」

冒険者の男「南方大地にいたんだが、久々に実家へ帰省さ」


乙女剣士「こ、この真逆の大地からですか…!」

魔法士「セントラルより更に南ですよね……」


冒険者の男「先日、ちょっとギルドでポカやらかしてねぇ……」

冒険者の男「ギルドを追放されてしまって、地元でやり直すことにしたんだよ」


乙女剣士「追放…」


冒険者の男「俺が個人的に立ち回りすぎて、結果的にパーティへ負担をかける結果となってしまったんだ。」

冒険者の男「……俺がひとりでやってやるっていう欲が強すぎたんだろうな」



 
 
 
魔法士(……欲)ピクン


冒険者の男「冒険者たるもの、欲が強いほど良いというが……」

冒険者の男「それだけでは身を滅ぼしてしまうよ。時には落ち着きが必要ってことだな……」ハハ……


魔法士「……あ、あの」

冒険者の男「…どうしたんだい?」

魔法士「僕は、とある人にお前は"欲がなさすぎる"と言われました」

冒険者の男「ふむ」

魔法士「それはその通りで、いざという時に"そうなりたい"と思っていても行動が出来なかったんです……」

冒険者の男「…ふむ」

魔法士「でも、あなたは欲がない落ち着きがあったほうがいいという。どっちが正しいんでしょうか」



 
 
 
冒険者の男「…」

冒険者の男「……どっちが正しいか。それはとても難しい質問だな」


魔法士「…」


冒険者の男「欲というのは、自身が今までいた環境から生み出されるモノだ。」

冒険者の男「それが欲するものは、他の人にはわかりはしない。」

冒険者の男「だが、欲がない人間はいないはずだ。君が言う欲というのは…何かな?」

冒険者の男「あ、いや。言えるものじゃないのは分かってるが……」


魔法士「…勇気がほしいとか、そういうことでしょうか」

乙女剣士「!」


冒険者の男「…勇気か」



 
 
 
魔法士「今回の旅行のようなことだって、僕は最初は反対していたんです。」

魔法士「だけど、この隣の…乙女剣士に誘われて、色々あって、ようやく決断できました。」

魔法士「心の奥底では興味がありましたが、ギリギリまで"勇気がなくて"断り続けてきたんです」

魔法士「……それで、とある人に"欲には忠実でいろ"と言われましたが……」

魔法士「それが強すぎたらダメとか仰られたので、こういう欲もダメなのかとか、もう…わからなくなったっていうか……」


乙女剣士「…」


冒険者の男「…」

冒険者の男「……それは」


大型馬車商人"「えー、大雪国へ着きます。お忘れ物のないように…」"




 
 
 
魔法士「!」

乙女剣士「!」

冒険者の男「…おっ」


ガラガラガラ……ズザザ……


大型馬車商人"「お疲れ様でした。大雪国の馬車乗り場になります。」”

大型馬車商人"既にお金は貰っておりますので、裏からお降りくださいませ……」"

大型馬車商人"「繰り返します。この馬車は、大雪国に到着……」"


ガヤガヤ…

観光客たち「やーっと着いた、降りよう降りよう!」

観光客たち「山下りは大変だったけど、めいっぱい観光して楽しもうな〜」



 
 
 
…スクッ

冒険者の男「それじゃ、俺も行くかねぇ……」

冒険者の男「冒険者になるのなら、またどこかで会えることを願っているよ」

ギシギシ……


魔法士「…あっ、まだ答えを!」


冒険者の男「……あぁ、そうか。」

冒険者の男「人が想う欲には、良い欲も悪い欲もある。」

冒険者の男「君は、そんな質問を素直に出来るような良い子だと思うよ……。」

冒険者の男「俺がダメと言ったのは、悪い欲。君は君が思うがまま、その人に言われた通りに進むといいさ…」ニコッ


魔法士「…それって」


ザッザッザッ……

…………




 
 
 
魔法士「…い、いっちゃった」

乙女剣士「…つまり、魔法士は魔法士が思うがままに行動していいってことだと思うよ」

魔法士「そ、そっか……」

乙女剣士「うんっ」


魔法士「…」

魔法士「……欲に素直になれば、強くなれるのかな」


乙女剣士「そういうことじゃないかな?」


魔法士「…」

魔法士「…」ドキドキ

魔法士「……だ、だめだぁ勇気がないや」ヘナッ



 
 

 
乙女剣士「…言われたそばからそれ!?」

魔法士「僕が僕の思うがままって、でもなぁ……」

乙女剣士「…なんで言われたばかりで勇気を出せないの」ハァ

魔法士「…いいの?」

乙女剣士「え?そんなの当然でしょ、それが力になるっていう話なら尚更っ」

魔法士「そ、そうなんだ……」

乙女剣士「うん」


魔法士「な、なら……!えぇいっ!!」ソッ

…フニッ

魔法士「…」

魔法士「……柔らかい」

フニフニ……


 
 
 
乙女剣士「へ……?」

フニュフニュッ……

魔法士「……へへっ!」

魔法士「拳闘家さんに、ホモかとか言われたから、僕は僕で女の子に興味があるってこと思わせたかったんだよね!」


乙女剣士「…それで、私の胸を?」

魔法士「…ぼ、僕だって女の子に興味があるってことを!」


乙女剣士「…」

乙女剣士「きっ……」

乙女剣士「……きゃあああっ〜〜!!!」ブンッ!

ビュオッ……!!

魔法士「へ…」



 
 
 
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――――【 大雪国 雪輝商店街 】

ザッザッザッ……

魔法士「ご、ごめんってば乙女剣士……」ボロッ…

乙女剣士「……知らないっ!」プイッ!

魔法士「欲に素直で、勇気を出せっていうから……」

乙女剣士「それはそうだけど、ああいうのはダメに決まってるでしょっ!!」

魔法士「うぅ……」

乙女剣士「あの拳闘家の言うことをまともに聞いちゃダメだから!!」

魔法士「ごめん……」

乙女剣士「…全く、ここ最近…私の身体をなんだと」グスッ



 
 
 
ザッザッ……

乙女剣士「…っ」

乙女剣士「……だけど、魔法士がそういうのに影響されやすいのは仕方ないか」ハァ


魔法士「え?」

乙女剣士「今度から、あぁいうことはしないでね…」

魔法士「う、うん…。ごめんね……」

乙女剣士「…せっかく博物館が目の前なのに、ケンカしてたらダメだもんね」

魔法士「…」

乙女剣士「…許してあげる。ほら、目的の場所まであと少しだから……一緒にいこ!」スッ


魔法士「…!」

魔法士「……うんっ」ギュッ


タッタッタッタッ…………!!

…………
……





 
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 大雪国 北方大地博物館 】 
 

ザワザワ、ガヤガヤ……!!


魔法士「…ここが、北方大地博物館かぁ」

乙女剣士「ひろ〜い……」

魔法士「絵画とか、彫刻とか、歴史に関しての色々なものが置いてあるんだね」キョロキョロ

乙女剣士「コーナー毎に別にあるみたいだね。どこに魔槍ブリューナクがあるんだろ?」

魔法士「…とりあえず、歴史コーナーから回っていく?」

乙女剣士「目玉の一つだろうし、そのうち目立つように置いてあるかもね」

魔法士「うん。じゃあ、入口側から普通に回っていこっ」

乙女剣士「そうねっ」

トコトコトコ……



 
 
 
魔法士「…」キョロキョロ

魔法士「最初は、歴史のコーナーで…………」

魔法士「北方大地の歴史かぁ。難しいな……」


乙女剣士「へぇ、巻物…絵巻状に書いてあるんだ……」

乙女剣士「この大地が誕生した歴史から、魔槍が活躍した時期までビッシリ書いてある……」


魔法士「…なんだっけ、魔槍ブリューナクが使われた時代は魔物に脅かされていた時代なんだっけ?」

乙女剣士「…うん。ほら、ここにもあるでしょ」


""現より古く永き歴史の渦の中、闇夜に潜む物、人への傷と、その千の戦いの歴史にあり""


魔法士「…難しい。」


乙女剣士「言い回しが昔のままみたいね。北方大地の独特の言葉も入って、難しいけど…」

乙女剣士「要は、"今より古い時代、魔物が人間を襲って、千を数える戦いを刻んできた"ってことかな」



魔法士「…読めるんだ。すごいね」

乙女剣士「いや、普通に勉強してきたことでしょ」

魔法士「…そうだっけ?」

乙女剣士「…」

魔法士「……つ、続き続き!」

乙女剣士「…」


""闇への光、四の大地に名を残しき打ち子たち、四の刺突器を創り、それを打破せし""

""闇への光、歴史への光、人の傷が癒えし刻。現より通じ"


乙女剣士「魔物への対抗策として、四つの大地…つまり、東西南北の打ち子…鍛冶師が四つの槍を作った。」

乙女剣士「それは光となって、歴史を作り出す光となった。やがて人々は光を見て、今へと繋がる…だね」


魔法士「…あぁ!!学園で勉強した、東西南北の大地の鍛冶師が、四つの槍を生み出した話だね!」

魔法士「昔は魔物がいっぱいいて、それを四つの槍で倒し、今の平和の世になったってやつだ…」



乙女剣士「…そーいうこと。」

乙女剣士「で、その東西南北の槍のうちの一つ、"魔槍ブリューナク"がこの博物館へ保管されてるってことでしょ」


魔法士「あ〜、そのことをこの絵巻に書いてあったんだね」

乙女剣士「うん。ってことは、歴史の説明コーナーのあとは…」チラッ


"歴史の武器、防具"


乙女剣士「…絶対ここだね」

魔法士「お〜!」

乙女剣士「歴史ってことは、昔のから今のまで展示してあるコーナーなのかな…」

魔法士「とりあえず見てみようよ!」

乙女剣士「だねっ!」

トコトコ……


 
乙女剣士「わっ…」
 
魔法士「…!」


キラキラ…!ピカピカ……!!


乙女剣士「す、凄いっ!」

魔法士「…な、なんか全部どっかで見たことあるような武器とかいっぱい並んでる!?」

乙女剣士「全部、学園で勉強したやつでしょこれ!」

魔法士「そ、そうだっけ…」アハハ…

乙女剣士「歴史の名匠が造り上げた、生み出した武器の勉強もしてたのに…」

魔法士「……い、一応僕だって自分の武器の歴史くらいは覚えてるよ?」

乙女剣士「へ〜、じゃあ魔法士が知ってる武器はどれ?」

 
 
魔法士「……こ、これとか!」チラチラ

魔法士「あ、アスクルデスの杖だよ!」


乙女剣士「…アスクレピオスの杖ね。何その明日来ますみたいな名前」

魔法士「」

乙女剣士「しかも、これは白魔術に使う支援系の杖よ……」

魔法士「」

乙女剣士「…」

魔法士「…」

乙女剣士「……こうやって実際に見ると、もっと勉強しておけばよかったって思うでしょ」

魔法士「うん……」シュン



乙女剣士「ま、いまさら仕方ないことだけど…」

乙女剣士「学園に戻ったら、もっと勉強しなおしたりしてみるといいかもね」


魔法士「そうする…。北方大地の名称の時から、恥ばっか上塗りしてる気がするし……」

乙女剣士「うん……」

魔法士「…はぁ」

乙女剣士「…」

トコトコ……


魔法士「…」

魔法士「……あれ?」ハッ


乙女剣士「どうしたの?」




魔法士「なんか、あそこら辺に妙に人だかりが……」

乙女剣士「……あ、本当だね」


ザワザワ…ガヤガヤ……


魔法士「…まさか」

乙女剣士「…まさか!」

魔法士「…っ!」ダッ!

乙女剣士「…っ!」ダッ!

タタタタタッ…!!


魔法士「……っ!!」

乙女剣士「……っ!!」


 
 
ザワ…ザワザワ……!!ガヤガヤ……!!

観光客たち「いやー、これが噂に名高い"魔槍"か!」

観光客たち「かっけぇ…!これで俺らの祖先を救ってくれたんだろ!?」

冒険者たち「…昔のものだから、古くさいと思っていたが」

冒険者たち「だよな!?今は魔力を失ってるらしいが…それでもなお……」


……


ギラッ…!!ギラギラッ……!!


"魔槍ブリューナク"


パァァッ……!!


……



魔法士「……っ」ヘナッ

乙女剣士「これが…。魔槍ブリューナク……?」

魔法士「す、凄い…や……」ブルッ…

乙女剣士「…美しすぎる装飾に、魔力を失ったっていうのに未だに感じるオーラ」

魔法士「さっきまで戦いに使われてたみたいに、ギラギラって輝いてる…」

乙女剣士「…何なのこれ」

魔法士「ただの武器で、こんなにも……」

乙女剣士「感動できるなんて……っ!」


魔法士「…っ」

魔法士「……お、乙女剣士」


乙女剣士「なに…?」


 
魔法士「…僕、ここに来てよかった。」

魔法士「この世界に、見ただけでこんなにも感動出来るモノがあったんて…知らなかった……」


乙女剣士「うん…っ」コクン

乙女剣士「私も、まさか…こんなにも……!ここまで、心に響くなんて…思わなかった……」

 
魔法士「…っ!」

乙女剣士「凄い……」


"魔槍ブリューナク" 
 

ギラギラッ……!!

パァァ……ッ!

………
……


 
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伝説が武器の1つ"魔槍ブリューナク"。

それを目の前にして、二人はただただ立ち尽くした。

それは、高級すぎる装飾の美しさからか、平和の象徴からか……。

とにかく、二人はただただその武器をしばらく眺めていた。


その後…二人は大雪国の宿へと入り、次の日まで休憩をとることにした。

……しかし。

安堵する二人の前に、まさかの事態が訪れたのはその直後のことであった。


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