俺ロワ・トキワ荘にて行われているリレー小説企画の一つ、古生物バトルロワイヤルのまとめWikiです。

「なんたる屈辱!! なんたる辱めか!!」

どこまでも続くかに見える砂の海のただ中で一人の老人がわめいていた。名をリチャード・オーウェンという。
偉大なる大英帝国、その学会の頂点に君臨する自分が、なぜこのような扱いを受けなければいけないのか。
それも、マンテリのごとき三流学者と一緒にされるだけでも我慢ができないのに、けだものや原始人たちとも対等に殺しあえなどという。

「この私が原始人や太古の爬虫類などと対等だと!? ふざけるな!! このような不当な扱い、断じて受け入れるわけには……」
「よーおっさん、随分な言い草じゃねえの?」
「ひいいいいい!!」

オーウェンは悲鳴を上げて、砂の上に尻餅をついた。
何しろ目の前に現れたのが、まさに原始人と爬虫類のコンビだったからである。

「まあこんなことになって落ち着いてられねえのも無理はねえけど、そうパニクるな。悪態ついてたって何の解決にもならねえぜ?」
全身を羽毛で包んだ爬虫類、ヴェロキラプトルが、鶏冠の羽を揺らしながらそう言うと、石でできた棍棒を持った原始人、ホモ・エレクトゥスも口を開く。
「そうアルね。あの女は最後の一匹になるまで殺しあえ言ってたアルけど、きっと抜け道はあるアルよ。
ワタシたちその点で同意して、なんとかここから出る方法探してるアルよ。旦那さんも一枚噛まないアルか?
あ、この棍棒はさっきそこに落ちてた石を加工して作ったアルよ。旦那さんの分も作ってやろうアルか?」

だがオーウェン、それらの言葉に耳を貸さないどころか、そもそも耳に入っていない。

「ひ、ひいいいいい!! わ、私を取って食おうというのか!! か、神よ、どうか敬虔なる私を助け給えええええええ!!」

砂の上を転がるようにして、悲鳴を上げながら逃げていってしまった。

「……やれやれ、なんて自分勝手な男だ。きっと群れにも入れてもらえない口に違いねえ」
「左様アルね。あんなのがうちの集落にいなくて良かったアルよ。しかしほっとくわけにもいかんアルよ」

そんなわけで、オーウェンの後を追いかける二匹。

「それにしても、味方にできるアテがあるって本当アルか?」
「ああ、俺にはもう何年も一緒に巣作りをしているパートナーがいるんだが、さっき大勢集められてた時に、あいつの姿もあったんだ。
とんだ偶然だが、あいつが味方になってくれるのは間違いねえ」
「それは心強いアルよ。こっちは知り合いもいなくって途方にくれてたアルからね」

ヴェロキラプトルは両足を揃えて跳びはねながら、ホモ・エレクトゥスは直立二足走行をしながら、砂の山を駆け下りていった。

一方のオーウェンは、何度も砂の上に転びながらほうほうの体で逃げていた。

「はあ、はあ、どうしてこの、大英帝国一の頭脳を誇る私が、こ、こんな、目に……」

そんなオーウェン博士も、目の前の砂の山の頂上に現れた巨大な影を見て立ち竦んだ。
さっき出会った恐竜と原始人よりも大きな体。おまけに、頭部には何本もの角が生えている。
敬虔なオーウェンは、本気で地獄から悪魔が出てきたのかと思った。
そしてその悪魔はオーウェンの姿を認めるや否や、鼻息も荒く彼に向かって突進してきた。

またも腰を抜かしたオーウェンの前に、後ろから駆けてきたヴェロキラプトルとホモ・エレクトゥスが立ち塞がった。

「おっさん、戦う気が無いんならもっと下がってな?」

ヴェロキラプトルは足の鍵爪を持ち上げ、ホモ・エレクトゥスは棍棒を振り上げて攻撃体制に入る。
砂丘を駆け下りてきた悪魔・パキケファロサウルスも、ただならぬ殺気を感じて立ち止まる。
だが体格で圧倒的に優位に立っているのを見て取ると、再び勢いを付けて突進してきた。
ヴェロキラプトルは右に、ホモ・エレクトゥスはオーウェンを担ぎ上げると左側に飛びのいてかわした。
間近で見れば、あの刺のいくつも付いた分厚い頭蓋を打ち付けられたら命は無いだろうと確信できた。

「おお、神よ、この私にこんなところで死ねというのか!!」

ホモ・エレクトゥスの方の上で震えながら祈り続けるオーウェンに、他の二体は呆れてため息をつく。

「やれやれ、このおっさんが戦えれば、ここでみんなでバトルしてもいいんだけどな」
「うん、そうもいかないアルね。ここはワタシが囮になるアルよ」
「いいのか?」
「仲間を集めることのほうが先決アルよ。これでも、大きな獲物を倒したこともあるし自信はあるアルよ」

そう言って、担ぎ上げていたオーウェンを下ろした。

「じゃあおっさん、しょうがねえから俺の背中に乗りな。あんたの足じゃ逃げ切れんだろう」
「な、何を言うか、私がお前のようなおぞましい怪物に跨るなど……それに、そんなことを言って私を食おうというのでは……」
「ったく、何も食べなくてもお腹が空かないって言われてるのに、わざわざ獲物を捕まえて食うわけが無いだろう、バカバカしい。
四の五の言ってねえでさっさと乗りな」
「時間がないアル。来るアルよ」

パキケファロサウルスが二度目の突進を仕掛けてくる。
ヴェロキラプトルはオーウェンを背に乗せて、砂丘の上に向かって登っていった。

「鬼さんこちら、アルよ!!」

ホモ・エレクトゥスは棍棒を振り上げてパキケファロサウルスを挑発する。
パキケファロサウルスは彼めがけて、勢い良く突進していった。


数十分後、砂漠の砂の上には息絶えた原人の亡骸と、それを見下ろす一頭の恐竜がいた。
思いの外手ごわい相手ではあった。しかし彼の胸中を満たすのは勝利の喜びよりも、激しい怒りだった。

先頭の最中、石の棍棒を持った原始人が話しかけてきた。

「こんな風にワタシたち同士が戦ってたって何にもならないアル。それよりも一緒に、あの女を倒すために手を組まないアルか?」

老いたパキケファロサウルスは鼻で笑った。

「何を言う。我々はいつも孤独のうちに戦ってきた。こうして最後の一頭になるまで争うなど、いつもやっていることの延長でしかない」

すると原始人は答えた。

「随分寂しい話アルね。ワタシやさっきのヴェロキラプトルさんは、助け合うことの大切さを知っているアル。力を合わせれば何でもできるアルよ」

その、無条件に「仲間」というものを信頼し肯定する姿勢が、彼には我慢できなかった。

彼はかつては、大きな群れのボスだった。長年群れのメンバーを纏め上げ、危険から守り、子どもたちを育て上げてきた。
しかし群れの者たちは、彼が老いてくるとボスの座から引き摺り下ろし、挙句群れから追放したのである。
「仲間」から食らったあんまりな仕打ちに、彼の心は打ちのめされた。

(我は仲間など信じぬ。そのようなものに依存する愚か者共は、いずれ痛い代償を払うこととなろう)

そして、棍棒を握ったまま砂の上で眠る原始人を残して、砂の上にまだ残るヴェロキラプトルの足跡を辿り始めた。


【一日目・黎明】
【アフリカ大陸・サハラ砂漠】

【ホモ・エレクトゥス  死亡確認】
【備考】オス・若者 中国出身

【リチャード・オーウェン】
【状態】健康
【思考】早くこんなところから逃げ出したい
【備考】晩年からの参戦

【ヴェロキラプトル】
【状態】健康
【思考】シティパティと合流し、脱出方法を探る
【備考】オス・若者 モンゴル出身 シティパティとは共同営巣のパートナー同士

【パキケファロサウルス】
【状態】健康
【思考】他の参加者を皆殺しにして生還する
【備考】オス・老人 アメリカ出身 かつては群れのボスだったが失脚した
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000:OP
時系列順
002:五十億分の一の物語
投下順
本編開始
ホモ・エレクトゥス
死亡
リチャード・オーウェン
000:[[]]
ヴェロキラプトル
パキケファロサウルス
000:[[]]

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