エロパロ板「おむつ的妄想」スレッドに投下された作品のまとめwikiです。

 一年間はとてつもなく長いようで――終わってみると、本当に短い。
 それは激動の西暦2010年がいよいよ大詰めを迎えようかという、大晦日の夜のことだった。



「うわ〜……本当に、人いっぱいだね……」
「……だから言ったよ、俺。毎年、無茶苦茶混んでるけど、って」

 気温、零下3度にも達しようかという、真冬の夜の11時30分。
 除夜の鐘の厳かな音が遠くに響く中、あるカップルが大晦日で人のごった返す神社の境内を歩いていた。
 全国区でも名前の知られた、県下有数の大きな神社である。
 大晦日の夜ともなれば、あちこちから集まる参拝客やら、それ目当ての出店やら地元の団体の集まりやらで、それこそ
境内だけでなく外の参道まで老若男女入り乱れ、真冬とは思えないような活気と熱気が渦巻いていた。
 石造りの大鳥居をくぐった灰色の石畳の上。
 ゆっくりと歩く二人の横をせわしなく、参拝客の流れが途切れることなく続いていく。
 ちょっと余所見をすると、すれ違う人と肩がぶつかりそうになる。
 油断しているとほんのちょっとの拍子で、二人バラバラになって流されていきそうだ。
「寒い……」
 彼女の手を握って進みながら、男は震える唇で呟いた。
 空いている左手で、ジャケットの襟元を直す。
 既に紅葉の落ちた、境内の大木の脇から遥かに見上げる夜空は、雲ひとつない綺麗な星空だ。
 しかしそこから吹き降りてくる冷たい風は、正に身を切るようだった。
 つないだ右手は暖かいままだが、マフラーをしていても、冷気が足の方から服の中に侵入してくる。
 吹き抜ける風に身震いをひとつ、彼――関谷素直は手の平に、白い息を吹きかけた。
「大丈夫?」
「このくらいなら。けど、絵美里の方こそ、大丈夫? ホントに」
「全然。寒いの平気だし。それにこのくらい人がいたらいいなって思ってたから」
 彼の隣にいるのは、きれいな長い髪が一際目立つ、黒のブーツに白いロングコートの女性。この寒さの中、妙に上気した頬で、
あっけらかんとした笑顔を浮かべている。
 彼女の名前は西嶋絵美里。彼、関谷とは9ヶ月ほど前からの付き合いになる、大学生と社会人のカップルだった。
 ちなみに、二人で並ぶと子供っぽく見えるが、彼女の方が年上である。


「ホントにやるの」
「もちろん。もう履いてきてるし。見る?」
 おもむろに、彼女はコートとスカートをまくり上げる仕草をする。
「いやわかったから、だからそういうのやめてって」
 そしていつもの調子で、関谷はその手を制した。
 いつもの――デートの中の、お約束のやり取りだった。
「ていうか、マジなんだね。……今、すごい興奮してるでしょ」
「……うん。わかっちゃう? さっき、あれ飲んだときからもう、興奮しっぱなし。ドキドキ言ってる」
「顔見たらわかるよ。もうすぐ一年経つんだからさ……ついでに、なんか入れてる? もう、ひょっとして」
「……そこまでわかっちゃうか。流石だね、なおくん」
「あれ、ホントに!?」
「一応、暴発防止にね。いつものストッパー入れてる。……流石に、前には何も入れてないよ今日は」
「……あ、そう」
 それ以上、彼は何も言えなかった。
 そして周りの誰も、その会話の意味に気づくものはいない。
 手をつなぎ、二人は広い境内を、人波に揉まれながら本殿まで歩いて行く。手のひらから彼女の鼓動と熱が伝わって、
こちらの心拍数まで段々と高くなってく。
 別に神様を信じてたりはしないが、それでも神聖な場所で、こんなことしていいのだろうかという不安は尽きなかった。

(しかし、すごい一年だったなぁ)
 白く曇る、大きな息を一つ。
 正確には一年にはまだ満たないが、彼女と付き合い始めてから……恋人同士の間柄になってから、早十ヶ月。
「特殊な趣味」を持つ、彼女との付き合い方にはもうとっくに慣れたが――しかし春夏秋冬と、本当にこの一年、
色々なことがあった。
 ……思い出すと勃起してしまいそうなので回想は全部省略するが。
 とにかくまぁ、彼女との初体験からこっち、色々とあった。
 しかし、と言ってもそれは殆ど全部、初体験まで含めて彼女に引っ張られてのことだからちょっと情けない。
 今日の、この大晦日の神社参拝もそうだ。
 一週間前、クリスマスが終わった後、彼女はこう言ったのだ。

 生まれて初めての、恋人のいる聖なる夜。
 普通に夜の街でデートして、普通にレストランで食事して、気合を入れて用意したプレゼントを渡してキスを交わして……。
 そして部屋にもどってきた後。

「クリスマスはなおくんのお願い聞いてあげたんだから、お正月は私のお願い、聞いてよね」
「へ? ……ああ、いいよ。……で、どんな?」
「……もうすぐ新年だよね。大晦日になったら、どこか大きな神社にお参りに行こうよ」
「なんだ、そんなこと? もちろんおっけーだけど……じゃあ○○大社とか行ってみる?」
「いいよ。そこ、夜中でも参拝客とか、いっぱいいるよね」
「いる……と思う。何年か前に、家族で行った事あるし」
「うん。それでね……」
 内緒話をするように、彼の耳元で口に手を当てて、小声で彼女は。

「……ええっ!?」





(まさか本気とは思わなかったな……あの時は)
 赤くなった鼻を、軽くこする。
 寒さに肩をすくめて石畳の上を歩きながら、彼はため息を飲み込んだ。
 どうせまた、碌なことじゃないだろうという予感はあったが……。
 彼女の横顔に目を向ける。
 人波にもまれるように並んで歩く、わずかに頬を染めたその表情は、とても穏やかな笑顔だ。
 しかしそれは緊張と期待と、そして性的興奮の入り混じった発情の顔であることを彼は知っている。
 何に、興奮しているのか。
 お気に入りのロングコートの下、おそらくは服もスカートもちゃんと着ているだろうが……彼女は今、ショーツを履いていない。
 替わりに履いているのは、子供用の白い紙おむつだ。
 そして、自分のこの手で長期間に渡って少しずつ拡げた(拡げさせられた)彼女の肛門には、以前にプレゼントした……
直径6センチくらいの凶悪なアナルストッパーが、文字通りの栓として挿入されている。
 平静を装っているが、彼女は今、異物が肛門を犯すその刺激に耐えながら歩いているのだ。
 ……何のために。


「あのね、一緒に神社にお参りした後、カウントダウンに参加して、それで、新年になったその瞬間に、思いっきり……
うんちお漏らしがしてみたいんだけど……だめ?」





 なにその煩悩まみれで罰当たりな…………いや、それがいいんだろうなぁ。
 ついでに、俺が一緒なのはやっぱりデフォルトなんですね。

 聴いた瞬間、さすがに何秒か固まった。
 寒いし、家で浣腸してあげるから我慢して、とも言ってみたのだが……ずっと前からやってみたかったの一点張りで彼女は譲らない。
 ……他人に絶対知られたくないと言っていた、あのころの彼女はどこへ行ったのだろう。
 それとも迂闊に
「結構、慣れたなぁ」
なんて言ってしまった自分が悪かったのか。
 ともあれ、先にお願いを聞いてもらった手前、結局断れずにこうして、年越しデートの形で一緒にお参りにやってきている。

「やっとついた〜……」
 人の列の渋滞に巻き込まれながら一歩一歩進むこと10分、本殿の前、巨大な賽銭箱(賽銭スペース?)のところまで
ようやくたどり着いた。
「後ろめちゃくちゃ並んでるし、ぱぱっと済ませよう」
 使い込んだ皮製の財布を取り出し、関谷は用意してあった500円玉をつまむ。
「……え?」
 が、それを放り投げようと構えたところで、彼はそのまま止まってしまった。
 隣にいる、えみりの方を見てみると……なんと彼女は一万円札を取り出して、何の躊躇もなく、ぽいとそれを投げ込んだのだ。
 そして手を合わせて目をつぶり、神妙に、お祈りを始める。
(うっわ……さすが社会人……て言うか、一体、どんなすごい願い事するんだろ……)
 一緒にいると、つい年上であることを忘れてしまいそうになる彼女だが、資本力の決定的な差というものをまざまざと
見せ付けられてしまった。
 じっと自分の手を見る。
 ……気にしても仕方がないのは、分かっているが。
(まぁ、いいや)
 オーバースローで賽銭を、遠くのほうに投げ入れて彼も両手を合わせた。
 そして彼も並んで「お祈り」を始める。
 ……願掛け。
 神様への、願い事。


 ……単位。
 
 進路、就職。

 それとも金?


(……いや、違う)
 ほんの少し目をあけて、隣で手を合わせる彼女を見つめる。
 じっと、一心に祈りを奉げる彼女の姿。
 このままずっと見つめていたいと思う、かわいらしい横顔だ。
 なら、自分の願いは……。
(えみりがずっと、笑顔で……幸せでありますように)
 ぐっと、両の掌に力を込めた。
 願い事……と云うよりも、それは、半分は自分自身への言葉だった。
 自分の幸せは、彼女が幸せであることだ。
 そしてそれは、自分の仕事でもある。
 絶対に……泣かせるようなことはするまい。
 大量の小銭が飛び交う音と、ガラガラ(名前なんだっけ)の音と、参拝客たちの喧騒。
 とても厳かとは言えない、騒がしさに満ちた神前で、誓いを新たにした。

(ついでに、俺の彼女がこれから罰当たりなことをします。ごめんなさい)
 最後に付け足した。



「お祈り、終わった?」
 えみりが、横から袖を引っ張る。
「うん。おっけー……とりあえずおみくじのとこ、行こっか」
 肩を寄せ合いながら、他の参拝客を掻き分ける。
 なんとかおみくじ売り場への流れには乗れたが、あまりに人が多すぎ、なかなか進むことができない。
 退屈そうな絵美里の気を紛らわすために、関谷は話しかけた。
「……ところでさっき、なんてお願いした?」
「お願い? ううん、なんにも」
「へ? なんにも……って、なんで?」
 小さく首を振った彼女に、驚きの目を向ける。
 なら、一体何を、あんなに真剣に祈っていたのだろうか?
「大晦日に神社に来たなら、やっぱりお参りはしとかないと。形だけ。願い事はしてないよ。代わりに、お礼言ったんだ。神様に」
「えー……一万円投げてたじゃん、もったいないなー……。でもお礼……って、一体何の?」
「わかんない?」
「全然」
 うーん、と首をかしげる関谷。
 すると彼女は、くすっと笑ってから、
「……最高の恋人に巡り合わせてくれて、ありがとうございました、って言ったんだ。私の願い事は、もう全部叶ってる。
これ以上何かお願いなんかしたら、欲張り過ぎで絶対罰が当たっちゃうよ。だから、何もお願いしなかったの」
 臆面も何もなく……はっきりとした声で、彼女はそう言った。
 肌を突き刺すような冷たい空気の中、まるで太陽のような……暖かな、笑顔と一緒に。
「……」
 だが関谷は、ぷい、と顔をそらせてしまう。
「あー! 酷い! 笑ったでしょ、ちょっと!」
「ごめん! でも笑ってない! 笑ってないって!」
 怒り出した彼女に、あわてて謝る。

 ……笑ってなんかいない。
 その笑顔があまりにまぶし過ぎて、顔を逸らしてしまっただけだ。
 そんなこと、言えなるわけがないだろう……。



「もー、これでも真剣だったんだよ、私……ん? んんぅ……」
「……あ、来た? もしかして」
 声のトーンが変わった。
 不機嫌な顔から一転、彼女は苦しそうな顔で、自分の腹部を押える。
 ついに効いてきたのだ、鳥居を潜る前に飲んだ下剤が。
「ん……んん。みたい……時間は?」
「11時50……いや、52分。あと8分、我慢できる?」
「たった……8分でしょ? ぜんぜん、大丈夫……あ! く……あぁっ……!」


 ぐるっ……ぐぎゅうぅぅぅ……!

 
 強がって見せたその直後、関谷の耳にも聞こえるほどの大きな異音が、彼女の腹部から響いた。
 ……腸内の急降下が始まった音だ。
 その刺激に彼女は、ぐっ! と背筋を思い切り伸ばして歯を食いしばった。
 力を入れて、抜け落ちそうになった肛門のストッパーをもう一度、ぎゅっと締めなおしたのだ。
「はぁ…はぁ……、ほらね、大丈夫。……でもやっぱり入れてきて、正解だった。やっぱり寒さのせいで、いつもより
効果がきつくなってる……みたい……」
「……すごい汗だよ? どうする? どこか、座って待って……」
「ううん、大丈夫。立ってた方がいいから……このまま、手を握ってて……」
「……わかった」
 広い神社の境内の、端の方。
 人の流れから外に出て、二人はライトアップされた大きな松の下で、手を結んで新年を待つことにした。
 目の前を流れる参拝客の足もさっきより速くなり、周囲はにわかに慌しさを増してきていた。
 午前零時が近づき、松明やぐらの周りでは新年と同時に灯す松明の準備が始まっているし、ワンセグや携帯TVでテレビの
年末特番のカウントダウンを大音量で流すものもそこかしこにいる。
 二人から少し離れた所では、近所の男子高校生と思しき集団が、甘酒を片手に300秒前からカウントダウンを始めていた。


 くぅ……ぐ…ぐりゅりゅっ……!


「はぁ……あ…! あああ……! も……もうすぐ…限界……!」
「……3分切った。頑張って」
 定期的に鈍い音が腹の底から響き、それにあわせて彼女が、くぐもった声を漏らしながら腰をくねらせる。
 そして、関谷が励ます。
 ……あと150秒。
 こちらのカウントダウンも、終わりが近づいてきた。

「あ、だめ……! 大きいの来る……くる…く…あ! ぬ……抜けちゃうぅ……!!」
 上気した顔に、涙の粒が光る。
 腸の奥からの巨大な圧力に負け、栓が抜けかけて……立ち尽くす彼女の細い両足が、がたがたと震えだしていた。
「も、もう……だめ…う…うんち……漏れちゃ……」


「出すな!!」


「ひっ!?」
 驚きで、便意が少し引っ込んだ。
 さっきまでの優しい口調とは打って変わった低い声で、関谷が叫んだのだ。
「主人の許可もなく、勝手に漏らすな。何のためにお前のケツの穴、手間かけて躾けてやったと思ってるんだ?」
「なおくん……」
 手を強く掴んだまま、鋭い視線で睨み付ける。
 いつのまにか、関谷の目つきは変わっていた。
 彼女のために作った、もう一つの顔に……。
「もう一回言う。勝手に漏らすな。命令だ」
 奥の手だった。
 シナリオを演じているときの、冷徹な男として、彼は命令した。
「……はい。“御主人様”」
 歯を食いしばり、彼女はそれに応える。
 だが苦痛に耐えているはずの、その瞳は……どこか満足げだった。
 与えられた命令を守るために、背筋をまっすぐ直立不動に。
 おしり全体をぐっと締め付けなおして、必死で肛門のストッパーを保持する。
 ……恐らくもう、栓の横から茶色いしずくがオムツの中に漏れ始めているだろうが、最後の力で、彼女は脱糞をこらえ続けた。


「ふうぅ…んうっ! んんっ! んんんんん……!!」
 下剤による下腹部の激痛は、絶え間なく彼女を責め続ける。
 その苦悶の声が、白い吐息と一緒に宙に消えていく。
 目をつぶり、腰が砕けそうになるのを関谷の肩に寄りかかってどうにか我慢し、真冬の寒さに後押しされた巨大な便意を
無理やり押さえつけて……。
 今にも肛門からあふれ出しそうな極限状態のまま、彼女はそのときを待つ。

「あと、60秒! ……50秒! 49,48,47……」

 カウントダウンを続ける学生らが、声を上げた。
 いよいよ、クライマックスが近づいてくる……。

 10秒前! 8! 7! 6……

「なおくん……!」
「……いいよ。思いっきり、うんちして。……見ててあげるから」
「うんっ! 見てて……あ、でる……でる…でる! うんちが……あ……あっ!」

 ――2! 1! ゼロ!





 む……ぼぷっ!   ぐぎゅ……ぶ!! どぼっ! ぶりゅりゅりゅりゅりゅっ……!!




「あ、あああああああああああああああ…………」

 零時零分、零秒。
 全ての針が頂点に達したその瞬間、拡がりきった彼女の穴から、こげ茶色に汚れた巨大なストッパーが抜け落ちた。
 そして、その奥から……半分液体と化した大量の大便が、土石流のようにあふれ始める。
 どぼどぼと不気味な音を立てながら、褐色の熱い濁流が彼女の肛門を犯す。
 ぴったりとおしりに張り付いていたおむつが、受け止める大便の質量で、大きく膨れ上がっていく……。

「2011年、おめでと――――――!!」
「ハッピー、ニューイヤー!」
 誰かが叫んだのを皮切りに、次々に歓声と拍手が沸き起こった。その騒音で、脱糞音も彼女の歓喜の叫びも、全てかき消される。
 同時に、離れたところにある高層ビルの屋上から、色とりどりの花火が打ちあがって夜空を鮮やかに染め上げた。
 参拝客も、神社の関係者も関係なく。
 そこにいた誰もが足を止めて空を見上げ、知り合いもそうでないものも関係なく、おめでとう、の言葉を交わしていた。


「おめでとう。よく、頑張ったね」
「う……うん。ごめん、ちょっとイっちゃった……」
 花火が打ち終わると、参拝客らも、そして彼女も少し落ち着きを取り戻していた。
 ねぎらいの笑顔で、関谷は絵美里の頭を優しくなでる。
「気持ちよかった?」
「うん、すごかった……。苦しくて苦しくて……恥ずかしくて……でも、うんち漏らしちゃった瞬間、気持ちよくて全部が
真っ白になって……。それから……」
「それから?」
「なおくんの命令を、ちゃんと守れたのが……嬉しかった」
「……そっか。……よかった」
 いまだ興奮と快楽に酔ったまま、肩で息をする彼女を、関谷はやさしく両手で抱きしめた。
 ……とは言え、実は彼もさっきから勃起しっぱなしである。
 わざと下剤を飲んで、子供用のおむついっぱいに大便と極太ストッパーをぶちまけ、恍惚とする自分の恋人の姿。
 ……どうしてこんなに、かわいいと思うのだろう。
 彼女と同じ、排泄行為に性的興奮を覚える、変態。
 全く、すっかり染め上げられてしまったものだ。
 抱きしめた彼女の顔を、もう一度、彼はじっと見つめた。


(……ところで、どうやって帰ろう)
 ふと気づく。
 そういえば何も考えてなかった。
 漏らしたオムツのまんまではタクシーは無理だし電車やバスもまずい。
 どこか、トイレで処理してから帰るしかないが、この辺はどこの公衆トイレもいっぱいだろう。
(駅まで、一緒に歩くしかないか)
 ひょっとしたら、それも彼女には織り込み済みだったかもしれないが。
 ――などと考えていると、急に、目の前の人の流れが乱れた。
 あれ、と思いながら見ていると、そこから一人の女性が急に飛び出してくる。


「う…うぅっ……ううううっ……!」
「おいっ! ちょっと……どうしたんだよ、待てって!」


 人ごみを切り裂くようにして――二人のすぐ前を、艶やかな着物姿の女性が走りすぎていった。
 周りからはっきり判るほどの、大粒の涙を流しながら……。
 次いで、それを追いかけるジャンパー姿の男が一人。
 ほんの少しの間だけ、付近の参拝客らの足が止まった。
 周りからは、痴話げんかだろう、という声。それ以上は誰も、気にも留めない。
 だが関谷たち二人は、そうではなかった。
 
「……違うね。お漏らししちゃったんだ、あの子。……しかもおっきい方の」
「みたい、だね」
 逃げるように走り去る女の子の表情と走り方、そして風に乗って漂ってきた、わずかな異臭で二人は気が付いていた。
 鼻水も凍りそうな、この厳しい寒さの中だ。
 カウントダウンの最中には行くに行けず、彼氏の手前、我慢しすぎて……と言ったところだろう。
「かわいそうに。せっかくの年越しデートだったんだろうけど」
 真っ白なため息とともに、関谷は言った。
 老人から小さな子供まで、大量の参拝客であふれる境内である。
 その二人の背中は、何秒もしないうちに人波に紛れ、もう全く見えない。
 デートの最中に、お漏らしをしてしまう……。普通に考えて、記憶から消したいくらいのひどい思い出だ。
 別れ話に、発展しなければいいが……。
 全くの他人ながら、心配になってしまう。



「けど」
「……何?」
「あの反応が普通、なんだよね……」
 ぽつりと言うと、彼女は関谷の腕を払い、ふっ……と視線を下に落とした。
 それ以上、彼女は何も言わない。
 そして関谷の方も、聞かなかった。
 自分が、自分たちが「異端」であること。……それを、彼女はわかっているのだ。
(普通……)
 その彼女の表情に、はっとした。
 クリスマスは、普通にしたい。
 一週間前のやり取りが、彼の胸によみがえってきた。
 長年の夢だった、“恋人と一緒に、楽しく普通にクリスマスを過ごす”という目的を果たすために「絵美里のしたいこと」を
全部我慢してもらった。
 彼女の「趣味」は、そのものが重いコンプレックスでもある。
 恋人という関係に慣れて、それを忘れて……知らず知らずのうちに、彼女を傷つけてしまっていたのではないのか。
(……思い出せ。さっき、俺は何を祈った?)
 こぶしを握り締め、自問する。
 そして、彼はもう一度自分の中のスイッチを入れた。


「ひぁっ!?」
 突然、えみりが背筋をのけぞらせた。
 関谷の右手が、コートの上から彼女のおしりをまさぐっていた。
「あ…あ…?」
 ぐにっ、と、紙おむつの上から、漏らした大便ごとおしりを愛撫される感覚が、下半身から脳天へと駆け上がる。
 円を描くように、掌で……その中身の、大量の茶色い排泄物がぐちゃぐちゃに攪拌される。それも境内のど真ん中、大勢の
参拝客のいる、その最中で。
「羨ましいって思ったでしょ。今の、女の子のこと」
「そ……そんなこと…あぁ…」
 油断していたところへの、突然の愛撫と言葉攻めに、彼女の方も再びスイッチが入る。
 手を動かし続けながら、それを隠すように関谷は彼女の背中に抱きついた。
 公衆の面前だが、ただカップルがいちゃついているだけだと、さっきの二人と同じく周りの参拝客は気にも留めていない。
「うんち漏らしたのを周りにばれて、みんなの注目を集めて……自分もそうなりたいって思ったでしょ? ……この、変態」
「いや…いやぁ……」
 耳元に、言葉と一緒に熱い吐息を送る。
 絵美里は小さくなって、震えるだけだった。
 だが、その瞳は嘘を付けない。
「……意地悪してごめん。帰ろう。この、うんちでぐちゃぐちゃの絵美里のおしり、早く洗ってあげなきゃ」
「う…うん?」
 蕩けた顔で、彼女はうなづく。
「絶対、こぼしちゃだめだよ。外でしたうんちは、ちゃんと家に持って帰る。散歩のマナーはわかってるよね?」
 やさしい笑顔で……小さな子供をしつけるように微笑むと、彼は絵美里の手を取る。
 ずしっと重くなったオムツでおぼつかない足取りの彼女をリードしながら、また人ごみを掻き分け、大鳥居を潜って……二人は
家路についたのだった。



「なおくん」
「うん?」
「今年も、よろしくね」
「うん。……こちらこそ、よろしく」



 ……彼女は、普通じゃだめなんだ。
 普通じゃない彼女を、俺は好きになったんだ。

 今年も、来年も、その次も。
 俺も男だ。
 乗りかかった船だ。
 どこまでも、行けるところまで一緒に行こう。彼女を、笑顔にするために。

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