俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「俄には信じられない話ね……でも貴方はこうして女騎士の体で喋っている」
完全教団に伝わる転生の秘法の説明と簡略的な自己紹介を受けて、結蓮は嘆息する。
「詳しい秘跡は凡人には理解できん、それより貴様は」
突如唸る耳障りな振動音。
音の出処であるタブレットを取り出し、映った人間と対面させられる。
電子の向こう側にいる、修道服の女性の言葉に三人の会話は遮られた。
告げられる情報の幾ばくかを無言で見つめる。
お互いの状況、目的、方針、その大抵の情報を交換している最中の新たな問題。
ここに集められてから急なことばかりだ、結蓮はのろのろと発信をやめたタブレットを伏せる。
「何者だ、あの女は」

思考を言葉にするアドラー。
勿論両名から正確な答えはなく。
「さあ、あの完全者っていう子のお友達じゃあないかしら?」
適当にあたりをつける結蓮。
「そうそう、完全教団って宗教団体みたいなものなんでしょ?」
適当なあたりにそれらしい後付をするクーラ。
「疑問に疑問で返すな、貴様らには聞いていない」

温度の低い声は、苛立ちに満ちていた。
六時間、こんな状況に放り込まれてからもうそんなに経ってしまったのだ。
別段疲弊はない、本来の体は使い物にならなくなったが。
只々、腹立たしいのだ。
何一つ完全者の思惑は読めず、尻尾はつかめず、盤上の駒に甘んじているこの状況。

タブレットを操作してつらつら眺めていく。
与えられた、非常に業腹ではあるが与えられた情報。
それをじっくりと考察してやろうではないか。
まずは名簿アプリ。
知っている名前、知らない名前、生きているもの、死んだもの。
集められた人間に、少しでも共通点や有用性があるか。
もう一つの情報である禁止エリアとやらに興味は飛ばない。
ぐるりと閉鎖されきった島の範囲を狭めただけだ、深い意図は考えずとも無いと断言できる。

「K'……今は何してるんだろうなあ」
お腹すかせてないかなあ。
クーラもアドラーと同じように名簿アプリを開く。
浮かび上がるK'の名前に無事を喜び、すぐさま心配になる。
KOFで見たことがある名前が散見されることをなんとなくつぶやくと、アドラーが顔を上げた。

「KOF?」
「うん、キング・オブ・ファイターズ……簡単に言っちゃうと、世界規模の大きな格闘大会」

全世界が注目する格闘大会KOF、優勝者には莫大な賞金と格闘家としての栄誉が与えられる。
形式的なスポーツと言うよりは、ストリートファイトに近いその内容のためその参加者の戦闘スタイルは多岐にわたる。
その大会を開く人間や人間じゃないもの達の思惑やら野望が絡んで近年のKOFはトラブル三昧だった。

「こないだの大会は……あれ、何があったんだっけ?」
新聖堂騎士団が暴れまわる少し前に行われたはずの大会。
確か、何かがあったはずだ。
頭のなかがもやもやする。
記憶がぷっつり途切れていて、思い出せない。

「……なるほど、少し見えてきたな。クーラ、貴様とK'以外にその大会に参加していた者の名前を挙げろ」
「いいけど、言い方が気に入らないなあ」

ふくれっ面を作って、少しアドラーを困らせてやろうか、とクーラが目を細める。
見た目こそ女騎士テンペルリッター(よく見たら結構美人)だが、中身と目つきは完全にアドラー。
珍妙で尊大な彼だか彼女だかに返答を渋っていると、かたんと何かが落ちる音が聞こえた。

「結蓮?」

音がした先はやや古びた床。
その空間に似つかわしくない最新鋭の機械が投げ出されている。
視線を上に移すと止まった指先、呼吸の無い結蓮。
「やはりそうか」
無関心そうにアドラーが結蓮を見て納得する。
「ど、どうしたの?」

「あの子が、死んだ?」

その声は、何万回ものどうして?を反芻させて生まれる。
確認してしまった非情な情報。
彼女が死者だと告げるその表記。
守りたかった、守るためなら殺人も厭わないと一度は覚悟したその存在が。
余りにも簡単に、薄ぼんやり浮かぶ電子の光の結果にされて。
消えてしまった、結蘭と帰る世界は。
ではここにある世界は何か。
結蓮は虚ろに、涙の代わりに言葉をこぼす。

「あの子は、ただのバーテンダーで、EDENで、風の魚で、普通に暮らしていただけなのに」

「結蓮……」
クーラは彼の喪失を理解する。
アドラーは名簿で並んだ名前で察していたのだろう。

楽園の名前には程遠いそこではあったが、二人は変わっていたがそれなりに普通で、幸せだったはずだ。
結蓮自身は幸せであったと断言できる。
彼女は、結蘭は、どうだったのだろう。
思い返す、決心した理由。
日常を奪われる程に、不相応な夢を見たとはとても思えない。
幸せになって欲しかった、生きていて欲しかった。
「で、貴様はどうするのだ?」
相変わらず思いやりの欠片も見当たらないアドラーの問いかけ。
「どう、する……?」

武器を取り、仮面を、もはや仮面すらいらない。
世界を壊してしまおうか。
武器を向け、自分の世界を終わらせてしまおうか。
行くあてのない悲しみと自分に、結蓮は言葉を失う。
音と色が自分の中から消えていく。

「……また、分からなくなった」
頭を振ってアドラーは立ち上がる。
キシキシと床をきしませて流れる言葉は誰にも宛てない思考の音。
「俺やクーラ、あとは試製一號やムラクモのように、特異な能力を持つ者や強者が集められていると考えたが」
窓辺に立てば、高い位置に陣取る太陽が生白い肌を刺す。
「貴様と……結蘭だったか、はどう聞いても普通の人間」
それでも殺し合わせる価値がある人間なのか?
悪趣味な催しにしても陳腐極まりない。
無意味に過ぎるのだ。
長い白髪をかきあげて、再び結蓮に向き直る。

「俺達を殺しにかかりたいなら、好きにすればいい」
返り討ちにしてやる。
口端を持ち上げてアドラーは続ける。
「自害したくば手伝ってやろう、首輪を調べたいからな」
生体実験でも、首を落としてからの反応実験でもいい。
首元を指しながら返事を待つ。
「アドラー、なんでそんなひどいことばっかり……!!」
全て本気で言っているだろうアドラーにクーラは抗議の声を上げる。
「好きにさせてやればいいだろう」
「それとも貴様は、こいつを救える手段を持っているとでも?」

「それは……」
言ってることは酷くて無神経で最悪だったが、どれも事実で正論だ。
もしもK'が死んでいたら、自分も同じようになっていたに違いない。
嫌な想像だったが、そんな時にどれほど優しい言葉をかけられても辛さは無くならない。
だからといってアドラーの言い方は容認できない。ひとでなしだ、鬼畜だ。

「分からないの」

血の気のない顔で、無表情の結蓮は答えた。
結蘭を守るために参加者を減らそうとしたことは正解であったか。
結蘭と帰るために生き残ろうと思ったことは正解であったか。

同じく妹を守り駆けたアーデルハイドはまだ生きている。

彼女を助ける選択肢を間違ったのは、どこなのか。
間違ったシナリオを歩く自分がどうすればいいのか。
死にたいか。
生きたいか。
浮かびに浮かんだ疑問質問の答えは全て『分からない』

「そうか、ならば分かるまで一生考えていろ」
とん、と地面を蹴ったアドラーが宙に留まる。
テンペルリッターの能力は問題なく扱える、人間が手にし得ない飛行能力。
新たな力にアドラーはくつくつと低く笑った。
「放っておきたいところだが、貴様がこのまま意味もなく死ぬと完全者の思惑にそうことになる」
しかめっ面で黙っているクーラを一瞥し。
「クーラ、貴様は奴の面倒を見ていろ」

「ふ、このアドラー様が協力してやろうではないか、人集めとやらに」
殺し合いに集められた人間の考察がてらにな。
窓枠に足をかけて、いざ飛び立とうとしたアドラーの足元に音もなく氷が薄く張り足を踏み外す。
「がっ……ク、クーラ貴様!!」
窓枠に布団のように腹を打ち付けたアドラーが体勢を立て直しつつ怒鳴る。
透き通った青い髪から栗色の髪に戻ったクーラがしてやったりと微笑む。

「その格好で行ったら、誰もきてくれないし絶対喧嘩になるよ」
不機嫌を隠さず腕を組んだクーラが、アドラーを見上げる。
「私が一緒じゃないとぜーったい面倒だと思うんだよねぇ」
「だからなんだ」
「分かってるんでしょ?私も連れて行って」
「奴はどうするつもりだ」
放心している結蓮は二人の言葉聞こえているのかいないのか。

「いい考えがあるんだ。アドラーだったら、できるよね?」


穏やかな風と陽気のなか、殺伐とした殺し合いの世界に相応しくない飛行物体。
腕に細身の男性を騎士が姫を守るように抱き、背中に幼い少女を乗せた航空兵の体。
ついでに結蓮とクーラの荷物も背中にちゃっかり乗っている。完全に乗り物扱いだ。
「くっ……」
「空をとぶのって気持ちいいねえ、アドラー」

舌打ちだけがクーラの耳を打つ。
人でなしなアドラーにやり返すことには成功したが。
女騎士の腕の中でずっと疑問を反芻しているだろう結蓮を見やる。
どうしたら、元気にしてあげられるのか。
でも、元気になって意味があるのか。

「私にも、分からないよ」
誰にも聞こえない声量のクーラの声は、向かい風に飲まれて消えていった。

【D-6/鎌石小中学校・上空/1日目・日中】

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す


【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:テンペルリッター(四番隊長)に転生、怪我は回復途中。
[装備]:拳銃(弾丸は一発)、蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜4)
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をするため思惑を探る。
・人集めを手伝いながら情報収集
※身体がテンペルリッターになりました。電光機関無し。

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない

※アドラー達の行き先は後続にお任せします。
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クーラ・ダイアモンド
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