俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

 ――さて。
 このあたりで少し、俺のとりとめもない考えをそれなりにまとめておく必要があるだろう。
 口には出さない。というより、出したところでどうにもならん。その程度の疑問ではあるが、どうしても頭の隅に引っかかる……、いや、俺の天才的ニューロンが反応していると言うべきか。
 他者に投げかけたところで答えは期待できない。しかし、必ず答えを出す必要のある疑問だ。ゆえに俺は、『回顧録』と銘打って、この記憶に留めておくことにする。
 このつらつらとした、考えの羅列は、空を飛んでいるときに生まれたものである。決して間を持たせられなかったから考えに耽ることにしたわけではないことは、貴様らなら理解できるだろう。

 ――前置きはここまでとしよう。
 現在、俺という自我を持つ『エルンスト・フォン・アドラー』という個は、かつて死体であった『テンペルリッター』に宿っている。
 手に入れた転生の法を用いたわけだが、思っていた通り見事に成功させることができた。確信があったのだ。理由はいくつか列挙可能だが、その最たるところは電光機関が問題なく使用可能であった点である。
 電光機関は乱暴に言ってしまえば、自らの生命力をエネルギーに変換し、取り出すことが可能な代物だ。その原理については遺憾ながら未だ不明な点が存在するが、この機関が意味するところは、我々は自らの魂をエネルギーという数値に置き換えることが可能であるということだ。
 即ち、エネルギーを魂に変換することも理論上は可能である。転生の法も、この論理に基づいていると見て俺は習得した。
 つまるところ、電光機関が使用可能であるなら、転生の法もまた使用できると睨んだのだ。繰り返すが、それは成功した。だが同時にこの成功例は、ひとつの疑問を呼び起こす。

 転生が可能であるなら、それは『ゼロサムゲーム』の根本をお釈迦にしてしまうこと。『ズル』が可能だということだ。

 この催しが完遂されるための前提条件は『落伍者は再び土俵に出られることがあってはならない』である。失格とされた者が何度でも復活できるのでは、最終勝者の決定ができなくなる。
 しかしその条件はたった今、電光機関並びに転生によって覆された。他ならぬ俺が覆したのだが、誰がやったかはこの際どうでもいい。問題は、優勝者が決定できなくなったこの状況下は果たしてどのような意味を含むのかというところだ。
 当初、俺は世界中から未だ解明できぬ能力者や異形の者どもを集め、戦わせ、最終勝者のデータを得ることで何らかの目的を達するものであると想像していた。
 この点については完全に否定ができる。理由はクーラ・ダイアモンド並びに結蘭との会話、そこから知りえた情報があったゆえだ。
 では殺し合いの目的とは? そもそもこのようにしてただひとつを決定するというのは、優越した者を選ぶという意思があるはずである。かつてナチスドイツがそうしたように、だ。
 だが決める意思が見られないとなれば、最終勝者の決定に重きが置かれていないということになる。つまり、我々は何をしようが、足掻こうが、従おうが、はなからどうでもいいということになる。
 ならば何を決める。何を求める。何を為す。何が終着点なのか。どれひとつとして見えるものがない。
 娯楽、享楽、悪趣味。そう一言で片付けるのは簡単だ。しかし本当にそれだけでしかないとしたら、俺は「貴様は能無しか」と侮蔑をもって言葉を投げかけるであろう。

 言ってしまおう。何がしたいのか『分からない』。あまりにも、この殺し合いは、無作為、だ。

 俺は元々、殺し合いそのものについての是非を論じるつもりはない。その点について論じることに何の興味も見いだせない。
 興味があるのはただひとつ。この催しのたどり着く先。終着点がいかなるものであるか、だ。
 それは現在の世界の行く末を決定するものであるのか。或いは新たなる力と仕組みを生み出す波紋になるのか。期待はしていた。俺がそれを手に入れるからだ。
 だからこそ、とでも言えばいいのか。確認すればするほど、目的も見えず、先も定かではない殺し合いに、呆れと怒りが生まれ始めている。
 ならばいっそ俺が取って代わってやろうか、とさえ思っている。それもいいかもしれない。全てを超越するズーパーアドラー。悪くはない。
 抜け道を用意しておいて、ただの不手際でした、などと抜かすならば、こんな催しに意味はない。俺の時間を無為に消費させるならば相応の代償が必要である。
 そこまで考えて、ふと、思う。これは綺麗事として言ってしまうならば『生への冒涜に対する怒り』と表現してもいいということに。

     *     *     *

「……ぬるま湯のような生など」
「ん? どしたのいきなり、そんなテツガクシャみたいな」

 直上からかかる幼子のような声は、クーラ・ダイアモンドのものだった。いつしか口に出していた己の迂闊に気付きつつも、アドラーは「貴様が気にすることではない」といつもの調子で返す。
 アーネンエルベの死神の異名を持つアドラーだが、その所以は残虐で容赦のない戦いぶりだけでなく、魂も凍りつくような冷酷な声色にもある。
 が、性別上は女性であるテンペルリッターの肉体だとどうしてもドスを利かせることができず迫力が足りない。加えて、能力の行使には問題はないものの、肉体そのものの疲労の蓄積が思ったより早い。
 何より、胸についている二つの脂肪が重たい。邪魔だ。女とはなんと不便なものかとアドラーは思った。

「なによー、隠し事?」
「話すだけ無駄なことに過ぎん。それとも貴様、俺の人生哲学を聞きたいとでも言うつもりか?」
「……碌なものじゃなさそうね」
「ほう、分かっているではないか」

 アドラーは常識はずれではあるが、常識知らずではない。またアドラー自身、己が常道を外れているという自覚はあった。まともではないのだろう。
 道徳や倫理、そういったものには動かされはしないし、自らが道徳や倫理と呼ばれるものにもなろうとはしなかった。
 アドラーの欲求は、常に単純で自分勝手だ。世界に生まれ落ちたのならば、拡がるべきであるという考えがある。
 平穏、安定、平和を求めるよりは混沌や破壊を伴ってでも新たなる知の地平を切り開く方を選ぶ。その意味で、アドラーとは真逆に位置する結蓮が敏感に察知するのは道理であると言えた。

「いいじゃん、暇なんだから聞かせてよー」
「やめといたほうがいいと思うんだけど……」
「つまんなかったらつまんないって言えばいいし」

 結蓮はため息をつくだけだった。そういう問題ではない、と言いたかったのだろう。良く言えば無垢、悪く言えば精神年齢の低いクーラは、こうなってしまえば引かない。
 アドラーはやむを得まい、と判断し、しかし己の体調を考慮するのと、クーラへの意趣返しの意味を含めて、『空をとぶのをやめ』ながら言ってやった。

「俺はスリリングが好きという話だ」
「え!? ちょ、アドラーぁぁぁぁぁ!? 落ちてるってーーーー!」
「この体は思ったより消耗するようでな」
「冷静に返してるけど、落ちてるからね!? っていうか私が一番危険なポジションなんだけど!」
「バカが。この俺が考えもなく落ちるわけがなかろう。全て計算ずくなのだっ!」
「何がどう計算ずくなのか全く説明がないから不安しかないんだけどぉーっ!?」

 結蓮とクーラの悲鳴が、アドラーにはなかなか心地が良かった。そう、ぬるま湯のような生など面白くもない。
 万事全てが安全、安心、安寧な世の中など、自分たちが智を持って生まれてきた意味がない。考え、恐れ、克服し、進化してこそ、血が滾るというものだ。

 だから俺に、救済は必要ないのだ。俺にとっては、救済されることなど思考停止に他ならないからな。

 計算上では、残りの力を浮遊に使えば怪我なく着地はできるはずである。しかしあくまで計算上でのこと。実際に上手く行くのかはわからなかった。何しろやったことがない。
 なら飛ぶ前に気付いて然るべきだったというべきだが、アドラーは規格外とも言うべき思考を持つ男である。敢えて陳腐な言葉で表現するならば、アドラーは「実はやってみたかった」のだ。
 リスクは承知の上。いや、リスクを楽しんでいた。当初不満気だったのは、クーラに唆されたのが気に入らなかっただけである。

「フッ! エェイッ!」

 気合を込めた、怒号一閃。まるで足元でスラスターを吹かせたように器用に半回転して、アドラーは華麗な着地を決めた。
 空中での姿勢制御もそう苦手な話ではない。身体感覚は『フラクトリット』を放つ上で必要不可欠なものだったからだ。
 着地した先は、廃ホテルの屋上。荒涼とした風が吹きすさび、仁王立ちするアドラーの頬を撫でてゆく。景観は悪くない。山道くらいならば一望が可能である。少々オンボロではあるが、拠点とするには向いているだろう。分析を終えたアドラーはでは捜索に向かうかと命令を発しようとしたが、

「うげえ……」
「も、もうやだ〜……」

 クーラと結蓮は揃ってグロッキー状態になっていた。なんと情けない連中だとアドラーは嘆息した。
 出自が一般人であろう結蓮はともかく、異能兵士たるクーラがこのザマである。ゲゼルシャフトならば処分モノの失態であるが、今は人員に余裕がない。

「ふん、お望みの空の旅はいかがだったかな?」
「もうアドラー航空には乗りたくないよ……」
「賢明な判断だが、それ以前に貴様はもう少し兵士としての技能を高めることだ。貴様が最終的に何をするかは俺にはどうでもいいことだが、成し遂げるのならば力が必要なのだ」
「なんかお説教が始まった……」

 クーラにげんなりとした顔になられる。当たり前の事実を説いただけなのだが、どうも物分かりが悪い。いや、現実の認識が甘いと言うべきなのか。相当に甘やかされたのだろう。

「振るう、振るわざるに関わらず、力と、それを制御できることは必要だ。すべき鍛練を怠り、みじめな結末を辿ったクズどもはいくらでもいる。世は全て弱肉強食だということを覚えておけ」
「アドラーって天才じゃなかったの……? 鍛練なんて言葉が出てくるんだ」
「バカめ。鍛練した天才としなかった天才、どちらが上かは言うまでもなかろう」
「言ってることは正しいのだけれど、なんか幼稚に聞こえるね……」
「ガキでも分かる理論だということだ。貴様も弱者なりに、生存する術を磨くのだな、結蓮」
「……」

 行動は共にしているが、必要でなければ助けはしないぞと言外に言い含めたアドラーの言葉を、結蓮はしっかりと理解したようだった。険しくなった顔が物語っている。
 クーラは『お説教』そのものが嫌いなのか指で耳栓をして聞かないフリをしている。まあ耳には届いているからよしとして、話を打ち切って屋内へと続く扉へと足を進める。
 アドラーは、弱者の存在を否定はしていない。ただ、生存のための行動を起こさないのならば死ぬのは当然の成り行きだと考えているだけだ。
 弱肉強食とは、強者でなければ生きられないという意味ではなく、生存のためにあらゆる術を尽くして生き残った者こそが強者であるという意味で言っただけである。

(俺のこの体も、無茶はできん)

 以前の肉体のように考えて行動していると、死を招く結果になるかもしれない。
 そもそも、半ば成功すると踏んでいたとはいえ、上手い具合にテンペルリッターの体を乗っ取れたのは彼女の精神構造がそれほど強固ではない……つまり、強靭な意志を持っていなかったこともある。
 転生の条件に、転生先の個体の魂の強度が関係しているであろうということは、ムラクモの事例を見ても明らかである。

(スペアの肉体を確保できればいいのだが……)

 そうそう都合よくはいかないだろう。理想はこの航空兵か、己自身のクローンであるエレクトロゾルダートだが、果たしてここから先、生き残れるものか。
 そして、大きな懸念がもうひとつ。
 それは、アドラー自身が転生できたということは。
 ムラクモもまた、殺してもなお転生して蘇るという可能性があるということだ。何せこの場では、ズルが許されている。
 頭が恐ろしいほどに切れるヤツのこと、既に準備を始めているかもしれない。ムラクモの手段の選ばなさは、ゲゼルシャフト時代にアドラー自身がよく知りぬいていた。

 成し遂げてみせるか。

 アドラーは扉に手をかけながら、不敵に笑った。
 難題は乗り越えてこそ価値がある。壁の見えぬ生ほど下らないものはない。
 やるなら大きくやれ。それが、アドラーの信条である。

「ちょ、待ってよアドラー! 置いてかないでよー!」

 昼間でもなお薄暗い室内に足を踏み入れたところで、クーラ達が追いかけてくる気配を感じながら、アドラーは己の意志のままに突き進む。





【G-5/ホテル跡・屋上/1日目・午後】

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す


【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:テンペルリッター(四番隊長)に転生、怪我は回復途中。
[装備]:拳銃(弾丸は一発)、蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜4)
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をするため思惑を探る。
・人集めを手伝いながら情報収集
・転生用のスペアの肉体を探す
※身体がテンペルリッターになりました。電光機関無し。

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない
・アドラーに嫌悪感がある
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064:月に叢雲、華散る嵐
時系列順
070:脱走開始
068Walk my way, Long and winding
投下順
059:『分からない』
アドラー
077:死神の逆位置、人々の誰そ彼
クーラ・ダイアモンド
結蓮

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