俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

天貫かんと迸る蒼と赤の中で、彼は笑う。
昂ぶる血液の暴走、聞こえてくる声、作り物の体が悲鳴を上げた。
それら全てを、制御ではなく無視して、彼自身が生まれた時から持っている純粋な欲求で塗りつぶして。
「這ぇええ!!!」
それは、命を削る電光機関によく似ていた。
彼自身を擦り減らし。
彼自身を炎にして。

闘争本能でできた爆炎は嬉々として増えた獲物をその手で捕らえんとする。

地面を舐め上げる蒼は、蛇行し余すこと無く焼きつくさんとこちらを目指した。
右手を包み込む赤もまた、炎を駆るように走りだす。
「暑苦しい限りだな」

熱気に苦笑しながら、ルガールは両腕を前に突き出しバリアを張る。
エヌアインは静かに片手をつきだし、未来の景色を読む。
そして脳裏に過ぎった映像に慌てて構えを変えて、対抗するように超能力による炎輪を放った。
跳躍するか、避けるかするはずのKUSANAGIは炎輪、パイロキネシスを喰らいこちらへ突進する。

「ほう」
バリアに到達した炎はその弾き返す能力に反発し、留まる。

「なかなかどうして……」
面白いではないか。
喉を鳴らし、跳ね返すのではなく掻き消そうと力を高める。
それでも食い下がる炎に根負けしたのか、ルガールは炎を跳ね返すでもなく消すでもなく振り払った。

炎の化身の拳を前に、エヌアインは不動であった。
「真っ赤に燃えろォ!!」
それはエヌアインの細い喉を捉えて、体内体外選ばず焼失させる。
そのイメージを経て、エヌアインは真っ直ぐに拳を振りぬいた。
「邪魔、するな!!」
化け物じみた疾走ではあったが体はやはり人間の範疇を出ない。
しかと拳でとらえた体を真上に殴りあげ、テレポートで背後へと回り叩き落とす。

落下地点には奇しくもルガールの振り払った蒼炎が迫っていた。
予測していなかったコンビネーションに、エヌアインは喜ぶより先に戸惑う。
生じる違和感、その正体。

「がっ!?」
自身を炎にして擦り減らすなら、炎も彼の肉体と変わりはない。
先ほどパイロキネシスを飲み込んだのと同じく、蒼炎を取り込んだKUSANAGIはお返しだとばかりに飛び上がる。
未だ落下中で無防備なエヌアインに炎の拳が食い込む。
空中で更に吹き飛ばされる、味わったことのない重力に意識が白んだ。

「堕ちろォ!!」
迫る蹴りの連続、白い世界。
未来はとても不透明で、乳白色の霧に沈んでいる。
故にエヌアインは体から力を抜いた。
諦めではなく、始めていた試みのために。

『助けて欲しい』

『キミだって、死にたくはないだろう?』

『……こんな言い方、卑怯かもしれないし、ボクだってそれが何かわかってないけど

炎と一筋の熱線がぶつかる。
小規模な炸裂。
星の光より遠い意思。

「トモ……ダチ……」
それを宿し始めた瞳が語る、電光戦車のたどたどしい言葉。
よかった、安心したエヌアインの体は今度こそ大地に向かう。
たたきつけられる衝撃を覚悟していたエヌアインは、力強い何かに受け止められてぎゅっと閉じていた瞳を開いた。
「危機一髪、と言ったところかね?」
スーツの男がにやりと笑う。
「多分、ね」
エヌアインも曖昧に笑顔を見せて、地面に漸く足をつけた。
助太刀に入った電光戦車は、瞳を明滅させながら状況を静観している。
まるで、人間が自分の行いを噛み締めるように、言葉を脳内で反芻させるように。

「さて……」
ダメージが残るエヌアインを尻目に、ルガールは墜落したKUSANAGIに近づく。
いくら炎を自在に操り、剰え食らおうとも、体の修復には至らない。
特に欠損を補えるほど、今の炎には定まった形がなかった。

電光戦車の熱線で片足をなくし、なおも赤い瞳を轟々と焚き上げるその姿。
「その類まれなる血の炎、そしてオロチの力」
是非ともこの手に。
そう手を伸ばしかけるが、ルガールはピタリとすんでで手を止める。
指先にチリチリと纏わりつく殺気、闘気。
気圧される感覚にまたルガールは笑う。
愉悦か、威嚇か分からない顔で。

血にめぐる暗黒の力を貫手に込める。
まずは自分の力を流しこみ、取り込みやすいよう料理してやる。
その間も赤い目は爛々と、いや増してエネルギーを持って。

「……いいな、この感覚」

ふ、と聞こえたつぶやきを堺に、世界は完全へ足を踏み入れた。
突如降り注いだ衝撃にルガールは吹き飛ばされるが、地面を滑り着地する。

「完全世界……!」
エヌアインの叫びに電光戦車が顔を上げる。
「なんだね、それは」
予想外の出来事に渋面を作り、火が移ったスーツの上着を脱ぎすてるルガール。

「一発逆転のチャンス……自分の力を一時的に全て開放して、自分のためだけの完全な世界を作り出す」
対価は人によって様々だ、攻性防禦が人によって使用法が異なるように。
「だけど、これさえ終われば、多分アイツは」
おそらくKUSANAGIの支払った対価は命。
彼の力は自身の命、血に由来しているのだから当然とも言える。
そもそも完全世界を教えたであろう完全者を思えば、使い捨てのクローンに支払わせる対価など容易く予想がつく。
「だとすれば、とんだお笑い種だ」
足をなくし、動けぬまま、今度こそ死んでいく。
完全な世界の中で、完全には遠い炎が。

神に成って走りだす。

「焔にぃ…………」

喪った足の代わりに、新しい闇色の炎を滑らせて。
鬼すら焼ききる赤い炎を持って。
闇を払う蒼い炎を共に。

「還りやがれぇえええ!!!」

命の轟炎、至近距離で真空を作り出す程の業火。
瞬間的にKUSANAGIは神の極地に至る。

そこには破壊のクローンに生まれついた、彼の終点があった。
だからこそエヌアインも、神にならぬと決めた自分の道を『信じた』。

再び世界は止まる、エヌアインのための完全な世界へ。
勿論KUSANAGIにも衝撃は降る。
だがしかし足は止まらない、止まるような役立たずの足は、体はもうない。

エヌアインも立ち向かう。
燦然と、流れる炎と同じ、赤い光を纏って。
完全なる神を殺す技を放って。
『正す』以外の。
『許し』によく似た。
『謝罪』も受け止める。
『信じる』という、先の見えない、だけど前へ進む道。

『君たちのおかげだよ』

眠るカティと、刹那を過ごす電光戦車に胸の内を零す。

『カティが許してくれたから、電光戦車が応えてくれたから』

信じるという選択は賭けであった。
戦車に短く語りかけただけで、果たして自分を助けてくれるのかという。
結果エヌアインは戦車に助けられ、今前進している。

光と炎が交差した。

一瞬の戦い、終わる世界、形を保っていたのはエヌアインであった。
膝をつき、青い空を見上げる。
満たされていく感覚と虚脱感。
足元から、侵食されていく。

これから信じることで裏切られることもあるかもしれない。
自分を盲信し傲慢になってしまうときもあるかもしれない。
でも、とエヌアインは微笑み意識を手放す。

それが、神じゃなくって人間が進むべき道なんだろう。
旧人類とか、新人類とか関係なく。

『トモダチ』

『そうだね、ボクも』

切れたテレパシーに電光戦車は硬直する。
そっと、祈るように前輪で触れる倒れたエヌアインの体は温かく、やや早い鼓動を刻んでいた。
「やつは、何処に?」

文字通りまばたきの間についた決着をルガールは確かに見た。
光にぶつかったはずの炎は、何処にも見当たらない。
掻き消えたのか?
だとしたら余りにも呆気無く、加えて収穫のない最後であった。

しかし、ルガールは気づく。
KUSANAGIを刺し貫いた自身の腕に、血が一滴も付着していないことに。
真っ直ぐな、真空に。
「だからね、あたしは見ての通りちんけな小悪党さ」
マリリンはとつとつと、自嘲気味に心を曝け出してみせる。
幸い、カティは目覚めなかった。
「考えても見てよ、こんな殺し合いなんかに巻き込まれちゃったら、誰だって自分の身が可愛いお」
カードを淡々と切っていく。
自分は無力である。
弱いからこそ、さらに弱いものを殺めて生きながらえようとした。
善ではない、ただ、生きることに善悪などあるものかと。
精一杯、弱者としての自分の真実をめくり上げる。
「強いものについて弱いものを……ね、気に喰わないけれど」
ナディアは生きたいという気持ちを否定する気にはなれなかった。
目の前で、いや目をそらした隙に傍にいてくれたものを無くしていたからだ。

話を割って訪れたタブレットの振動も、マリリンには絶好の手札になる。

「あああ、あの子も、あの子も死んじまったんだお……」
名前は出さずに、ともがらを亡くしたように振る舞う。
実際知っている名前の人間が数人ほど死んでいるが正直どうでもいい。
ただ死に対して哀しみ悼む姿勢こそが大事なカードなのだ。
「…………っ」
ナディアは、確認してしまった死と、仲間の死を同時に知らされ声を詰まらせる。
「アンタも……無くしちまったんだねぇ」
天叢雲剣は力なく地面に刃先を向ける。
ここまでくれば、マリリンの勝ちは近い。
背後の少女は、時折うめき声をあげるがまだ起き上がる気配はかった。
(しかし、このガキんちょはあたしの事色々と知っちゃってるかもなんだよねぇ……)
唯一の懸念事項をどうするか考えあぐねていると、不意に焦げ臭い匂いが鼻をかすめる。

体は咄嗟に動いた。
膨大な熱気を受け止めて、突き抜けること無く、受け止めて。

「な……あ、あんた…………!!」

ただ一筋の炎に成り果てたKUSANAGIを、天叢雲剣とナディアが受け止めた。
神話に置いて八岐大蛇の尾より出て、炎を凪いだとされる神の剣はできうる限りの神性を発揮し、KUSANAGIの力を閉じ込め減少させた。
だからナディアに、死に行く間ができてしまった。

「そこに居たアンタが悪いお……あと、さあ」
もはや札を出す必要はない、全て燃えてしまったのだから。
マリリンの盾にされ虫の息の焼死体予備軍なんぞに出すものは、何もない。
「あたし、あんたみたいなエリート、大っ嫌いなんだよ」
軍人然としたナディアの格好を見てからずっとくすぶっていた感情をぶちまけた。

最期に聞いた言葉に憤慨することも、仲間の死を嘆くこともできずにナディアは倒れる。
草薙とオロチの炎を宿した剣を抱えたまま。

気絶したエヌアインを抱くルガールと、戦車は到着する。
炎の終着点に。

「ああああああ、あんた!なんで、なんであたしの盾なんかに!!!!」
返事ができない屍をいいことに、マリリンは泣き叫ぶ演技を始める。


「トモダ……チ……」

電光戦車が、つぶやく。
「ふむ……そういうことか……」
何かを察したルガールは天叢雲剣を、じっくりと観察し始めた。

「トモダチ」

「ああそうだお、こいつはこんなあたしを信じてくれた、トモダチになれたかもしれない奴だお!」

「トモダチ」

心にもないことをマリリンは平気で並べ立てる。
彼女の悪の華は今まさに満開の様相を見せていた。











「トモダチヲ、コロシタ」
「そう、殺し…………は?」
戦車の、骸の奥から除く光は剣呑なものであった。

「な、なに言ってるんだお……あたしは、守られて」
「コロシタ!!!!!」
言葉は断罪される。
戦車は、彼女の最期の声を聞いていた。
テレパシーになるほどに強い嘆きを受信して、トモダチになれたかもしれない人間の非業の死を知った。
「な、なんでよ……なんで、こんな……」
熱線が胸を貫く。
血混じりの声、驚愕の目はルガールに向く。

「残念だよ、マリリン・スー」

伏し目がちに放たれた言葉は、同盟の破棄を意味していた。

「何、これ……」

全てが終わったその場所でカティは目覚める。
「君は、見ないほうがいい」
ルガールはカティを遮り、遠ざけた。
「なんで、なんで?」
何が起こったのか。
火葬場と同じ匂いがする。
生臭い、血の匂いがする。
死の匂いだ。
「哀しいものだよ」

ひたすらに、死体を、ナディアの遺体よりも無残に焼き続ける、心が芽生えたばかりの戦車の後ろ姿。
それを見つめ嘯くルガールを断罪できるものは、今はまだいなかった。


【KUSANAGI(クローン京B)@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【マリリン・スー@エヌアイン完全世界 死亡】
【ナディア=カッセル@メタルスラッグ 死亡】
※KUSANAGI、ナディアの不明支給品は焼失しました。

【H-07/南西部/日中】

【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(中)気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:カティと行動。『正す』以外の方法を知りたい
  1:信じてみる


【電光戦車(2)@エヌアイン完全世界】
[状態]:損傷(小)、『心』が芽生え始めている
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本(上書):ガー、ピー?
[備考]
※エヌアインがサイコキネシスでこっそりプログラムを書き換えました

【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。


【カティ@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(大)呆然
[装備]:モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本:エヌアインと行動。ミュカレを『許す』ために、彼女にもう一度会いに行く
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067:アンリミテッド モノクローム
時系列順
074:帰ろう 当たり前の『日常』へ
投下順
069:ズルはどこまで許されるのか?
050:リバースカードをオープン
エヌアイン
071:友達から始めよう
電光戦車(2)
ルガール・バーンシュタイン
カティ
KUSANAGI
救済
ナディア=カッセル
マリリン・スー

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