俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

己の中に声を感じたのはいつからだったか。
そして己の中の声を無視できるようになったのはいつからだったか。

それはプロトKの因子を植えつけられた二人、K'とЖ'、つまりはネームレスに共通する消えかけた思い出だった。
己の身を意思を、焼き尽くそうとするその声はいつも耳の奥で響いていた。
不相応な、剣ならざるものへの警告と叱責。そしてオロチへの怨嗟。
それに耐え切れなかった同胞達は、みな灰燼に帰した。
目の前で自分と同じ顔をした人間らしきものが燃え上がり、断末魔をあげる度、その声は大きくなる気がした。

「ッそ!ウルセぇなぁ!!」
草薙京も、その因子を持つものも、同じく炎を扱う術者の誰もが今まで振るったことのない、白い炎。
それを火輪の形で放ちながらK'は毒づいた。
先ほどの、見たことのない女から飲まされた血は彼の中で暴れ回り、彼の炎の色を変えた。
それだけではない。
確実にその威力と性質をも変えていたのだ。
焼き尽くす炎から、喰らい尽くす炎へ。
その火輪を先刻と同様に飛んで避けたネームレスは己の認識力を疑った。
最小限の跳躍で飛び越したはずのその炎が、足に絡み付いて身体を上ってきたのだ。
「なんだ……これは!? 何をした……!」
「知らねェよ……ただ、ウルセぇのが増えた、それだけだ」
自身への変化をただそう切り捨てて、K'は次の攻撃へと移る。
白い炎を推進力に地を滑るように近づいて、ネームレスへ回し蹴りを放つ。
が、それは完全に空振りだ。
そもそも回し蹴りのモーションに入った段階で、ネームレスを後方に見ていた。
そのことに一番困惑したのはK'本人だ。
「チッ、ウゼぇ……」
それはつまりは制御の問題。
放つ、振るう。その程度であれば威力や範囲が拡大した程度で済む。
性質の変化についても、相手をホーミングするようになっただけ、と考えればそれほどのことではないだろう。
しかし補助的に使った場合はその限りではない。
今まで1メートル移動するために出していた加減で2メートル進み、1秒かかっていた蹴りが0.5秒ですめばそれは4倍の速度で行動しているのと同じ。
その感覚は一朝一夕どころか、たった今得て実戦で使えるようなものではない。
「なるほど、貴様にも扱いきれないのか、それは」
「ッセェよ……」
K'が通り過ぎた後方にわずか残った白い炎の残滓を右手で払いのけながら、ネームレスはそれを察する。
急に拡大した力は脅威だったが、それはネームレスにとってだけでなく、扱うK'にも共通の不確定要素であることを正しく判断し認識する。
「砕く!」
一瞬の対峙を貫くような、手を穿孔型に変化させてのネームレスの突きをK'は間一髪で避ける。
そして互いが、炎を使用しない場合の身体能力に格段の差がないことを確認する。
「扱えない武器は身を滅ぼす……死んで行った奴(ネームレス)らのようにな」
「ちっ!」
連続の突きは、間合いを取らせないためのネームレスの常套戦術だ。
アーマーやガードを貫く必殺のドリルは避ける以外の行動を極端に抑制する。
それ即ち行動の制限であり、相手の戦術の多様性の封殺だ。
エージェントである彼にとって戦闘は任務の一部であり、決して大儀や満足を持って行うものではない。
最終的な成功という結果。そしてその先にある大きな目的。全ての行動はそこに帰結すればそれでよい。
腕を突き出しながら前進するその姿は冷徹であり、愚直に見えた。
「シッ!」
何度目かの突きに合わせてK'は後方へ半歩跳び、次の突きに合わせるように膝を持ち上げる。
焦土と化しているこの一体においては、その動きを制限するものは少ないため、ジリ貧になる前に手が打てたのは僥倖であった。
直線方向に多大な攻撃力を持つそのドリルを下から上に向けて蹴り上げると、鼻先を掠めてそれは天に向いた。
「シャラァッ!!」
間髪入れずのクロウバイツ。
がら空きの顎を、拳で打ち据えてネームレスを宙へと舞い上げる。
白い炎で尾を引くそれは、やはりいつもよりも高く、そして早い。
しかし舞い上がったゆえ、一緒に舞い上げた故にそれは先ほどのような感覚のズレを生まない。
十分な余裕を持って次の行動へと繋げることが可能だった。
「ラアッ!」
「ぐっ…!」
その勢いのままに地面へと蹴り落とすと、ネームレスはしたたか叩きつけられた後、瞬時に身体を後方へと転がす。
「直接ブチ込めば関係ねぇだろ」
地に下りて、ギ、とグローブを軋ませて拳を握るK'にネームレスは恨みのこもった目を向ける。
「クッ……クソッ……」
先ほどまでの戦闘で、既に大分消耗していた彼にとって、このK'の復活はやはり誤算であったと言わざるを得ない。
だが、それが互いに不確定要素である以上、付け入る隙がないわけがない。
ないのだが、現在の自分にその隙をつけるだけの力が残っているかと問われれば、返答は沈黙となるだろう。
「イゾルデ……」
脳裏に、少女の姿が浮かぶ。
ここで死ねば、その少女にはもう会うことはないだろう。
懐疑的である彼女の死がもし本当だったとて、自分と彼女では逝く場所が違う。
人工生物である彼が宗教的な死生観など持っているわけはないが、だからこそ本能的に感じたそれは
リアルさのある真実として彼の心に宿った。
「死ねない……俺は死ねない……」
呪詛のように呟いてネームレスは拳を握る。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
先ほどまでとは違う、感情に左右された突進をK'は冷静に眺めていた。
身体を食い破ろうとする血と声は、もう少しであれば押さえ込めそうだ。逆に言えば、そう長くは戦い続けられないだろう。
であれば、決めるのはこのタイミングしかない。
「お前を……砕く!!」
さきほどまでの突きの間合いの二歩前で急停止し、今までにない大きさのドリルに変化させた右腕を、何の工夫もなくただ前へと突き出すネームレス。
しかしその攻撃範囲は広く、飛び上がることも跳び退くことも困難だ。
だから、K'は前に出る。その巨大なドリルの横を、掠めるように走り抜ける。
「ぐっ……!!うぉぉぉぉぉ!!!」
しかしそれは、そのドリルはそんなK'の思惑をも貫こうと、さらに一段階膨れ上がる。
回転径が上がり、先ほどまでギリギリで安全だったその活路が死の回転体に侵食される。
「チィッ!」
K'が走ったのはドリルに向かって右側、ドリルに晒しているのは左半身だ。
迫りくるドリルに対し、左腕の皮膚が削られ、血が噴出した。だが
「くれてやるよォ!!」
根元に行くほど太くなるドリルに対し、K'は進路を変えなかった。
それはつまり、皮膚を削っていたそれが肉を削ぎ腕を貫いても止まらなかったということだ。
ミヂィッ、と鈍く重い音と共にその左腕が千切れ飛んだ時、K'(彼)はЖ'(彼)の直ぐ隣にいた。
「くそっ……!」
ネームレスは右腕に注ぎ込んだ力を必死に戻そうとする。
しかし限界以上に巨大化させたドリルは回転を止めて彼の手に戻るにはまだ幾ばくかの時間を必要とするだろう。
「あばよ……」
左腕の根元からおびただしい血を噴出させ、それをネームレスの顔へと浴びせながら、K'は別れを呟いた。
残った右腕をわざわざポケットへしまいこんで、白い炎をじわりと全身から染み出させて、そっとネームレスの身体を通り過ぎる。


「白だよ……」


世界が染まる。
何物にも染まらぬ、完全な白に。
何物をも残さぬ、純白の炎に。


「真っ白!!」


倒れ伏したネームレスは、それでもなお生きていた。
全身をくまなく焼かれていたが、五体は健在で辛うじて意識もある。
それが彼自身の能力か、執念か、右腕のグローブの加護かはわからない。
ただ事実として、命があったということが彼にとっては救いだった。
頭の中に響く声がある。
神殺しの力を濫用する不遜者を焼きつくさんとする草薙の血の声。
その声にダブるように聞こえる、先ほどまで戦っていたもう一つの起源(ルーツ)の声。
その後ろから、小さく聞こえる少女の声。
初めて聞いたあの日から、どの声よりも小さいのにどの声よりもはっきりと聞こえていた声。
「イゾ……ルデ……」
右手を天に向け、力なく掲げる。
白いグローブは高く上った日の光を指の隙間からネームレスの瞳に落とす。
眩しさに目をつぶると、瞼の裏で儚げなあの少女が笑った気がした。
「でも、もう……」
「もう、なんだよ」
その白いグローブを掴んだのは、別の赤いグローブだった。
「え……」
頭の中で響いている声の一つが実在する空気振動として自分の鼓膜を揺らしていることにネームレスは驚いた。
立ち去ったのかと思っていたが、なるほどよく考えれば止めを刺さずにその場を離れるわけがない。
裏切り者でも、彼もまたネスツのエージェントなのだ。任務は完璧をもってよしとする。当然のことだった。
だが、その推測は次の行動に完全に裏切られた。
K'はそのままぐい、とネームレスの身体を引き上げて、胸倉を掴み、己の血に塗れたその顔を睨みつけたのだ。
「殺すつもりでやったがよ……生きてるなら、生きろ」
「何故……だ」
予想外の命令に、呆然とネームレスは問う。
「別に……ただ、お前のグローブに免じて、一度だけの気まぐれだ」
「イゾルデ……に?」
K'はあの時見ていた。
真っ白に染め上げた世界の中で、同じく白に飲み込まれたネームレスの身体を慈しむように包む少女の輪郭を。
自分の知る少女によく似た、しかしもっと大人びた優しい笑顔を。
そして悟ったのだ。
彼のグローブの出自を。
己の炎を制御する機械仕掛けのグローブとは異なる、暖かさを感じるあの白い右手の正体を。
自分に多数のクローンがいて自分が成功作であるように、クーラにも、それがきっといたのだということ。
彼の愛するイゾルデが、決して無機物などではないということを漠然と悟って、最後の一瞬に炎を押さえ込んだのだ。
「じゃあな、もう、俺の前に現れるんじゃネェぞ」
どさり、と決してネームレスを気遣わない投げ捨て方で手を離して、K'は背中を向ける。
倒れ伏した身をなんとか持ち上げて、ネームレスはごくり、と一度唾を飲み込む。
そして、一瞬の暗転。
「ああ、そういや、もうすぐここいらは禁止エリアって奴になるらしい……とっとと動かねぇとせっかくの」
わざとらしく、忠告がてら振り向いたK'の言葉が途切れる。
次いで出るはずの言葉の代わりに彼が吐いたのは大量の血だった。
「ごぼっ……」
急速に狭くなる視界、薄くなる意識。
その中で必死にダメージの根元を探る。
しかし探すまでもない。それほどに明らかだった。

彼が見たのは

自分の身体の七割を抉って

遥か後方まで伸びる

異形の腕だった

「んだよ……コレは……」

「ちがっ、違う!!」
叫んだのはネームレス。
「違うんだ、俺は、くそっ!」
炎も出せないはずの左腕が、血管や部品のような無機物が突き出し、膨れ上がり、うねり、伸びる、異形の怪物のように変化している。
「ちっ……」
吼える様にうねった腕は、K'の身体を上下に分けてちぎり飛ばした。





「力が…勝手に…ぅわあああ!!」




もう一度の暗転。
ネームレスの意識は闇に堕ちる。

おそらくそれは、オロチの血が混じったK'の血を浴び、その一部を飲んだことによる能力の暴走だっただろう。
同じくその血の影響か、暗転した闇の中でネームレスはK'の心を見ていた。
厳つい顔で笑う大男、鋭い目つきから一転して優しげに微笑む女性、そしてイゾルデによく似た顔で無邪気に笑う少女。
「マキシマ……セーラ……クーラ……」
ネームレスが目を覚ますと、左腕は元に戻っていた。
多少の違和感はあったが、今すぐ同じように暴走する気配はない。
闇の中で頭に流れ込んできたK'の声が呼びやったあの幻影たちの名前を呟くと、何故だか両の目には涙が溢れた。
「イゾルデ……クーラ……」
自分の愛する、生きる意味そのものの名前と
彼が愛した、生きる喜びを教えたその名前を
そっと唱えてネームレスは立ち上がる。
まだ重い、しかし瀕死だったはずが動けるまでに回復しているその身体を引きずって、K'の死体、その上半身へと歩み寄る。
「……俺は……生きる……お前の分も、俺が生きる……」
驚きに見開いたままの瞼を白いグローブで撫でて、永遠の眠りに無用な光を遮ってやる。
そして自分と同じように彼の右手にはまっている赤いグローブを外し、裏返しに左手にはめた。
どうやらネスツの技術により左右兼用で作られていたらしいそれは、数秒小さな機械音を出した後しっくりと左手に収まった。
「イゾルデ、クーラ、一緒に行こう。一緒に、生きよう」
死に際にK'が言っていた、禁止エリアという言葉が脳裏によぎる。
「移動をしないと……」
詳しいことはわからない、しかしあの男が最期に振り向いてまで与えてくれた情報だ。
仔細は動きながら確認すればいい。
ネームレスは合理的な判断を下しながら、自分とK'の荷物をまとめて肩にかける。
気がつけば、頭の中で聞こえる声がまた増えている。
【不埒者は炎に焼かれよ】【人を滅ぼせ】【生きてるなら、生きろ】【ずっと、待ってる】
白いグローブをつけたままで、小さな炎をおこしてみる。
「……これが……今の、俺か」
そこに現れたのは渦を描いて燃える、白と黒の螺旋。
元々彼が使っていた炎は最早赤黒いを通り越して漆黒に近づき、その傍らにK'が振るっていた白い炎が寄り添っている。
左手の赤いグローブと右手の白いグローブ。
交互に見つめて彼は緩やかに駆け出した。

【K'@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【I-9→H-8方面へ移動中・1日目・日中/放送終了後】
【ネームレス@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身火傷、ダメージ(大)、オロチの力により徐々に治癒中
[装備]:カスタムグローブ"イゾルデ"、K'の制御グローブ"クーラ"(勝手に名づけた)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜5(不律、K'、ターマ分含む)、ビーフジャーキー一袋
[思考・状況]
基本:生きる
[備考]
K'が一度とりこんだオロチの血がinしたため、炎の色が白黒のマーブルになりました
左手にK'の制御グローブをつけ、血の記憶から知った「クーラ」の名をつけました
クーラ本人がこの場にいることはまだ知りません
左手が暴走し、K9999の技「力が…勝手に…ぅわあああ!!」が暴発する可能性があります
オロチの血による身体の活性化のため、現在のダメージは時間で回復していきます
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066:リ・スタート
時系列順
068:Walk my way, Long and winding
投下順
053:中間試験 科目:自我
ネームレス
079:賽が投げられる
K'
救済

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