俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

人は変わることができる。


己が最も得意とする間合いに立ち、アーデルハイドはアテナを見据えた。
飛び道具の撹乱も、テレポートも無意味だ。
彼女の戦いを見たことがある故の対策。
それが簡単に成功したのは、アテナが静観に徹していたから。
アテナも、龍もまたアーデルハイドを見定めているのだ。

先刻ルガールに舐めさせられた辛酸を思い出し、龍は唸る。
奇策を弄した所で、勝機は見えない。
刹那か、それとも長期戦であるべきか。

「麻宮」
低い声が、龍の眼を開かせる。
「どうしました?」
龍の声は軽い、浮世離れした軽さだ。
重たい言葉は、感情は心の底に。
「君に何があったのか、教えてくれ」

知らなければならない、とアーデルハイドは尋ねる。
目に対する責任、狂気に堕ちる前の姿と重ならない現在。

勝者の余裕なのか、戦わずして己の優勢を知るアーデルハイドに、アテナは嗤う。
既に人を殺したところを見ただろうに、取り返しがつかないと、気づいているだろうに。
「知って、どうするのですか?」

逃避は楽しいかい?
耳の奥に響く疑問も、鼻で笑う。

「もしも同情に値すれば、私を助けてくれるんですか?」

これは逃避などではない。
世界再生だ。
あの子たちと帰るための世界を作る、祈りの儀式だ。
祈れ、祈れ、祈り壊すのだ。

「……できることなら、私はそうしたい」
人は変わることができる。
もう一度変わり直せばいい。
たとえ過ちを犯したとしても。
「優しいんですね」

痛いくらい、優しい言葉だ。
もっと前に出会えていたら、きっとアテナは。
「私を、私達を連れ帰ってくれますか?」
あるべき世界へ。
一歩踏み出す。
静謐な笑顔、ざくり、と地を踏んで。
「麻宮……ッ!?」

蹴り上げる。
刃をすんでのところで躱し、アーデルハイドは咄嗟に蹴り返す。
蛇腹剣は横薙ぎの風に押し返され、残るのはアテナの姿。
「要らないんですよ」

何もかもが遅い。
アテナが二つに分かれる、片方は剣を、片方は銃を持って。
「過ぎた出来事も、貴方も、この世界も」
何故か、この両手にはもうないものばかりだからだ。
割れた卵は戻らない、ならば新しい卵を。

「麻宮!!」

テレポートの残像を消して叫ぶが、理解する。
伸ばした手は弾かれた。
ならば無理矢理にでも引き上げてやる。
動きを目で追い、予測していく。

現れる場所を想定し、地を滑り踏み込んで。
弧を描いた、鋭い一撃。
予想通り相打ちした目線が、消えた。
次いで背後に走る殺気、痛み。

銀の銃を持ったアテナが、嗤っていた。
肩口を抉ったそれと、銃口を交互に見てアーデルハイドは思考する。
テレポートの位置に関しては、自分の判断ミスかも知れなかったが。

アテナの視線は自分をとらえていない、銃口もまた定まっておらず。
再び四散するアテナの体。
先程よりも増えた分身にアーデルハイドは攻撃の正体を見出す。

そして龍は、己の勝利を確信した。
舐めさせられた辛酸も、無力であった自分ももう壊した。
あるのは、圧倒的な力。

ああ、もっとはやくにこの力があれば。
守れていた、私は、私のままで。
幻想は一人、また一人といなくなる。
まるでアテナの心を削るように。
鋭利になっていく精神、龍は空へと昇っていく。

スローモーションに近い光速の世界で、蛇腹剣を構えて。
吹き荒れる嵐、本来の使い手に相違ない勢いで彼女の手はその龍の力を物体に注ぎ込む。
ゆっくりと、世界に侵入する赤い瞳。
ぞくり、とアテナの龍が震えたが、咆哮し乗り越えて。
再加速、アテナは限界を容易く超える力でもう一度移動し弾丸を放つ。
見当はずれの方向に飛んでいく弾丸を念力で捻じ曲げ脚を狙った。
落ちた速度はアテナの力で補完され、より速く。

銃弾が貫いたのは跳ねた地面の名残。
アーデルハイドは既に狙った位置には居らず。
剣が力に耐えかねて崩れるのと、痛みは同時だった。
「ぐあっ……」
アテナの腹に食い込むつま先、体全体を吹き飛ばされそうになる衝撃に声を漏らし、アテナは宙を舞う。
真紅のそれは、息を乱しながらも殺意の光を灯していた。
「君はよく戦った……だが、もう諦めてくれ」
徐々に薄れていくきらめき。
胃の中身をぶち撒けながら、龍は立ち上がる。
抵抗するなら殺す、遠巻きな警告。

「貴方こそ、諦めてください」
単身で特攻するアテナ、分身に費やさぬぶん速度は上がる。
出鱈目な力と速さを相手に加えるたびに、龍は進化していった。
死を恐れぬ戦い方、これ以上長引けば、落とされかねない。
アーデルハイドは、その手を引く。
もう、助けることは。

「麻宮」

落ち込んでいく、音。
龍の前に立つ異形の顎。
血より濃い赤と白。
食われる、そうアテナが悟った時、殺意の腕はその肩を抱いていた。
「すまなかった」
アーデルハイドは謝罪する。
最期まで手を伸ばしていられなかったこと。
原因を聞いてやれなかったこと。
殺してしまうこと。

地を駆ける軌跡、反転し暗黒の力とともに体を漆黒が舐め上げていく。
食われていく意識、保てない体。


密室の蝶の祈りは消えていく。
楽しすぎて、楽しすぎて。
動けなくなった子供たち。

「……麻宮、どうして」

アーデルハイドは、彼女のことを表層しか知らない。
だからか、悲しむ気持ちは複雑だ。
あるべき姿ではなかったこと、彼女がねじ曲がった要因。

分からないことだらけだが、手に残る彼女を殺めた感触は確かだった。
人になれと、託された言葉をこんな自分が受け取れるのだろうか。

――自分は、人なのか?

自嘲と、本心のなかで。

「そうだ、ローズ……」
失われた命を弔おうとしていたときにふと気づく。
何処に置いてきたのだろう、近くなはずだが。

妹の顔を浮かべると、不思議と自分の存在に対するもやが薄れていく。
少なくとも、彼女の兄であると、帰る現在に繋がる過去に、安堵する。
追従する父の影。

「俺は、知るべきなのかもな」
漠然と出た結論を言葉にする。
人になるために人を、自分自身を知る。
ちょうどいい、と言うべきなのか、父本人はここにいる。

さくり。
振り向き、軽い、軽い音が耳を突く。
音の正体を確認しながら、膝をついて。

喉の奥から溢れてくる血液。
超常の剣が、アーデルハイドを貫いていた。

漆黒の龍は、揺らめく熱気のなかに立っている。
温度を極限にまで高めた白金、無色透明の炎。
溢れでた力は壊れた器をつなぎとめた。
命もカタチもそのままに、人形のように。
「「あぁあああああああ!!!!!!」」

両者の声が轟く。
命の器を無くし、力だけの生き物の。

銀の髪と赤い瞳、変貌したアーデルハイドの攻撃に一切の意志は乗らない。
腕を十字に組み蹴りの連続を受け止めるアテナにも意識はない。
放たれる気弾をはじくことも躱すこともせず、それにまさるエネルギーでかき消す。
アテナもお返しだとばかりに二つの光球で止め、炸裂させた。
眩い世界、交差する力。

風の刃がアテナに迫る、数時間前、ルガールに向けられたものに酷似した蹴撃。
アテナは真っ直ぐに、突き抜けていった。
此処を抜ければゴールで、全てが壊せる、第一歩。
不死鳥の矢が突撃するも、アーデルハイドは踏みとどまる。
両手を前に出し、チリ一つ残さない威力で力を開放した。

だがアテナは、漆黒の龍は一歩も引きはしない。
同威力の発露で相殺したまま今度はアーデルハイドの体が宙を抉り抜く。
空中で体勢を整え、体を翻し着地する。
追撃の剣が降り注いだ。
一本、二本、刺さる光に足取りは止められない。
全力を超えたその状態に減りゆく命を気に留める意識など、ありはしないのだ。

血塗れの両手がアテナを掴み、上空へ放り投げた。
跳躍したアーデルハイドは重力任せにアテナを地面を目指す空気に沈める。
光剣が、命を吸い上げていくのを感じて、重力を感じて。


「アテナお姉ちゃん」

「ダニー君」

「一緒に行きましょう」

「デミちゃんも……」

仲良く手をつないで、燃え尽きるまで高く、遥か遠い空へ。




「お兄様、お帰りなさいませ」

「ローズ……」

「流石ですわ、お兄様。私たちの血族には常に勝利が約束されている」

「私は、まだ」

「お兄様、どうしてそんなことを言うの?」


絡め取られる手、背中に回された帰還の鎖。
世界は、飴のように雨のように溶けて零れ落ちて。
黒が充満する世界。
立っているのは、白い髪を靡かせる赤い瞳。
そこに人間はいなかった。
人間であった、人であった青年は、答えを知れないままに、帰っていった。

理想郷を、帰る場所を求める少女だったものは、血が止まった瞳を抑え、離す。
赤い、他人の瞳。
視界は相変わらずだが、より濃い力が自身の体内に交わっていくのが分かる。

「貰っていきますね」
命を飲み干した龍は歩き出す。
帰るべき世界のために、祈り壊しながら。


【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【F-5/北部/1日目・日中】



【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:醒める、世界へ。
[装備]:テンペルリッターの兜、デザートイーグル(3/8、予備24発)@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(2〜8)
[思考・状況]
基本:帰らなくちゃ
[備考]
※龍の気に覚醒、アデルの力を吸収し白髪の赤目に。
※ローズ人形及びアデルの支給品は放置されています。
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074
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068:Walk my way, Long and winding
時系列順
064:月に叢雲、華散る嵐
073:人間は不器用だから
投下順
075:生きねば。
065:見えない目覚めの刻
アーデルハイド・バーンシュタイン
救済
麻宮アテナ
076:自由自在の者たち

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