俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

一人の女が、空を飛ぶ。
その背には、作られし命と、自由を求める黒き翼を乗せ。
風を悠々と切りながら、唐突にその口を開く。
「……一つ断っておくが、完全者の場所に行ったとしても、奴に出会えるという訳ではないぞ」
「何だと?」
クールは、思わず怒りを含めた声を出してしまう。
このまま進めば、あの憎き完全者に出会えると思っていたのに。
自分の自由を奪った、この世で最も憎い存在に、出会えると思っていたのに。
怒りを露わにするクールに対し、新しく名を名乗ることにした"ロサ"は冷静に告げる。
「……主ら、どちらでもいい、電光機関についての知識はあるか?」
返答はない。
電光機関を扱う者は知っていても、その装置自体の知識は無い。
そのリアクションを、想定通りと言わんばかりにロサは話を進める。
「初めに完全者が居た場所は、このあたりだ」
そういいながらロサが指を指した場所には、何もない。
いや、正確には。
「池……?」
水だ、水が広がっていた。
人っ子一人立つスペースすらない、一面の水が広がっていた。
「ああ、ぱっと見はそう見えるだろう」
だが、ロサはそれすらもさも当然かのように語り続ける。
「電光機関による迷彩技術。大型の装置を駆使すれば池のように見せかける事も可能だ」
電光機関を用いた迷彩技術。
既にこの世を去ったムラクモが、その技術を戦闘に用いていたものだ。
電光機関は幻影を生み出すことが出来る。
超大型の物を用意すれば、そこに何もなかったかのように装わせるのは簡単だろう。
「なんでそれを知ってる?」
「拙者もこの場に呼び出されたからな。拙者が来たときはまだ迷彩は発動していなかった」
クールが抱いた疑問にほぼノータイムで答えてから、ロサは話を続けていく。
「話をまとめるぞ。池の上に建物を建て、それを迷彩で消す簡単なトリックだ。
 故に電光迷彩を遮断させるために、電光機関を破壊せねばならぬが――――」
そこまで言ってから、クールと赤崎の視界が突然ぐらりと揺れる。
バランスを崩したわけでもないし、手を離したわけでもない。
「旧人類二人を運ぶ程度、朝飯前だ」と言い捨てたロサが音を上げたわけでもない。
じゃあ、何故か?

橙色と桃色が入り交じったような光弾。
視界にそれを認識したときには、既に遅く。
ロサの体を腹部からふわりと持ち上げ、けたたましい音と共に爆ぜた。



すらっと伸びる"白髪"。
ファンタジーの産物のような"赤目"。
きっと、彼女を知る人間なら誰しもが驚くだろう。
だって彼女は目も髪も"紫"だったはずなのだから。

命を吸った事で変質したそれらに、本人は特に興味も持たない。
髪の色に執着していたわけでもないし、目の色が変わった程度はどうでもいい。
今はそれより、それよりなすべき事があるのだから。
そんな些細なことはどうでもいいのだ。

ようやく、ようやく手に入れた力。
三種の神器や、宿命を乗り越える者にも匹敵する力。
もう、後ろで指をくわえていなくてもいい。
自分の力で、自分の手で、世界を変えることが出来る。
空を見上げる。
やけにくっきりとした視界、夕闇に染まりつつある空の中に。
一点の赤い光を見つける。
「新人類……」
赤い光の名を呟くや否や、彼女の表情が悪鬼羅刹のごとく豹変していく。かつて、世界を恐怖の奥底に突き落とした存在。
無力な人々が、何人も何人も死んだ。
それは、自分も例外ではなかった。
手にした超能力など、微塵の役にも立たなくて。
精々自分の身を守ることぐらいしか出来なかった。

けれど、今は違う。
今は、あの憎き新人類を「殺す」事だって出来る力がある。
ゆっくりと息を吸い、一瞬だけ集中してから勢いよく気弾を放つ。
かつて世界をめちゃくちゃに壊していった存在に向けて。
龍は一ミリの躊躇いも持たずに、弾丸を飛ばしていった。



「おい、大丈夫か」
「なんとかな……」
へし折った枝に身を包みながら、赤碕はクールに手を引かれつつに起きあがる。
急に姿勢を崩したロサの背に乗っていた二人は、当然上空から振り落とされる形となった。
幸運にも木が受け止めてくれていたから良かったものの、直撃ならどうなっていたことやら。
「……ロサは」
「見あたらない、くたばったんだろうな」
「勝手に殺すな」
二人の会話に割って入るようにロサが顔を出す。
すんでの所で体勢を整えたので、落下することはなかった。
だが、先ほど受けた一撃は予想以上に強烈だったらしく、焼け焦げた腹部は痛々しく変色している。
「迂闊……拙者としたことが、あのような二流の攻撃を受けるとは」
「さっきのトラップに引っかかってる時点で三流もない」
「……悪いが同意だな……警戒してなかった俺たちも、俺たちだが……」
ロサの心の中で何かが崩れて行く音が聞こえるが、二人は気にしない。
というか、気にしている時間など無かったからだ。
そんなやりとりをしていたときに、背筋をなめ回されるような殺気をその身に感じたから。
「あなた達も、新人類の仲間なのね」
聞こえた声に、三人は体を構える。
感じるまでもない明らかな敵意、戦闘は避けられない。
「どうやら……話は聞いてくれそうにもないな」
「フン、俺の邪魔をするなら容赦はしない、それだけだ」
前に立ちはだかるというのならば潰す、たったそれだけのシンプルな理由。
それ以上は、特に必要ない。

初手はクールのダーツ。
緩やかにかつ正確に飛んでいくそれは、確実に龍の体を捉えている。
だが勿論、そんなモノは通用しない。
蚊を払うように振り抜かれた龍の手が、ダーツを無に帰していく。
ほぼ同タイミングに放たれた、地を這う炎すらをも飲み込んで。
「そこだッ!!」
その時に生まれた一瞬の隙を突き、ロサが龍の足下に滑り込んでいく。
体勢を崩す龍の手からこぼれた剣をもぎ取り、そのまま斬り上げようとする。
しかし、龍は狼狽えない。
むしろ、それをねらっていたとでも言わんばかりに。
何色かもわからない何かが、彼女の右手から真っ直ぐにのびる。
それはまるで剣のように、すらっと細長い形をしていた。
「――――サイコソード」
ロサの剣に対抗するように、練気の剣が振り下ろされる。
剣ならば剣をぶつけて対抗すればいい、剣戟ならこちらに部があるはずなのだから。
「がッ……?」
だが、崩れていくのはロサ。
振り抜いたはずの蛇腹剣は練気の剣を受け止めることはなかった。
いや、そもそも剣を練っていたのは幻影だった。
本体は少し後ろ、完全に背後をとるように。
「これは旧人類の武器、貴方達が見下していた者が作りしものに、貴方は殺されるの」
凍り付くような言葉とほぼ同時、バンッと一発の銃声が鳴り響き、再びロサの体が頭から大きく揺れた。
反論も、反撃も、反省も、何も許さず。
淡々と、制裁を加えていく。
「ロサッ!!」
即座に赤碕が駆けだそうとする。
だが、その必要もない。
即座にテレポートに転じていた龍が、赤碕とクールの間に立つように現れていたのだから。
攻撃に転じる隙間さえ、与えてくれない。
「新人類は、裁かなくちゃいけませんね」
ぽつり、とこぼしたその一言と同時。
赤碕は慌てて炎を練り上げる、間に合わない。
クールは右足を素早く振り抜いていく、間に合わない。
代わりに、二人を蹂躙していく赤と黒の二つの水晶。
ぐるぐると龍の周りを回るそれが、圧倒的な力で二人を吹き飛ばした。



かつ、かつ、かつ。
靴を鳴らしながら歩み寄っていく。
初めに立ち寄ったのは、第四区画の黒い翼が吹き飛ばされた場所。
龍の周りを輪廻していた水晶球は、翼の大部分をえぐり取っていた。
放っておいても死ぬレベルの傷だが、油断はしない。
きっちりと、この手で、とどめを刺す。
「ハハハッ……」
地に倒れ伏したまま、顔だけを上に向けて黒い翼は笑う。
「……何が可笑しいの」
「アンタを見てると滑稽で仕方ない」
今から死に行くと分かっているのに、黒い翼は笑うことをやめない。
不快な表情を浮かべる龍に対し、黒い翼は言葉を続ける。
「心はここにあらず、何かに縛られてる。
 いや、自分から縛られに行ってる。
 そうでもしないと、自分が消えてしまうから」
ニイィッ、と口の端を吊り上げ、ここ一番の笑顔を作り、言う。
誰よりも自由を愛し、誰よりも自由でいたいと願う彼だから。
だから、分かってしまう。
彼女が、自由を求めながらも自由を遠ざけようとしていることを。
そして、それに気づいていないことを。
「かわいそうで笑えてくるぜ、アンタはこのまま"不自由"なんだからな。
 アンタと関わってると、こっちまで不自由になっちまう」
「もういいです、さようなら」
翼の言葉に耳を傾けるだけ無駄だと判断したのか、龍はひとつため息をついてから、気を練り上げていく。
それでも、翼は笑い続ける。
自由を語りながら自由を遠ざける愚か者を、笑い飛ばすために。
「ほら、跳んで見ろよ」
不敵な笑顔と共にゆっくりと起き上がり、親指を地に向けて突き立てる。
それと同時に龍が駆けだしたとき、翼の体がふわりと前のめりになる。
チャンス? いや、そうではない。

前傾姿勢からの流れるようなサマーソルトキックが、龍の下顎をしっかりと捉えていた。
そのまま地を、いや空を蹴り上げながら、二発、三発、立て続けに蹴りを浴びせていく。
そして、全身の力を全て吐き出すように。
「オレは……」
勢いよく空を蹴り。
「自由だッ」
龍の体に、黒い翼を刻んだ。








黒い天使が、堕ちる。

己にしか手に出来ない、たった一つの自由を手に。

風を切りながら、落ちていった。








「……行かなきゃ」
もう、動かない天使の姿を見て、龍は呟く。
特に興味はない。
言われたことも、わずかながらに傷を付けられたことも。
それより、自分にはやることがある。
もう一つの命、新人類に組する者を倒さねば。
「そういう事か……」
そう思ったと同時に、男の声が龍に届く。
たった今、早く殺さなくてはと思っていた男が、あろう事か向こうから現れたのだ。
その体は黒い翼同様に傷だらけ、立っているのがやっとと言ったところか。
「ありがとう、クール」
せめて苦しまぬよう、一刻も早く生命活動を断ってやろうと、龍は力を込める。
たった一振り、それで全てが終わるように。
「もう……迷わないさ……」
そう思っていた龍の目の前から、ふと男が消えた。
速いと認識する間もなく、龍の腹部に肘鉄が加えられる。
かふっ、と小さく息を吐き出すと同時に、持ち上げられる首。
死に掛けの人間とは思えない力が、龍の細い首をギリギリと締め上げていた。
「Drivingしようぜ……CRAAAAAAAAZYなDragon……!!」
赤碕が見たもの。
それはただ自由を求め、自由にすがりついていくクールの姿。
自由とは何か、ずっと追い求めていた答え。
それが正解、とは限らないが、少なくとも赤碕にとっては生まれて初めての模範解答だった。
どんな窮地に立たされようと、決して己の心を縛らない。
どこまでも"自由"に過ごすことが、始まりなのだと。
空へ飛び、空から落ちていくクールを見て確信した。
だから、自分も。
心を、自分らしさを、誰にも縛られずに、解き放つ。
逃げなくてもいい、怯えなくてもいい、何も気にすることはない。
自分という、自分を解き放てば、いいのだから。
「うおおおおああああああああああァッ!!」
借り物の力、でも自分の力。
その全てを、体に宿りしすべてを、解き放つ。
力を使うことは死へと近づくこと。
それを知っていたから迂闊には使えなかった。
けれど、今は違う。
死に行くからこそ、使える力がある。
己の体を全て炎で包み、炎の柱を天高く突き上げ、龍の身を焦がしていく。
抗う龍を押さえつけるように、炎は瞬く間に猛り、うねり、舞い上がる。
それはまるで、男の体から解き放たれていくように。
自由へと、真っ直ぐ伸びていく。
龍がどれだけ暴れようと、炎は止まらない。
全てを、何もかもを、燃やし、辿り着いていく。



"自由"へ。



「ねえ、お姉ちゃん」

「うん?」

「楽しかった?」

「そうだね……」

誰もいなくなった場所、そんな声だけが聞こえた気がして。

【ロサ(テンペルリッター・一番部隊隊長)@エヌアイン完全世界 死亡】
【クール@堕落天使 死亡】
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【赤碕翔(クローン京A)@THE KING OF FIGHTERS 死亡】


















































バチリ。

電光機関が、ショートする音が響いた。

現れたのは、丸く浮かぶ球体のような。

始まりの、場所。

※完全者はD-4、高原池に居ます。
 OPの舞台を電光迷彩で隠し続けていましたが、赤碕の炎が電光機関を破壊しました。
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075:生きねば。
時系列順
077:死神の逆位置、人々の誰そ彼
投下順
066:リ・スタート
テンペルリッター(一番部隊隊長)
救済
クール
赤碕翔
074:帰ろう 当たり前の『日常』へ
麻宮アテナ

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