俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

檻の中の囚人は夢をみる。
自由を、未来を、可能性を。
人間は皆檻の中の囚人である。
夢を見たまま死という救済を迎える一生を、檻の壁に映した空想の影絵を見て過ごすのだ。

だが時に、その檻を破るものがいる。

悪しき肉体と言う名の牢獄を滅ぼし、死を超越した者。


「アドラー?」

クーラは、静まり返った室内で声を出す。
本当に極端な人だとクーラは思う。
先ほどまで淡々とお説教をくれていたその口は真一文字に閉じられ、ある一点にのみ視線は注がれていた。
下から覗き上げた顔立ちは美しい女騎士のものであったが、冷たい表情はアドラーのもの。

上階にあたる部屋の扉は大概が朽ちていたり鍵が錆びていたりで、そもそも侵入できなかった。
一部屋、無理に壊して暴いてみたがその曰く言いがたい惨状……封印されていた埃や淀んだ空気に圧倒されるだけであった。
おかげでまだ鼻がムズムズするし、喉もいがらっぽい。
同じく、くしゃみを連発していた結蓮も目を時折こすっては瞬きしている。
赤みが差した瞳は部屋の隅にたまる綿ぼこりを疎ましそうに見て、すぐに興味をなくした。

どこもどうせ外れだと、クーラはうんざりしていた。
それでもアドラーは扉を調べ、何事も言わずに探索を続けていた。

黙りこんでいる時のアドラーは、何かを考えている。
結蓮は短い観察でそれを悟った。
いや、これは相当なバカでもない限り気づけることであろう。
問題はその中身、何を考え、何を思い、何を結論づけるか。
沈黙の後にあるのは不穏か、光明か。
結蓮には、アドラーに対して深い溝が見えていた。
背面に漂うその残り香を踏まないよう、少し速度を落とす。
クーラが、大丈夫?と心配して振り返って歩み寄ってくれたが、曖昧な笑みしか返せなかった。

その折であった、鍵が開いていて、なおかつ誰かが使った痕跡のある部屋に辿り着いたのは。

広くも狭くもなく、小奇麗な寝台と備え付けの引き出し、テーブルとやや煤けた椅子が二人分置かれただけの平凡な部屋だ。
備え付けの引き出しを開けると、本が一冊。
旅行などをよくする人間ならば、この本の正体はなんとなく察することができるだろうか。
どこぞのお節介な聖職者か、はたまた口に出しづらい団体の仕業か、宿泊施設に置いて行かれる『聖書』と呼ばれる本。
この本を手にした三人はそれを知らなかったが、情報が少ない状況で本を読まない手はない。
表紙に刻まれているのは真っ直ぐな十字ではなく、歪んだ菱形に囲まれた斜めの十字。

真っ先にアドラーが読み始める。
そうして、分からなかった堂々巡りの考えに一筋の光が差した。
「ねえ、アドラー」
「そうか、『完全者』か」
じれったくて、しびれを切らしたクーラがもう一度アドラーの名を呼ぶのと理解は、同時であった。

これはとどのつまり蟲毒で、しかし全く違う目的があった。
考えてみれば案外と容易いものであったかもしれない。
彼女の、完全者の秘跡。
アドラーは魂のエネルギー変換率と解し、ムラクモは己が神性を信じ魂を体に移すと捉えた。
そのどちらをも理解した少女の、教えの元を辿れば、教えがもたらした死を是とする思想をもってすれば。

穴の空いたルール、隠されることもなく渡された手がかり、最後の一人。
肉体が滅んでも、強き魂が残れば、それが進化であり新人類である。
いつか聞いた、選ばれし者が統べる新世界などという世迷い言を実践しているのだ、この意図不明であったゲームは。
玉石混交、極限状態は人間を飛躍的に成長させる。
例えばアドラーが死者の体に転生を果たしたように。
目の前できょとんとした間抜け顔を晒している異能戦士も、理解不能に陥った一般人にも、可能性は平等に潜んでいる。
その全てが儚い空想でも救済は進み、文字通り目的を達すれば新人類を生み出せる。

抗うことに価値を見出したのが、この状況の答え。
そう結論づけるが、実はまだ腑に落ちない点の方が多い。
人間が『転生の秘法』を見つけたような、抗いの先の、生命の奇跡を、あの女が望むのだろうか。
では、放送に現れた女か?それともまだ神や人間が控えていると?
もしくは、抗いの先には、予想していたよりも更に大きな『神の叡智』が……笑ってしまうくらいの『奇跡』が、存在するのか?

喉奥から、くつくつと笑いが漏れ出る。
どう転んでも、あちらに分がいいゲームだ。
ならば、ならばやることは。
「チェス盤をひっくり返す……いや、少し違うな」
「アドラー、何勝手に気取ってるの」
「静かにしてろ、貴様達の言語レベルに合わせるには時間がかかる」

突っぱねられたクーラはいよいよ不機嫌を顕にして。
「もー……行こう結蓮」
結蓮の細い手首を掴んでくいと引っ張る。
「……いいのかしら」
横目で、一応とアドラーを伺う。
もちろん結蓮も自分の世界にだだびたりなアドラーには辟易していた。

「この建物から出なければ構わん、好きにしろ」
アドラーも、静寂と自分だけの空間が欲しかった。
正味、彼に今二人の生死に対しての深い興味はない、クーラの能力は貴重であり手に入れるべきものであるが。
今新たな真理を得た状況で異能兵士の生死の意味は薄い。
死を賭して、個の生命の重要さと邪魔さに気づくとは。

無理だと決め付けるのは、所詮狭い見識のなかのくだらない常識だ。



階段を、ゆっくりと下っていく。
「本当アドラーってワガママで意味分かんない!」
クーラは大きな声でアドラーを罵倒する。
次から次に、よくも思いつくものだと関心する量アドラーの欠点を羅列しては可愛らしい唇を尖らせていた。
彼女にはどうやら結蓮が懸念するものは見えていないらしい。

「貴方たちは此処に来る前から、知り合いなのかしら?」
まるで違うけれど、小さな妹を想起させる仕種に結蓮はぎりと旨を締め付けられて、笑みを浮かべる。
「ううん、此処にきて初めて会ったのがアドラーだよ」
ろくでもない出会いであったろう。
長く短い時間のおさらいを聞いて、結蓮は余計にそう感じた。
嫌悪感とは、対照的に胸を甘く震えさせる思い出。

EDENの日々、くっきりと思い出せる映像、色のある記憶。
思いっきり喧嘩した夜があった。
珍しく仲良くおしゃべりをした午後があった。
酔っ払ったお客さんを二人で追い払って、苦笑いした朝があった。

彼女は、泣いていたのだろうか、笑っていたのだろうか、困っていたのだろうか。
手が届かない、それでも、知りたい。
色あせていく回想のなかで、セピア色に、それでも色を付けようと必死な箇所がリピートされる。

(あの人も、アーデルハイドも、私と同じことを望んだ)
結蓮の瓦解しそうな理解不能の心をつなぎ止める、綱渡りの綱。
救えなかった、罪滅ぼしのつもりなのか。

理由をつけて、贖罪を望むのかそれとも諦めてしまいたいのか、相変わらず、綱の上で揺れる心には『分からない』。
「ねえクーラ、アドラーのことはもういいから、貴方が此処に来る前の話をしてもらえない?」

クーラは一旦口をつぐんで、どこから話そうかと思い出の入った宝箱をひっくり返し始めた。
大切な仲間のこと、乗り越えてきた闘いのこと、自分のこと。
キラキラ光る、でも少しだけささくれていて、触れる度に切ない痛みが体を走るそれら。

噛みしめるように、体中を満たす景色を確かめて。
「ごめんなさい、気安く尋ねたりして……」
クーラの過去をかいつまんで知った結蓮は、気まずそうに目を伏せた。
「ううん、いいよ」
歩んできた道は大変だったけど、クーラはその末にある自分が嫌いじゃない。
振り返って手を振る自分が笑顔なのだから。
幼く純粋な答えに触れて、結蓮は嘆息する。

自分は思い出の先に進みたいのか、それとも。
心は檻の中、望むは自由と未来か。
影絵に映るものは、今であるのか。

不意に、二人の鼻先をかすめる、死の匂い。
クーラは身構えるが、すぐに違和感に気付いた。

エントランスホールに充満する死は、ホテルと等しく淀んで、動くことがなかったのだ。
結蓮とクーラ以外の世界は、人間は停止している。
第三者は居ないのに、吸い込んだ死の気配だけが肺にこびりついて。

「……っ」
「酷い……」

死の発端、倒れている二人の幼い少年少女。

お揃いのミンクコートと金髪、驚いたような、愉快そうな、不思議な表情で二度と動くことのない時間。
血の気を喪った白に近い肌と相まって、二対の天使を描く宗教画を想起させる、美しくも無残な現実。
「誰が、こんな」
「当人達だろうな」

結蓮の言葉をいきなり引き継いだ冷たい声。
きっ、と反射的に睨んで振り返れば、真紅のコートを身にまとった赤い眼とかちあう。
「アドラー、どういうこと?」
長い銀糸を鬱陶しそうにかきあげたアドラーはクーラの質問を無視して死体の首元を弄った。
首輪に触れて、死体に触れて。
「簡単なことだ、こいつらの手にある銃……そして向かい合わせの銃槍、位置」
何があったかまで推測は及ばないが、同士討ちであろうとアドラーは語る。
「なんで」
こんな子供たちが、どうして。
背後で唸る二人の感情的な戸惑いになど、アドラーは頓着しない。
結果に辿り着くまでの過程は失敗であろうと成功であろうと重きをおくべきではある。
ただそればかりにとらわれ過程以前の現状を見られないのでは本末転倒。

「……似ている」
時間を動かすように、風が吹く。
アドラーを中心に、緑の光を帯びた風が。
「もしも、推論が正しければ、しかしだ」
足りない、一つ、大切なピースが足りない。
躊躇なく子供らの首を切り落とし、アドラーは立ち上がる。
淡々と思考を重ね、笑みを口元に湛えた横顔を見て、結蓮は改めて戦慄した。
嫌悪は恐怖に変わり、無意識に武器を握りしめさせる。

「アドラー、どこにいくの」
背を向けて、おそらく振り返りはしないだろう、その背面にクーラは声を投げた。
今まで見えなかった深い溝が、はっきりと浮かび上がる。
飛び越えられない、飛び越えてはいけない。
性格が悪いだとか、転生して生き続けることができるとか、そんなものじゃあない、決定的な違いがそこにはあった。
すぐ近くで遠い、神でも機械でもない、人間の欲望。
貪欲に過ぎる死神は、やはり応えず空へと昇る。



雷神の力を手に入れた兵士は走る。
神のごとく、神を倒さんと、神のごとく。

嗚呼しかし皮肉な話ではないか。
嘲るように神の名を唱えたことがある。
本当の人間のように、神の加護をと祈ったこともある。
救いの神にならんと、願ったこともある。
俺達は、俺達は何者であったのだろう。

渺々と、風が渦巻いた。
「軍神テュールは俺に味方すると?」
追い落とされた勝利の神を鼻で笑う。
冗談ではない、俺は、自分は。

戦女神を名乗る、死体運びの蹄の音がする。
「貴様は死神、ですらない……平等の欠片もなく、独断と偏見で殺す、ただの人間だ……」

恐れはない、遥か上空から訪れる疾風に対して、いつか執着を覚えたことも忘れて。
ゾルダートは嗤う。
目の前に降り立った銀と血の神の名を飲み込む。
二対の天使の首を携えて、舞い上がる銀の糸は偽神の面を露わにし、その暗澹たる血色の瞳を目立たせた。

「ふ……よく生きていたな、木偶にしては上出来だ」
傲慢な言葉にゾルダートはやはりと得心する。
完全者と共にあった神の模造テンペルリッター、否、その体を支配したアドラー。
ゾルダート達のオリギナールだ。
理解してなお、ゾルダートの心中は穏やかであった。
理解しているからこそ、その神経に一切の興奮はない。

「さて……言わずとも、用件は分かっているだろう」
対峙したゾルダートの首元に死枷がないことに気づき、アドラーは自分の推論の正しさを確認した。
首輪のついた子供らの頭を放り投げて、剣を構える。

ゾルダートは無言で、だらりと両腕を垂らして始まりを待つ。
傲岸不遜に、地面すれすれを滑り斬りこんだアドラーは目を見開いた。
金色の蛇腹剣が、軽く上げたゾルダートの脚に止められたからだ。
すぐさま弾かれた反動を利用し逆方向から斬りこむも片手で押さえ込まれる。
舌打ちとともに剣をしならせその連結を解き蛇を揺り起こし、血しぶきが両者の間を飛散した。

掌を切ったゾルダートはその血液を舐め取り、醒めた目で片腕を無くしたオリギナールだったものを見つめた。
弾く力を利用できるのはゾルダートも同じだ、撓る瞬間剣の力の方向を狂わせ、制御不能の蛇をくれてやる。
これが本来の使い手であるテンペルリッターであれば、避けられたのかもしれない。
体にある記憶と知識、身体能力を引き出すことに関してアドラーに抜かりはなかった。
しかし咄嗟の判断までコピーすることはできなかったのだ。

「……捨て鉢になっている訳ではないな、その、無尽蔵の力……」
利き腕を巻き込み食らった蛇腹剣を拾い上げ、アドラーは表情を険しくする。
電光機関のもたらす身体能力の飛躍は生命と引き換えの力。
通常の人間ですら長い行使には体が耐えられず、その能力には限界がある。
クローンはなおさら脆弱で、瞬間的であろうと最高のポテンシャルを発揮することは、まして維持することなどままならないはずだ。
アドラーが知る限界を超えるものはただ一人。
電光機関の適合者と呼べる、試製一號、アカツキだ。

「く……くく…………ふはははははっ!!」

実に、実に上出来な木偶だと、アドラーは笑う。
どのような方法、理論かも想像できないほどの、抗いの先の奇跡を、自分のクローンが成したのだ。
純白だった軍服を、生命の色に染め上げて、広いキャンパスのような存在に描いた、奇跡だ。

愉快そうなアドラーと対照的に、ゾルダートの心は冷えていく。
「……俺は貴様の用件に……いや、貴様に興味が無い」
どうでもよいのだ。
この期に及んで、障害など己には無意味。
掻き消した人間、もう記憶の隅にも居場所のない人間、リフレインする言葉をゾルダートは無意識に消す。

あれほどまで高揚していた心地が、風を受けた時からだろうか、消えかけていた。
倒すべきはこの男ではない、完全者だ。
完全者を打倒し、栄光を、全てを手に入れる。
この男ごときを、見ていてはいけないのだ。

「違うな」
アドラーは、蛇腹剣を振りぬきその神速で真空を作り出す。
音のない世界で電力の盾はそれを飲み込み、追撃の切っ先を受け衝撃を返す。
「貴様は俺に執着することを恐れている」
アドラーに届かぬ反撃を収め攻勢に移るよりも疾く、空を突き進む刃。
己を刃にして突撃する、神を滅する斬撃。
それが来るのをゾルダートは知っていた、だから攻性防禦よりも乱雑に、しかし強大に放電し、進撃を押しとどめる。

「真実、貴様は俺を打ち倒したい……殺したいはずだ、それが人間ならば当然の道理」
複製體という禁忌の存在。
原本という同一で違う存在。

「我思う故に我在り……だったか。貴様なら、認められないだろう?自分が俺の……『エルンスト・フォン・アドラー』のコピーであるなど」
「俺も、貴様らが自分の分身だと思うと、その姿を見る度に吐き気がする」


手にとるように、互いが分かるのは、彼らが同じ胚を別つ一個対の人間であるから。
交わしているのは音だったか、思考だったか。
拮抗した力は交じり合うのを嫌い反発し二人を引き離した。

「執着は、神性を無くさせる」
「フン、神性など、端から信じていないだろうに」

にい、と両者は笑った。
死神と雷神は、人間と人間であった。

「貴様のような個体は、今までに数度現れた……だが、貴様は今までで一番、素晴らしく、不愉快だ」

木偶呼ばわりしていた相手を、人間と、自分に近い人間と、同一であると認めた言葉であった。
ゾルダートの心に、風が吹き込む。
感情という強風が、その凪いでいた波を荒立たせる。

神性と比喩した冷静な、微動だにしなかったその心中が蒼く輝く。
眼前の鏡を壊す時は今なのだ、自分が、鏡の外の人間であると、誰でもない自分だと認めさせるのは、今この瞬間。

短い時間であった。
ゾルダートが、生きていられるあいだよりも、ずっと短い流れだった。
体のギリギリを狙い薙ぐ剣に、ゾルダートは一歩、大きく踏み込む。
胸から腹にかけて、ざりとざらついた痛みが走るが、脚は止まらない。
連撃の天空へなど、逃しはしない、地面を踏み抜いた脚を軸にして、叩き落すように回し蹴りを食らわせる。
地に落ち跳ねた体を下段蹴りで受け止め、砕けよとばかりに。


土に満ちるのは銀と赤。
波打つ糸と、ひたひたあふるる血。
ゾルダートは、理解して、近づいた。

肉体の限界を迎えてもなお、魂の剥離を拒み、繋ぎ止めているそれを見下ろす。
銀の銃口、引き金を引く力は一度きりだ。
それで充分。

弾丸が発射されるのかどうかは賭けであって、それから訪れる両者の死もまた、通過儀礼じみた賭けであった。


乾いた銃声が肉を貫通するその時に、クーラと結蓮はその場所に辿り着いた。
先ほどの少年少女の死に様をデジャヴさせる光景に、二人は言葉を失い、立ち尽くす。
必死に、空気に音を、振動を伝えようと、クーラは瞬きを繰り返す。
どうしてその頬が濡れているのか、彼女には分からなかった。
「ダメよ」

溝に、暗黒に、走り寄ろうとしたクーラを引き止める。
「……分かんないよ、クーラ、全然分かんないよ」
涙をぐしぐしと拭い、少女はようやっと感情を音にした。
結蓮ははっきりとアドラーが嫌いだった。
だから一時の別離を惜しむ気持ちはない。
クーラは、好きか嫌いか、よく分からなかった。
一度命を救われた、突き放された、言動が最低だった、酷いやつだった。

「だから、行く」
遺体に、きっと起き上がるだろうアドラーのもとに。
溝は現実には存在しない、クーラは、走る。

あと一歩、クーラはそう感じた。
その一歩を超える前に、遺体は立ち上がった。
拒絶するように、ふらふらとした様子で、金髪の衛兵の体は天を仰ぎ、己の掌を胸に押し付け。

「アドラー」
クーラは、どこか安心したように名前を呼んだ。

アドラーの死は即ち、ゾルダートの死。
転生の秘法によりアドラーの魂はゾルダートの体に移り、支配する。

「俺は…………」
昏い、青い瞳が、夕焼けを飲み込んで。
青い、青い世界に、赤を閉じ込めて。

「クーラ!!!」

「エレクトロ・ゾルダート……!!」

ゾルダートの死も即ち、アドラーの死。

結蓮はがむしゃらに、意識を置き去りにして突進していた。
近接の武器であり波動を生み出す刀を、無茶苦茶に振り回して。

ゾルダートの指先に生じた青い火花は球状の形を得て、波動を突き抜けた。
雷の弾が結蓮を通過して、彼が少女の名前を呼んだ声の余韻がクーラの鼓膜を揺らす。

「アドラー、結蓮……?」
いったい何が起こったのか、クーラはただ、名前を口にする。

「そうか……フフ……」
前後不覚に陥ったクーラの顔を見て、ゾルダートは愉快そうに声の調子を上げた。
悲鳴もなく、クーラは鳩尾に拳を受けて倒れる。

「この身體、魂……くくく、試製一號を喰らい、オリギナールの魂をも喰らって全てを手に入れた……か」
半世紀前の記憶、知識、感情、情報、ずっと無くしていた片割れを取り戻したような気持ちで、ゾルダートはひとりごちる。
パズルのピースはゾルダートの中で組み合わさりその全容を教えた。

「ふ……文字通り、チェス盤を引っ繰り返そうではないか、魔女ミュカレ」
盤上の駒を全て逆さまに、王も女王も兵士も引きずり落とすのだ。
「俺の答え合わせに、貴様も付き合ってもらわねばならん」

気絶したクーラをぞんざいに抱きかかえ、ゾルダートは走る。
一人の『完全者』として。


【アドラー@エヌアイン完全世界 死亡】


【F-5/南東/1日目・夕方】

【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(大)、首輪解除
[装備]:電光機関、包丁
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:ミュカレを倒す、先史時代の遺産を手に入れる。
1:ミュカレの元へ
[備考]
※首輪解除の方法を発見しました
※アカツキを"喰らった"ので、ATPが湧き出てくるようになったので余裕があります。

【クーラ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:気絶
[装備]:ペロペロキャンディ(棒のみ)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況] 基本:K'達を探す












どうして彼女を助けたかったのか、夕焼け空しか見えない結蓮には、分からなかった。
埋没していく太陽の最後の輝きは空を覆い尽くし、一際美しく。
進退窮まった自分の、回光反照だったのかもしれない、そう結蓮は薄く微笑んだ。

不意に、夕焼けを過ぎた、星を孕んだ黒が結蓮を見つめた。
差し出された手を取れば、体はとても軽く。

ずっと会いたかった、守りたかった彼女はどこか申し訳なさそうな顔をしている。
そうか、と納得した結蓮は彼女と、自分に向けて「一緒に帰りましょうか」と告げた。

【結蓮@堕落天使 死亡】



































ずい、とそれを、実に感動的なこの世との別離を邪魔する無粋な手。
まるで地獄に引きずり込む……そう、まるで。

「おい、貴様、よもやこのまま諦めて死ぬつもりではないだろうな」
死神のような腕だ。
「呆れた……貴方、死んだんじゃないの」
ああ遠ざかる、安楽な死という救済が遠ざかってしまう。
「死にかけた、というのが正しいな」
どうやら彼としてもこの状況は不服で予想外のようだ。
というか、復活したいのならば、気は全く進まないがこの体を、死体を勝手に使えばいい。
なぜ私を引き止めるのか、と訝しんでるのを察知したアドラーは不機嫌そうに結蓮に答えた。
「それができるならばそうしている、だが思いの外消耗が激しく……俺の魂、生命エネルギーの量だけでは、貴様の肉体を扱うことができん」
「なら潔く死んだほうが……プライドってものがないのかしら……」

いつの間にか、結蓮の手を引いてくれた夜はいなくなっていた。
もしかしたら、自分が都合よく見た幻覚だったのかもしれない、しかし、それとは別になんだか腹が立つ。
目の前に立つ血色の悪い白髪の男、分からないけど、むかつく。
脅かすために死んでやろうか、という思いが、翻って結蓮の意思の力を強くしてしまった。

「プライドのために死ぬのが、その遵守になると――馬鹿馬鹿しい」

不敵な言葉の続きは、現し世に広がった。

「俺にあるのは、誇り高き生のみだ」

極稀にいる、最初から檻を壊している人間。
アドラーはひとしきり、限界を、今再び死を超越した自身に高笑いして。






「しかし……動けん」
(……貴方、本当は馬鹿なんじゃないの?)
――どうしたものかと、考えあぐねた。

【F-5/南東/1日目・夕方】

【結蓮@堕落天使】
[状態]:動けない
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(3/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない、けど、アドラーには腹が立つ
※アドラーに転生されて無理矢理蘇生させられました

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:九割死んでる
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をし、全ての叡智を手に入れる。
※死んだ結蓮の体に無理矢理転生しました、どれだけ転生していられるか、再び他の体に転生できるかは不明
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076:自由自在の者たち
時系列順
078:ぼくたちにできること
投下順
069:ズルはどこまで許されるのか?
結蓮
アドラー
クーラ・ダイアモンド
082:新世界より
075:生きねば。
エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)

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