俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

聞こえるのは、一人分の足音だけ。
草木をかき分け、黙々と進む一人の大男の音。
他に音という音は、何一つない。
例えば、男と同じように草木をかき分けて進んでくる音。
例えば、木々をなぎ倒しながらも戦車のように進んでくる音。
例えば、低く唸るような鋭い声。
そのどれも、ありはしないし、ましてや追いかけてくることなど無かった。
気づいている、知っている、分かっている。
痛覚がないとはいえ、体に溜まる疲労やダメージはごまかせない。
銃弾を何発も浴びたズタボロの体で殴り合おうものなら、どうなるかなんて誰でも分かる。
もう、灰児は追ってこない。
あのサングラスが鈍く光ることも、戦車のような豪腕が振るわれることも、もうない。
そこまでだったのだろうか。
"ケースクラス"として呼ばれることは。
呼ばれたくないほどの名前、捨て去りたい過去。
栄光の道を歩んできたブライアンにとっては、縁の遠いモノ。
自分を突き動かすほどの憎しみなど、抱いたことはないのだから。
「……分からねえな」
ぽつりと呟く声が、空しく溶けていく。

そんな弱い言葉を吐き出したとき、一つの影に出会う。
「あ……ら」
倒れていたのは、すらっとした長身の女性……いや、違う。
まるで女性のような気品を持つ、男性だった。
男は、ブライアンを見るや否や何かを告げようとする。
「喋るな」
そんな男を、ブライアンは制止する。
見るからに酷い怪我だというのに、口を動かしている場合ではないからだ。
着ていた服の裾を破り、男の怪我を少しでもマシにしようとする。
「ねぇ、おね、がい」
だが、男はその手ほどきを拒む。
そしてなけなしの体力を振り絞って、弱々しくも力強く、ブライアンに告げる。
「北に……北、西に、つれて、って。おね、がい……」
ブライアンに頼みを告げるその目。
自分がいつかどこかで見たような目。
叶わない夢を掴んだ男の目。
ただ、前に進むことを選び続けた男の目。
そして、強固な決意を胸に抱く自分の目。
そのどれとも一致し、そのどれとも一致しない。
そんな不思議な目の問いかけに、ブライアンは思わず手当の手を止めてしまう。
「……分かった」
深くは聞かないことにした。
彼には時間が少ない、だからこそこんな"お願い"をしているのだろう。
そして、その夢を叶えてやれるのは、今ここに自分しかいない。
ならば、自分が一刻も早く、動き出す必要がある。
自分にできること、精一杯の力で誰かに夢を与えること。

――――アメフトと同じだ。

即座に手当ての手を止め、傷だらけの彼をゆっくりと背負う。
「少し揺れるが、我慢してくれ」
そう一言だけ告げて、ブライアンは走り出す。
彼が告げた方角、雷神が向かった"北西"へ。



「何のつもりだ?」
小刻みに揺さぶられる頭の中、響くのは冷徹な男の声。
静かに眠るはずだった結蓮を半ば道連れにしてこの世に蘇った男、アドラーの声だ。
「あら、元はと言えば私の体よ? この体の所有権は私にあるわ。
 それに私の魂がなければろくに復活もできなかったんじゃない、むしろ感謝してほしいぐらいだわ」
結蓮の魂を半ば無理矢理捕まえ、己の生命エネルギーとして一体化させ、転生の秘法で蘇る。
ここまでの手順は良かった。
しかし、想像以上にアドラーの生命エネルギーは消耗していたらしく、結蓮の体を乗っ取りきるまでに至らなかったのだ。
まあ、九割ほどが結蓮の魂であったので、それも当然の話ではあるのだが。
瞬間的に結蓮の体の操縦権を握り、動けないことを確認した後に彼の意志に押さえつけられてしまったのだ。
つまり、今のアドラーは結蓮の意志に言葉を投げかける程度のことしかできない。
頭の中で誰か別の人間の声がする、といえばわかりやすいだろうか。
本来ならばその人間の意志を乗っ取りきる秘術も、絞りかすのようなわずかな生命エネルギーではそれが限度なのだ。
「そういう事を言っているのではない」
結蓮の頭の中を飛び回る蝿のように、アドラーは結蓮の意志に言葉を投げかける。
「なぜ、北西に向かう? 傷の手当てが先決だろう」
そう、このままグズグズしていれば死んでしまうのは誰でも分かる。
傷の手当てが最優先事項だというのに、事もあろうか結蓮は男の手当を拒んだのだ。
結蓮はここぞとばかりに、心の中で精一杯ふんぞり返ってアドラーに返す。
「生憎、自分が生き延びることしか考えてない人とは違って、私には考えがあるのよ」
「考え? 自分が死のうというのに、他に成すことがあるというのか?」
「分からなくて結構、でもようやく見つけた私の"やりたいこと"なのよ」
結蓮の言葉に、アドラーは当然のように疑問を返したが、その返答は今までのお返しと言わんばかりのたっぷり盛られた皮肉だった。
「イヤなら私の体から出てもいいのよ? 行く当てがあるかどうかは知らないけど」
「……Scheisse」
体の元々の持ち主、そして体を動かしうるだけの生命エネルギーを持っていること。
この二つで現状優位に立っているのは結蓮なのだ。
結蓮が起こした行動でアドラーがどう困ろうと、結蓮には何の関係もない。
そして、その体に寄生している立場であるアドラーも、宿主である結蓮の決定に従うしかないのだから。
ようやく事態を飲み込んだか、それとも諦めたか。
アドラーは結蓮の意識に訴えかけることを、やめた。



ようやく見つけた、やりたいこと。
死ぬ間際に見つけるなんて、遅すぎるとは思うけど。
それでも、ようやく見つけたから、それだけは成し遂げたい。

クーラを、あの子を、守ることを。

なけなしの力で握りしめられた近代兵器が、カチャリと音を立てた。

【F-5/南東部/1日目・夕方】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"

【結蓮@堕落天使】
[状態]:動けない、アドラーを押さえつけてる
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(3/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本:分からない、けど、アドラーには腹が立つ
※アドラーに転生されて無理矢理蘇生させられました

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態]:九割死んでる、結蓮に寄生してる感じ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本:完全者の邪魔をし、全ての叡智を手に入れる。
※死んだ結蓮の体に無理矢理転生しました、どれだけ転生していられるか、再び他の体に転生できるかは不明
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077:死神の逆位置、人々の誰そ彼
時系列順
079:賽が投げられる
投下順
結蓮
082:新世界より
アドラー
072:力と拳で叫べ
ブライアン・バトラー

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