俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「最強」

その二文字は、自称は出来る。
俺は強い、決して何にも負けないほど強いと言い続ければいい。
けれど、それだけでは証明にはならない。

最強。
それは、ある意味では誰にも理解されない世界。
まるで、神の極地のように。

これは、その二文字を背負い生き続けてきた、不器用な男たちの物語である。
言葉はなく、そこにあるのはただ、一振りの拳だけ。
それでいい、それでいいのだ――――



ざっ、ざっと草を踏み分けて足を進める二人。
言葉はない、必要ない。
正確に言えば少しニュアンスは違うものの、二人の意識は"完全者を倒す"という意志で統一されているから。
どこに行けばいいのかなんてコトは、さっぱり分からないが。
それでも、立ち止まっているわけにはいかない。
止まれば、それは諦めてしまうことになるから。
闇雲でも、がむしゃらでも、前に進まなくては変わらない。
そう、アメフトと同じだ。
いつまでも同じところにグダグダしていても、点は入らない。
希望という名のボールを持ち、襲い来る障害を振り払い、勝利というタッチダウンを決める。
そのために、一歩でも前に進まなくてはいけない。
後ろに歩くどころか、後ろを向いている余裕すら、ないのだから。



ざわり。
しばらくして、空気が変わる。
明らかな敵意、けれどそれは殺意ではなく。
あふれ出んばかりに広がる、闘志。
ゆらり、と一つの影がブライアンと灰児の視界に映る。
「よォ」
現れたのは、全身傷だらけで満身創痍の金髪の男。
けれど、その両目には明らかに闘志が宿っている。
拳を交える経験のある二人だからこそ、分かる。
この男は、闘いに来たのだと。
「……あァ、アンタか。EDENの"八番目の狂犬"は」
灰児の姿を少し注意深く見つめてから、男は"その名"を呟く。
灰児を知る人間の大半は、灰児のことをそう呼ぶ。
壬生灰児は本名ではない、故に付いたもう一つの"通り名"。
「……だったらどうした」
その名を呼ばれることは珍しいことではない。
灰児は至って普段通りに接していく。
「いや……まァ、この上ねぇ喧嘩相手が見つかったんで、嬉しいんだよ」男は、そういいながら顔を歪めて笑う。
その目から、闘志は未だに消えない。
「その体で闘うつもりか?」
気になっていたことを、思わず問いかけてしまう。
消えない闘志、こちらの様子を逐一窺う姿勢。
どう受け取っても、男は闘うつもりだった。
「やめとけ、死ぬぞ」
だから、灰児はそれを拒否する。
死に損ないの相手をしている時間など、今の自分にはない。
何より、無駄な労力を使っている場合でもない。
「おいおい、なんだビビってんのか?」
くるりと振り向くと同時に、男が挑発をしてくる。
「……行くぞブライアン、死にたがりの相手なんざしてる暇はねえ」
だが、灰児は至って冷静にそれを"無視"していく。
時間、体力、その他諸々。
完全者を倒すという上で、無駄でしかない要素しかないから。
灰児は大きく、足を進めていく。



「そーかいそーかい、見損なったぜ"No.8"さんよォ」

ぴたり。
その一言と同時に、灰児の足が止まる。
さらに、辺りの空気が変わる。
どこからかと不審に思ったブライアンは、空気の代わりどころを探る。
「……灰児?」
それは、同行者である灰児だった。
男の放った先ほどの一言から、灰児のまとう空気が明らかに変わったのだ。
それはまるで、別人のように。
「先、行ってろ。後で追いつく」
変わらない声、変わらないトーンで灰児はブライアンに告げる。
先に行け、というのはどう言うことか?
「えっ、でもよ」
その真意を語らない灰児に、ブライアンは困惑してしまう。
一体何が、灰児の心を変えたというのか。
「いいから行けっつってんだよ!!」
灰児は語らず、ただ強くブライアンに当たる。
ブライアンは知ることもないだろう、それが灰児なりに"押さえた答え"であることなど。
真意を汲み取れないまま、ブライアンはその場を立ち去る。
納得はいかない、けれどその場を離れざるを得ない。
なぜなら、灰児の体からは無限の"殺意"が沸いていたから。
残れば、殺す。
そうとも取れるメッセージ、ブライアンはそれだけを受け取っていた。

「てめェ、何モンだ」
ブライアンが遠くに行ったのを確認した後、灰児は男に問いかける。
その声はどこか震えていて、それでいて嫌に落ち着いていた。
「へへ、誰だっていいだろ」
男は灰児の問いに答えることはなく、ただ笑っている。
なぜ笑うのか、それは単純なこと。
これから、全力を以て闘うことが出来るから。
たった、それだけである。
「"そう呼んだ"以上は、容赦しねえぞ」
遅すぎた最終通告を、禁忌に触れた者へと告げる。
「上等」
禁忌にわざと触れた男は、もう一度口を歪めて笑う。

それとほぼ同時、両者の体がその場からふと掻き消えた。

風を切る音と同時に、両者の動きが止まる。
互いに振りかざした拳が、互いの頬に突き刺さる。
スローモーションのように頬の肉がせり上がっていくのを感じた後。
まるで空気が爆ぜたかのように、両者共に後ろへ吹き飛んでいきそうになる。
だが、互いに吹き飛びはしない。
まるで地面に釘打ちでもされているかのように、その両足で力強く踏ん張る。
そして、後ろに大きくのけぞった顔面をそのままバネのように戻し。
相手の顔面へと、叩きつけていく。
高速で振り抜かれる二つの固まりが互いに衝突し、何かにヒビのいくような音まで聞こえる。
だが、男たちは止まらない。
顔面をぶつけ合った状態で、互いの目を睨みつける。
そのまま、大鎌のように振るった腕で、相手を殴りつけていく。
顔、胸、腹、その他諸々の部位。
守りというまだるっこしいものは、そこには存在しない。
攻め手が殴り、受け手が踏ん張る。
それを交互に繰り返し、繰り返し、殴り続ける。
両者どちらの足も、その場から一歩も動かない。
釘で打ち付けられている訳ではない、コンクリートで固められている訳でもない。
"目の前のヤツをぶっ飛ばす"という固い意志だけが、二人をその場に縫い止めている。
心の敗北を喫した方が、先に負ける。
だからこそ、互いにその場に踏ん張っているのだ。
"ぶっ飛ばす"ためには"負けられない"から。

腕、腕、腕、頭、腕、頭、腕、腕、腕、頭。
拳の骨はとっくのとうに砕け、額からは夥しい量の血が流れ出している。
けれど、二人は相手を殴ることをやめない。
「……へへっ」
何度目かの殴り合いを経て、突如として男が笑う。
にやけた顔に突き刺さる灰児の拳に、男は大きくよろけるもそれをバネとして生かしながら頭突きをかます。
「痛くねえってのは、マジらしいな」
口から流れる血を拭い、男は"噂"を口にする。
崩壊都市、EDEN。
そこに住まう"八番目の狂犬"は、痛みを知らない、感じないと言われていた。
伝聞だけではいまいち実感は沸かないものの、こうして相見えて拳を交えることで、噂が本当だったことを確かめる。
痛みを知っているなら、こんなふざけた殴り合いにはならない。
痛みを知らないからこそ、どれだけ殴られても、拳が砕けても、ひるむことは無いのだろう。
「痛ぇのか、お前は」
ふと、灰児もそんなコトを聞いてしまう。
自分は知らないこと、けれど誰もが知っていること。
おそらく、目の前の男も例外ではない。
だが、目の前の男はまるで自分のように立ち向かってくる。
どれだけ殴っても、どれだけ殴っても、決して怯むことなく殴り返してくる。
自分以外の痛みを知らない人間、そんな一縋りの希望までを胸に抱きながら。
「俺か? まぁ…………」
少し、言葉に詰まってから男は答える。
「痛くなきゃよォ、喧嘩じゃねェからな。
 ドツいてドツかれて、痛ぇ分だけ拳を振るう。
 そうじゃなきゃ喧嘩じゃねえんだよ」
答えは灰児の望んだものでは無かった。
けれど、ある種では灰児の望んだ答えでもあった。
「……痛み、なんてのは二の次さ。俺は"喧嘩"したいだけだからな」
男は、痛みを置き去りにしていた。
忘れたわけではない、知らないわけではない。
知っていて、忘れるわけもなくて、それでいて"置き去り"にしているのだ。
「チッ、イカレ野郎が……」
思わず、口から言葉がこぼれてしまう。
マッド、狂気的、端的に言えばそうなるだろう。
けれど、灰児にとっては、目の前の男はそれだけでは片づけられない。
目の前の男は、あり得たかもしれない"もう一人の自分"の姿とも考えられるのだから。
自嘲か? そうかもしれない。
「なァ、狂犬さんよ」
笑いを浮かべていると、男が笑いかけながらこちらに語りかけてくる。
「とびっきりデカいの一発で、勝負しようぜ」
言葉と同時に、男は素早く後ろに飛び退いていく。
そして体をねじり、辺りを震わせるように気を集中させる。
ざわつく木々、唸る空気。
男の"本気"は肌でも感じ取れるほどだった。
けれど、その本気は全て"攻め"に傾いている。
初めからそうだが、全身全霊を全て費やし、一発の攻めに充てようとしているのだ。
つまり、それ以上の力で撃ち抜くことが出来れば。
攻めという剣を、より強固な攻めでぶち抜くことが出来れば。

"勝てる"。

「……ぉぉぉおおおおおおおおおっ!!」

「受けるかッ……」

男の叫びと同時に、灰児もまた独自の構えに入る。
体を捻り、全身のバネというバネを絞り。
たった一発、されど一発の拳に力を込める。

そして、全てが。














「ッドルァァァァァァアアアアアッ!!」

                 ――――爆発する――――

                             「このブロォォォォォオオオオオッ!!」















拳が突き上げられる。

まもなくして、それはゆっくりと力を失い。

「痛ってェ……な……」

その一言だけを残して、ぱたりと倒れた。



【シェン・ウー@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【壬生灰児@堕落天使 死亡】

【G-3/東部/1日目・午後】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、GIAT ファマス(25/25、予備125発)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"

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071:友達から始めよう
時系列順
073:人間は不器用だから
投下順
058:Knuckle Talking Revenge
シェン・ウー
救済
061:明日を笑う奴を殴れ
壬生灰児
ブライアン・バトラー
078:ぼくたちにできること

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