俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

ふぅ、と汗を拭う。
シャベルを片手に持つブライアンの目の前には、人一人が優に埋まるくらいの穴がある。
小さなスコップでがむしゃらながらも高速に穴を掘る灰児のおかげもあって、この短時間で掘りきることが出来た。
「ありがとな」
泥の付いた手で汗を拭いながら、ブライアンは突如現れて穴を掘るのを手伝ってくれた灰児に感謝を述べる。
その言葉にどう反応するでもなく、ただサングラスをかけ直してそっぽを向く。
ブライアンは特に返事を待つこともなく、ラッキーの体を持ち上げ、掘った穴に寝かせる。
最後に、ラッキーがいつも大事にしていた紫の帽子を取り、少し深めに被ってから。
ラッキーの体に、掘り返した土を被せていった。

結局、灰児には分からなかった。
悲しいという感情、心の痛み、人の気持ち。
あの日以降、灰児は失っていくばかりだ。
それまでの人生、全身の痛覚、人としての気持ち。
何か一つでも取り戻したい、手に入れたい。
けれど革のグローブに包まれた拳は、それらをつかみ取ることなど出来ない。
どれだけもがいて、どれだけ手を伸ばしても、触れることすら出来ない。
もう、ずっとこのままなのだろうか。
溜息すら出ず、灰児はただ空を見上げる。



「なあブライアン」
ブライアンが黙々と土を被せている中、モーデン兵は彼に問う。
日も丁度真上に上り始めた頃だ、今後の方針を話す必要がある。
「これからどうすん――――」
そんな話題を切り出そうとした時だ。
彼の持っていた携帯が鳴動する。
そして、パスリと軽い音が一発鳴り響き。
駒送りの映画のように、兵の頭から赤い花が咲き。
横へ、ゆっくりゆっくりと倒れていった。

「ッ――――」
「伏せてろ!!」
ブライアンが言葉を失うと同時に、灰児が怒号を飛ばす。
即座に花が咲いた方向、つまり弾丸が飛来してきた方向へと駆け出す。
バスン、ともう一発の弾丸が灰児の脇腹を襲う。
だが、灰児は止まらない。
そんな一発の弾丸で怯む男ではないし、何より"痛くない"から"怖くない"。
「ひっ」
短く、息を飲む声が漏れる。
もちろん灰児はその声を聞き逃さない。
声のした方角の木を一発で殴り飛ばし、幹の部分からへし折っていく。
木が倒れた先、灰児の目に映る人影。
白いスーツに身を包んだ、銃を構えた金髪の女性。
けど、そんな事はどうだっていい。
誰であろうとぶっ飛ばす、それは決めていたから。
「撃つわよ」
大口径の銃を構えながら女性は灰児を威嚇する。
けれど、それは灰児の足を止めるには至らない。
ずい、ずいと灰児は一歩ずつ前に進んでいく。
ばんっ、と撃ち出された弾が太股を襲う。
血が飛び、肉が裂ける。
だが灰児の足は止まらず、前へ、前へ進む。
再び息を呑んだ女を前に、灰児は片足を持ち上げる。
「ボぉケ――――」
撃ち抜かれた足をバネにし、短いステップと同時に女の顔面に足の裏を叩き込んでいく。
工夫も何もない、ただのヤクザキック。
「がァァァァァァァァ!!」
銃が効かないどころか痛みすら表さない灰児に、心の底から恐怖していた彼女には、それは首に迫るギロチンに等しかった。
蹴りが顔面に突き刺さった瞬間、ぐらりと世界がゆがみ、大きく吹き飛んでいく。
一点、二点、三点とバウンドして転げ回っても、その勢いは死ぬことはない。
全身を打ち付け、体中の骨が折れ、肉の組織がぐちゃぐちゃになった辺りで、ようやく止まることが出来た。
突き出した木の枝に、自分の胸から突き刺さる形で。



穴に二人目を埋めることになった。
ラッキーの埋葬の途中だった事もあり、穴はまだ埋まりきっては居なかった。
ギリギリもう一人は入れる隙間、そこにモーデン兵を寝かせていく。
こんな殺し合いの場で、目を輝かせながら夢と希望を語ってくれた。
けれどこんな殺し合いの場でなくとも、きっともっと良い出会いがあったはずなのに。
自分の大ファンだと意気揚々と語ってくれた彼は、死んだ。
あっけないものだと、自分でも思う。
たった一発、たった一発の弾丸で、人が死ぬのだ。
「D……」
そしてもう一つの悪いニュース。
彼の友の内の一人、ヘヴィ・D! もこの殺し合いで命を落としたという事。
まるで人間がゴミのように死んでいく旧人類狩りを思い出させるかのように、現実を突きつけられる。

思えば、いつだってそうだったのかもしれない。
割を食うのは、何の罪もない一般人だ。
理不尽な暴力が彼らを、自分を襲う。

「……いつまでそうしてんだ」

考え込むブライアンに、声をかける一人の男。
脇腹と太股に血をにじませながらも、サングラスをかけて立っている。
サングラス越しの表情は、考えなくても分かる。

「後ろ向きに歩くなら、止めねーがな」

ブライアンが何かを察したと同時に、灰児は背を向けて歩き出そうとする。
ほんの少しの寄り道、けれど何かが変わりそうだった寄り道。
その道から、本来の道へと灰児は戻ろうとする。

「待ってくれ」

その背を、ブライアンが止める。

「俺も、行きたい」

口から出すのは、同行の願い。

「明日を奪う奴を、倒しに」

感じ取った気持ち、そして今の自分の気持ち。
それを自分の中で重ね合わせて申し出る。
割を食ってばかりではいられない、理不尽な暴力に屈してばかりも居られない。
だから、自分の手でつかみ取りに行く。

長い長い苦労の末にある、"勝利"を。

まるでアメフトのようだと、ブライアンは思う。
終わりの見えない戦い、けれど何度もそれを乗り越えてきた。
大丈夫、まだ、大丈夫。

「好きにしろ」

そんなブライアンを見て灰児は、特に止めるでもなく同行を許可する。
言葉を受けてブライアンは灰児の背を追うように、その後ろについて歩き出す。
二人に行く宛などはない、けれど目標だけはハッキリとある。

明日を、自分を、全てを奪う奴を、倒す。

【モーデン兵@メタルスラッグ 死亡】
【ベティ・ドー@アウトフォクシーズ 死亡】

【H-3/平原中央部/1日目・日中】
【ブライアン・バトラー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:シャベル
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:夢と未来を掴み、希望を与えられる人間になる。
1:"勝つ"

【壬生灰児@堕落天使】
[状態]:脇腹、太もも負傷
[装備]:スコップ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:完全者を殺す、立ちはだかる障害は潰す
[備考]:攻性防禦@エヌアイン完全世界の知識があります。
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060:ラスト・ブレイク
時系列順
062:明るく楽しく元気よく
投下順
054:痛いのはきっと
壬生灰児
072:力と拳で叫べ
ブライアン・バトラー
モーデン兵
救済
045:白い悪魔が笑う
ベティ・ドー

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