俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「……まあ、だいたいはそんな感じよ」

開けたもう一缶のビールを煽りながら、半ば自棄になってヴァネッサは語る。
無理もない、数年間秘匿にしてきたことが思わぬ形でバレてしまったのだから。
コードネームであるヴァネッサはもちろん、ジョン・スミスという男の名も偽名。
裏の名前を操り、正直大きな声ではいえない任務をこなす。
そんな二人は、プライベートのある日に町の一角のバーで出会った。
なんと言うこともない、ただ隣に座っただけの間柄だったのだが。
話している内にだんだんと気が合い、その日は翌朝まで酔いつぶれた。
その日からだ、彼らが決まってそのバーに集まるようになったのは。
会えば会うほど話は弾み、心は安らぎ、打ち解けていく。
そして、互いに惹かれあっていった。
まもなくしてゴールイン、そんな何ら代わりのない普通の夫婦だった。

たった一点、"互いの仕事に絶対に口出ししない"という奇妙なルールだけを除いて。

片や潜入操作や時にはスパイ工作まで行うエージェント。
片やベビーシッターから革命の指揮者まで行う何でも屋。
互いに素性が知られるのはマズいし、何より隙を作りたくなかった。
故に、「仕事は互いに不可侵の領域である」と決めた。

それから数年、何だかんだで幸せな生活を広げていたのだが……。
それも、この殺し合いに壊される事になってしまった。

今、ジョンは妻が"ヴァネッサ"であることを知った。
ゼロの起こした一連の騒動のせいで、リング機関はその名を大きく轟かせていた。
もちろんデータの類はハイデルンが急いで処分したが、コードネームなど一部の情報が外に漏れだしていたのだ。
今思えば、リング機関時代のコードネームを使い続けていた自分が原因か、とも思う。
まあ、こんな殺し合いさえなければ、それで問題はなかったのだが。

互いの仕事は知らなくても、幸せな生活だったのに。

「……まったく、いいビールでも全く酔えないわね」

思い出といきさつを話し終え、ヴァネッサはビール缶をぐいっと飲み干し、憂いの表情で呟く。

「まあ、夫には私から説明しておくわよ。っていうか、私しかできないし私の問題だし、ね」

赤く燃えるような髪をくしゃりと掻き上げ、ふふっと笑う。
いつかこうなる日が来るのではないか、それは常々覚悟していたこと。
バレたらバレたで正直に話す、それは決めていたことだ。

「ところで、フィオ。貴方たちは?」
「はい、それが……」

そしてフィオ達の事情を聞き出そうとした時。
ちょうどフィオが操作していた端末が鳴動した。

強制的に起動する配信の受信。
映る一人のシスター。
告げられる事実。

急いで情報を確認して、頭に叩き込んでいく。
禁止エリアとなる地図、そしてこの六時間で死んでいった者達の名を――――

「――――ッ!!」

ぽとり、と端末を落としそうになるのを受け止める。
ズレたメガネを直すも、まだズレている。
心臓の鼓動が早い、まるで今にも爆発しそうなほど。

「す、すみません。大丈夫です、平気です」

慌てて「呪文」を唱える。
人は口癖だと言うが、彼女にとってはそうではない。
自分のことを分かるのは自分自身、だから自分が管理しなくちゃいけない。
だから、彼女は「呪文」を使う。
大丈夫だ、平気だと、自分に言い聞かせるために。
そうしないと「自分が暴れ出してしまう」から。
あの日の、ように。

「フィオ」

かけられた声の方を向くと、察した表情のヴァネッサが此方を向いている。
ヴァネッサとて、彼らと繋がりがなかったわけではない。
フィオが今どんな状況で、どんな気持ちなのかは、この場では彼女が一番よくわかるだろう。

「大丈夫だから、行ってきなさい」
「……はい」

ヴァネッサの母のような優しさを背中に受けながら、フィオは森の奥へと進んでいく。
その背中を、ヴァネッサは黙って見送る。

「仲間を三人も失うなんて……耐えられないわよ、普通は」

その一言を、アカツキはただ腕を組んだまま黙って聞いていた。
仲間、久しく聴いていない単語。
電光機関の破壊は、自分一人に課せられし任務。
仲間という存在は無く、頼れるのは己のみ。

「仲間、か」
「仲間、ねえ」

何かを思い出したかのようにぽつりと呟いた言葉に、もう一人の男の声が重なる。
新たにした声の方を向くと、さっきまで卒倒していたジョンが起きあがっていた。

「……起きてたの?」
「今し方、な」

強く打った頭を少し押さえながら、ジョンはヴァネッサに答える。
ふう、と溜息をついてヴァネッサはジョンに言葉を投げかけようとする。
が、それを遮るようにジョンは手の平をヴァネッサの前に突き出す。

「いい、話は別に聞きたくない。別にどーって事は無いからな、ただちょっとビックリしただけだ」

そう言って、ジョンはヴァネッサの髪をくしゃりと撫でる。
隠していた仕事がバレた、けれどそれは二人の中を引き裂く出来事じゃない。
奇妙な話だが、むしろバレたことでもっと信頼が増したと言ってもいいだろう。
ヴァネッサはほんの少しだけ照れくさそうにして、そのまましばらく撫でられていた。

「……取り込み中のところすまないが」

そんな二人のラブラブ空間に、割って入るのは戦鬼。
ハッ、と現実に戻ったかのように二人は戦鬼の顔を見つめる。

「これから、どのような策を講じるのだ?」

いつまでもこうしてはいられない。
殺し合いに抗う、そう決めた以上は具体的な案を出さなければいけない。

「……そうね、フィオが戻ってくるまでに、それを話しましょう」

ヴァネッサは口を開く。
味方は今、この上なく心強いメンバーが揃っている。
それぞれの持つ手札を、まずは整理する。



「本日より特殊部隊スパローズに配属となりました、フィオリーナ・ジェルミです! よろしくお願いします!!」

女性独特の明るい声が、少し狭い一室に木霊する。

「よろしくな、フィオ。今日から"俺たち"は仲間だ!」

それに負けじと明るい声で答えるのはサングラスの男、ターマ・ロビング。
硬直しきっていたフィオの体から、緊張を抜き去るやさしい笑顔だった。

「あぁん? どうしたぁ、ターマぁ。そんな鼻の下伸ばしてよォ」
「そりゃそうっしょ、今の今まで仕事といやあ上官と二人っきりの男の世界、そんな中に姉妹部隊のようなものとはいえ女子が入ってくるなんて……」
「ターマ、おまえ今日のノルマ五倍な」
「そりゃ無いぜ〜」

それが、二人との初めての出会いだった。



時をしばらく挟み。

「はぁ〜〜〜〜っ!?」

甲高い声が、部屋の中に鳴り響く。

「こンっのトロくて緊張感のキの字も無いようなのがアタシの上官だってぇ〜〜!?」

その声の主は、緑色のバンダナが特徴的な女性。
齢にしてちょうど20の彼女の名は、エリ・カサモト。
配属当日に、なぜ彼女はフィオのことを知っていたのか。

時を大きく遡る。
まだ、ストリートの悪ガキの元締めだったころ、エリはフィオに出会っていた。
と、いうのも、道を歩いていたらぶつかった、というだけのことだが。
もちろん、同年代にぶつかられてエリが黙っているわけがない。
即座にフィオの胸ぐらをつかみ、威圧していく。
幼い体からは考えられない力でぐいぃとフィオの体が浮かび上がっていく。
けれど、フィオは全く物怖じもせず、エリにこう言ったのだ。
「大丈夫です、平気です」
エリは当然、キレた。
ぶつかっておきながら何が「大丈夫です」なのかと。
こちとらテメーの体の心配なんぞしてねーんだよと、声を大にして言いたかった。
けれど、それもなんだかムカつくので黙って殴り飛ばそうと思った時。
「こらーっ!! 何してるッ!!」
鳴り響く大人の声、捕まるわけにはいかない。
そのままフィオを突き飛ばし、昼の闇に溶けていった。

そんなこともあって、エリはフィオのことをほぼ一方的に覚えていた。
「10回は殺せるくらいこの上なくムカつく女」として、だが。

そして、軍に配属が決まったとき。
あろうことか「上官」として現れた女は「そいつ」だったのだ。

どうせスットロくてろくに仕事もしないボンボンの成り下がり、すぐに追い越せると思っていた。
けれど、それは初日の実地訓練で意識を改めることになる。

おっとりとした口調から、銃を握るや否や辺りの空気を丸ごと変え、正確無比に標的をしとめていく。
けれどそれが終わったら、またいつもののんびりとした顔に戻る。
どっちが本性なのか、その時のエリには分からなかった。

初めはただ、負けたくなくて。
食いついて食いついて追い越せ追い越してと頑張り続けた。
でも、フィオは違った。
エリの閉ざしていた心に真っ正面から向き合い、言葉を交わしてくれる。初めは疎ましかったが、何度も何度も話しかけてくるフィオに、エリも次第に心を開いていく。
やがて時にはからかい、時には笑い合い、時には命を助け合う。
エリにとって、フィオはとても頼れる唯一の上官であり、親友であった。
それは、フィオとて同じ事。
彼女にとってもエリは、同じ部隊で何度も死線をくぐり抜けた唯一無二の、親友なのだ。

「だ、大丈夫です、平気です」

ぽつりと呟く言葉とは裏腹に、涙がぼろぼろと零れる。
端末に映っていた文字を見てから、目の前をいくつもの思い出が駆け抜けていく。
悲しくて、悲しくて、しょうがない。

軍人という職業に就いている以上、いつどこで自分や仲間が死ぬかは分からない。
覚悟していた、覚悟していたことだけれど。
こんな理不尽な形で別れを告げることが、許されるというのだろうか。

けれど、いつまでも泣いているわけにもいかない。
前を、前を向かないと。
"俺たち"は、いつだってそうだったんだから。

「こんなんじゃ、またエリさんに笑われちゃいますね」

メガネを外し、こぼれ出す涙を半ば無理矢理にリストバンドで拭き取り、へへっと短く笑う。
まだ、大丈夫。
"俺たち"はみんな居なくなったわけじゃない。

「大丈夫です、平気です」

最後にもう一度だけ、頬を叩いてから前を向く。
そう、これから始まるのは"やせ我慢"。
決して屈しない、鋼の心を持ち
これまでのどんな壁より大きな壁に、挑む。



「ただいま戻りました」
「おかえり、早かったわね」

少し瞼を腫らしているフィオに、ヴァネッサは微笑みかける。
そばでは二人の男が腕を組み、目を閉じて考えている。
話は終わったのか、それともまだなのか。

「……結局手詰まり、今ある情報が少なすぎてどうにも動けないのよ」

ヴァネッサが、会議の結果を報告するようにフィオに告げる。
持てる知識はそれぞれが共有したものの、この殺し合いを打破するのに決定的な物は一つとしてなかった。
まだ、自分たちには手札が足りないというのが現状。

「だから、さっきと同じように二手に分かれて行動する。
 そして12時間後、落ち合えるなら神塚山の山頂にて落ち合いましょう。
 禁止エリアの動向からしてもまだしばらくは大丈夫なはずよ」

だから、これからの行動はまず"手札"を集める。
どんな小さなことでもいい、足を動かし、その目で、その耳で、その手で情報を掴む。
軍人も、エージェントも、何でも屋もそこは変わらない。
情報を得るのは、足なのだから。

「じゃあ、"また会いましょう"」
「ええ、"また"」

「頼りにしてるわよ、あなた」
「任せとけって」

「よし、私たちも行きましょう」
「うむ」

再会を誓いながら、それぞれの道を進む。

まずは手札を、揃えにいく。

【E-8/東崎トンネル出口/日中】
【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。
1:前を向く

【ジョン・スミス@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:缶コーヒー(いっぱい)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:報酬のため、クライアントの依頼を達成する。
1:前を向く

【ヴァネッサ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(把握済み)、YEBISUビール×1
[思考・状況]
基本:手札を集める。
1:前を向く

【アカツキ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品(食料は完食)、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破、及び電光機関の破壊
1:前を向く
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060
→Next
059:おさるのカーニバル
時系列順
061:明日を笑う奴を殴れ
投下順
047:そんなん考慮しとらんよ
ヴァネッサ
075:生きねば。
アカツキ
フィオ=ジェルミ
073:人間は不器用だから
ジョン・スミス

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