俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

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                                             誰も理解できない。





























「ウガァァァアアア!!」

戦車が野を駆る。
キャタピラノ通った後は無骨に固められ、草木は倒れて荒れ果てていく。
標的はとっくのとうに見失っているのに、戦車は進むことをやめない。
そもそも、なぜ進んでいるのか理解しているかどうか怪しい。
エラーとバグと理解不能な現象、その全てを処理できず、ただただ車輪を動かしているだけに過ぎないのかもしれない。
ただ唯一、従うべきだと分かること。

人を殺す、それだけは正しいと思わっかてっているるる?

「ウガァァァアアア!!」

戦車は野を駆け続ける。
追い求めていたはずの青黒い靄は、とっくのとうに見えない。



「……ほら、ここの数ページ。不自然に真っ白でしょ?」
小冊子の終わり際の数ページをぱらぱらと見せながら、ラピスはマルコ達に見せる。
ラピスの言うように、そこには不自然な空白で埋められたページが数ページ続いていた。
マルコの専門がデジタルだとすれば、ラピスのある意味での専門はアナログだろう。
古文書やら石碑やら、そういったものを読み解くのはラピスの生業。(ホントは学業がメインだけど)
設計書は読めなくとも、古文書にありがちな謎かけのトリックには気づきやすいのだ。
そそくさと支給品のジッポライターを取り出し、設計書の空白のページを炙っていく。
「古典的な手法、よね」
ラピスが手を動かすたびに、見る見るうちに文字が浮き出してくる。
掠れて読めなくなったインクとは違い、焦げた文字は今し方印刷されたかのようにはっきりと写っている。
旧字の日本語がふんだんにちりばめられたページ。
職業柄旧字に触れることが多かったラピスが、新たに現れたページを読み解いていく。
「……ビンゴ、かな。この首輪を無力化する手段が、事細かに書かれてるよ」
先ほどゾルダートが自力でたどり着いた答え。
新たに現れたページにも、それが事細かに描かれていた。
その話を聞いていくうちに、マルコの顔も曇っていく。
答えを与えてしまった、故に彼を"行かせてしまった"。
もし、もし、と頭の中に浮かぶたらればを、振り切っていく。
渋い顔を浮かべるマルコに対し、ラピスは話を進めていく。
「でもさ、問題はこの電光機関を稼働させきって、消耗させる手段だけど――――」
言葉はそこで途切れる、いや途切れさせられる。
一発の破裂音と共に、まっすぐ真横へと吹き飛んでいくラピスの姿。
まもなくして聞こえたのは、耳障りな機械音と。
「ウアアアアアア!!」
まるで人間のような叫び声だった。



ざく、ざく、ざく。
軍人と何でも屋が肩を並べて歩く。
両者共に辺りを警戒しているが、心なしか軍人の顔の方が少し暗い。
気のせい、と言えば気のせいなのかもしれないが、少なくともジョンにとってはそう受け止められた。
仲間を三人失った痛みというのは、身にしみるほど痛い。
"ジョン=スミス"が一人を好む何でも屋なのも、仲間を失う"痛み"が怖いからだ。
軍士官である父に半ば強制される形で一時期所属していた軍も、仲間を失う痛みに耐えられずに抜け出してしまった。
"ジョン=スミスは報酬のためなら仕事を選ばない"と、人は彼を見てそう言う。
だが、真実は違う。
"ジョン=スミスは報酬があるからこそ仕事が出来る"のだ。
"報酬のため"という思考を頭に置き、どんな犠牲も"報酬のため"と考えないと、何もできないのだ。
仮にもし、あの革命の時に彼が善意で働いていたら。
きっと彼は革命の"代償"に耐えきれなかっただろう。
冷血のジョンとまで呼ばれたほどになれたのは、"報酬があるから"と割り切っていたからだ。

では、報酬を求めるのはなぜか?
意味もなく報酬を求めるだけでは、何の意味もない。
事実、何でも屋を始めた当初のジョンの働きっぷりは見るに耐えないものだった。
生きるための最低限、本当にそれだけである。
それが一転、命を張ってまで様々な仕事をするようになったのは、やはり妻との出会いがきっかけだった。
"自分一人の為だけにお金を稼ぐ"ことをやめた彼は、驚くほど精力的に活動していった。
それはきっと、"失う"のが怖かったから。
妻を、家族を、失うかもしれない要因を全て取り除きたかったから。
だから、貧しさだとか、不自由だとか、全て取り除く。
それほどの力、金が欲しかったのだ。

……まさか、妻が秘密結社の一員とは思ってもいなかったが。

「……ジョンさん?」
ふと、不審がったクライアントに声をかけられる。
ああ、心配されていたのか、と理解したと同時に、ジョンはにっこりとほほえんで"正常"をアピールする。

……本当を言えば、怖い。
ここは、人が死ぬのだ。
幸運にもまだ人の死を目撃していないが、自分の知らないところで十数人の人間が死んでいる。
自分や妻、隣にいるクライアントだって例外ではなく、いつ死ぬか分からないのだ。
正直、今のクライアントが報酬を払うことを了承してくれたのはとても助けになった。
報酬をもらうために動いている、自分にそう言い聞かせることが出来るから。
本心をただひた隠しにし、報酬のためと言い聞かせながら。
今は、動くしかない。

「あ、あれは……」

そんな時だ、クライアントが小さな声でつぶやきながら何かを見つけたのは。
遠くに写る物陰、少し響いて聞こえる機械音。
そこで何が起こっているか理解するのは容易い。
だが、クライアントにとってはそれ以外の要素が"少し"絡んでいたようで。
「――――少佐」
その"少し"の要素は、今の欠落した彼女を突き動かすには十分すぎる要素で。
一呼吸も置かぬ間に、脇に携えていた重火器を手に走り出していた。

慌てて後ろを追いながら、ジョンは思う。
この地で三人もの仲間を失った彼女も、きっと。
「これ以上失う」のが怖いのだろうと。

在りし日の自分を重ねながら。



一発、二発、三発。
銃弾を吐き出しながら戦車に応対していくマルコ。
機銃の弾丸の雨や、打ち出される光線をいなしては数発の弾丸を撃ち込むという、こちらが疲弊しきるのが見えきった戦術。
せめて射程が狭ければなんとかなるのだが、電光戦車に搭載された数々の兵器が、マルコとシェルミーを苦しめる。
「くっ、こんな時に……ッ!」
二人の声がほぼ同時に重なる。
それは首輪解除まであともう一歩だったというところでの介入、という意味もある。
だが、シェルミーにとってはもう一つ含んだ意味があった。
ばち、ばちばちと右腕から雷が迸る。
時空間の捻れによる影響か、彼女は本来のオロチの力を操れずにいる。
力が暴走する、という形ならまだ喜ばしかったかもしれない。
なぜなら、暴走してしまうとはいえ"攻撃"が出来るから。
けれど、"微塵も力を扱えない"というならば。
もう一つの武器が肉弾戦の彼女にとっては、この上なく最悪な状況だ。
事実として初めの戦闘以降、上手く雷を操れていない。
ネームレスと対峙したときに生み出していた雷球程度がギリギリのレベルだ。
だが、今あの雷球を生み出せば、その隙に体中が穴だらけになってしまうだろう。
「お願い……」
体中に訴えかけながら、彼女は戦車だけを見つめる。
その先には、雨霰のように降り注ぐ兵器の攻撃をしのぎながら、ほんの僅かな攻撃を加えるマルコの姿。
時間はない、それは分かっているのだ。
「言う、コトッ……聞きなさいッ!」
自分自身に発破をかけ、頬を一度たたく。
すると、ばちりと一瞬だけ雷が体に走ったのが分かった。
躊躇っている暇は、無い。
「行く、わよッ!!」
生み出した雷を足の先端に集中させ、突撃していく。
狙い澄ますのは一点、戦車の中枢部と思わしき場所へ。

銃弾の雨霰を横切るように、蒼白の一文字が視界を横切る。
それは確かに電光戦車の体を切り裂き、深手を与えていった。
前輪に当たる部位、そこに大きな一文字の傷跡が残されている。
けれど、それは致命傷に至る傷ではない。
「おい! 避けろ!!」
手を伸ばしても、届かない。
だから、精一杯声を張り上げる。
けれど、彼女の体は上手く動いてくれなくて。
ばんっ、という破裂音と共に、彼女の体も後ろに大きく吹っ飛んで行く。
宙を舞うのは、赤みの掛かった茶色の髪の毛。
それは、戦車がいつかどこかでみた色で。
「ア……?」
違う、というのは分かっている。
いや、違う? そもそも違うって何だ?
でも、今目の前で吹き飛んでいったのは?
「ナディア……?」
ぽろりとこぼれた一言に、マルコは反応せざるを得ない。
「てめェッ、ナディアをどうした!?」
この地に巻き込まれた仲間の名、仲間を強く想うマルコだからこそ、反応せざるを得ない。
そんな問いかけに、戦車はゆっくりと骸骨の頭部を動かし、マルコに答えていく。
「ナディア トモダチ」
「はァ!?」
思わぬ言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。
新手の錯乱プログラムなのだろうか? と思うが、そもそも電光戦車が"喋る"ということすら聞いたことはない。
第一、ありがちでもナディアというピンポイントな名前を口に出すだろうか? 一介の兵器にそこまで高性能なAIを積んでいるとすれば、バカ高いコストになる。
それで出来るということが錯乱程度ならば、つぎ込む効果は無いに等しい。
早々に"搭載された機能"という線を切る。
ならば、この電光戦車は"なぜ喋るのか"という事が問題になる。
……電光戦車の材料は"生きていた人間"であると聞いたことがある。
それが本当なら、もしかするとという可能性は無いとは言い切れない。
「トモダチ コロサレタ」
考え込むマルコに、戦車は継ぎ接ぎの言葉を放つ。
暴走していたプログラムを止めたのは、シェルミーの放った迅雷の一文字のおかげか。
先ほど、少女と対峙していた時くらいには"会話"が出来るようになっていた。
「ナディア トモダチ ナレタノニ トモダチ コロス ニンゲン ニクイ」
つらつらと、断片的な言葉を並べ、怒りと悲しみを表す。
その姿はとても兵器とは思えず、一人の人間と大差ないレベル。
「ナディア……」
カタカタと髑髏をならしながら喋る兵器を見つめながら、マルコは部下の名をつぶやく。
兵器と友達、というのはどう言うことなのだろうか。
この兵器の妄言、として捕らえるのが一番いいのは分かっている。
けれど、マルコは戦車の言葉の奥に眠る"感情"を捨て去ることが出来ない。
「アウアア、ウアア」
言葉をかけられないままのマルコに、戦車は言葉を続ける。
話を聞いてくれるからか、それとも狂っているからか。
それは、マルコからは分からない。
「アオイ アオイ ホノオ ナディア ノミコマレタ」
戦車の言葉は続く。
その言葉が正しければ、炎に飲み込まれて死んだのだという。
「アノニンゲン イナカッタラ……」
そして、その炎にナディアを"巻き込んだ"人間がいる。
その人間は、既に戦車に殺されているのだろうか。
夥しい返り血が、推測をいたずらに加速させる。
「なあ」
そこで、マルコは一つのことを問いかける。
「ナディアは、なんて言ってたんだ?」
さもナディアの死に際に立ち会ったかのように振る舞う戦車に、ナディアの言葉を聞いた。
兵器に何を求めているのだろうか、自分でもバカバカしくはなってくるが。
聞かずには、いられない。
「……ウウ、ア」
少し、言葉を濁らせたあと、戦車は言葉を紡ぐ。
「チクショウ チクショウ」
その口から出たのは、後悔と思わしき言葉。
誰に向けられたものなのか、この兵器か、それとも炎に巻き込んだという人間に対してか。
「アウ、ウアア、アアアア!」
考え込む時間を生み出すことなく、戦車が再び叫び出す。
「ゴメンナサイ ゴメンナサイ!!」
次に出てきたのは、懺悔の言葉。
「トモダチ コロシタ! ナディアノ トモダチ!」
始まりの刻、戦車が犯した"罪"。
それが、今になってフラッシュバックする。
「アヤマレナカッタ! ゴメンナサイ ツタエタカッタ!」
本当は伝えたかったのに、本当は友達になりたかったのに。
出来なかったこと、してしまったこと、その全てが後悔という感情で戦車を支配する。
だが、マルコには伝わらない。
ちぐはぐな言葉では、人間とは会話できないのだ。
ましてや、かつて戦車を敵と見なしていた人間に対しては、絶望的だ。
それでも、マルコが戦車の言葉を聞き続けていられたのは。
戦車の言葉から飛び出したのが、"仲間"の名前だったから。

もし、それが他人の名だったなら。
狂乱した兵器として、シェルミーとラピスを傷つけた兵器として割り切れたかもしれない。
もし、戦車が言葉を喋らなければ。
ただの兵器として破壊できたかもしれない。

それは、たらればの話。現実ではない。

ふと、一瞬考えを離した時の出来事だった。
「少佐!!」
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえる。
振り向くと、見覚えのある少女の姿があった。
丸い眼鏡、ベージュの帽子、短く括られた髪の毛。
頼れる仲間、フィオリーナ=ジェルミが。

ロケットランチャーを構えて、こっちに立っていた。

「バカっ、やめろ!!」

どうしてそんな事を言ったのかは分からない。
気が付けば、口からぽろりと飛び出していた。
けれど、きっとその言葉は届かなかったのだろう。
フィオから放たれるある種の殺気を、戦車が感じ取る方が早かったのだから。

「ニンゲン、ニンゲン、ニンゲン!!」

恨みの言葉を繰り返しながら、戦車は叫ぶ。
その前門を開き、自身に積まれた装置を急速回転させていく。
キィン、と甲高い機械音が耳に届く。
ニンゲンはニンゲンを、トモダチをコロス。
憎い、憎い、だから殺す。
この身に積まれた兵器と、この身に刻まれた意志が、戦車を唆す。
目の前の、誰かを殺そうとしている人間を、殺す。
ロケットランチャーの弾が飛び出すと同時に、電光機関の回転音がピークに達する。

そして、景色が一面の白に包まれた。



「ドジった、わね……」
血塗れの腹部を押さえ、地を這い蹲りながらシェルミーは笑う。
オロチの末裔が、オロチの力を操れずに、人間の作った兵器に殺される。
なんてバカバカしい話なのだろうかと、自分でも笑ってしまうほどだ。
時系列の捻れ、本来存在しない人間が"地球意志"を操ること。
矛盾した力を振るうことは、そう簡単ではない。
「……無理、かな」
力が抜けていく体を確かめながら、何かを悟ったかのように呟く。
自分がもう存在できないこと、矛盾した存在であったこと。
改めて認識しつつ、この殺し合いがなければ普通に生きていけたのに、と完全者に憎しみを募らせる。
けれど、もう完全者を殴ることも叶いそうにない。
「しぇる、みー?」
「あら、ラピ、ス」
ふと顔を動かしてみれば、そこにはこの地で初めに出会った少女の姿があった。
腹部をズタズタに撃ち抜かれながらも、木により掛かって何とか呼吸を整えている。
けれど、止血を試みている彼女の思惑とは裏腹に、ラピスの腹部からはだくだくと血が流れ出している。
誰の目から見ても、もう助からない。
ここにいる二人の女は、どうやっても助からない。
百人呼んでも百人がそういう、そんな状況に。
「ね、ラピス」
彼女は言う。
「生きたい?」
百人呼んでも百人が言わない言葉を。
「どうい、こと?」
この状況からどうやって生き延びるというのか。
今にも消えそうな命の灯火を、どうやって燃え上がらせるというのか。
ラピスは抱いた疑問を口にする。
「時間、ない、から、はいか、いいえ」
けれど、シェルミーは答えてくれない。
どうやれば生き延びられるのか、それを教えてくれることはない。
いや、そんなことを気にしている場合ではない。
きっとこうしてグダグダしている間にも、互いの時間はガリガリと削られていく。
遺跡探索のタブーは"迷う"こと。
決断力の鈍り、それが死を招く。
だから、彼女は即座に答えを返す。
「う、ん。生きた、い」
生きたいか死にたいかなんていう問いかけ、百人に百人が生きたいと答えるだろう。
ラピスとて、例外ではない。
まだまだ探索していない遺跡や、解明していない謎がある。
おいしいものだって食べたいし、いっぱいお洒落もしたい。
そしていつかは、素敵な男性と巡り会うことだってしたい。
何より、まだ彼女は完全者を殴っていない。
こんな場所で死ぬわけには、いかないのだ。

けれど、どうやってこの状況から脱するというのか?
「じゃ。私の、問い、に。ぜんぶ、"はい"って、言って、ね」
絶え絶えの息の中、シェルミーはそれだけをラピスに告げた。
何を始める気なのだろうか、ラピスには全く見当も付かない。
しかし、他に出来ることなど何もない。
彼女が言う"生き続ける"ために、ラピスは口を開く。

それはまるで機械のように。
シェルミーの問いに対して、はい、はい、はいと、全てを肯定していく。
何度目だろうか、はいと呟いたあと、シェルミーがふふっと笑った。
「歓迎、するわ」
歓迎? それはどう言うことなのだろうか。
全く以て理解が出来ないまま、出来事だけが進む。
「降りて、来なさい」
そしてシェルミーが、天に手を翳す。




















                      ぴしゃり。

                                             ――――雷鳴が響く。




















――――一瞬の出来事だった。
引き金を引くと同時、少佐が自分に何かを言っていたのと、自分の体が大きく傾くのが分かった。
今思えば、不用心だったかもしれない。
幾多もの人間を殺して回った、あの電光戦車に正面から挑むなんて。
けれども、そんな電光戦車の側に頼れる"仲間"がいるなら。
"人間"を殺す"兵器"の側に、"仲間"がいるなら。
"仲間"を守ろうとするのが、当然の行動だろう。
そう思って……いや、大半の人間は、それが正しいと思うだろう。
けれど、この地においてだけは、それは"間違い"だった。
もし、彼女が引き金を引かなければ。
もし、彼女が戦車に向けて敵意を表さなければ。
もし、彼女がもっと冷静になれたなら。

これから先の話は、語らなくても良かったのかもしれない。

けれど、それもまたたらればの話。
現実に起こったことは、もう変えられない。
彼女は戦車に敵意を向け、兵器の引き金を引いた。
その事実だけは覆しようがない。



突き飛ばされてすぐ、目に入った"モノ"。
初めは、それがなんだか理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
腰から下をごっそりと失った「ジョン=スミスだったもの」だなんて。
あの一瞬に何が起こったのか? それは周りを見れば分かる。
消え失せた木々、焼け焦げた地面、それが出来る唯一の要素。
ありとあらゆる物質を無に帰す、電光戦車の最終兵器。
神々の黄昏の始まりを告げる笛と同じ名を冠するそれが、この光景を齎した。
「あ……」
情けない声がでる。
情に動かされるなど軍人にはあってしかるべき事ではないと言うのに。
けれど、目の前の人間だったものと、塵すらも残らず消えていった人間がいるという事実が、自分の心を抉る。
ただ、ぼうっとその光景を見ることしかできない。
「ふう……無事、か?」
口から大量の血を吐きながら、ジョンはフィオに問いかける。
その言葉に、フィオはゆっくりと頷いていく。
「そう、か」
フィオが頷いたことを確認したジョンは、にっこりと微笑む。
なぜ、笑っていられるのか。
自分の目と鼻の先にはもう、"死"が待ちかまえているというのに。
「クライアン、トに死なれ、ちゃあ……報酬、もらえね、からな」
まさか、それだけの事で。
お金が貰えないと言う事だけで、自分をかばったというのか。
いや、元々報酬の掛かった"仕事"だったからか。
フィオの頭で思考が輪廻する。
けれど、そのどれもが正解とは結びつかない。
ジョン=スミスが心に抱いていることが理解できるのは、おそらくこの世で一人だけなのだから。
「……悪い、な……嫁に、渡しと、て」
にっこりと作られていた笑顔がふと消え、伸ばしていた手が力なく崩れ去る。
分かっている、半身を失ってまで生きていられる人間など、居るわけがない。

"自分が庇われた"ということと、"庇われた理由"。
そして、目の前で二人も仲間を失ったという事実。
それらは、フィオをその場に縫い止めるのに十分だった。

キュラキュラ、とキャタピラが音を立てる。
ノイズのような何かとともに、戦車が自分に近づいてくる。
そうだ、電光戦車は人を殺す。
だから戦わなきゃいけない、戦わなきゃいけない。
ランチャーを構えて、引き金を引く。
それだけ、それだけでいいのに。
体はぴくりとも動いてくれない。
もう、どうでもいいからなのか。
いや、そんな事は有る訳が無い。
でも、指の一本すらも動かない。
戦車の機銃の射程に、自分の体がすっぽり入る。
このままぼうっとしていれば、"終われる"。

ノイズ、叫び、機械音。
全てが入り交じった不快な音だけが、耳を貫いていく。
けれど、もうそれもどうでもいい。
もう、終わるから。

「落ちよ」

その中で、やけにクリアに聞こえた一人の少女の声。
まもなくして、再び視界が白に包まれる。
戦車が兵器を作動させたから? 違う。
今、フィオの視界を覆い尽くしていったのは、真っ直ぐだけど歪な一本の光。
それは、戦車の車体をまるまると飲み込み。
その全てを、灰に変えていった。

光が薄れたあと、視界に写ったのは一人の少女。
その体に、神の雷を纏っていた。



オロチ一族は、なにも全員が全員オロチの末裔というわけではない。
オロチ一族を介して地球意志と会話して行われる契約によって、新たにオロチ一族になる人間もいる。
中には契約を介して、オロチ一族ないしオロチ八傑集まで登りつめた人間もいるほどだ。
望めば、人は誰でも"オロチ"になれる。
自分の意志をオロチの意志とかみ合わせた上で、一族の誰かに通じてもらえばオロチ一族になるのは簡単だ。
まあ、一般人はその"オロチ一族"が誰なのかすら、分からないわけだが。
未来永劫の時まで輪廻を繰り返す地球意志から齎される力は強大だ。
一人の少女には十分すぎる力でもある。
けれど、死の淵にたたされた"生きたい"と願う少女を救うにはそれしかなかった。
言葉の全てを告げず、ただ"はい"と言わせることで半ば無理矢理同調させ。
シェルミーは最後の力で、少女を新たに"オロチ一族"に仕立て上げた。

オロチ一族であるという情報の断片だけ残された自分では、新たな契約は出来ない。
安定して使えない力を持って自分が生き延びるより、安定した力を持って誰かが生き延びた方がいい。
きっとその方が、"完全者"をシメれるから。

オロチと契約すれば、生き延びるに十分すぎる力を初めとして、メリットが多々ある。
だが、同時に大きなデメリットもある。
地球意志に従わなければいけない"宿命"を背負うこと。
そして"血の暴走"と戦わなければいけないこと。

それでも、少女はきっと生きたいと願うだろう。
自分には、まだ見ていない世界が多々あるのだから。
きっと、その意志の力が有れば。
地球意志にも、勝てるかもしれない。

あの、八尺瓊の末裔のように。



「がッ……!」
頭を抱え、少女はその場にうずくまる。
そのときようやく意識が現世に戻ってきたフィオが、あわてて少女の元へと駆ける。
「あ、大丈夫……まだ、なんていうか、上手くいかないだけだから」
駆け寄ってくれたフィオに対し、少女は手を付きだして"正常"をアピールする。
そしてゆっくりと立ち上がり、服の埃を払ってから山の方を見つめる。
「さて……早く行かなきゃ」
「どこに?」
どこかへ行こうとする少女に、フィオは問いかけていく。
「決まってるよ、完全者をシメに行くよ。こうして――――」
完全者を倒す、その言葉は今のフィオに光り輝いて聞こえる。
そして、その輝いた言葉と同時に、ガタリと何か機械が外れる音がした。
「首輪も、取れたわけだし」
忌々しい首輪の除去、少女は目の前でいとも容易くやってみせた。
「あなたは、どうするの?」
あっけに取られているうちに、少女が自分に問いかけてくる。
その言葉と同時に、フィオの頭の中に響いたのは上司の言葉。
"やせ我慢しろ。俺たちの闘いは、終わることはない"
なぜ、それを思い出したのかはわからない。
けれど、自分は今、迷っている場合ではないという事は分かる。
きっと、それを認識させるために、無意識に思い出したのだろう。
「私も、連れて行ってください」
力強く、同行の願いを申し出る。
「"みんな"の分、生きて伝えなきゃいけませんから」
自分には、背負っているモノがあるから。
「よし、決まりね」
同行を願い出たフィオに、少女はにっこりと微笑み、フィオの元へ近寄る。
そして、手を首の回りに翳し、目を瞑って静かに集中し始めた。
「ちょっと痛いかもだけど動かないでね、まだあんまり安定しないから、さ」
ばり、ばりばりと電気が少女の手から走る。
ちりちりと痛みが首に走るが、それをじっとこらえて我慢する。
じわじわと続く痛み、けれどこの程度の痛みに悶えている場合ではない。
「……よし、オッケー」
しばらくして、ゴトリという音と共に首輪が外れた。
少女はなぜこの首輪の外し方を知っていたのか。
そもそもなぜ天災を操ることが出来るのか。
疑問はつきないが、まずは告げるべき言葉がある。
「ありがとうございます、えと……」
感謝。
こんな場所だからこそ、感謝する気持ちは忘れてはいけない。
自分の命を握っていた枷を外してくれたことに感謝を告げようとするが、さすがに初対面の少女の名を知っているわけもなく、フィオはおどおどしてしまう。
「ラピスだよ、よろしくね」
そんなフィオに、ラピスは優しく微笑みかける。
「フィオです、フィオリーナ=ジェルミ」
自己紹介には自己紹介を、一般的な礼儀でしっかりと返していく。
同時に差し出した手は快く受け取られ、固い握手となる。
ラピスの手は暖かく、それでいてどこか冷たかった。
「じゃ、行こ。積もる話は道中でいいよねっ……っと」
ゆっくりと握手を解き、前へ歩き出そうとするラピスの体が大きく傾く。
即座にフィオが体を支えたから良かったものの、そのままでいれば確実に転んでいた。
そして、その時にフィオは知る。
少女の腹部が、弾丸のようなものでごっそりと抉られていたことに。
さらに、その傷口が少しずつ塞がり始めていることに。
「あー、ごめん。やっぱ傷が痛すぎるから、ゆっくり行こうか」
苦笑いを浮かべ、ラピスはフィオに申し訳なさそうにする。
互いに聞きたいことが、今の時点でもかなりある。
けれど、立ち止まっている時間はない。
だから一歩でも前に進み、少しでもやせ我慢を続けながら。
彼女たちは、前へ進む。

"誰か一人でも理解できていれば、回避できたかもしれない未来"の道の上を、真っ直ぐ、真っ直ぐに進んでいく。

【ジョン・スミス@アウトフォクシーズ 死亡】
【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ 死亡】
【シェルミー@THE KING OF FIGHTERS 死亡】
【電光戦車(2)@エヌアイン完全世界 完全崩壊】

【G-07/中央部/夕方】
【ラピス@堕落天使】
[状態]:腹部裂傷、オロチと契約、首輪解除
[装備]:一本鞭、ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:完全者をシメる
1:改竄された歴史に興味。
[備考]
※オロチと契約し、雷が使えるようになりました。

【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット、ロケットランチャー@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。
1:前を向く
Back←
073
→Next
072:力と拳で叫べ
時系列順
075:生きねば。
投下順
074:帰ろう 当たり前の『日常』へ
070:脱走開始
マルコ=ロッシ
救済
シェルミー
ラピス
079:賽が投げられる
060:ラスト・ブレイク
フィオ=ジェルミ
ジョン・スミス
救済
071:友達から始めよう
電光戦車(2)

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