俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「グルァッ!!」
初手を突き出したのはゾンビ、鋼をも打ち砕かんほどの拳が音速で飛ぶ。
攻撃の対象とされた鼎は素早くその攻撃をかわし、生まれた隙をシェンがつく。
めり込む拳、伝わるひんやりとした感触。
間違いない、この男は死んでいる。
けれど今、両の足を地に着け、シェン達に立ち向かってきている。
なぜか、どうしてなのか。
鼎は、考えられる可能性を全て考える。
けれど、シェンは。
「うおっ!!」
反撃の拳をギリギリでかわしながら、笑う。
シェンにとってはなぜ寅男が蘇ったのか? とか、なぜ自分たちに襲いかかるのか? とかは明日の生ゴミくらいどうでもいい。
戦える、拳を振るって大暴れできる、それだけで満足なのだ。
「おいババア、邪魔だからすっこんでろ」
「なっ……!!」
初撃を避けてから様子見をしていた鼎に、シェンはきっぱりと言い放つ。
戦わないのにそこにいる、シェンにとってはそれだけで"邪魔"なのだ。
もちろん、はいそうですかといって鼎も食い下がるわけには行かない。
死体が動き、民間人に襲いかかっているというのに軍人である鼎が引き下がれる訳も無いのだ。
「あなたこそ、早く逃げなさい」
「逃げる? ハッ、バカ言ってんじゃねえ」
シェンは鼎の言葉に全く耳を貸さず、ゾンビに殴りかかる。
相手が避けないのでサンドバッグを殴っているようだが、ダメージが入っている感覚は全くない。
暖簾に腕押し、とはよく言ったものだ。
「キシャアッ!!」
ゾンビの鋭い跳び蹴りが、シェンの顎を捕らえんと迫り来る。
あえて、その蹴りはガードしない。
代わりに、シェンは腕を突き延ばす。
交差する脚と拳、お互いに吹き飛ぶ両者。
まるで朝の戦いを再現しているかのように、激しい戦いを繰り広げる。
シェンにとっては、楽しい殴り合いの時間。
けれど、それに水を差す存在が居て。
「とりゃっ!!」
ふんわりとした飛びから全体重をかけたボディプレスを繰り出していく。
ゾンビはその一撃を難なく避けるが、鼎はそこまで計算していた。
急いで飛び退いた距離、それは鼎にとっての必殺の間合い。
「――――覚悟」
胴着の胸元をしっかりと掴み、放さない。
四方を捻れ回る螺旋を描きながら、ゾンビの体を振り回していく。
そして空高く放り投げ、すかさず鼎も宙を舞う。
宙に放り出された無防備なゾンビの体を掴み、宙を回りながら地面へ叩きつける。
最後に、もう一度飛び上がる。
手を真横に広げ、ただ一点に集中して足を中心に体全体を落とす。
最後のとどめが、ゾンビの胸元に打ち込まれる。
少し弱くなっていた肉体と内臓が、音を立てて破裂する。
ぽっかりと胸に大きな穴を空けた、ゾンビの体の上に立ち、ため息を一つこぼす。
「……邪魔すんなって言ったろ」
シェンは、そんな彼女に背後から声をかける。
その顔は当然、不満に満ちている。
折角楽しんでいたところに邪魔が入ったのだから、彼の機嫌が曲がるのも無理はない。
「異常事態に対し、迅速な対応と制圧を行っただけ」
「チッ、これだから軍人ってのは嫌いだぜ」
あくまで事務的に答える鼎に、シェンは顔をしかめる。
記憶にある軍人は、どいつもこいつも揃って面倒な奴ばかりだった。
軍人という人種は、面倒極まりない。
そういう認識がシェンの中で出来上がってしまいそうになるくらいには、シェンは軍人が苦手だ。
「じゃあ、アンタが俺と戦ってくれるのかよ?」
不満をぶつけるように、シェンはまっすぐに願望を鼎へと伝える。
「……生憎、民間人に振るう力は持ってないのよ」
「お高く止まりやがって」
それをさらりと冷たくあしらう鼎に、怒りを示しながらシェンは飛びかかる。
力が無いというのならば、引き出せばいい。
暴徒の迅速な制圧が仕事だというのならば、この自分を止めて見せてもらえばいい。
シンプルかつ単純な選択肢を選び、シェンはその拳を唸らせていく。
その姿を見て、鼎も心を引き締める。
民間人ならともかく、暴徒は鎮圧せねばならない。
誰でも構わず襲いかかるというのならば、ここで止めておくのが当然の義務。
ゆっくりと呼吸を整え、超速で迫ってくる男の拳に対して、空気を流す構えを作っていく。
先ほどと同じように、ぴったりとはまり、男の体が宙に投げ出される。



ことはなく。
「ガッ……!?」
漏れたのは、鼎の苦悶の声。
構えが影響しない背後から迫り、必殺の跳び蹴りを打ち出していた"ゾンビ"の姿があった。
ぐらり、と姿勢が崩れたところにシェンの拳が突き刺さり、鼎の体を吹き飛ばしていく。
近くの壁に無防備に叩きつけられ、骨が軋む音とともに血を吐き出していく。
けれど、気を失うことなく堪え忍ぶ。
心臓を容赦なくぶち抜いたはずのゾンビが生きているというのは不可解だが、まだ生きているというのならば話は変わる。
また、あの動の力を流して倒せばいい、それだけのことだ。
ニヤリと笑うシェンをよそに、ゾンビは鼎の方へと向かう。
跳び蹴りか、はたまた拳か。
そのどちらにも対応できるように、鼎は構えを作っていく。
「――――ハッ」
全身を一体化させ、体を振るわせて一つの盾を作る。
瞬間的に身体能力を増強させ、全ての神経を尖らせる。
これで、どんな攻撃が来ようと対応できる。
「ドアァッ!!」
予想通り、鼎をめがけて攻撃は飛んできた。
けれど、それは打撃の類ではなかった。
男が空手の胴着を着込んでいたことから、接近戦しかないと決めつけていた。
確かにその読みは当たっていて、男は空手の使い手だ。
しかし、今の男はただの男ではない。
血液の流れを自在に操り、激流を生み出すゾンビの一人。
本能のままに突き出された抜き手が、暴走する血流によって吹き飛び、弾丸のように鼎へと襲いかかる。
激流に乗ったドス竜は赤い一本の線を描き、まさに弾丸のごとく駆け抜けた。
吹き飛ぶ鼎の上顎から上、何が起こったのかを理解することもない。
ただ、ゆっくりと力なく崩れ去っていくだけ。
どさり、と倒れた体は、静かに血を吹き出していく。

「いいもん持ってんじゃねえか」
一瞬で肉塊と化した鼎を見て、シェンはより大きく笑う。
ゾンビにはまだ片腕が残っている、ということは後一発それを打てると言うこと。
あの攻撃に、正面から立ち向かってみたい。
そんな欲望が、心の底から沸いてくる。
「……うおおおおおおっ!!」
もう一度自身を殴り、気を高めていく。
今度は爆発させず、その力を全て体に込める。
ゾンビが先ほどと同じように拳を構えている。
同じ攻撃を繰り出すつもりだと、心の中で確信する。
悔いの無いよう、全身全霊をかけ、意識を腕に集中させる。
「おんッ……」
大きく一歩を踏み出す。
瞬間、体全体を一つの弾丸のように射出していく。
空間が抉れたかのように超移動を遂げたシェンの体と、同じように撃ち出されたゾンビの腕がぶつかる。
今にも爆発しそうなほど強力な力のぶつかり合い、両者が両者共にそれに耐えている。
シェンはため込んだ力を、ゾンビは流れ出る血流の力を。
先にゆるんだ方が負け、という単純な戦い。
力の押し合いが、完結する――――



「へへっ」
太陽が真上に昇った空を眺め、シェンは笑う。
体の中の力をさらに爆発させ、押し切ることには成功した。
全身全霊を込めて顔を殴り飛ばし、古くなりはじめていた首から上を綺麗に吹き飛ばした。
中枢神経をぶっ飛ばしたからか、ゾンビはもう動く気配を見せない。
勝ったのは、シェンだ。
「がっ……」
だが、戦いは終わったわけではない。
ゾンビ……鬼瓦寅男を豹変させた要因。
それは、人体から人体にさらに転移する。
頭を吹き飛ばされた鼎はそれに取り込まれることはなかったが、シェンは傷だらけなだけで体は残っている。
ゾンビは、新たな依代として彼を取り込もうとしている。
「ざっ、けんなっ!!」
気合いを込め、その全てにあらがおうとする。
体内に入り込もうとしているなら、体内で倒してしまえばいい。
気の流れと血流をうまく操り、シェンは見えないそれと戦っていく。
「……この体は、俺のモンだ」
全てを排出し終わり、シェンはにやりと笑う。
あんな風に操られるわけにはいかない、この体は唯一ただ一人、シェンウーの体なのだから。
「チッ……」
軽く、舌打ちをする。
連戦に次ぐ連戦、立て続けに気を使っていた。
もう、シェンの体は限界だ。
「まだ……まだ!!」
ずりっ、ずりっと地を這いながら前へ進む。
しかし残された力はほとんど無く、わずかに前に進むだけで終わってしまった。

だが、この少しの前進が彼を救うことになる。
幸運にも禁止エリアの境界線で、シェンは倒れていた。
そして、このわずかな匍匐前進が、彼の体を半分以上禁止エリアから外に運んでいた。

知らずのうちに助かっていたことなど知らず、シェンは無念の表情のまま眠る。
力を蓄えなくてはいけない、だってまだまだこの場所には戦いが有るのだから。
だから、今は少しだけ眠る。

また、起きたら戦うために。

【鼎@エヌアイン完全世界 死亡】
【鬼瓦寅男@堕落天使 再死亡】

【ギリギリG-3/北部/1日目・日中】
【シェン・ウー@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:ケンカを楽しむ
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057:状況は開始されている
時系列順
059:『分からない』
投下順
045:白い悪魔が笑う
救済
鬼瓦寅男
シェン・ウー
072:力と拳で叫べ

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