最終更新:ID:WPVyUA8VHA 2013年07月29日(月) 00:56:04履歴
「よぉ……こりゃ、珍しい顔ぶれに出会うもんだ」
猿を撃退してからしばらくして、アーデルハイドとバーナードの傍に一人の男が現れる。
「クロード……」
「その名は捨てたって言っただろうが」
"捨てた名"をつぶやいたのはアーデルハイド。
父――――ルガール・バーンシュタインの事もあり、彼とは何度か顔を合わせたことがある。
まあ、口を利くのはこれが初めてだが。
「ところで、アンタよりオレが気になるのは、アンタだ」
ぼうっと考えていたアーデルハイドをよそに、男はバーナードを指さす。
「……だろう、な」
言われなくても、分かっている。
自分が名の知れ渡った殺し屋であることくらい。
そして目の前の男、塞が抱いている疑問も、容易に察することが出来る。
「アンタらしき殺しの現場に、嘔吐物があるって聞いてビビったぜ。
いつもはそんなモノなんて残さず、完璧に仕事するのにな」
何故、バーナード・ホワイトが人間とつるんでいるのか?
というシンプルな質問を、少し曲げて問いかけてくる。
まあ、同行者が居るときに正面から「どうして隣の人間を殺さないんですか?」とは問えないか。
「心境の変化だ、"人間"なら誰でも起こりうる」
「ほぉー、アンタの口からその言葉が聞けるとはね」
おちょくるわけでもなく、純粋に感嘆の声を上げる。
その反応にバーナードも特に不快感を示すことなく、普通に流していく。
「ま、いいか。それより気になるのはアンタの今後の方かな」
だいたいを察したのか、バーナードに問いかけることをやめ、塞は続けてアーデルハイドに問いかけていく。
「親父、ここに居るみたいだぜ? アンタはどうすんだよ」
塞が問うのはアーデルハイドの今後、具体的な立ち振る舞い。
父であるルガール・バーンシュタインがここにいると分かった以上、息子である彼にはそれを聞かなければいけないのだ。
「……父か」
目を細め、少しだけ遠くを見つめてぽつりとつぶやく。
「止めようとは思っている、きっとまたよからぬ事を考えているだろうからな」
表向きには、反旗を表していく。
けれど正直言えば、分からないのだ。
どんな顔をすればいいのか、どう向き合うのが正解なのか。
世界の大悪党とまで呼ばれた人間に対し、血のつながった人間が出来るのは、何なのか。
止めるのか、共に進むのか、それとも別の道なのか。
確実に居ると分かった以上、近いうちに動かなくてはいけないのだ。
「……まあ、親子問題以上の事もあるから、難しいだろうねぇ」
塞が空を見上げる。
そう、個人の私情以上のモノが、あの男には何重にも絡みついている。
アーデルハイド一人の力ではどうすることも出来ない問題すら、そこにはある。
じゃあ、どうするのがいいのだろうか?
「あのー、すみません」
そんな三人の中に、柔らかい声が飛び込んでくる。
全員が視線を向けると、そこには日本の国民的アイドル、麻宮アテナが居た。
その姿に思わず、息を呑む。
なぜなら彼女の片目からは、眼帯越しにだくだくと血が流れていたから。
「ここらへんで、これくらいの小さな双子を見ませんでした?
二人とも黒い服で、金髪の。一人はロングヘアーの女の子で、一人はショートカットの男の子です」
当の本人はそんなことを気にも留めず、問いかけを続けていく。
「小さな双子? 悪いが、見ていないな」
「同じく、だねえ」
アデルと塞は淡々と答えだけを返す。
特にもったいぶるメリットもないし、嘘を盛る必要もない。
正直な返答、それに対しアテナは短くそうですか、とつぶやく。
そのまま立ち去ろうとした彼女を、アーデルハイドは呼び止める。
「ところで、その目は――――」
「あなたの父にやられました」
気になって仕方がなかった事、それの事実は一番重いもの。
やはり、自分の父は大暴れしているのだろうか。
無力感から歯をギリリと鳴らし、力強く拳を握りしめる。
だが、悔しそうなリアクションを見せるアーデルハイドに、アテナは至って冷静に告げた。
「……でも大丈夫、彼は"殺し合い"には乗っていません。
ミュカレを倒そうとする人間のうちの一人です」
その場にいる三人が、肝を抜かれたかのような表情を浮かべる。
今、なんと言った?
あの"ルガール・バーンシュタイン"が殺し合いに乗っていないと言ったのか?
俄には理解しがたい情報に頭を抱えるが、情報源が情報源なだけに無碍にするわけにもいかない。
考え方を変えれば、彼女がここに立っている事が証明ともとれる。
ルガールが殺し合いに乗っているならば、彼女は無事では済まないどころか、今目の前に現れることもなかっただろう。
ルガールが殺し合いに乗っていない、というのは確かだと考えてもいい。
彼女の左目は……おそらく、それを信じなかった応酬だろう。
だが、何故?
ミュカレに刃向かう理由、アテナを泳がせている理由、その全てが紐で繋がりそうで繋がらない。
「もう一つ、いいか?」
「何ですか?」
それを考えている矢先、バーナードがアテナに何かを問いかける。
「……アンタが探してる双子、ひょっとして"ダニー"と"デミ"か?」
「ッ! 知ってるんですか!?」
バーナードから出た名前に、アテナは表情を変えて食いついていく。
再び驚きの表情を作りながらも、バーナードは冷静に問いかけに応じていく。
「知ってるも何も、"こっち"じゃ有名だからな。
純真が故に残虐、情けも何もない悪魔のような殺し屋。
それが――――」
「は?」
言葉が途切れる。
いや、途切れさせられたと言うべきか。
まるで汚物を見るかのような目線のまま自分をにらみつけている、アテナの気迫に。
「……ダニー君、デミちゃん、この男の人は何を言ってるんだろうね」
続いて、"どこか"に話しかける。
ゾクリ、と背筋を舐められるかのような感覚が襲う。
「そうだね、じゃあ」
ワンテンポおいた無感情な言葉。
「そうしよっか」
何かを言おうとしたとき、アテナの姿がふと消えた。
出そうとしていた言葉は、音として外に出ることはない。
続けようにも続かなくて、ただ喉から空気が漏れる音だけが聞こえる。
理解できない状況を飲み込もうとする。
目の前に突然現れた麻宮アテナの姿をとらえる。
狂った悪鬼の表情の浮かべ、自分を睨んでいる。
手には、剣を象った超能力。
どさり、とバーナードが後ろに倒れた瞬間、凍り付いた時が動き出す。
「麻宮ッ!?」
手に剣を作ったまま、アテナはアーデルハイド達を睨む。
彼女のモノとは到底思えない気迫に、アーデルハイドは思わず一歩退いてしまう。
「違う、あの子達はそんなんじゃない」
小さく、けれど確実につぶやかれた言葉は"重い"。
「残虐な殺し屋? そんなの誰が決めたのよ」
ずしり、という音が聞こえてきそうなくらいに、"重い"。
「あの子達は普通の子供、幸せを手にする権利がある」
アーデルハイドは口を開くことが出来ない。
「だから、帰らなきゃいけない」
気迫に押されたというのもある、しかし、それより。
「……だから、あの子達に烙印を押そうというのなら」
麻宮アテナという一人の人間がここまで変貌していることに。
「私が、あの子達を守る!」
驚きを、隠せない。
「ストップ」
もう一度バーナードに振り下ろされようとしていた剣が、止まる。
すらっと延びた黒いスーツの足が、アテナの手をぴたりと止めていた。
「退いて」
「それは出来ねえなあ」
ぐぐっ、と塞の足が押され始めている。
怒りの力による体内での超作用、と言ったところだろうか。
非力な少女の姿からは考えられないが、あまり長時間も持ちそうにもない。
状況を判断しながら、塞は後ろでぼうっとしていたアーデルハイドに指示を飛ばす。
「おい、アーデルハイド。バーナード連れて山下りろ。
たぶん南なら安全だ」
「何を……」
「早くしろッ!」
柄にもなく声を荒げ、アーデルハイドをがなりつける。
ビクリ、と反応してから鞭に打たれたかのようにアーデルハイドは動き出した。
「待ちなさい!」
「おおっと」
バーナードの体を持ち上げて立ち去ろうとするアーデルハイドを、アテナは当然追いかけようとする。
そして、当然ながら塞が間に割って入る。
「アイドルの相手だなんて、こんなシチュエーションじゃなきゃ喜んでお受けするんだがねえ」
「ふざけないで」
けらけら、と笑いながら塞はアテナを見る。
据わった目、決まった覚悟、そして超能力。
理由はわからないが、彼女は"こうなった"。
飛賊の連中が追い求めていたとされる力、それに酷似した"何か"を手に、自分たちへ牙をむいている。
「……老師の言っていた通りになるたぁ、な」
塞はアテナ達の武術の師とも繋がりがある。
いつだったか言っていた、包という少年に宿りかけた力は、誰しもに宿り得る力なのだと。
それに近い力を振るう者ほど、"それ"に魅入られやすい。
一度魅入られかけた包という少年と、魅入られかけながらも力を爆散させることである程度コントロールすることに成功した青年。
そして、未だに魅入られたことのない少女。
……抵抗することも、それが何なのかも気づいていないのか。
恐怖、怒り、悲しみ、その全てが彼女の"何か"を壊しているのか。
はっきりとした答えはつかめないが、麻宮アテナが"おかしい"のはわかる。
「……この"世界"がいけないのよ、あの子達を"殺し屋"だと決めつける世界がいけないの。
だから、私は"世界"からあの子達を守らないと」
塞が思考を走らせている時、アテナは小さくつぶやく。
殺し屋という烙印を押したのは、あの双子を"そうさせた"のは。
このねじ曲がった"世界"なのだから。
「じゃないと、帰れない」
だから、壊さないと帰れない。
幸せに、普通に、平凡に暮らすことが出来る世界に帰れない。
「……逃避は楽しいかい?」
サングラスの位置を直しながら、塞は静かにアテナに問う。
答えは言葉ではなく、一発の気弾。
先ほどより明らかに威力が増しているそれを、塞は落ち着いていなしていく。
「こんな場所であの力に目覚められちゃあ困るからな、さっさと終わらさせて貰うぜ」
折れた腕を庇うことをせず、塞は両手をポケットにつっこむ。
一見、やる気の無いように見える。
だが、彼にとってはこれが戦いの姿勢。
足に意識を集中させ、足で戦うのが彼の戦い方なのだから。
再び、気弾が塞めがけて飛んでくる。
その場にとどまっていなすことも出来たが、塞はそれをしない。
地面を軽く蹴り、水平線上に駆け出していく。
逃げる塞の姿を追うのは、アテナから飛び出していった幻影。
向こうの攻めに備えて守りの姿勢を作るも、拳を振るうと言ったところで幻影が霞んでいく。
同時に上を向くと、空高く飛び上がっている本物の麻宮アテナの姿。
気を纏いながらの高速の突進に、塞はただ守ることしかできない。
軋む骨の音を聞いて判断し、塞は片腕を差し出す。
わざと再起不能にさせることで、体全体のダメージを和らげる。
どうせ戦いには使えない腕なのだから、失っても問題はない。
「搦め手か……」
血を拭い、塞はぼそりとつぶやく。
超能力をメインとした扇動と攪乱が戦闘スタイルと聞いていたとはいえ、実際に相手をしてみると、こうも厄介だとは。
出来れば生きたまま無力化させたかったが、そうも言ってられない状況のように思える。
「腹括るか……!」
だらりと下がった腕をそのままに、塞は地面を滑るように駆ける。
それを待っていたかのようにアテナは転移を行い、塞を攪乱させていく。
きょろ、きょろとアテナの姿を探す塞。
それを好機と見たか、アテナは再び転移を行う。
移る先は、塞の背後。
虚を完全に突いた一手で、最大限の力を解き放っていく。
蒼の双球が、アテナの周りをぐるりと回り始める――――
「やっぱり、来てくれたな」
同時に、がしりと肩を掴まれる。
塞の動く片腕が、アテナの肩へと真っ直ぐ延びていた。
ばちばち、と超能力がアテナの体で爆ぜていても、塞はそれを気にせず掴み続ける。
そして、もはや使い物にならないであろうもう片方の腕を、ゆっくりと動かす。
「俺の目を――――」
たった一つの使い道を、成し遂げるために。
「見ろォっ!!」
サングラスを外す、という簡単な動作をするために。
傷だらけの腕を、動かした。
世界が暗転する。
――――塞の、世界が。
現実の見えていない少女は、目の前の光景も写っていなかった。
と、いうより。
都合の悪い物を投げ捨てる、と言うべきか。
ただ、見えていないだけでは邪視の力を弾くことは出来ない。
それを可能にした、唯一の要素。
どす黒く、けれど白く光り輝く気が、彼女を包んでいた。
「……世話無いな」
「喋るな、傷口が開く!」
「最後くらい、喋らせろ」
治療をしようとするアーデルハイドを、バーナードは押しのけて拒否をする。
この場所に幾らあるかわからない貴重な傷薬を、死に体に使ってしまってはもったいない。
自分の体が持たないことを悟った上での、今後を見据えた行動だった。
「フン……なるほどな」
思わず、鼻を鳴らす。
今まで自分が感じることは無いだろうと思っていた感情が、彼を襲っているから。
「"人間"ではないから、ここまで恐怖する」
それは、純粋な恐怖。
獣のように純粋な、死への恐怖。
人間である以上、感じることはないと思っていた感情。
それを今、バーナードはしっかりと感じている。
「……所詮、オレも猿と大差なかったという事だ」
自嘲のこもった笑いを浮かべる。
旧人類という烙印を押され、獣に成り下がった"人間"。
あれだけ忌み嫌っていた"人間"としてではなく、"獣"として死ねることに、ある種の安堵すら覚えていた。
「アーデルハイド、だったか」
最後に、傍に立つ青年に一言を告げる。
この場で自身が成し遂げようとした、たった一つの事。
「人に、なれッ……!」
"完全者"を殺し、再び"人間"になるということ。
それを、未来を、アーデルハイドに託す。
ぶうんぶうんと飛ぶ蠅が、先ほどより少し五月蠅く舞っている。
悲しんでいるのだろうか、わからない。
もう、耳も聞こえない。
もう、目も見えない。
獣は、獣として朽ちていくだけ。
そして、獣が朽ちた後。
ざくり、と葉を踏み散らす音が鳴る。
視線を音の方へ向けた先に、立っていた存在。
それは、龍だった。
物言わぬ遺体を静かに寝かせ、アーデルハイドは龍をにらみ。
地を、蹴り出した。
【塞@エヌアイン完全世界 死亡】
【バーナード・ホワイト@アウトフォクシーズ 死亡】
【F-5/北部/1日目・日中】
【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:「ヨシダくん」、「サトウくん」
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止、殺し合いに参加しない人間を募る
1:アテナに対処
[備考]
※ローズ人形は手放すつもりはありません
※アーデルハイドの行き先は後続にお任せします。
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:醒める、世界へ。
[装備]:眼帯、テンペルリッターの兜、蛇腹剣
[道具]:基本支給品、不明支給品(3〜9)
[思考・状況]
基本:帰らなくちゃ
[備考]
※龍の気に覚醒しました、自覚なし
猿を撃退してからしばらくして、アーデルハイドとバーナードの傍に一人の男が現れる。
「クロード……」
「その名は捨てたって言っただろうが」
"捨てた名"をつぶやいたのはアーデルハイド。
父――――ルガール・バーンシュタインの事もあり、彼とは何度か顔を合わせたことがある。
まあ、口を利くのはこれが初めてだが。
「ところで、アンタよりオレが気になるのは、アンタだ」
ぼうっと考えていたアーデルハイドをよそに、男はバーナードを指さす。
「……だろう、な」
言われなくても、分かっている。
自分が名の知れ渡った殺し屋であることくらい。
そして目の前の男、塞が抱いている疑問も、容易に察することが出来る。
「アンタらしき殺しの現場に、嘔吐物があるって聞いてビビったぜ。
いつもはそんなモノなんて残さず、完璧に仕事するのにな」
何故、バーナード・ホワイトが人間とつるんでいるのか?
というシンプルな質問を、少し曲げて問いかけてくる。
まあ、同行者が居るときに正面から「どうして隣の人間を殺さないんですか?」とは問えないか。
「心境の変化だ、"人間"なら誰でも起こりうる」
「ほぉー、アンタの口からその言葉が聞けるとはね」
おちょくるわけでもなく、純粋に感嘆の声を上げる。
その反応にバーナードも特に不快感を示すことなく、普通に流していく。
「ま、いいか。それより気になるのはアンタの今後の方かな」
だいたいを察したのか、バーナードに問いかけることをやめ、塞は続けてアーデルハイドに問いかけていく。
「親父、ここに居るみたいだぜ? アンタはどうすんだよ」
塞が問うのはアーデルハイドの今後、具体的な立ち振る舞い。
父であるルガール・バーンシュタインがここにいると分かった以上、息子である彼にはそれを聞かなければいけないのだ。
「……父か」
目を細め、少しだけ遠くを見つめてぽつりとつぶやく。
「止めようとは思っている、きっとまたよからぬ事を考えているだろうからな」
表向きには、反旗を表していく。
けれど正直言えば、分からないのだ。
どんな顔をすればいいのか、どう向き合うのが正解なのか。
世界の大悪党とまで呼ばれた人間に対し、血のつながった人間が出来るのは、何なのか。
止めるのか、共に進むのか、それとも別の道なのか。
確実に居ると分かった以上、近いうちに動かなくてはいけないのだ。
「……まあ、親子問題以上の事もあるから、難しいだろうねぇ」
塞が空を見上げる。
そう、個人の私情以上のモノが、あの男には何重にも絡みついている。
アーデルハイド一人の力ではどうすることも出来ない問題すら、そこにはある。
じゃあ、どうするのがいいのだろうか?
「あのー、すみません」
そんな三人の中に、柔らかい声が飛び込んでくる。
全員が視線を向けると、そこには日本の国民的アイドル、麻宮アテナが居た。
その姿に思わず、息を呑む。
なぜなら彼女の片目からは、眼帯越しにだくだくと血が流れていたから。
「ここらへんで、これくらいの小さな双子を見ませんでした?
二人とも黒い服で、金髪の。一人はロングヘアーの女の子で、一人はショートカットの男の子です」
当の本人はそんなことを気にも留めず、問いかけを続けていく。
「小さな双子? 悪いが、見ていないな」
「同じく、だねえ」
アデルと塞は淡々と答えだけを返す。
特にもったいぶるメリットもないし、嘘を盛る必要もない。
正直な返答、それに対しアテナは短くそうですか、とつぶやく。
そのまま立ち去ろうとした彼女を、アーデルハイドは呼び止める。
「ところで、その目は――――」
「あなたの父にやられました」
気になって仕方がなかった事、それの事実は一番重いもの。
やはり、自分の父は大暴れしているのだろうか。
無力感から歯をギリリと鳴らし、力強く拳を握りしめる。
だが、悔しそうなリアクションを見せるアーデルハイドに、アテナは至って冷静に告げた。
「……でも大丈夫、彼は"殺し合い"には乗っていません。
ミュカレを倒そうとする人間のうちの一人です」
その場にいる三人が、肝を抜かれたかのような表情を浮かべる。
今、なんと言った?
あの"ルガール・バーンシュタイン"が殺し合いに乗っていないと言ったのか?
俄には理解しがたい情報に頭を抱えるが、情報源が情報源なだけに無碍にするわけにもいかない。
考え方を変えれば、彼女がここに立っている事が証明ともとれる。
ルガールが殺し合いに乗っているならば、彼女は無事では済まないどころか、今目の前に現れることもなかっただろう。
ルガールが殺し合いに乗っていない、というのは確かだと考えてもいい。
彼女の左目は……おそらく、それを信じなかった応酬だろう。
だが、何故?
ミュカレに刃向かう理由、アテナを泳がせている理由、その全てが紐で繋がりそうで繋がらない。
「もう一つ、いいか?」
「何ですか?」
それを考えている矢先、バーナードがアテナに何かを問いかける。
「……アンタが探してる双子、ひょっとして"ダニー"と"デミ"か?」
「ッ! 知ってるんですか!?」
バーナードから出た名前に、アテナは表情を変えて食いついていく。
再び驚きの表情を作りながらも、バーナードは冷静に問いかけに応じていく。
「知ってるも何も、"こっち"じゃ有名だからな。
純真が故に残虐、情けも何もない悪魔のような殺し屋。
それが――――」
「は?」
言葉が途切れる。
いや、途切れさせられたと言うべきか。
まるで汚物を見るかのような目線のまま自分をにらみつけている、アテナの気迫に。
「……ダニー君、デミちゃん、この男の人は何を言ってるんだろうね」
続いて、"どこか"に話しかける。
ゾクリ、と背筋を舐められるかのような感覚が襲う。
「そうだね、じゃあ」
ワンテンポおいた無感情な言葉。
「そうしよっか」
何かを言おうとしたとき、アテナの姿がふと消えた。
出そうとしていた言葉は、音として外に出ることはない。
続けようにも続かなくて、ただ喉から空気が漏れる音だけが聞こえる。
理解できない状況を飲み込もうとする。
目の前に突然現れた麻宮アテナの姿をとらえる。
狂った悪鬼の表情の浮かべ、自分を睨んでいる。
手には、剣を象った超能力。
どさり、とバーナードが後ろに倒れた瞬間、凍り付いた時が動き出す。
「麻宮ッ!?」
手に剣を作ったまま、アテナはアーデルハイド達を睨む。
彼女のモノとは到底思えない気迫に、アーデルハイドは思わず一歩退いてしまう。
「違う、あの子達はそんなんじゃない」
小さく、けれど確実につぶやかれた言葉は"重い"。
「残虐な殺し屋? そんなの誰が決めたのよ」
ずしり、という音が聞こえてきそうなくらいに、"重い"。
「あの子達は普通の子供、幸せを手にする権利がある」
アーデルハイドは口を開くことが出来ない。
「だから、帰らなきゃいけない」
気迫に押されたというのもある、しかし、それより。
「……だから、あの子達に烙印を押そうというのなら」
麻宮アテナという一人の人間がここまで変貌していることに。
「私が、あの子達を守る!」
驚きを、隠せない。
「ストップ」
もう一度バーナードに振り下ろされようとしていた剣が、止まる。
すらっと延びた黒いスーツの足が、アテナの手をぴたりと止めていた。
「退いて」
「それは出来ねえなあ」
ぐぐっ、と塞の足が押され始めている。
怒りの力による体内での超作用、と言ったところだろうか。
非力な少女の姿からは考えられないが、あまり長時間も持ちそうにもない。
状況を判断しながら、塞は後ろでぼうっとしていたアーデルハイドに指示を飛ばす。
「おい、アーデルハイド。バーナード連れて山下りろ。
たぶん南なら安全だ」
「何を……」
「早くしろッ!」
柄にもなく声を荒げ、アーデルハイドをがなりつける。
ビクリ、と反応してから鞭に打たれたかのようにアーデルハイドは動き出した。
「待ちなさい!」
「おおっと」
バーナードの体を持ち上げて立ち去ろうとするアーデルハイドを、アテナは当然追いかけようとする。
そして、当然ながら塞が間に割って入る。
「アイドルの相手だなんて、こんなシチュエーションじゃなきゃ喜んでお受けするんだがねえ」
「ふざけないで」
けらけら、と笑いながら塞はアテナを見る。
据わった目、決まった覚悟、そして超能力。
理由はわからないが、彼女は"こうなった"。
飛賊の連中が追い求めていたとされる力、それに酷似した"何か"を手に、自分たちへ牙をむいている。
「……老師の言っていた通りになるたぁ、な」
塞はアテナ達の武術の師とも繋がりがある。
いつだったか言っていた、包という少年に宿りかけた力は、誰しもに宿り得る力なのだと。
それに近い力を振るう者ほど、"それ"に魅入られやすい。
一度魅入られかけた包という少年と、魅入られかけながらも力を爆散させることである程度コントロールすることに成功した青年。
そして、未だに魅入られたことのない少女。
……抵抗することも、それが何なのかも気づいていないのか。
恐怖、怒り、悲しみ、その全てが彼女の"何か"を壊しているのか。
はっきりとした答えはつかめないが、麻宮アテナが"おかしい"のはわかる。
「……この"世界"がいけないのよ、あの子達を"殺し屋"だと決めつける世界がいけないの。
だから、私は"世界"からあの子達を守らないと」
塞が思考を走らせている時、アテナは小さくつぶやく。
殺し屋という烙印を押したのは、あの双子を"そうさせた"のは。
このねじ曲がった"世界"なのだから。
「じゃないと、帰れない」
だから、壊さないと帰れない。
幸せに、普通に、平凡に暮らすことが出来る世界に帰れない。
「……逃避は楽しいかい?」
サングラスの位置を直しながら、塞は静かにアテナに問う。
答えは言葉ではなく、一発の気弾。
先ほどより明らかに威力が増しているそれを、塞は落ち着いていなしていく。
「こんな場所であの力に目覚められちゃあ困るからな、さっさと終わらさせて貰うぜ」
折れた腕を庇うことをせず、塞は両手をポケットにつっこむ。
一見、やる気の無いように見える。
だが、彼にとってはこれが戦いの姿勢。
足に意識を集中させ、足で戦うのが彼の戦い方なのだから。
再び、気弾が塞めがけて飛んでくる。
その場にとどまっていなすことも出来たが、塞はそれをしない。
地面を軽く蹴り、水平線上に駆け出していく。
逃げる塞の姿を追うのは、アテナから飛び出していった幻影。
向こうの攻めに備えて守りの姿勢を作るも、拳を振るうと言ったところで幻影が霞んでいく。
同時に上を向くと、空高く飛び上がっている本物の麻宮アテナの姿。
気を纏いながらの高速の突進に、塞はただ守ることしかできない。
軋む骨の音を聞いて判断し、塞は片腕を差し出す。
わざと再起不能にさせることで、体全体のダメージを和らげる。
どうせ戦いには使えない腕なのだから、失っても問題はない。
「搦め手か……」
血を拭い、塞はぼそりとつぶやく。
超能力をメインとした扇動と攪乱が戦闘スタイルと聞いていたとはいえ、実際に相手をしてみると、こうも厄介だとは。
出来れば生きたまま無力化させたかったが、そうも言ってられない状況のように思える。
「腹括るか……!」
だらりと下がった腕をそのままに、塞は地面を滑るように駆ける。
それを待っていたかのようにアテナは転移を行い、塞を攪乱させていく。
きょろ、きょろとアテナの姿を探す塞。
それを好機と見たか、アテナは再び転移を行う。
移る先は、塞の背後。
虚を完全に突いた一手で、最大限の力を解き放っていく。
蒼の双球が、アテナの周りをぐるりと回り始める――――
「やっぱり、来てくれたな」
同時に、がしりと肩を掴まれる。
塞の動く片腕が、アテナの肩へと真っ直ぐ延びていた。
ばちばち、と超能力がアテナの体で爆ぜていても、塞はそれを気にせず掴み続ける。
そして、もはや使い物にならないであろうもう片方の腕を、ゆっくりと動かす。
「俺の目を――――」
たった一つの使い道を、成し遂げるために。
「見ろォっ!!」
サングラスを外す、という簡単な動作をするために。
傷だらけの腕を、動かした。
世界が暗転する。
――――塞の、世界が。
現実の見えていない少女は、目の前の光景も写っていなかった。
と、いうより。
都合の悪い物を投げ捨てる、と言うべきか。
ただ、見えていないだけでは邪視の力を弾くことは出来ない。
それを可能にした、唯一の要素。
どす黒く、けれど白く光り輝く気が、彼女を包んでいた。
「……世話無いな」
「喋るな、傷口が開く!」
「最後くらい、喋らせろ」
治療をしようとするアーデルハイドを、バーナードは押しのけて拒否をする。
この場所に幾らあるかわからない貴重な傷薬を、死に体に使ってしまってはもったいない。
自分の体が持たないことを悟った上での、今後を見据えた行動だった。
「フン……なるほどな」
思わず、鼻を鳴らす。
今まで自分が感じることは無いだろうと思っていた感情が、彼を襲っているから。
「"人間"ではないから、ここまで恐怖する」
それは、純粋な恐怖。
獣のように純粋な、死への恐怖。
人間である以上、感じることはないと思っていた感情。
それを今、バーナードはしっかりと感じている。
「……所詮、オレも猿と大差なかったという事だ」
自嘲のこもった笑いを浮かべる。
旧人類という烙印を押され、獣に成り下がった"人間"。
あれだけ忌み嫌っていた"人間"としてではなく、"獣"として死ねることに、ある種の安堵すら覚えていた。
「アーデルハイド、だったか」
最後に、傍に立つ青年に一言を告げる。
この場で自身が成し遂げようとした、たった一つの事。
「人に、なれッ……!」
"完全者"を殺し、再び"人間"になるということ。
それを、未来を、アーデルハイドに託す。
ぶうんぶうんと飛ぶ蠅が、先ほどより少し五月蠅く舞っている。
悲しんでいるのだろうか、わからない。
もう、耳も聞こえない。
もう、目も見えない。
獣は、獣として朽ちていくだけ。
そして、獣が朽ちた後。
ざくり、と葉を踏み散らす音が鳴る。
視線を音の方へ向けた先に、立っていた存在。
それは、龍だった。
物言わぬ遺体を静かに寝かせ、アーデルハイドは龍をにらみ。
地を、蹴り出した。
【塞@エヌアイン完全世界 死亡】
【バーナード・ホワイト@アウトフォクシーズ 死亡】
【F-5/北部/1日目・日中】
【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:「ヨシダくん」、「サトウくん」
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止、殺し合いに参加しない人間を募る
1:アテナに対処
[備考]
※ローズ人形は手放すつもりはありません
※アーデルハイドの行き先は後続にお任せします。
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:醒める、世界へ。
[装備]:眼帯、テンペルリッターの兜、蛇腹剣
[道具]:基本支給品、不明支給品(3〜9)
[思考・状況]
基本:帰らなくちゃ
[備考]
※龍の気に覚醒しました、自覚なし
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