俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。


響き渡る声。

それを彩るのは純粋な欲望のみ。

体中に広がる欲望に突き動かされるように。

叫ぶ。

「おなかすいたああああああ!」



嘗て、カルロスが人間を兵器にする為に行っていたケースクラスという実験があった。
それと同時期に人体を人工的に生み出す実験も行われていた。
タロウはその第一号の「人造人間」である。
体の彼方此方に見える継ぎ接ぎや、人並み外れた腕力、人体とはかけ離れた肌色はそういう理由がある。
だが、ようやく完成したにもかかわらず、カルロスの手によって「出来損ない」の烙印を押され、タロウはEDENの地に捨てられていった。
後に彼はマシュウという男に出会い、タロウという名前を授かることになる。

なぜ、タロウはカルロスにとって出来損ないだったのか?
カルロスの目的は兵器として使える人間を生み出し、それを用いて世界を制圧することだった。
幾たびもの実験と研究を重ね、失敗というただの肉塊を生み出しながら、ようやく一度だけ人間を作る事に成功した。
生み出された人間は常人を超える怪力を持ち、兵器素体としては完璧な物だった。
たった一つのイレギュラー、心の存在を除けば。
ようやく完成した人造人間は、全ての生命を愛する心が備わっていた。
人間は愚か虫の一匹すら殺す事を躊躇う彼では、カルロスの求める人間兵器にはなり得なかったのだ。
だから、タロウは出来損ないの烙印を押された。

そしてカルロスは再び「心を持たない人造人間の研究」を開始し、タロウはEDENに生きる動物達と暮らしていた。
闘う事は余りしたくない、と頻繁に漏らしながらも、時折現れる悪党を退治しながらタロウは生活していた。

そして今、タロウは殺し合いの現場にいる。
人が武器を取り、人を殺す場所にいる。
「人殺し……オレそんなことしない!」
全ての生き物を愛するタロウが、人殺しに躍り出るはずもない。
命を握られながらも彼はそれに抗う事を決め、決意の足を進めていった。

まもなく、彼は一人の女性を発見した。
へそ出しの軍服に赤い特徴的なツインテールの美しい女性は、横たわりながら薄目を開きつつ今にも死にそうな顔で何かを呟いている。
過去に追い回された経験から軍人を敬遠しがちなタロウだが、流石に見逃す訳には行かなかったのか、やさしく女性に声をかけた。
「お、お前、大丈夫か?」
女性の返事はない。
ゆっくりと近寄りながら、艶やかな唇へと耳を寄せていく。
「ご、ごはん……」
それを聞いたタロウは急いでデイパックに手を入れ、自分に支給されていた肉まんの一つを女性に差し出そうとした時だった。
「ご、ごはん!」
少し、大きな声が頭の中で響き続けた。

ある、一人の少女がいた。
持ち前のスタイルの良さ等を評価され、モデルとして華々しくデビューをすることになった。
だが、一つの問題があった。
外見からは全く想像出来ないが、一回の食事で成人男性の四人前は軽く完食する程の大食らいだった。
デビューが決まった嬉しさと、今まで我慢していた反動で食に食を重ねてしまい、体重的な意味と外見的な意味で劇的な変化を遂げてしまった。
このままではせっかく掴んだモデルの夢を手放してしまう、しかしちょっとやそっとでは戻らないレベルの変化である。
どうしようかひたすら悩んでいたときに、ある広告に目が止まった。

「正規軍体験入隊募集!」

直感だった。
あの正規軍の訓練なら、この体も元に戻せるかもしれない。
モデルになるという、せっかく掴んだ夢を失わずに済むかもしれない。
なりふり構っている場合では無かった彼女は、藁にも縋る気持ちで体験入隊を希望した。

中で待っていたのは、「軍の本当の姿を知ってもらうため」という名目通りの本格的な訓練だった。
生半可な気持ちの人間を取り除き、本気で取り組める人間に「入隊したい」という意志を持ってもらう為に、体験入隊とはいえ教官達は一切容赦なく指導してくる。
モデルになるためのどんな訓練より辛く、厳しい日々が続いた。
戦闘経験は愚か武器すら握った事の無い彼女は、掴んだ夢を失いたくないという一心だけで、その地獄のような訓練の日々を乗り越えていった。

そして体験入隊のプログラムを全て終えたころ、彼女は元のスタイルを見事取り戻す事に成功し、華々しいデビューを飾った。

モデルとしてデビューには成功したが、いつ仕事が来るかわからないため、体重やスタイルを維持する必要があった。
故に食事をセーブしなければいけないという苦しみと、彼女は戦う事になる。
食べたいのに食べられない苦痛。
目の前に美味しそうなご馳走の数々があったとしても、満足行くまで食べられない。
葛藤に次ぐ葛藤を繰り返し、彼女は一つの決断を下した。

美味しい物を食べる、それで体重が増えるというなら。
増える分だけ速攻で運動すればいい。
そんな短絡的かつ合理的な理由で、ある一枚の書類にサインをした。

正規軍へ、加入する書類に。

もちろん、モデル関係の人間は猛反発した。
正規軍の任務がどのようなものか知らない人間は少ない。
ある意味死亡宣言とも取れる行動を、事務所が黙って見過ごす訳も無かった。
しかしそこは彼女も黙っておらず、仕事の合間に訓練に出向く事を筆頭とした、モデル業との兼ね合いを軍が最大限取ってくれると言うこと。
常にモデルとして相応しい体系を維持することなどを条件として提示し、半ば無理矢理に事務所関係者を黙らせたのだった。

後に事務所と軍が契約を結び、軍の設備を撮影所として提供する代わりに、軍のモデルとして彼女を自由に扱うようになるのは少し先の話である。

そんな騒動を巻き起こしながらも、軍の訓練には人一倍真面目に取り組んでいた彼女は、その身に宿っていた戦闘の才を開花させていた。
後に運動量を上げる事と実戦経験を積むことを目的として、特殊部隊スパローズに所属となった。
スパローズ所属後とある作戦にて抜擢され獅子奮迅の活躍を見せた、大食らいの現役モデル軍人。

彼女の名は、ナディア=カッセルと言う。

例の作戦後も、軍のPRを含めたモデル業の傍ら様々な作戦をこなしていた。
そんな彼女が、この殺し合いに呼び出された。
完全者は知る由も無かっただろう、カルロスが死に絶えたあの場所で、空腹を理由に何も聞いていなかった人間がいることなど。
そして空腹のまま麻酔を打ち込まれ、見知らぬ地で目が覚めたとき。
ナディアは、空腹の余りに一歩も動けずにいた。

そして今ナディアの目の前には。
湯気を立てて美味しそうな香りを漂わせた肉まんが、キレイくっきりと映っていた。
迷うことなく、大きな口を開けてかぶりついて行く。
まず、歯に当たるのは優しい皮の感覚。
ゆっくりと上顎で衣を突き破り、餡を掘り当てていく。
歯を伝わり口の中に溢れてゆく肉汁の風味を味わいながら、彼女は違和感に気がついた。
「お、おい。オレ、食べ物じゃない……」
下顎と舌が触れているものが、革の手袋だと言うことに。

食事を差し出した瞬間に手ごとかぶりついた軍人の女性に、とりあえず持っている食糧を少し分け与えながら、自己紹介を兼ねて情報交換をしていた。
とはいえ、話を全く理解していないナディアに、タロウがぎこちない言葉で伝えているのがほとんどなのだが。
「ふーん、つまりその完全者って言うのがこの首輪であたし達の命を握ってて、あたし達は殺し合いをしなくちゃいけない……と」
タロウの分け与えた食糧をマジックのように一瞬で消し去りながら、自分のデイパックの食糧に手を出していく。
「まっ、はいそうですかとドンパチやる訳には行かないわよね」
実技試験でも、軍の作戦でもない事を把握し、デイパックから取り出した剣を腰に据えて立ち上がった。
「行こっ、タロウ。何かしないと何も変わんないよ」
「う、うん」
ナディアの真っ直ぐな瞳に吸い込まれるように、タロウはナディアの手を取った。

「さあ! まずは美味しいもの探し!」
まもなくして、タロウは若干の不安と共に盛大にずっこけた。

【J-6/平原/1日目・朝】

【タロウ@堕落天使】
[状態]:片手がよだれまみれ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料減少)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いをするつもりはない、ナディアと行動

【ナディア=カッセル@メタルスラッグ】
[状態]:空腹
[装備]:天叢雲剣@神話(現実)
[道具]:基本支給品(食糧ナシ)、不明支給品(0〜2、武器ではない?)
[思考・状況]
基本:美味いメシを喰う
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003:惑わず仕舞(Les ivresses)
時系列順
005:Knuckle Talking
投下順
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タロウ
031:悲しきノンフィクション
ナディア=カッセル

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