俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

殺し合いに乗るつもりは毛頭ない、ついでに美味しいものが食べられたら良いなあと。
あの任務を達成したときのようにみんなで力を合わせれば、ちょいちょいっと解決できると。
そこまで焦る必要はない、美味しいもの探しに重きを置いて行動しても何とかなるだろうと。

そう、思っていた。

「どォーしてしょっぱなからこうなんのよォー!!」
現実はそんなに甘くはなく、意気揚々と歩き出した両者を出迎えたのは一台の戦車だった。
それは、ナディアにとっては見覚えのある禁断の決戦兵器。
旧人類狩りが行われていた頃、ナディアも何台かと交戦したことがある。
髑髏の頭から放たれる光線を始め、遠中近距離全てに対応した各種兵器で人類を駆逐していく。
ヘタに逃げれば命は無いが、無策で戦っても勝ち目が見える相手ではない。
今の自分の手にあるのは、たった一本の剣。
あの時とは違い、銃も爆弾も後ろを支えてくれる沢山の仲間もいない。
自分と、心優しい人造人間だけである。
運良く先制攻撃は避けることが出来、建物の中に隠れこんだまではいい。
だが、あくまで一時的にやり過ごしただけに過ぎない。
この状況を打破するには、何かしらのアクションを起こさねばならないのだ。
「タロちん! なんか無い!?」
短い会話の中で仇名をつけた、たった一人の仲間にナディアは何かを要求する。
「オレ、これしか持ってない」
差し出されたのは、たった一つのパイ。
ナンセンスやコメディで使われる古典的なアレだ。
「詰んでるぅ……」
自分が持っている物を含めても、戦車に対抗できそうなのは手に持つ剣ぐらいしかない。
これまでの任務以上に、危機的な背水の陣である。
「ナディア、オレ、戦うぞ」
落ち込むナディアに、タロウは力強い一言をかける。
そう、悔やんでいてもしょうがない。
昔、共に任務に赴いた仲間達がここにいたとしても、同じ行動をとるだろう。
"彼ら"はそういう人間なのだから。
息を一つ吸い込んでから、ナディアが口を開いていく。
「あのねタロちん、電光戦車は――――」



ガシュンガシュンと電光戦車が進む。
対象を見つけたのはよかったが、最初の一撃で感づかれて取り逃がしてしまった。
素早く後を追ったものの、上手に撒かれてしまった。
だが戦車はそんなことを気にせず、もう一度対象を捉えて駆逐するだけだ。
そこまで舗装されていない地面を、強固なキャタピラでズタズタにしていきながら進む。
そこで、人間で言う目に位置するセンサが一人の人間をとらえる。
先ほど、すんでのところで逃がしてしまった標的の内の片方だ。
すかさず髑髏の両目から光線を放つが、女は軽々とその光線を避ける。
二本目、三本目と戦車が続けて光線を放つが、どれもまともには当たらない。
何本目かの光線で、ようやく女の右腕を掠めることに成功する。
たった一瞬掠っただけなのに、女の右腕の部分は黒く焼け焦げていた。
直撃すれば、命はない。
戦車の無言のプレッシャーが、じわりじわりと女を追いつめていく。
中距離に差し掛かったあたりで、とどめを確実に刺すために戦車は背部から機雷を射出していく。
ゆったりとした放物線を描きながら迫っていく機雷も、女はギリギリで避けていく。
そして、両者がついに近距離にまで迫る。
戦車は近距離用の機銃とキャタピラに攻撃手段を変えながら、女へ迎撃していく。
女は剣を振り、可能な限りの銃弾を弾きながら前へ進んでいく。
密着とは行かないまでも至近距離にまで迫った女が、突然空へと舞う。
力の限りを尽くした飛翔から、振りかぶって剣を投げつける。
戦車はそれを機銃で迎撃していくが、勢いのついた剣を止めることは出来ない。
その瞬間、何かは分からないが何かが視界を塞いだ。
見えないのならば、見えるようにすればいい。
視界を塞ぐ何かを焼き払うように光線を出した、その時である。
「タロちん! 今よ!」
「あばばばばばば〜〜!!」
頂点部を中心にずしりと重い衝撃が走る。
異常を察知し、急いで発電して全身を帯電させるが間に合わない。
戦車とそれに抗う者の戦いの決着が訪れる。





――――シニタクナイ。





筈だった。
「なっ!? タロちん!?」
戦車の頂上部の髑髏をもぎ取るはずだった人造人間は。
戦車の車体の上で、佇むように立ち尽くしていた。
「聞こえる……」
「えっ?」
「声が、聞こえる」
ナディアは、タロウが何を言っているのか分からなかった。
無理もない、この場にいる"言葉を操る存在"は二人しかいないのだから。
一体、何の声が彼の耳に届いているというのか。
電光戦車が喋りだした、とでも言うのだろうか。
その瞬間、戦車が青白い光を放つ。
異常を察知した戦車が敵を追い払うために発電し、その電気を全身に纏わせた。
少し離れた場所にいたナディアはともかく、車体の上に立っていたタロウがその電気を全身に浴びる。
「ふぉぉおおお!!」
「タロちん!!」
あわてて駆け寄ろうとするナディアの体を吹き飛ばすように、前門の機銃を炸裂させる。
「しまっ……!」
防御態勢をとろうとするが、時すでに遅し。
気がゆるんでいたナディアは、その散弾に大きく吹き飛ばされてしまう。
「おまえ、悲しいのか?」
吹き飛ばされたナディアの元へ駆けつけるでもなく、戦車の動力をへし折るわけでもなく。
電撃をその身に浴びながら、タロウは戦車へと問う。
「死にたくないのか?」
己の体力を削りながら、タロウが問いかける。
戦車は発電を繰り返し、タロウを振り落とそうとする。
「生きたいのか?」
タロウはしがみつく。
常人では耐えられない強さの電流が、彼の体に流れても。
その両の腕を、戦車からはなさない。
「おれも、わかるぞ!」
戦車は方針を変え、発電だけでなく車体を大きく揺らし始めた。
人間で言えば首に相当しそうな部分を、クレーンのように大きく揺さぶることで、しがみつく巨体を振り落としていく。
何回目かで、タロウの愛用の手袋が戦車の表面からすり抜けるように滑り落ちた。
「おれも、作られたから!」
放り出されてもなお、タロウは言葉をやめない。
振り向き、戦車と向き合って言葉を紡いでいく。
そのタロウを轢き殺そうと迫る戦車に対し、タロウは再び首の部分にしがみつく。
「生きれば、わかる!!」
もう、はなさない。
この言葉を伝えきるまで、絶対にはなさない。
だって、わかるから。
自分も作られた命だから。
この戦車が、生きたいと願っているから。
兵器としてではなく、命として生きたいと願っているから。
「頑張れェ!」
タロウは、応援する。
まだ、命ではない鉄塊に向けて。
魂の叫びで、応援する。



やがて、光の柱が人造人間を貫いた。



「いたたたた……」
軽い気絶から戻り、口の中に溜まっていた血を吐き出し、頭を押さえながらナディアは起きあがる。
仕込んでいたお鍋の蓋のおかげで、正面の傷は免れたものの、受けた衝撃による損傷は大きい。
ゆっくりと起きあがろうとしたとき、全身に走る激痛が何よりもの証拠だ。
「そ、だ!」
思い出す。
こんなところで気を失っている場合ではないことを。
戦車はどうなったのか? そもそもどこに行ったのか? 共に戦っていたタロウは?
疑問は尽きずに浮かんでくる。
その真相を確かめるためにも、一刻も早く起きあがらなければならないのだが。
体が、そうさせてくれない。
「立て、ナディア……! 出来るでしょ……!」
モデル業界を自分の力で這い上がり、軍の訓練も乗り越えた彼女の魔法の言葉を呟く。
言葉を通じて自分に発破をかけ、感情を高ぶらせていく。
辛いとき、彼女はいつだってこうやって乗り越えてきたのだ。
ずっと使い続けた手段を再び、使って起きあがっていく。
そして、それをまるであざ笑うように。

目の前に、戦車が現れた。

兼モデルとはいえ、ナディアも一端の軍人である。
自分の置かれている状況ぐらい、用意に察することが出来る。
気を失う少し前、戦車に向けて何かを語りかけようとしていた筈のタロウの姿が、無い。
目の前にあるのは、禁断兵器たる電光戦車の姿だけだ。
それが意味するのは、一つ。
「うらァアアアア!!」
理解すると同時に、彼女は戦車へと飛びかかっていく。
傍に転がっていた剣を片手に、全身を支配していた激痛も忘れて。
戦わねば殺される、それを筆頭とした様々な思念に突き動かされるように前へ進む。
数刻もかからず、彼女は戦車へと迫る。
遅れることなく片手を振り上げ、剣を振りおろす。
たったそれだけのことだったのに。
「ゴメ、ゴゴ、ゴ、ゴメン、メンナ、サササイ」
壊れた人形のような声が、彼女の耳に届く。
同時に戦車の頂上部の髑髏の部分から、涙のように細く赤い筋が走った。
「ア、アア、アア"アア"」
向きを変え、何事もなかったかのように戦車は彼女の前から立ち去っていく。
言葉にならない壊れたの人形のような声が、頭の中で反響する。
「なによ、それ」
カランと、軽い音を立てて剣が地をはねる。
怒りも、痛みも、空腹感も忘れ。
彼女はなにをするでもなくただ、ぼうっとしていた。



繰り返される予期せぬエラー。
インプットされていたプログラムには、かけらも記されていない事項が、一台の戦車を苦しめる。
それは、芽生えかけていた"何か"だ。
意志か、記憶か、何かはわからない。
だがそれは今、現に電光戦車という一台の兵器をエラーに追いやっている。
殺せるはずだった一人の手負いの女性を、みすみす見逃したのだ。
なぜそれが起こったのか? 理解しようにも理解できない。
反響するのは、人造人間の声。
生きたい、死にたくない、作られた命。
彼がしがみつきながらも放っていった声の数々が、プログラムの中でふるえている。
「ア、アアア"、アア"」
まだ、戦車は理解できない。
だが、その中に芽生える"何か"はそれを理解しようとしている。
プログラムと何かがぶつかり合い、互いにエラーを吐き続ける。
そして、兵器は。
声のような何かをまき散らしながら、殺し合いの地をさまよう。

目覚めの時は、まだ早い。

【タロウ@堕落天使 死亡】

【I-6/氷川村・南部道の上/1日目・午前】
【ナディア=カッセル@メタルスラッグ】
[状態]:呆然、空腹、ダメージ(小)
[装備]:天叢雲剣@神話(現実)、おなべの蓋
[道具]:基本支給品(食糧ナシ)、不明支給品(0〜1、武器ではない)
[思考・状況]
基本:美味いメシを喰う
1:立ち尽くす

【電光戦車(2)@エヌアイン完全世界】
[状態]:損傷(小)、エラー、"何か"が芽生えつつある
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:参加者の殺害
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029:始まりの前、立つべき場所
時系列順
033:アイドルをプロデュース
030:君が世界に謝罪する時(We have not yet begun to fight!)
投下順
032:暗闇に咲く花
023:ふたりはキュラキュラ マックスゾルダート
電光戦車(2)
050:リバースカードをオープン
004:おはようございます、メシ食いにいきませんか?
ナディア=カッセル
タロウ
救済

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