俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

不思議な子供だ、と麻宮アテナは歩きながら思う。
名前と年齢を初めとしたプロフィールを聞いてから、彼の探している姉の人物像を聞き出していたところだった。
年齢でいえば包と同じくらい、いや少し幼い子供だというのに、物怖じ一つせず一つ一つ冷静に答えている。
こんな子供でもここまで落ち着いていられるというのに、すっかり怯えて震えきっていた自分のことを思うと、少しだけ情けなくなる。
「ねえ、ダニー君は好きなこととかあるの?」
ダニーの姉、デミの人物像を大まかに聞き出した後に、アテナはダニー自身について聞き出していく。
コミュニケーションは信頼の要だ、お互いに話し合うことで信頼が生まれる。
どんな些細なことでも、会話をすることが今は大事なのだ。
「えっとね」
帰ってきた声は先ほどまでと変わらず、淡々とした抑揚のない声。
万が一、怖さを隠すためにそう振る舞っているのだとすれば。
自分が安心感を与えることで、彼が素でいられる環境を作ってやりたいと思う。
だが、どうにも「これが彼の普通」だと思わずにはいられない。
彼は至って普通に、今の状況を冷静に振る舞っているのだ。
「おじさんたちと、戦争ごっこするのが好きだよ」
続く子供らしい答えが、落ち着いていても子供なのだと言うことを証明してくれる。
どんな背景があろうと子供は子供、普段遊んでいることはそんな可愛らしい遊びである。
同時に、この殺し合いを開いた完全者が更に許せなくなる。
こんな、こんな純粋な子供にまで殺し合いを強制している事が、たまらなく悔しくなった。
その悔しさを胸に押し込め、アテナは次の言葉をつなげていく。
先ほどの「戦争ごっこ」が意味する事も、気にすることはなく。
「早く、お父さんとお母さんの所に帰ろうね。
 きっと二人のことを今も心配してるわ」
何気ない一言のつもりだった。
誰にだって親はいる、こんな小さな子供ならば当然とも言えることだ。
「お父さん、お母さんって……何?」
だが、帰ってきた言葉は意外なものだった。
ダニーは両親を亡くしたどころではなく、両親という存在を知らなかったのだ。
それはどういうことか、少し考えれば分かる。
「っ! ごめんなさい、辛いこと聞いちゃって……」
ハッとした顔から急に謝りだしたアテナを、不思議そうにダニーはのぞき込む。
これ以上踏み込んではいけない領域にいる、彼にだって思い出したくないことはある。
アテナはある程度大人だから、ダニーのその一言から背景を推察するくらい、容易である。
妙なことを聞き出して、彼を怯えさせてはいけない。
だから、一通り謝った後に"触れる事"をやめた。

真実は違う。
ダニーは純粋に、両親というものを知らないだけだと言うことを。
ダニーは至って普通に「聞かれたことに対して答えた」だけなのだと。
自分で理解したダニーの生い立ちと、真実が大きく食い違っていることを。
アテナは知るはずもない。

ぞくり、といやな殺気が突き刺さる。
それはよく知った殺気で、二度と感じることはないと思っていた殺気。
「ダニー君、ちょっと下がって」
ダニーを自分の後ろにやり、超能力の準備をする。
殺気を感じ取った方向を睨みつけていく。
「ははは、これはこれは。知った顔に会えてうれしいよ」
間もなくして、男の声が響きわたる。
アテナにとっては、思い出したくもなかった男の声。
ルガール・バーンシュタインが、そこに立っていた。
「はあッ!!」
その姿を見るや否や、アテナは用意していた超能力を練り込み、ルガールへと躊躇わずに放っていく。
アテナはルガールがどんな男か知っている。
「殺し合え」と言われている中で、この男が取りうる行動など容易に察しがつく。
それを知っているからこそ、先手を打たねばならない。
特に今は一人の子供を守らなくてはいけない立場にもある。
躊躇いが引き起こす最悪のケースを回避するために、アテナは前面に出て戦いを仕掛けていく。
放った飛び道具をルガールが迎撃する為に、大地から風を巻き上げるように右手を、次ぐように左手を振りあげる。
立ち上る風の刃がアテナが放った気弾を簡単に飲み込み、地を引き裂いていく。
だが、アテナは止まらない。
その刃を跳ね返す反射鏡を瞬時に生み出し、その刃を自分のモノにしていく。
反射した刃を上手く使った、次の一手を考えていく。
幾度となく重ねてきた格闘の経験から、似たような状況を思い返し、高速でシミュレーションをしていく。
数個の状況を同時に進め、進んだ先の仮想世界で一番いい状況。
アテナは、頭に描いたそれを再現していく。



イメージは所詮イメージだ。
格闘、という行為において重要なのは瞬間瞬間の判断能力と、その状況に対する最善手の算出の早さだ。
自身の能力や技術がいくら優れていようと、これが備わっていなければ話にはならない。
アテナは飛び道具を放ち、それをかき消すように放たれた飛び道具を反射して攻め込むという事を考えた。
決して悪くない戦術、誰も責め立てることは出来ないだろう。
だが、敵対するルガール・バーンシュタインという男は違う。
思考、判断、算出、能力、技術、格闘においてのそれらは一般人を優に上回っている。
そう、ルガールは"アテナを見つけたとき"から、全ての行動に対しての正解行動を算出し終えていた。
その中で、飛び道具が飛んできたからより強い飛び道具を放ち、間髪入れずに攻め込んでいった。
反射鏡を作ることすら、ルガールの頭の中では想定内だったのだ。
ニヤリと悪趣味な笑顔を浮かべた後に、ルガールの姿がフッと消える。
そして、反射鏡を作ろうと構え始めていたアテナの腹部にまずは一発打撃を加える。
ふわりと浮き始めようとした彼女の体を押さえつけるように、続けて頭部に一撃。
流れるように顔、胸、腹、足と息をつく間すら与えない連続攻撃をすれ違いざまに叩き込んでいった。
無防備だったアテナの体に、その一撃一撃全てが重く響きわたった。
「がふ、っが……げほっ」
激痛を認識すると同時に、口に溜まった血と胃液を吐き、膝から順番に地に着けていく。
「おやおや、世界的サイキックアイドルというのは、話も聞かずいきなり人に襲いかかるものなのかね?」
倒れ込むように地面にうずくまるアテナの腹部を片足で踏みつけ、苦悶の表情を浮かべる彼女を見ながらルガールは言葉を続けていく。
「まあ、話ぐらい聞いてくれてもかまわんだろう?
 よく聞いてくれ、私はこの殺し合いで人を殺すつもりなど毛頭ない。
 それどころか君たちと手を組んで、あの完全者を倒したいとすら思っているのだよ」
「よく、も。そんな、嘘をッ!」
「嘘だと思うかね?」
未だに反抗的な目でルガールを見る
「私が殺し合いに乗っているのだとすれば、もう君の命などとっくのとうに果てているのだよ。
 君は私が態々こんなマネをしている理由すら見ぬけんのかね? 片目しかない私よりもモノの見えない両目のようだな」
ルガールがもう片方の足をアテナの胸部に勢いよく乗せ、肺に溜まった空気を搾り出させる。
咳き込むアテナの口から漏れ出すのは、もはや声ですらない。
「協力か死か、どうするかね?」
淡々と語り続けるルガールが、片足をふわりと上げる。
このままもう一度振り下ろされれば、自分はそこで終わりだ。
改めて自分の無力さと悔しさを噛み締めながら、アテナはゆっくりと口を開く。
「……協力、するわ」
「ようやく理解してくれたようで、嬉しいよ」
僅かに残された空気を使ってアテナが搾り出した言葉に、ルガールはにこやかな笑顔を作る。
ゆっくりとアテナの体に立つことをやめ、アテナの顔の傍へと座り込む。
ようやくまともに呼吸できるようになったアテナは、咳き込みながらも肺に空気を送り込んでいく。
そんな彼女にルガールは淡々と用件を伝えていく。
「君に頼みたいのは、情報の拡散だ。
 私が仲間を募っているということを出来るだけ多くの人間に伝えて欲しい。
 毎度毎度、このようなやり取りをするのは些か面倒だからね」
アテナの頬に手を当て、撫でるようにルガールは伝えていく。
気持ち悪さからか、アテナはその手を反射的に弾いてしまう。
弾かれた手を戻すこともなく、ルガールは冷たい目でアテナを見つめる。
「ふむ……体は隷せど心までは隷せず、か。
 では、授業料として君のその反抗的な目は片方頂いておくとしよう」
そこからは一瞬の出来事だった。
ルガールの片腕が消えたかと思えば、まるで蛇を扱っているかのように瞬時に腰の辺りに戻る。
そして手に麻宮アテナの左目を持ち、アテナが声を上げるよりも先に握りつぶしていた。
「さらばだ、麻宮君。活躍に期待しているよ」
激痛と喪失を認識したアテナの悲痛な叫び声と飛び交う血を浴びながら、ルガールはゆっくりと腰を上げ。
ずっとその光景を見つめていた一人の少年に、「彼女を頼むよ」と傷薬と眼帯とガーゼを渡し。
叫び声が木霊する中を、颯爽と立ち去っていった。



「わーお……あっこまでするんだ」
「ははは、そこらの一般人を支配する程度ならば。簡単なのだがね」
血を浴びてより赤くなったタキシードを身に纏い、ルガールはマリリンの元へと帰ってきていた。
アテナの姿をいち早く察知したルガールが、自分ひとりで良いと出て行ったのをマリリンはずっと見ていたのだ。
圧倒的な力、華麗な手順、そして支配者の風格。
ルガールの見せた「悪」の一面を目に焼き付けたマリリンは、先ほどより興奮せざるを得なかった。
「しかし、あの小娘は役に立つのかお? 正直使えるとは思えないにゃー」
サイキックアイドル麻宮アテナ、アイドルとして世界的に活躍するその姿は、裏稼業のマリリンでも何度か目にしたことがある。
だが、先ほどの戦闘を見る限り、アテナの戦闘力は自分と五分、いや自分より下かもしれない。
ルガールはあれを配下に入れ、何を企んでいるのだろうか?
「別に、仲間に誘う人間全員と共に戦おうなどとは考えてはおらんよ」
その言葉に肩をすくめ、ルガールはマリリンへと解説していく。
「君も知っているほど、彼女は有名人だ。
 大抵の人は彼女の顔、振る舞い、性格を知っているだろう。
 この殺し合いに乗らない人間達なら、まず彼女の事は信用してくる。
 その彼女が"ルガール・バーンシュタインは殺し合いに乗っていない"と流布すれば?
 疑われないとは断言できないが、少なくともそこらの人間が言うよりかは説得力が生まれるだろう。
 無論、彼女が嘘をばら撒かない可能性はゼロではない。
 だから、その可能性を限りなくゼロにするために"支配"するのだよ。
 無価値な人間に価値を与える、そのために必要なことをやったまでさ」
「ハハ、残酷ゥ」
「君に言われるとはね」
完璧な理論、そしてそれを手にするだけの実行力。
ルガール・バーンシュタインという一人の悪人の力に、マリリンはより深く虜になっていく。
先ほどの支配のように、誰もが自分にひれ伏すような力。
彼が追い求めて止まないそれを、自分も手にしてみたいと強く感じたのだ。

その時、ふと気になって支配された人間の方を振り返る。
圧倒的な力を見せられ、両の目のうちの片方を奪われ、支配される側になった彼女はどんな気分なのだろうか。
そんな興味から、軽い気持ちでマリリンは振向いたのだ。

ぞくり、と。
踵から太ももの裏をなぞり、尻穴から直線的に首筋まで舐められたような感覚に襲われる。
彼女に襲い掛かったのはルガールような悪の力に怯えるそれではない。
裏稼業で生きてきた彼女ですら、人生で一度も見たことの無いモノ。
混じりけの無い狂気、悪意の無い真なる邪悪の権化と目が合ってしまった。



そう。



麻宮アテナと同行していた少年が。



ワラっていた。



「ん? どうしたかね?」
マリリンの異変に気がついたルガールが素早く声をかけていく。
その声に助けられるように現実に戻ったマリリンは、ルガールの方へと向き直り顔の前で広げた両手を振るう
「い、いや。なんでもないよ」
マリリンの返事にルガールは「そうか」とだけ答え、再び歩き始めた。
その後ろを、マリリンはひたすらに黙って付いていく。
平然を装ってはみたものの、彼女は頭の中には今の光景が強烈に焼きついている。
見てはいけないような何かを、見てしまった気がする。
そう考えるだけでも、あの感覚を思い出してしまいそうになる。
慌てて記憶に蓋をし、前を向く。
その手は、小刻みに震えていた。



どれだけの時間叫んだだろうか。
のた打ち回りながらも絞り出す声は、何時までも続いていた。
圧倒的な力でねじ伏せられ、服従を言い渡され、そして左目を奪われた。
「お前は無力なんだ」と言わんばかりに、身も心もズタズタに切り裂かれた。
所詮、一般人でしかないのか。
何度目かだというのに、自分の力の無さを改めて噛み締めることしか出来ない。
悔しさからアテナは、残った力を少しだけ使って地面を殴りつけた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
事を見ていたダニーが、アテナの顔を覗き込むように問いかけていく。
ルガールから渡されたガーゼと傷薬を使い、アテナの傷を少しでも癒していく。
その治療を受けながら、アテナは少年に謝罪していく。
「ごめんね」
残された片目で涙を流しながら、アテナは口を開く。
「やっぱり私、すっごい弱いや」
分かっていたことを口にする。
自分自身が一番分かっているはずなのに、自分自身の言葉に傷ついてしまう。
「君を、守れるかなあ」
途端、不安になる。
自分は彼の役に立てるのだろうか、と。
ずっと願い続けた事は叶うのだろうか、と。
そこまで考えてから、ゆっくりと右目の涙を拭い、考えを振り払う。
まだ、生きている。
チャンスは残されているなら、動くしかない。
出鼻を挫かれた程度でクヨクヨしている場合ではない。
この体が動き、超能力が残っているのならば。
それを使って、誰かの役に立つまでだ。
心の中にそんな言葉を投げかけながら、治療が終わったのを確認する。
そしてゆっくりと立ち上がり、ダニーの手を取る。
「行きましょ、お姉さんを探しに。
 私の体が動く内は、全力で貴方を守るから」
誰かの役に立つ、その願いを胸に秘め。
一人の少年と共に、再び彼女は歩き出す。



麻宮アテナは気づかない。
幾つものことに、隠された真実に。
彼女が別に何をしようと構わず、生きてさえいれば"役に立つ"という願いは叶えられる事にも。

彼女が痛みに泣き叫んでいるとき、それを見ていた少年ダニーは。
心底楽しそうに、笑っていた。
同時に、ルガールの事を少しだけ疎ましいと思っていた。
だって彼女はメインディッシュ、七面鳥の丸焼きなのだから。
姉と出会った時に、共に楽しむパーティーの大事な大事な主役なのだ。
その主役を先に一齧りされては、楽しいパーティーの魅力も半減だ。
だが、まだ彼女は生きている。
七面鳥は全て食い尽くされた訳ではない。
お楽しみは、まだ残されている。
だから彼はアテナの手を取り、共に歩き出していく。

その手にメインディッシュを抱え込みながら。

パーティー会場へと。

彼は、向かう。


【H-6/北部/1日目・午前】
【ルガール・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:上機嫌
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:世界支配のために完全者の撃破、そのための仲間を集める。抵抗する人間には容赦しない。

【マリリン・スー@エヌアイン完全世界】
[状態]:動揺
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生き残る。殺人に躊躇いはない。
1:ルガールにひとまず従う。世界支配のための力を手に入れるまでは裏切るつもりはない。
2:子供(ダニー)が若干怖い(?)

【G-6/南部/1日目・午前】
【麻宮アテナ@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:全身にダメージ(中)、左目遺失、若干の恐怖心
[装備]:眼帯
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:超能力で誰かの役に立つ
1:ダニーを姉に会わせる
2:誰かに会った時、ルガール・バーンシュタインが対主催だということを伝える(?)

【ダニー@アウトフォクシーズ】
[状態]:ちょっと嫉妬
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)、ガーゼ、傷薬
[思考・状況]
基本:デミと合流するまで我慢
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031:悲しきノンフィクション
時系列順
034:は?
032:暗闇に咲く花
投下順
ルガール・バーンシュタイン
050:リバースカードをオープン
マリリン・スー
017:新境地への招待状
麻宮アテナ
052:アホウドリを捕獲しました
ダニー

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