俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

微妙に舗装された道の上で自分の靴音が、とすっ、とすっ、と嫌味なほどに跳ね返る。
民家は見当たれど、人の気配どころか動物、生きている者の気配すら感じられない。
この島で元々生活していた人間は、ひょっとしなくても完全者の手によって"消されて"いるに違いない。
この場に血や遺体が散乱していないと言う事は……まあ、そういう事だろう。
取られた手段がどうあれ、胸糞が悪くなる事実である事は間違いない。
嫌悪感を吐き出すように唾を吐き、エリは道の探索を始める。

どんな音でも響き渡るゴーストタウンに入ってから、適当な建物を適度に探索していく。
民家には家具やら調理器具がそのまま残っており、人が生活していたという跡をこれでもかと見せ付けてくる。
妙に温もりが残っているめくられた布団、栓だけが開いたまま放置されているワイン。
花や草木も直前まで手入れされている痕跡があり、ペットを飼っていたと思われる家では、皿にエサが山盛り残っていたりもした。
テレビを付けても映るのは砂嵐だったが、繋がれていたゲーム機は正常に動作する。
流石にインターネットには繋がらなかったものの、果てはパソコンに至るまでそっくりそのまま残されている。
まるで、ついさっきまで人が暮らしていたと言わんばかりの光景から、人間だけを綺麗に切り取って行ったかのように思える。

そう、ついさっきまで生活していた人間の空間から、人間だけを綺麗に消し去る。
そんな夢のような話が、簡単に出来るというのだから"新聖堂騎士団"というのはタチが悪い。
「世にもビックリなマジック集団!
 なーんて話だったら、どれだけ楽だったか」
そんな戯言を言いながらサクサクと民家の探索を終え、エリは後回しにしていた役場の前へと立つ。
何故後回しにしていたのか? 簡単な話だ。
外からでもよーく分かるほどの、人の気配がプンプンと漂っていたからだ。
エリは勢い良く扉を開け、中へと入っていく。



やっぱり、納得が出来ない。
なんでもない生活を過ごしていただけの自分が今、こうして命の危機に立たされている。
この場所で生き残ることを考えようとしても、そもそも"生き残る"ということ自体がおかしいのだ。
旧人類の駆逐? 生き残るべき新人類の選定? そのための殺し合い?
そんな事は自分の知らないところで勝手にやっていればいいのだ。
全く理不尽な連中ばかりだと、再び結蘭は頭を抱える。
死ぬつもりも、人を殺すつもりも、極論を言ってしまえば何もするつもりはない。
そもそも、ちょっと腕っ節が強い程度のただのバーテンダーに、何が出来るというのか。
「どうしろって言うんだよ」
溜息をつき、再び応接間のソファに寝っ転がる。
「よォ」
そんな時だ、軽い声と共にバンダナの女が自分の顔を覗き込みに来たのは。
「アンタ、何やってンの?」
一体どこから入ってきたのだろうか?
そもそも人が近づく気配すら感じられなかったというのに。
「何やってるも何も……」
そんな事を考えながら、結蘭は聞かれたとおりの事を喋る。
"何をやっているのか"という話から、"どうしようと思っているのか"に話を繋げて。
壊れた蛇口のように流れ出していく結蘭の言葉に、エリは感情を表すことも無く。
ただ淡々と「ふーん」「そう」「うん」「へぇ」といった、簡単な相槌で会話を進めていく。
まるで今まで溜まっていた鬱憤を晴らすように、結蘭はひたすらに語り続けていく。
いつしか、"自分を巻き込まないで欲しい"という話にまで飛び火していく。
それでも、結蘭は言葉を止めない。
誰かに聞いて欲しかったからか、それとも一人では悩めなかったからか。
三流絵師の絵画が飾られた、村役場の応接間で延々と語り続けた。

「……で? それでオシマイ?」
「ああ」
「ふーん」
少し長い話が、結蘭の口から全て語られた。
一息ついてから、エリが深く椅子に座りなおした次の瞬間。
古めかしい木のテーブルにエリの踵が下ろされ、ガンッと鈍い音が響く。
「ザけんじゃないわよ」
続いて、凍りつきそうな一言が結蘭の耳に入る。
突然の出来事にすっかり萎縮してしまった結蘭の元へ、エリはテーブルの上を歩きながら近寄っていく。
「さっきから話聞いてりゃよくもまあズケズケベラベラズケズケベラベラと」
嫌に落ち着いた顔と声が、結蘭の恐怖を加速させる。
そのままエリは結蘭の胸倉を掴み、その顔を自身の目の前に引き寄せる。
「いいか!? ここは戦場だと思え! 何時何処が戦場になるかなんざわかンねぇ!
 そこに住んでたヤツとか、その思いとかなんざ関係なく蹂躙していきやがる!
 戦争ってのは理不尽だし、色んなものを奪い去っていきやがる!!」
柄にも無く大声を張り上げて、結蘭へと怒鳴り散らしていく。
自分は関係ない、巻き込まないでくれ、普通に暮らしてるだけだから。
結蘭から放たれたそんな言葉の一つ一つが、彼女を逆上させている。
幼くして両親に捨てられて教会で育ち、自分を扱使うクズなシスターどもから逃げ出すように教会を飛び出した。
それからは自分の力で明日を掴み取る為、路上生活を繰返しながら毎日を送ってきた。
ナイフ一本で大人数人と戦ったこともあるし、サディスティックペド野郎に凌辱されかけたこともある。
軍にスカウトされて、望んでも無い技術も喜んでその身に叩き込んだ。
反乱軍へのスパイ、裏組織の重要人物の暗殺、果ては国家転覆の謀略。
死地を数度見ながらも、そんな任務を全てこなしてきた。
それらは全て、自分が生きる為だったからだ。
だが、いつしか楽に生きたいと願うようになり、一つの任務の成功条件に今の正規軍への移籍を申し入れた。
激しい任務はあれど、以前の生活よりかは幾分かマシになった。
ようやく手に入れた安息の地、そう呼ぶに相応しい場所だった。

だが、目の前の人間は違う。
生まれながらにしてある程度恵まれた環境で育ち、いざこんな場所に放り込まれてみれば文句を並べるだけだ。
自分は関係ない、巻き込まないでくれ、普通に暮らしてるだけだから。
置かれた状況から"どうやって生き抜くのか?"なんて考えすらもしない。
誰かが状況を変えてくれるし、誰かが助けてくれる。
そんなフヌけた事ばかりを言う人間だったから、彼女は耐え切れずに逆上した。
言葉は、叫びは続く。
「それをなンだァ? 自分は関係ないですって言ってりゃ助かンのかよ!?
 ヨソでやってろ、巻き込むなだァ!? テメーの意志なんざ知るかっつーんだよ!!
 テメーは今! 戦争に巻き込まれた! だったら、やることがあンだろ!
 その首から上についてるもんは飾りか!? 幼稚園児でも今の状況飲み込んで行動できる!
 置かれた状況が理解できないほどクソガキなんだったら、クソみたいな幻想に縋ってんだったら、そのまま死ね!」
吐き出すことを吐き出し、少し乱暴に結蘭を椅子へと突き飛ばしていく。
そしてすっかり魂の抜けたような表情をする結蘭へ、決して振り返ることなく。
「チッ、時間の無駄だったか……」
最後の一言を置いて応接間を後にした。



イライラした表情を浮かべながら、エリは村役場から逃げるように後にしていく。
結蘭の甘ったれた思想は、傍に居るだけで自分を毒していくから。
「気が狂っちまいそうになるな」
先ほど民家からガメた煙草に火をつけ、深く吸い込んでから煙を吐き出す。
そして丁度、村役場の正面玄関に辿り着いた時である。
「……何しに来た」
振り返らず、背後に立ち尽くす気配へと語りかけていく。
そこに立ち尽くす存在は、一人しか居ないのだから。
「は、だんまりか。だが……」
返答は無い。何を言えば良いのかもわからない、ということなのだろうか。
だが、エリは笑ったまま言葉を続ける。
「嫌でも働いてもらうことになりそうだぜ?」
煙草を加えたまま見据えた正面玄関の先には。
忘れるはずも無い一人の男が、こちらに向かって"歩いて"いた。
「ムラクモ……」
その名を呟き、煙草を落として足で踏みにじり、銃と剣を構えた。


【C-3/鎌石村役場/1日目・午前】
【エリ=カサモト@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:ツァスタバ CZ99(15+1/15、予備弾30)、ソードブレイカー、煙草
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:殺し合いの転覆、PF隊を優先的に仲間を募る。

【結蘭@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:生きたい。

【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康、移動低下(時間経過で解除)
[装備]:菊御作、六〇式電光被服@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・状況]:自らに課した責務を果たす
Back←
034
→Next
033:アイドルをプロデュース
時系列順
035:Going to the Freedom
投下順
010:火星人以下の意思疎通能力
エリ=カサモト
041:少女には思想を与えられず
011:ある一般人の苦悩
結蘭
003:惑わず仕舞(Les ivresses)
ムラクモ

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu


資料、小ネタ等

ガイド

リンク


【メニュー編集】

管理人/副管理人のみ編集できます