俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

軍とは、それはお国によって変わるが、本来は『国』や『人』を守る『暴力機関』の総称だ。
これは非常に矛盾している。
守るために戦う、生きるために戦う、はてさて、掲げる正義はどこへ飛んでいくのか、誰にどう見えてしまうのか。
世の中に『軍人』がいなければいい、そうすれば争いなんておきやしないんだ、そう嘯く『軍人』がいたぐらいだ。

おとぎ話の勇者のように華やかでもなく、保守的な人間がヒステリックにあげつらうように残虐でもなく。
やはり彼らは、彼らの意志でもって、世界に立っていた。
自分の使命のために、人類の勝利のために。
ここに今対峙するは、何もかもが反対で矛盾した、『軍人』という人間たちだ。

「ムラクモ……」

じりり、彼女の唸るような声に続くのは踏みにじられた煙草の音だけ。
名前を呼ばれた男、ムラクモは、無表情に、返事をすることもなく臨戦態勢の彼女を見やる。
強い殺気はあるが、その静けさは異様なまでに穏やかで、思い出したように腰に下げていた刀に手を置く。

ムラクモは、記憶の糸を手繰り寄せていた。
自身のコードネームを知るものはそう多くはないはずだ、と。
ならばいずこかでこの女と接触したことがあるのか、否である。
では、彼女はあの、クロード・ダスプルモンと同じように情報の世界に通じている人物か。
どこぞの宗教団体のように大声を上げて犯行声明を立てたことも無ければ、どこぞの自信家のようにフルネームを堂々と名乗った記憶もない。

とった構えは、なるほどよく訓練された兵士のそれで。
この女は、特殊な軍人である、と結論づける。

エリはと言えば、行動を起こすのが酷く緩慢なムラクモに焦れていた。
ただ緩慢であればそのまま撃破するのも容易いが、指一本動かす隙もない、すぐにでも必殺の攻撃を繰り出す気迫を伴った緩慢さなのだ。
焦れているだけではなく、眼は義憤に、怒りに燃えていた。
完全教団の旧人狩りに紛れ、なんの前触れもなく現れては人々を殺して回る殺人鬼。
自身を『現人神』だと名乗り、屍で神道を作り上げる。
単独犯故にその行いを知る人間は少なかったが、その存在を知ってしまったエリは完全教団と同じくらいには、ムラクモの行いに激高していた。
軍のあらゆるデータ、それこそ機密情報までトレバーに頼み込んで探り、ついに辿り着いたのが、日本の陸自に所属する千家と言う男。
こいつが狂人か、と拳を握ったそのとき、トレバーが素っ頓狂な声を上げた。

『どうなってんスかこれ、こいつと同じ顔した人間のデータが山ほど出てきやがりましたよ!』

エリとトレバーはやがて辿り着いた、旧帝国陸軍武官、コードネームアカツキ零號、またの名を「ムラクモ」と呼ばれる男に。
ムラクモが自身を神と名乗る理由、行い、許されざる全てにエリは、やはり神はろくなもんじゃあない、と呻いてデータを頭のなか以外から消却した。


後ろの気配が震えた。当然か。
先程まで自分は一般人だとごねて、怒鳴られ、生きていたいという感情しかつかめない少女。
一体なぜか、それは今まで、強烈に生を求めたことがないから。
多分、『一般的』に言えば、悪いことじゃあない。幸せなことだったろう。この場所以外では。

「しゃんとしなァ!死にたくないんだろ!?」

怒鳴り声とともに、ガキィンと、金属が金属を受け止める音が響いた。
びくっ、と結蘭は顔を上げる。
ムラクモが抜刀し、エリのソードブレイカーがカチカチと音を立ててその凹凸のある刃先で刀を絡めとる、後ろ姿。

対峙する『軍人』達とは違う『一般人』の彼女は、恐怖に体が硬直していくのを感じた。
死にたくない、生きたい、恐ろしい。
反芻していく感情。しかし時間はいっかな留まってはくれないのだ。

一歩間違えば自身を切り裂きかねないそれらは弾き合い、エリは役場の奥に後退しながら銃弾を一発撃ちこむ。
常人であればその弾丸は到底避けられるものではなかったはずだ。勿論ムラクモも微動だにしていなかった。しかし。
バチン、突き出された空手の前に薄い光の気流の盾が出現しその弾丸を弾く。
翳していた手のひらを引くと同時に、もう一度刀が驚愕していたエリに振り下ろされる。
すんでのところで、またソードブレイカーはその盾の力を示した。
本来のムラクモのスピードであれば防御は間に合わなかっただろう。
なぜ動きが奇妙なまでにスロウになるのか、エリには知る由もなかった。攻撃が無力化されてしまった理由もだ。
理解するために、結局悶着を三度要した。分かったのは、銃弾は無意味、ただそれだけ。
とうとう結蘭のそばまできた刃の合戦。
俄に、硬直していた脚が動き出す。逃げろ、体中の細胞が、脳が、結蘭にそう命令した。
生きるために殺しもできず、殺されたくもないなら、逃げればいい。
走って走って、どこまでも。
悲鳴すら出さずに、結蘭は走った、ここではないどこかに逃げてしまいたくて。
しかし、あるのは、つい先程まで座り込んでいた応接間だけ。

迫り来る恐怖に彼女は振り返る。

「そうか、それもありね」

四度目の結びのあと、エリは銃弾を撃たず、金髪をなびかせて結蘭の背を抱え室内に飛び込み、囲んで間もない卓を蹴り起こしてドアを封鎖した。

「あんたはソファを、バリはあるだけいい」

どうしてそこまで冷静なのか、結蘭には目の前の女も、攻めてきた男も化け物じみているとしか言えなかった。
無我夢中でソファを起こして、投げつける。
どれほど持つのかも、果たして男に効果があるのかも、結蘭には分からない。

「おかしいよ、あんたら、本当にどうかしてる」

素直に、震えた声帯。

「戦争は理不尽って、幼稚園児だって置かれた状況を理解するって、そんなの、あんたらみたいなやつらの理屈だろう」

助けて欲しかった、あれだけの言葉を瞬時に並べ立てて理念とする人間に。
しかし結蘭が助けを求めたのは、果たして人間だったのか?もっと、もっと恐ろしい化け物ではないのか?

「オレは嫌だ…殺すのも、殺されんのも……嫌だ」

逃げたい、逃げたい、昨日までの生活に逃げてしまいたい。
頭を抱え、うずくまってしまった結蘭を、エリはやけに落ち着いた心持ちで見つめる。
怒鳴る気力も、必要性も湧いてこない。

「だったら、逃げちまえばいいだろ」

深い溜息とともに、吐き捨てた。

「え……」

顔を上げた結蘭は、泣いてはいなかった。
どちらかと言えば怒っている、途方に暮れ果てた様子で。

「そのまんまだ、あんたは生きるために逃げ続けていればいい。そうそう、あんたは私達とは違う穏やかで模範的な『一般人』だったんだろ」

エリもまた、目の前の人間は自分とは違う世界で、夢を見ている『化け物』だと悟った。

「可笑しなことを言う」

抑揚のない、低い男の声。
初めて聞いたそれは、エリがムラクモと呼んだ男のもので。

「女、お前は人間に本当に区別があるとでも思っているのか?ならばそれは正すべき間違いだ。」

くつくつと笑い声が漏れる。全く感情のない、笑い声が。

「なんだ、テメェも自分は新人類で、旧人類は淘汰するっていうクチなのか?」

一応足止めには成功しているか、とエリは安心した。
そして小声で、結蘭に耳打ちする。

(あんたのデイパックの中身は?)

動揺はしたが、結蘭は無言でデイパックをエリに渡す。
エリが、音もなく微笑む。

「違うが、私は旧人も新人もなく、人間には等しく価値がないと判断している」

産業革命以降、爆発的に増えた人口。
その有様はもはや、人間は、害虫の如く駆除されるべき存在になったのだという天命だと、ムラクモの論説は響く

(あんた…なんだっけ、まあいいや、逃げな)

か細く、しかしはっきりした声。

(そっちの窓から出られるでしょ、今ムラクモはこっちにしか興味がないみたいだから)

今もなお、ムラクモの狂気じみた言葉は続いていた。

(逃げて、逃げて、誰かに頼るなりまた喚くなりしていればいい。そのデイパックの中身さえありゃちょっとやそっとじゃ死なないわ)

窓と、エリを交互に見て結蘭は顔を歪めた。先刻とは打って変わった、優しいエリの口調。
あんたはどうするんだ、そう言いたかった。
でも目の前の人間は余りに遠い世界の人間で、結蘭にはどうすることも、何かを言う権利も無くて。

結蘭は、多くの『一般人』は深く知らない。
彼女たちが怯え逃げている間に、守るべく戦う人間たちを。
それがエリや、遥か昔のムラクモであったことを。
彼女たちの、『軍人』という職業であることを。

こくん、と結蘭が頷くと同時に、エリは怒鳴った。

「うるせぇんだよ!ご大層なおべんちゃら並べやがって、テメェの目的はなんだ!?この殺人鬼が!」

(死ぬなよ)

離れていく結蘭が最後に呟いた言葉。
もう少し時間があれば、ムラクモの襲撃さえなければ、彼女が恐怖に飲まれて後ずさってしまうことはなかったのかもしれない。
本来の結蘭を知らないエリは、完全な妄想だと一蹴したが。

「殺人鬼などではない、私は新世界秩序における現人神だ」

冷えきった声音とともににわか仕込みのバリケードが吹っ飛んだ。
室内に荒れ狂う真っ黒な、電撃の塊。
咄嗟に伏せたおかげで外傷は少なかったが、追い詰められた。
どん詰まり、袋小路、ひとりぼっち。

「どうやら、連れは逃げたようだな。いずれ殺すことに変わりはないが」

皆平等に殺して差し上げる。
かつて掲げた、今もはためかせるムラクモの正義。

「それは無理な相談だ、テメェみたいなキチガイは、今ここで私がおねんねさせてやるからな」

ただじゃあ、逃がさない。
結蘭のデイパックから1つだけ拝借した、手によく馴染むそれを隠し、エリは不敵に笑った。


少女は走った。言われたとおりに、どこまでも逃げようと。
だがしかし、行き止まりはいともたやすく訪れる。

全速力で走るため前すら見ていなかった結蘭が何かにぶつかりはじきとばされた。
人間かもしれない、敵か、味方か?

「ヒ…ヒヒ、神様ってぇのは、案外本当に居るのかもしれねぇなァ!」

あちらこちら焼け焦げた、赤いロングコートを纏ったサングラスの男。
目の前の男もまた逃げている最中だった。
追手は近く、おそらく絶望的な状況だったろう男、トリガーは幸運を掴み、少女、結蘭は絶望を掴まされた。

【C-3/鎌石村役場/1日目・午前】
【エリ=カサモト@メタルスラッグ】
[状態]:軽傷
[装備]:ツァスタバ CZ99(13/15、予備弾30)、ソードブレイカー、煙草、手榴弾(1/1)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:殺し合いの転覆、PF隊を優先的に仲間を募る。


【ムラクモ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康、移動低下(時間経過で解除)
[装備]:菊御作、六〇式電光被服@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・状況]:自らに課した責務を果たす

【C-3/鎌石村西部/1日目・午前】

【結蘭@堕落天使】
[状態]:健康、放心状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、手榴弾(9/10)不明支給品(1〜2)(結蘭は自分の支給品を把握していない)
[思考・状況]
基本:生きたい。

【トリガー@堕落天使】
[状態]:軽度の火傷
[装備]:パイファー ツェリスカ(?/5、予備?発)@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)、トレバーの不明支給品(1〜3、武器ではない)
[思考・状況]
基本:殺して生き残る
現在:京、庵から逃走中
Back←
041
→Next
040:DOG WAY
時系列順
042:ただ殺すだけでは満足できないから
投下順
034:は?
エリ=カサモト
043:救済とは神がもたらすものなり
ムラクモ
結蘭
028:お前の態度が気に食わない
トリガー

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu


資料、小ネタ等

ガイド

リンク


【メニュー編集】

管理人/副管理人のみ編集できます