最終更新:ID:WPVyUA8VHA 2013年02月23日(土) 01:06:16履歴
俺は、敗者である俺は、トンネルから遠ざかり、湿った藪の中を征く。
すでに登り切った太陽が、柔く背中を照らしている。
虫の息ひとつ聞こえない静寂の空気を、わずかに消耗した体で裂いていく。
ただ死ぬためだけに歩き続ける。
このままでは死ぬ、きっと死ぬ。予感がある。
消耗、虚脱感、オリギナールの冷淡な視線、同胞を動力とした戦車の、断末魔のきしみが、脳裏に渦巻いて消えない。
全員殺し、完全者をも斃す。この決意が揺らいだわけではない。
ただ漫然とした焦りが、このままでは死ぬというどす黒く、無視できない『何か』が、胸にひしめいているのだ。
恐れか。
初めて感じたそれに名を当てはめて、改めて驚く。
なんて弱い。『第三帝国の悪夢』が聞いて呆れる。
死にたくない。意味のないまま、こんなからっぽのまま。
だが死の向こうに栄光が花開いているのなら、この足を止める理由は何もない。
そう決心した途端に、別の考えが横槍を入れる。
古代の遺産を手に入れ、生き延びて、そのあとは?
先刻の戦いでほんの少ししか見えなかった走馬灯のように、この世に生まれ落ちてから、俺にはさしたる思い出がない。
目的を達した後、この世に生き続ける理由が、見当たらない。
死にたくないと思うだけなら犬にもできる。
俺は、我らの栄誉のため、戦うことができる。
いや、それしかできないのか。
こんな思考は無意味だった。いたずらに意識を混乱させる。
まだ、完全者の影にすら手が届いていないというのに。
いつの間にか景色は変わり、東洋風の寺院が姿を表していた。
少し入り組んだ場所に見える神殿らしい建物の内部には、参加者が潜んでいるかもしれない。
見つければ殺し、無人ならば休息を取るべきだ。
赤い棒を縦横に組み合わせた、門らしきものの下をくぐり抜ける。
「そこの兵隊、動くな」
声とともに、僅かな金属音が聞き取れた。
方向は定かではないが何者かに補足され、おそらくは銃器の照準を定められたと、感覚で知る。
声に従い動きを止める、相手の位置を探るために。
「おっと、もちろん喋るなよ……俺の持ってるピストルは、ピッタリお前の頭に狙いをつけてる。
俺の質問にだけ、口開け。わかったか? 『エレクトロ・ゾルダート』?」
名称を知られているとは。
いや、思えば、完全者の命令で世界中を相手どって殺戮を行なっていた身、俺達の容貌と能力を知らぬものなどいないだろう。
出会うものすべてに敵と認識されるわけだ。
しかし、銃器など攻勢防禦の前では無意味。
哀れにも俺に狙いを定めてしまった者の位置を特定しだい、殺すまで。
「質問に答える義務はない」
「おいおい、俺の話聞いてたのかよ。強がりも程々にしないと後悔するぜ」
「弾丸など俺には当たらん……貴様こそ我々を知った上で脅しつけるなど、わざわざ殺されに来たのか」
電光機関起動。
手袋の中に熱と光が生まれる。電気の弾ける音が、小さく鼓膜を打つ。
相手もプロらしい。短い会話だけではどこにいるのか、息遣い、声の方向がよくつかめない。
「殺されるつもりがないから、こーやって隠れてんだっての。
否定しないってことは、エレクトロ・ゾルダート……完全者の私兵、ってことで間違いないな。
そのバチバチしてる電気、当然電光機関使ってんだろ? 性能やら何やら、教えてもらおうか」
電光機関を狙っての襲撃と知り、笑い出しそうになった。
大戦中から、少なくない人間たちがこの未知の技術を盗み取らんと欲し、ミュカレによってその身を滅ぼしていったと聞く。
求めれば身の破滅、使っては使用者の命をけずる。
電光機関の原理、それは命と電気の交換率。
エヌアインに教えられたこの知識、カメラードたちはそんなことも知らないまま、消耗して死んでいった。
自分とて、これを使わなくてはこの戦場を戦い抜けない。
決して多くない『残り時間』を使いながら。
それを、そんな物を欲しがっているのか、この男は。
「断る……さっさと撃って来い。その瞬間に仕留めてやる」
「おーお、完全者に義理立てか? 大した忠誠心だがな、俺はお前を殺すことが目的じゃなくて、ソースがはっきりした情報が欲しいだけなんだぜ」
こちらが言い終わりもしないうちから、鼻で笑い飛ばすような声。
感情の昂ぶりと相まって、全身を駆け抜ける電光が一際強くなる。
殺すつもりがないなどと、兵士たる我らへの侮辱のつもりか。
「あの女は関係ない。俺は一人で、この戦場を勝ち抜き――奴を殺す。
よって、貴様に渡すような情報はない。さっさと出てこい、腰抜けめ」
「こいつは驚いた。お前、あのお嬢の手駒じゃないのか?」
「……話すことは何もない」
会話の中で、標的の位置はおおよそつかめた。
真後ろ、密集している植物の合間。
『ヒュープシュラウバ』で十分届く。後ろへ一歩退き、膝に力を込める。
「交渉決裂……いや、脅迫失敗か、こいつは」
諦めたような声が聞こえた瞬間、俺は飛ぶ。
破裂音と共に敵の弾丸も飛ぶが、攻撃の空中回転を利用し、体を捻って避け切った。
弾道の始まり、狙い通りの位置に、敵はいる。
慌てた様子で枝葉の間から顔を出したのは、白い額当てを巻いた白人の兵士だった。
相手の銃口がもう一度狙いを定めるよりも早く、俺の足が、敵の腕を蹴りとばす。
蹴りの衝撃で再び銃声が鳴るが、弾はあさっての方向へと飛んで行った。
「オーマイ、がッ!」
空になった手のひらを呆然と見つめる敵兵、そのみぞおちへ膝をねじり込み、地面へと叩きつける。
「……死ね、劣等人種め」
腰抜けはやはり腰抜けだ。
大きく咳き込んでいる相手の首筋を掴み、このまま電光機関の出力を上げ、――!
「――なんつってな。ヘイ! 銃が一丁だなんて誰が言った?」
いつの間にか相手の手にはもう一丁の拳銃が収まっており、銃口が俺の額に押し当てられている。
「なんで二丁もあるんだって顔してやがるな。俺は一にも二にも『ソースを読め』、が信条でね。
【アノニム・ガードの二丁拳銃】って取説に書いてあったぜ。 バチカンのなんとかっていう宗教団体の尼さん兵だっけか?
レディが二丁拳銃使いなんておっかねえよなあ、おい」
「く……」
二丁一組の支給!
何て憎い、なんとくだらぬ支給を企むのだ、完全者ミュカレ!
銃口を密着させられていては、攻勢防禦も不可能だ。
マウントポジションを崩され、立場が逆転する。
撃鉄の起こされる冷たい音が、額から頭蓋へと直に響く。
敗北か。
俺は死ぬのだ。
「……で、もう一度交渉と行こうじゃねえか」
愚かにも、相手は俺を殺さなかった。
好機だ、と考える。
口の端を吊り上げ、余裕の笑みを浮かべた敵を、信じられぬ思いで見つめながら。
再交渉に応じる気などさらさらない。
隙を見て今度こそ、殺害する――
「この首輪も電光機関らしいんだが、お前それわかってんのか?」
「何?」
ひらり、と片手で広げた小冊子の一部分を示しながら、男が言った。
『四拾弐式電光機関――首輪型の特殊な電光兵器』。
そのほかに目で拾った文字の中には、『兵力増強計画「電光戦鬼」』、『電光戦車計画』――
この座興は、やはり完全者の気まぐれなどではなかったのだ。
六○式まである電光機関の一種が、この首輪だというのか。
「内容全部を信じてるってわけじゃねえけどな、こいつは俺の支給品さ。一にも二にもまずは首輪だよ、首輪。
完全者を殺すとか言ったって、こいつが付いてる以上、どでかいアドバンテージをあっちが持ってんだぜ?」
認めざるを得ない。その通りだった。
首輪のことが念頭になかったわけではない。
だが、試製壱號やオリギナールとの戦闘で血気に逸(はや)り、思考をする時間も惜しかったのだ。
絶句する俺に、相手は軽い口調ながらも淡々と、話を続ける。
「俺だって、モーデン兵も真っ青の世界侵略が始まったときは、何もできない自分が歯がゆかったぜ。
完全者が暴れまわってた絶頂期には、派兵された仲間が大勢死んだ。許さねえよ、絶対にな」
敵の目に暗い光が宿り、怒っているのだとわかる。
この男も死んだ仲間のために、戦っていたのか。
しかし、こいつは俺とは違う。
複製體としてこの世に生を受けた俺とは、根本的に違う。
俺は『仲間』のために戦っているのではない。
この命をささげているのは、幾千幾万と死んでいった『俺達』のため。
その違い、隔たりが埋まることは決してない。
「首輪を取らない限り完全者には勝てねえし、お前一人じゃまず無理だ。
俺ならできる、作りさえ分かればな。電光機関についての情報が欲しいのはそういったわけだ」
「仕組みが分かれば、貴様がこの首輪を解除するというのか」
大それた申し出に驚く。
ふ、と笑い、肩をすくめる兵士。当たり前だ、とでもいうように。
「どうする? このまま突っ走って敗北(しぬ)か、俺と組むか」
選択を迫られる。
このまま隙を見てこの男を殺し、小冊子をはじめとする荷物を奪って逃走するか。
もとより一人で勝ち抜くことを心に決めた戦いだ。
『俺達』のために戦う理由は、俺にしかわからない。
ただ、我々は電光機関を『使用する』為にのみ訓練されてきたのであって、機関そのものの作りを把握しているわけではない。
基本的な工学知識だけで、複雑極まりない電光機関内部をいじるとなれば心もとない。
ならば差し出された提案を受け取って、共同で完全者へと挑むか。
『首輪を解除する』という自信に満ちた宣言も、口から出まかせとは思えない様子だった。
しかし、そもそもあの小冊子に書いてある事柄が全てでたらめならば、我らはとんだ道化だろう。
あるいは何か、第三の手が。
長考は危険だ。
銃声を聞きつけて、じきに誰かがやってきてしまうだろう。
俺は、敵――マルコ=ロッシと名乗った男の眼を見る。
自分にはいつも時間がないと、頭の片隅で自嘲して。
「さ、どうするんだ?」
額に押し当てられた銃口に力がこもり、俺は口を開いた――
【F-8/無学寺/1日目・午前】
【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康だがやや消耗
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
・全参加者及びジョーカーを撃破後ミュカレを倒し、先史時代の遺産を手に入れる。
・マルコと協力するか、殺害するか、あるいは何か別の手が……(次の書き手さんにお任せします)
【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)、小冊子、アノニム・ガードの二丁拳銃(二丁一組、予備弾薬無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破
1:ゾルダートを説得、協力を取り付け、電光機関について知識の習得
2:首輪サンプルの取得
すでに登り切った太陽が、柔く背中を照らしている。
虫の息ひとつ聞こえない静寂の空気を、わずかに消耗した体で裂いていく。
ただ死ぬためだけに歩き続ける。
このままでは死ぬ、きっと死ぬ。予感がある。
消耗、虚脱感、オリギナールの冷淡な視線、同胞を動力とした戦車の、断末魔のきしみが、脳裏に渦巻いて消えない。
全員殺し、完全者をも斃す。この決意が揺らいだわけではない。
ただ漫然とした焦りが、このままでは死ぬというどす黒く、無視できない『何か』が、胸にひしめいているのだ。
恐れか。
初めて感じたそれに名を当てはめて、改めて驚く。
なんて弱い。『第三帝国の悪夢』が聞いて呆れる。
死にたくない。意味のないまま、こんなからっぽのまま。
だが死の向こうに栄光が花開いているのなら、この足を止める理由は何もない。
そう決心した途端に、別の考えが横槍を入れる。
古代の遺産を手に入れ、生き延びて、そのあとは?
先刻の戦いでほんの少ししか見えなかった走馬灯のように、この世に生まれ落ちてから、俺にはさしたる思い出がない。
目的を達した後、この世に生き続ける理由が、見当たらない。
死にたくないと思うだけなら犬にもできる。
俺は、我らの栄誉のため、戦うことができる。
いや、それしかできないのか。
こんな思考は無意味だった。いたずらに意識を混乱させる。
まだ、完全者の影にすら手が届いていないというのに。
いつの間にか景色は変わり、東洋風の寺院が姿を表していた。
少し入り組んだ場所に見える神殿らしい建物の内部には、参加者が潜んでいるかもしれない。
見つければ殺し、無人ならば休息を取るべきだ。
赤い棒を縦横に組み合わせた、門らしきものの下をくぐり抜ける。
「そこの兵隊、動くな」
声とともに、僅かな金属音が聞き取れた。
方向は定かではないが何者かに補足され、おそらくは銃器の照準を定められたと、感覚で知る。
声に従い動きを止める、相手の位置を探るために。
「おっと、もちろん喋るなよ……俺の持ってるピストルは、ピッタリお前の頭に狙いをつけてる。
俺の質問にだけ、口開け。わかったか? 『エレクトロ・ゾルダート』?」
名称を知られているとは。
いや、思えば、完全者の命令で世界中を相手どって殺戮を行なっていた身、俺達の容貌と能力を知らぬものなどいないだろう。
出会うものすべてに敵と認識されるわけだ。
しかし、銃器など攻勢防禦の前では無意味。
哀れにも俺に狙いを定めてしまった者の位置を特定しだい、殺すまで。
「質問に答える義務はない」
「おいおい、俺の話聞いてたのかよ。強がりも程々にしないと後悔するぜ」
「弾丸など俺には当たらん……貴様こそ我々を知った上で脅しつけるなど、わざわざ殺されに来たのか」
電光機関起動。
手袋の中に熱と光が生まれる。電気の弾ける音が、小さく鼓膜を打つ。
相手もプロらしい。短い会話だけではどこにいるのか、息遣い、声の方向がよくつかめない。
「殺されるつもりがないから、こーやって隠れてんだっての。
否定しないってことは、エレクトロ・ゾルダート……完全者の私兵、ってことで間違いないな。
そのバチバチしてる電気、当然電光機関使ってんだろ? 性能やら何やら、教えてもらおうか」
電光機関を狙っての襲撃と知り、笑い出しそうになった。
大戦中から、少なくない人間たちがこの未知の技術を盗み取らんと欲し、ミュカレによってその身を滅ぼしていったと聞く。
求めれば身の破滅、使っては使用者の命をけずる。
電光機関の原理、それは命と電気の交換率。
エヌアインに教えられたこの知識、カメラードたちはそんなことも知らないまま、消耗して死んでいった。
自分とて、これを使わなくてはこの戦場を戦い抜けない。
決して多くない『残り時間』を使いながら。
それを、そんな物を欲しがっているのか、この男は。
「断る……さっさと撃って来い。その瞬間に仕留めてやる」
「おーお、完全者に義理立てか? 大した忠誠心だがな、俺はお前を殺すことが目的じゃなくて、ソースがはっきりした情報が欲しいだけなんだぜ」
こちらが言い終わりもしないうちから、鼻で笑い飛ばすような声。
感情の昂ぶりと相まって、全身を駆け抜ける電光が一際強くなる。
殺すつもりがないなどと、兵士たる我らへの侮辱のつもりか。
「あの女は関係ない。俺は一人で、この戦場を勝ち抜き――奴を殺す。
よって、貴様に渡すような情報はない。さっさと出てこい、腰抜けめ」
「こいつは驚いた。お前、あのお嬢の手駒じゃないのか?」
「……話すことは何もない」
会話の中で、標的の位置はおおよそつかめた。
真後ろ、密集している植物の合間。
『ヒュープシュラウバ』で十分届く。後ろへ一歩退き、膝に力を込める。
「交渉決裂……いや、脅迫失敗か、こいつは」
諦めたような声が聞こえた瞬間、俺は飛ぶ。
破裂音と共に敵の弾丸も飛ぶが、攻撃の空中回転を利用し、体を捻って避け切った。
弾道の始まり、狙い通りの位置に、敵はいる。
慌てた様子で枝葉の間から顔を出したのは、白い額当てを巻いた白人の兵士だった。
相手の銃口がもう一度狙いを定めるよりも早く、俺の足が、敵の腕を蹴りとばす。
蹴りの衝撃で再び銃声が鳴るが、弾はあさっての方向へと飛んで行った。
「オーマイ、がッ!」
空になった手のひらを呆然と見つめる敵兵、そのみぞおちへ膝をねじり込み、地面へと叩きつける。
「……死ね、劣等人種め」
腰抜けはやはり腰抜けだ。
大きく咳き込んでいる相手の首筋を掴み、このまま電光機関の出力を上げ、――!
「――なんつってな。ヘイ! 銃が一丁だなんて誰が言った?」
いつの間にか相手の手にはもう一丁の拳銃が収まっており、銃口が俺の額に押し当てられている。
「なんで二丁もあるんだって顔してやがるな。俺は一にも二にも『ソースを読め』、が信条でね。
【アノニム・ガードの二丁拳銃】って取説に書いてあったぜ。 バチカンのなんとかっていう宗教団体の尼さん兵だっけか?
レディが二丁拳銃使いなんておっかねえよなあ、おい」
「く……」
二丁一組の支給!
何て憎い、なんとくだらぬ支給を企むのだ、完全者ミュカレ!
銃口を密着させられていては、攻勢防禦も不可能だ。
マウントポジションを崩され、立場が逆転する。
撃鉄の起こされる冷たい音が、額から頭蓋へと直に響く。
敗北か。
俺は死ぬのだ。
「……で、もう一度交渉と行こうじゃねえか」
愚かにも、相手は俺を殺さなかった。
好機だ、と考える。
口の端を吊り上げ、余裕の笑みを浮かべた敵を、信じられぬ思いで見つめながら。
再交渉に応じる気などさらさらない。
隙を見て今度こそ、殺害する――
「この首輪も電光機関らしいんだが、お前それわかってんのか?」
「何?」
ひらり、と片手で広げた小冊子の一部分を示しながら、男が言った。
『四拾弐式電光機関――首輪型の特殊な電光兵器』。
そのほかに目で拾った文字の中には、『兵力増強計画「電光戦鬼」』、『電光戦車計画』――
この座興は、やはり完全者の気まぐれなどではなかったのだ。
六○式まである電光機関の一種が、この首輪だというのか。
「内容全部を信じてるってわけじゃねえけどな、こいつは俺の支給品さ。一にも二にもまずは首輪だよ、首輪。
完全者を殺すとか言ったって、こいつが付いてる以上、どでかいアドバンテージをあっちが持ってんだぜ?」
認めざるを得ない。その通りだった。
首輪のことが念頭になかったわけではない。
だが、試製壱號やオリギナールとの戦闘で血気に逸(はや)り、思考をする時間も惜しかったのだ。
絶句する俺に、相手は軽い口調ながらも淡々と、話を続ける。
「俺だって、モーデン兵も真っ青の世界侵略が始まったときは、何もできない自分が歯がゆかったぜ。
完全者が暴れまわってた絶頂期には、派兵された仲間が大勢死んだ。許さねえよ、絶対にな」
敵の目に暗い光が宿り、怒っているのだとわかる。
この男も死んだ仲間のために、戦っていたのか。
しかし、こいつは俺とは違う。
複製體としてこの世に生を受けた俺とは、根本的に違う。
俺は『仲間』のために戦っているのではない。
この命をささげているのは、幾千幾万と死んでいった『俺達』のため。
その違い、隔たりが埋まることは決してない。
「首輪を取らない限り完全者には勝てねえし、お前一人じゃまず無理だ。
俺ならできる、作りさえ分かればな。電光機関についての情報が欲しいのはそういったわけだ」
「仕組みが分かれば、貴様がこの首輪を解除するというのか」
大それた申し出に驚く。
ふ、と笑い、肩をすくめる兵士。当たり前だ、とでもいうように。
「どうする? このまま突っ走って敗北(しぬ)か、俺と組むか」
選択を迫られる。
このまま隙を見てこの男を殺し、小冊子をはじめとする荷物を奪って逃走するか。
もとより一人で勝ち抜くことを心に決めた戦いだ。
『俺達』のために戦う理由は、俺にしかわからない。
ただ、我々は電光機関を『使用する』為にのみ訓練されてきたのであって、機関そのものの作りを把握しているわけではない。
基本的な工学知識だけで、複雑極まりない電光機関内部をいじるとなれば心もとない。
ならば差し出された提案を受け取って、共同で完全者へと挑むか。
『首輪を解除する』という自信に満ちた宣言も、口から出まかせとは思えない様子だった。
しかし、そもそもあの小冊子に書いてある事柄が全てでたらめならば、我らはとんだ道化だろう。
あるいは何か、第三の手が。
長考は危険だ。
銃声を聞きつけて、じきに誰かがやってきてしまうだろう。
俺は、敵――マルコ=ロッシと名乗った男の眼を見る。
自分にはいつも時間がないと、頭の片隅で自嘲して。
「さ、どうするんだ?」
額に押し当てられた銃口に力がこもり、俺は口を開いた――
【F-8/無学寺/1日目・午前】
【エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康だがやや消耗
[装備]:電光機関
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
・全参加者及びジョーカーを撃破後ミュカレを倒し、先史時代の遺産を手に入れる。
・マルコと協力するか、殺害するか、あるいは何か別の手が……(次の書き手さんにお任せします)
【マルコ=ロッシ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)、小冊子、アノニム・ガードの二丁拳銃(二丁一組、予備弾薬無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの打破
1:ゾルダートを説得、協力を取り付け、電光機関について知識の習得
2:首輪サンプルの取得
Back← | 040 | →Next |
038:おたんじょうびおめでとう | 時系列順 | 041:少女には思想を与えられず |
039:おさるのカーニバル | 投下順 | |
025:情報開示 | マルコ=ロッシ | 055:ネゴシエーター |
022:ジャーマンルーレット・マイライフ | エレクトロ・ゾルダート(エヌアイン捜索部隊) |
コメントをかく