俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「悪りぃが、俺は進む。立ち止まってられるほどの余裕はないんでな」

 ボクも、カティも、何も言わなかった。
 いやボクに関しては言えなかった、というのが正しいのかもしれない。
 引き止めることはできなかった。引き止められる言葉を持てなかった。
 何より――重力に引かれているのは、ボクだったからだ。
 灰児は一度だけボクとカティを振り返り、しかし無言でその場を後にし、大きな背中を小さくしていった。
 黒いサングラスの奥にある仄暗い視線に、僅かに羨みのようなものが見えたのは、ボクの願望なのだろうか。

「慈悲、ってやつかな」

 声も届かないほど離れた背中を見つめて、ボクは呟いた。
 叱咤しない。失望もない。期待しない。哀れみだけがあり、灰児はボクに、何もしないことを選んだ。
 それがいたわりでなくて、なんだ。

「ボクがそんなことをされるとはね」

 浮かべた笑みは、きっと灰児がいつも言うところの『諧謔味のある笑み』なのだろうと思った。
 自覚はない。心にざわめきを覚えているときは、いつもこんな顔なのだという。
 いつだったか、あのアカツキにも意外性を含んだ目を向けられていた。

「……カティもさ。どうして行かないんだ?」
「はえ?」

 ごく自然に、一緒に見送る形になってしまったカティだったが、本来は彼女にだって目標がある。
 完全者ミュカレと対立する道ではなく、知るために進むという選択をした。
 たとえそれが、どんなに馬鹿げていて理にかなっていない、たったひとりでの戦いの道なのだとしても。
 カティは、確かに、選び取ったのだ。
 選んでいないのは、ただひとりボクだけだ。

「完全者と話をするんだろ? だったら、ボクに構っている暇もないんじゃないのか」

 突き放すような、抑揚のない声だったと感じたのは、言葉を受けたカティの表情を見たときだった。
 そんな意図はない、と動こうとして、どこに説得力があるのだと思ってしまう。
 矛盾じゃないか。
 うめいた挙句に。近づくことを恐れ、離れることも恐れた。
 或いはボクは既に、完全者に支配されてしまっているのかもしれない。
 旧人類の味方をしても、いずれ孤独を突きつけられるのではないか。
 孤独を恐れて神の座を蹴ってさえ、行き着く先はそこでしかあり得ないのではないか。
 だったら何もせず、今を保つしかないじゃないか……そんな稚気めいた空想さえ、正しいことのように思ってしまう。

「――エヌアインくんは、どうするの?」

 おずおずと、しかし返されるのは痛烈な問いだった。
 灰児と全く同じその問い。……ボクに、答えられるはずもない。

「違う、かな……聞きたかったのは、うん、どうしたかったの? ミュカレちゃんを……倒したときには」
「それは」

 終わる、と信じていた。
 だけどその次は――次は、どうだっただろう……
 全てが解決するのだと、思っていたのかもしれない。
 後は流れに任せていれば、ボクの行く先まで決まるだろうと、心のどこかで思っていたのだろうか。

「決めなきゃ、ダメだと思う」

 差し込むようにして。
 カティがボクの胸を突く。
 顔を上げ、ボクはカティを睨んだ。意図して、そうした。
 少しだけ怯んで、それでも。カティは。

「カティは……エヌアインくんと、目指す道のりは、そんなに変わらないんじゃないかって思う」

 自分の考えを言う。
 確固たる自分の信念に従って。
 ……だとするなら、ボクは。逃げている、のか。

「そう思ってるだけだけど。エヌアイン君の心なんて読めないから」

 特徴的だった丸い瞳が細められる。
 睨んでいるのだろう、と分かった。
 戦おうとしているのだろう、と知れた。
 彼女は、《モルゲンシュテルン》を構えていた。

「戦って、確かめるよ」

 風が吹き、カティの長いローブが揺れた。
 凛々しい――と、ボクは少しだけそんなことを思い、同時に戦うことで心を確かめようとする大雑把さに呆れもした。
 なんで戦いなんだよ。そんなことで分かることなんてあるのか。馬鹿じゃないか。
 心に生じた小賢しい言葉を、ボクは笑うことで飲み込んだ。

「……ははっ」

 否定なんてできなかったからだ。
 ボクもそんな馬鹿な経験をしたことがある。
 戦うことで見えたものが、なかったわけじゃないから。
 旧人類との共存を選ぶ道も、戦う中で浮かんだ選択だったはずだ。
 額に手を当て――ゆっくりと、離す。
 一歩を踏み出さなければならない。それも、痛みを伴う一歩だ。

「いいよ。でも、手加減はしない」
「カティも思いっきりやるから」

 ボクは誰かに、弱みを見せる覚悟をしなくてはならなかった。
 進むなら必ず、抱えなければならないものを見せる必要があった。
 見せられるのか? 曝け出せるのか?
 ……答えは、戦いの中で見つけなければいけないのだと、ボクは思った。

「行くよ」



【H-07 西部/午前】
【エヌアイン@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:どうしたいか……決めなくちゃ

【カティ@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:モルゲンシュテルン@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]:ミュカレにもう一度会いに行く。
1.エヌアインの気持ちを確かめる

【壬生灰児@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]:完全者を殺す。立ちはだかる障害は潰す
[備考]:攻性防禦@エヌアイン完全世界の知識があります。
また、エヌアイン・カティ組からは離れました。どこに行くかはお任せします。
Back←
029
→Next
028:お前の態度が気に食わない
時系列順
031:悲しきノンフィクション
投下順
030:君が世界に謝罪する時(We have not yet begun to fight!)
007:それでも僕等空っぽだから(Sisyphean labor)
エヌアイン
カティ
壬生灰児
038:おたんじょうびおめでとう

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu


資料、小ネタ等

ガイド

リンク


【メニュー編集】

管理人/副管理人のみ編集できます