俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

平和で、どこまでもなだらかな別の世界。
もしかしたら、彼は妹のピアノを聞いていたかもしれない。
もしかしたら、彼は妹とピアノを弾いていたかもしれない。

そんな世界が、有り得たはずだ。つい昨日まで、それは実在していた。
こんな、選択すればするほど、人が死んでいく世界など。
選ぶのは、選ばれたのは、いったいなんなのか。
深いため息は、ひゅうと無様な、壊れた笛のようにしかならず。
しかし果たして、行動を選んだ自分が絶望の底にいるのか。
そうじゃない、男は瞬きを、長い、長い瞬きをしてから、否定した。

時は暫し遡る。

結蓮は、確かにアーデルハイドの申し出に応えた。
ここで彼と反目したところで、自ら危険を招くのみ。
遅かれ早かれあの女騎士は結蓮の居場所を見つけるだろう。そうなれば、武器こそあれど、先だっての状況のようにはいかない。

だからこそか、アーデルハイドがドアを開こうと手をかけると同時に制止する。

「リクエストは聞くけれど、入らないでちょうだい。こんな状況でしょう、たとえあなたをどんなに誠実な人間だと思えても、怖いのよ」

扉の向こうで、おそらくアーデルハイドは神妙な顔付きをしているのだろう。

「そうだな、貴方の言うとおりだ。それと……生憎、私は歌のほうには明るくないんだ…申し訳ないが、お任せする」

生真面目な返答に、場違いな笑いがこみあげる。
できることなら、こんな状況下以外で会いたかったものだ。結蓮は、選べなかった現実への憤りを少しだけ思い出した。
さらさらと、端から崩れ去るように、悪魔の仮面は砂に変わる。


「歌以外は、明るいのかしら?一応楽器もあるのよ」

控えめに、優しくアコースティックギターを爪弾く。

「……ショパンの『革命のエチュード』、ピアノのものだと聞いているんだが」

気まずそうな返事。
結蓮もこれには腕を組んで唸ってしまった。

「ちょっと、門外漢ね……まあ」

次までに覚えてきてあげるわ。
いつもの調子で言い掛けて、はたと口をつぐむ。
有り得ないのだ。
今、この世界において、妹が、自分が、彼が、同じ日常に帰ることは。
儚い涙を食らって、仮面は形を取り戻さんとする。
それは無情で、望んでは、選んではならないことなのか?

疑問を自覚したときにはもうすでに、幾百回、有り得ないと堂々巡りだけしていた、『絵空事』としか浮かばなかった答えが、結蓮の心を真っ直ぐに貫いていた。

「…済まない、余り時間がなかった。歌…音でもいい、やつの気を引き付けて貰えたら…その、危険な役目だ、できるならば私1人で倒せれば……」


ぎり、拳を握る音が、扉越しにも聞こえた。


「なるだけ危険が及ばないよう尽力する。私は、私は……」

うまく言葉にできないのか、アーデルハイドは最後まで言い切れずに、頼んだ、と一言残して走り去って行った。


「私は選んだのよ、もっと、もっと、生きていられる選択肢を」


語り掛けたのは己にか、それとも彼にか。
結蓮は、僅かに目を閉じて、誰かに祈り、指先を動かしはじめた。
ひたすらに、階段を駆け上がり屋上を目指すアーデルハイド。
断続的に、どうしようもない罪悪感が胸にこみあげて、息苦しさに辟易した。
彼もまた選んだはずだった。
前後の事情は分からぬが自分を救ってくれた人間を助けたいと。

しかし、そのために、恩人を囮にしていいのか。
だからと言って、単身であの女騎士に挑んで確実な勝算があるのか。
思考はお互いの尻尾を食い合う。。
自身の命のみならば、多少の危険は覚悟の上だ。
助けるものがあるのならば、一か八かなどとは口が裂けても言えない。


(それが正しいと言えるのか?俺は、自分が都合の良いように考えて、誤魔化しているだけではないのか?)


屋上に至る扉の前で、息切れ一つしないのに苦しい胸を抱えて。


「ローズ、もしも今ここにお前が居たならば、私を笑っていたのだろうな……いや、怒っていただろうか」

蛍光灯と、外からさす光を浴びてなおほのぐらい踊り場。
しゃなり、と床に座したローズ人形は、表情一つ変えずに。

本物であったら、たとえ脚が折れても床に座るのを拒んでいたかもしれない。
妹もまた、父と同じく……いっそ生き写しと言ってもいいほど傲慢であった。
ただ、あれだけの強い自信と、我の強さは、羨望すら覚える。
そして同時に思い出した。
彼女に怒鳴った時のことを。
助けるべく、決断した時のことを。

そうだ、戦いで迷うことは許されない。
命がかかるなら尚更。
いまなお「倒す」という言い回しを使った己を叱咤する。

生きるか死ぬか。
殺すか殺されるか。
区別も正当も不当もない。

それゆえに、今だけは、選ぶのだ。


アーデルハイドは開け放つ。
今までの彼には選べなかった、目の前の扉を。
無風でもなく、吹き荒れるでもなく、風は無造作にたゆたう。
ふわり、音にすれば柔らかい羽ばたきは、死を、生き血を求めて空の波間を泳いだ。


餓えた刃には、化学兵器は物足りなかったらしい。それどころか、一層空腹を訴えてくる。
テンペルリッターも、剣と等しく、渇いていた。
せっかくの獲物は逃してしまったし、邪魔をした漁夫の行方は知れず。
惰性で始めた狩りと言えども獲物を奪われるのは面白くない。狩り損ねるのはもっとだ。

再び、鼓膜を揺らす振動。テンペルリッターは歓喜した。
あと数秒何もなかったら、手当たり次第建物を壊すことさえ考えていたぐらいだ。
彼女は持ち前の冷静さを欠いていた。精神に均衡はなく、本能だけが鋭く尖っていく。
音を頼りに、テンペルリッターは窓辺を滑る。
警戒は怠らぬが、心中の枯渇は著しく、目付きは夢遊病者のように虚ろで、奥底に殺人者の煌めきを隠した。

そして両目は輝いた。
窓辺で歌う人間、自殺志願者か、はたまた策があるのか。
なんだって、構わない。

テンペルリッターは、体の一部にも思えてきた蛇腹剣を人間めがけて突き付け、己すら刃に変えて突撃する。
空を切るのももう飽きた。刃で血肉を啜りたい。


けたたましい笑い声と風圧は、更に高い空からくる『人間』に気付けなかった。

ほぼ直角の建物から、それはテンペルリッターの体を掴んで走りだした。
振り払おうと剣を持ち上げた肩が、耳障りな悲鳴を上げ、遅れて激痛が走る。

「引きずり落とすか、上を取るか、私がお前を『殺す』には、何にせよ高さが必要だった」

地上までの短い時間、歌に紛れた静かな言葉。

テンペルリッターは男の瞳を見た。
赤く、強い殺意を燃やした瞳を。
これだ、この、眼だ。

確信を得た刹那、体は重力に叩きつけられ地面に衝撃として落ちた。
バラバラになりそうな意識と体をつなぎ止めてテンペルリッターは笑い、そして動かなくなった。

歌が、止んだ。
静寂に気付き、漸くアーデルハイドは息を吐く。
すう、と体の力が抜けていくのを感じ取ったが、また階段を上るのだから、と意識を持ちなおした。
屋上にローズ…の人形を置き去りにしてしまったし、彼女……彼?にも報告をしなければ。

「ひとまず、終わったのね」

始終を見守った結蓮は、窓辺から彼を見下ろす。
どうせ、律儀に戻ってくるのだろう。
戻ってきたら、なんと会話するべきだろうか。祝う?それは違うだろう。なら、感謝する?それも違う。
ああでもない、こうでもないと結蓮が悩むうちに、ノックの音は転がった。

「あの……え、と…」

向こうもどうやら、同じらしい。

「結蓮よ、貴方は?」

かなり遅れた、顔も合わせぬ自己紹介に、結蓮は苦笑する。

「失礼した。私はアーデルハイド……」

続けようとした名前が、途切れた。
言いたくない理由でもあるのか。

「アーデルハイド、ね。貴方はこれからどうするつもりなの?」

余計な詮索をする必要はない。ただ、結蓮は自然に尋ねた。

「この殺し合いを止めるために…話を聞いてくれそうな相手を探すつもりだ。さっきの女騎士のような者もいるだろうが……」

言葉尻は濁っているが、きっと今の彼に迷いはない。

「そう。私は、ここにまだ居るわ」

結蓮の答えに、アーデルハイドの気配が落ち込むのを扉越しに悟る。

「あなた、話をした人間をどうするの?集められる場所があったほうがいいでしょう」
そのときは、ここを開けてあげるから。

「結蓮……」

にっこりと、ここにきてから初めて、結蓮は心から微笑んだ。

「もし、変なのが来ても…まあ、これだけの武器があれば、自分の身ぐらい守れるわ。その代わり…と言ったらあれだけど、一つお願いがあるの」

本来ならば人に託すことではない。
だが、この状況下で単身で果たせることでもない。

「結蘭……っていう女の子に会ったら、守ってあげてほしいの。できたらここに……」


彼女を守るためにできるもう一つの道を、見つけさせてくれた人間だからこそ、結蓮は依頼する。
彼は、アーデルハイドは、妹と帰る道を選んでいた。

「了解した。それでは、また」


校内を足音が響き渡り、やがて遠くなって消えた。
長い瞬きと沈黙のあと、結蓮はため息をついた。

ここで時間は冒頭に追い付く。

優しく、口ずさむだけの歌は、誰かの無事を願う歌。
それを受けるのは、今は朽ちるのを待つだけの女騎士の遺骸。
ぴくり。錯覚だと思うほど僅かに、遺骸が動いた。
ぎらりと光絶やさぬ蒼い双眸、もはや硬直してしまった、弧を描く口元。

「オロチ……オロチ、オロチ、アれが、オロチ」

血混じりの声は、狂喜に震える。

「斬ル、キる、斬る!!」

神を真似た体は、アーデルハイドの殺意を耐えぬいた。
未だ身動きは取れぬが、彼女はいつとも知れない体の回復を待ち、起き上がるだろう。

神をも凌駕した殺意を渦巻かせ、歌に埋もれながら。

【D-6/鎌石小中学校・放送室/1日目・午前】
【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止、殺し合いに参加しない人間を募る

[備考]
1:ローズ人形は手放すつもりはない

※アーデルハイドの行き先は後続にお任せします。

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
人を殺すのをやめてアーデルハイドに協力、殺し合いに参加しない人間を待つ

【D-6/鎌石小中学校・校庭/1日目・午前】
【テンペルリッター(四番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:重傷
[装備]:蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
回復を待ち、オロチの力と感じたものを手当たり次第に斬る
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アーデルハイド・バーンシュタイン
051:旧人類見下した結果wwwwwwwwww
結蓮
049:0℃
テンペルリッター(四番部隊隊長)

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