俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「おや、アンタは」
先ほど逃がした大物の後を追うべく、ヤマを張って歩きだしたはいいものの、そこにいたのは別の人間だった。
だが、出会った男のことも情報屋たる塞は知っている。
追っていた人物とは違うものの、ある意味では大物である。
しかし、彼が放つ闘気は、決して友好的な物とは思えない。
「……モヒカン頭にゃ、いい思い出が無えなぁ」
スーツポケットに突っ込んでいた片手を出し、頭を押さえるように覆う。
だが、塞は恐れることなく、自分を睨み続ける男に話しかけていく。
「新人類にでも、なんのかい」
遠回しの表現で、この殺し合いに乗っているかどうかを尋ねていく。
「興味ないな」
仏頂面のまま、男は塞の問いかけを切り捨てていく。
「じゃア、何をそんなに生き急いでるのさ」
当然、塞は次の問いかけへと繋げる。
「止まらねえんだ、胸の鼓動が」
一言だけ告げ、拳を真っ直ぐに突き出す。
その動作で全てを察したのか、塞は大きなため息を零す。
「できれば、ご遠慮願いたいがねぇ……」
そう言いながら男をちらりと伺った時、今にもはちきれんばかりの欲望が顔を出していた。
サングラスを手で少しだけ押し上げてから、ポケットに手を突っ込む。
それは、彼が戦闘をするときの構え。
「そうもいかない、か」
同時に、男の影がゆらりと消えた。

先手はモヒカンの男、ヘビィ・D!
ゆらりと残像を残す動きから、斬りかかるようにフックを放つ。
なんとか初撃は避けたが続く攻撃に足元を掬われ、地面へと倒れ込んでしまう。
勢いを掴んだ男が塞の起き上がりを許す前に次の一手を打ち出していく。
素早く起きあがった塞に、ちょうど重なるように豪腕を振るっていく。
起き上がりを攻めた不可避の攻撃、守りを固めるしかないはずの塞は。
「おっと」
あえて、ヨソを向いた。
瞬間、男の拳が飲み込まれるように力を失う。
気の流れが塞の体を中心に、渦を巻くように捻れ、男の拳がヨソへと曲がる。
目を見開き驚愕する無防備な男に、塞は貫手を放っていく。
そのまま、男の姿を見ることなく、全身を使って肘を打ち出していく。
無防備な体に塞の全体重を叩き込まれた男は、まるで突風に煽られたかのように吹き飛ばされる。
そして攻めを許さないために素早く起きあがり、口に笑みを作り塞を指さした。
「イカしてるな、それ」
「覚えりゃ誰でもできるさ」
起きあがった男に対し、塞はわざとおどけてみせる。
釣られるように男も大きく笑い、しばらく二人で笑い続けていた。
二人分の笑い声が、森の中に木霊する。
「こんな場所じゃなきゃ、イチからレクチャーしてやれるんだがねぇ」
「こんな場所じゃなきゃ、アンタと闘うことも無かったさ」
「全く、その通りだ」
人生という名の運命は、いつ何が起こりどこで交わるかなんて分からない。
片や人間では考えられない長い時間を生きる情報者。
片やその地位を追われながも現代を浮浪する狂信者。
予定していない殺し合いという舞台に巻き込まれ、箱庭を見つめる完全者の掌で踊らされている。
だが、その掌の上でなければ両者は出会うことすらなかった。
こうして拳を交えることも、ふざけて笑いあうこともなかっただろう。
「満足そうだな」
「ああ、そうだな」
ひとしきり笑った後、塞は再び両手をポケットに突っ込んで言葉を続ける。
「じゃ、ヤメにしないか?」
「それは出来ないな。こんなに楽しいんだ、もっと楽しまなきゃな」
男は即座に、塞の言葉を否定していく。
その顔には先ほどの笑みはなく、真剣そのものの表情だった。
「元に戻ったら、つまらない生活に逆戻りだ」
「そうかい、残念だ」
それが、最後のやりとり。
闘い続ける者は止まれないという意志の表示。
塞が薄々感づいていたものが、分かりやすい形で表面に現れる。
攻性を警戒したギリギリのラインで素早く突き出された拳を止めるように、塞も足を突き出していく。
両者が一撃一撃を受け止めるごとに、両者の体に痺れが走る。
だが、そんなことに躊躇をしている場合ではない。
先によろめきを見せた方が負ける、分かりきった結末が見えているのだから。
何度かの撃ち合いの後、男が大振りのフックを放ってきた。
ここぞとばかりに塞は、その攻撃に合わせるように気を練る。
だが、その拳は塞に放たれることなく寸前で向きを変える。
その力が向けられたのは、塞の立つ足元だった。
男の纏っていた闘気が地にぶつかり、橙色の煌めきと共に四方八方へと飛び散っていく。
読みを外した無防備な体の塞に、その煌めきの一本一本が突き刺さり、体を宙へと押し上げていく。
「釣りはいらねぇ……!!」
このチャンスを逃すわけにはいかない。
立ちはだかる強敵を倒すために、男は右腕に闘気を貯めていく。
呼吸を一つ、深く整えて心を落ち着かせていく。
そして目を大きく見開き、塞の姿を真っ直ぐに捕らえ。
貯まりきった闘気を惜しむことなく、塞の胴をめがけて真っ直ぐに放っていった。



その時、彼は"闇"を見た。



「若くしてボクシング界を追放された男か……」
崩れ落ちるように倒れ込んだ男の服から、塞はサングラスを抜き取る。
だらしなく垂れ下がっている左腕は、骨が何かしらの異常を訴えているサインでもあった。
「殺しても構わない」という覚悟が出来た目から放たれる一撃は、下手すると最悪の事態を招く可能性もあった。
だから、塞は奥の手を切っていた。
サングラスを外し、見る者を死の呪いに誘う「兇眼」で、男の目を捕らえた。
だが、放たれた一撃を殺しきることは叶わなかった。
弱まりながらも男が放った一撃は塞の左手を捕らえ、持っていた赤のサングラスごと、骨を砕いていた。
「知らない方が良いことも、あるんだぜ」
痛みを堪えながら、塞は男の持っていた黒のサングラスをかけ、その場を立ち去っていく。
垂らした左腕を伝って、赤い血が地面にとけ込んでいく。
男が戦いに飢えていなければ、こうはならなかったのかもしれない。
いや、そもそも彼がボクシングを追放されてさえいなければ、こうなることもなかった。
まるで"聖堂騎士(テンペルリッター)"のように戦いを求める一人の男を生み出したのは、他でもないこの世界なのだから。
積み重なったことの一つでもなければ、彼はここで死なずに済んだのではないか?
そこまで考え、もしにもしを重ねている自分に対して塞は一人で苦く笑う。
自分が殺すことになってしまった男が、生き続けることが出来た可能性について。
分かっていても、考えずにいられない。
「こりゃ、厄介な仕事だ」
自由の利く右手で頭をかき、右手だけをポケットに突っ込んで塞は歩き出す。
いつになっても、殺しというのは後味が悪い。
願わくば、これ以上殺しの場面に、ましてや自分が手を下す側になることなどなければいいのだが。
「……糖尿病になっちまうな」
甘い考えと共に、塞は殺し合いを生きる。

【ヘビィ・D!@THE KING OF FIGHTERS 死亡】

【E-4/西部/1日目・午前】
【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]:左腕重傷
[装備]:ヘビィ・D!のサングラス
[道具]:基本支給品、不明支給品2〜6
[思考・状況]:自らが受けた任務を果たす
[備考]:自前のグラサンは割れました
Back←
036
→Next
035:Going to the Freedom
時系列順
037:空白の選択肢
投下順
003:惑わず仕舞(Les ivresses)
051:旧人類見下した結果wwwwwwwwww
024:理想郷へ飛び立つ荒鷲
ヘビィ・D!
救済

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu


資料、小ネタ等

ガイド

リンク


【メニュー編集】

管理人/副管理人のみ編集できます