俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

遠く遠く、甘い歌声が空気を震わせ、四散した音が体を包み込む。緩やかに目を開けてなお、夢見心地にさせる音色。
弦楽器のたぐいか、ピアノであれば、これは夢のなかか、あるいは続きの出来事ではないかと思い込めただろうに。

麻酔の名残を振り払い、金髪の青年は深く息を吐いた。

ぼんやりした頭は鮮明に、はっきりと状況把握のために記憶を思い起こさせる。
家畜のように集められた人々。いともたやすく行われた制裁。そして、それに驚いてすらいなかった顔。

「あそこに居たのは間違いなく…」

白い肌と金髪のコントラストに強烈な印象を与える赤い瞳が、伏し目がちに睫毛に覆われる。

言い切ることができなかったが青年、アーデルハイド・バーンシュタインは、集められた者のなかに父親の姿を見つけていた。
理解することのできない父親。もしかしたら、この状況よりも複雑怪奇な人間かもしれない。

「生きていたのにも驚いたが…さて、どうしようか」

デイパックからタブレットを取出し眺める。概要、地図…完全者と名乗った少女の言に相違はなく、生き延びるために平等に必須なものがそこには印されていた。殺しあいなどに参加するつもりは毛頭なかった。だが、しかし。

「支給品……って、この箱、か…?」

アーデルハイドの隣には、ロッカー程の背丈の箱が置かれていた。

白い木作りのそれを暫し観察し、気配を探ってみたが、何も感じられず。

意を決して、とまではいかないが、少し引け気味でそうっと箱に手をかける。キィ、軋む音はドアを開く音に似ていた。

「は……?」

余りにも間抜けで、彼に似付かわしくない声がもれる。咄嗟に構えたままで、ポカーンと口と目を丸くして、支給されたのだろう箱の中身を見つめる。
それは人形だった。ただの人形じゃあない。精巧でまるで生きているような、表情があれば人間とみまごうごとき人形だ。金髪のゆったりとまとまったボリュームのある縦ロール、赤い薔薇をイメージした高級そうなドレス、気丈そうな目元。
まるで誰かの生き写しのような。

「ローズ……の、人形……」

この支給品を提案し造形し、挙げ句アーデルハイドに寄越したのはどこのどいつなのか。頭を抱える。
箱を開けたためバランスを崩した人形はアーデルハイドに倒れかかった。


『ローズのために、がんばってね、お兄様』


衝撃に反応し、内部のレコーダーが再生された。いったいどういうことなんだ。腕のなかの実妹そっくりの人形にアーデルハイドは訳が分からなくなった。
一つ言えることは、今この場を誰かに見られたら非常に気まずいということだ。それどころではない状況だが、アーデルハイドは焦る。完全に危ない人認定されてしまいかねない。
辺りに誰も居ないのを改めて確認し、ローズ人形を背負って茂みへ隠れる。
いや、これじゃますます怪しくないか…?
置いていってしまえば良い話だが、仮にも妹の似姿……打ち棄てるのは嫌だった。

このまま背負っていれば、不自然ではないんじゃないか、アーデルハイドは諦めたように立ち上がる。突然の奇襲のことを考えれば悪手だったが、他に方法も浮かばない。

「そもそもあてがないな……探すか?探してどうするんだ、俺は……」

父、ルガール・バーンシュタインは今何をしているのだろうか。殺しあいに嬉々として参加しているのか、はたまた利用しようと画策しているのか、まさか、死んでいるなんてことはあるまい。

「もしも殺しあいを受け入れているようなら……私が止める」

彼は日頃見せない強い形で断言した。それは父に比べれば殺意は薄く、妹に比べれば我は足りなかったが、静かに熱く。

「……音は、あちらのほうからするのか」

方角と手元のタブレットの地図を照らし合わせる。そこは鎌石小中学校と明記されていた。

支給品に振り回されてる間、目覚める前からか、優しい音が周囲に満ちていた。
波間を羽ばたく鳥のような…風を泳ぐ魚のような…アーデルハイドはなぜか音に親しみを感じた。

しかし、この状況にやわらかな歌声は酷く場違いなものだ。ひりひりと肌を刺すもう一つの思惑、声音。

セイレーンは風に歌を乗せ、船乗りを誘惑し、船を沈めさせると言う。
敵意と愛情、僅かな哀しさを含む風は、真空に引き裂かれた。

文字どおり身を裂く真空の刃、目の前でローズ人形が入っていた木の箱がバラバラになる。

――いったいどこからきた?

姿勢を低くして様子を伺うが姿は見えず。
風圧に音が乱れた。その瞬間アーデルハイドは敵の居場所を突き止めた。
上空、およそ人間がいるべきではない空間に立つ女騎士の姿を。にわかに波立つ赤いロングコート、長い金糸と冷たい氷色の瞳。

跳躍ではない、あれは飛行だ。アーデルハイドは更に身を潜める。彼にはあらゆる格闘技の心得があった、無論、命を狙う敵を退けるだけの実力も。

――でも、届かない。

一か八か跳躍すれば、それだけ隙を晒すことになる。一撃だ、一撃で気絶……もしくは絶命させねば、落下中に剣撃が体を刻む。女騎士から発せられる殺気がイメージを明確にした。

高さだ、高さがいる。歌声が響く方角を見やった。高台、とまではいかないが建物が確認できた。
幸い女騎士は殺意こそあれど、早急に攻め込む意思は見えない。惰性のように、人間を見つけたから殺す、その程度の。

いや、これは不幸か……相手が冷静なんだ。アーデルハイドは音を殺して走りだした。狂ったように真っ直ぐ攻めてきてくれれば、アーデルハイドの迎撃圏内だ。あの騎士はそれを承知しているのか、あるいは。
背中のローズ人形、壊れたりしないかな。奇妙な余裕のあるアーデルハイド辺りの木々が、真空刃に切り裂かれた。
ノイズが混じる。調整した機械のものではない、天然自然の、風のざわめき。
歌うのを止めず、結蓮は下方に目をこらす。誰かが来るのか、それとも、ただのつむじ風か。


アコースティックギターの音が失せる。なお残る天使の歌声は、終末のラッパならぬ兵器を伴にして朗々と響き渡る。
二人だ、二人の人間が校庭に躍り出た。しかしおかしい、片方の人間は空を飛んでいる、あれは人間なのか、いや、どうでもいい。

一人ずつ、落とせばいい。まずは地を走る男だ。

一発、緩やかに落ちた弾は敵を確認し浮き上がって突き進んだ。だがこれは人間達の合間に炸裂する。対象が近すぎたらしい。
問題はない、今の衝撃で人間達の距離は離れた。もう一度、二度、撃ってしまえばいい。これで人が減る、彼女が、妹が生きるために、減らせる。

『ローズのために、がんばってね、お兄様』

男は、女性を背負っていた。ぴたり、歌声が止んだ。
遠く、雑音に紛れて全ては聞き取れなかったが、確かに、結蓮の耳には兄という意味を持った言葉が聞こえた。つい、攻撃の矛先が、空を飛ぶ女へ変わる。

(だから、どうと?殺さなければならないのは同じじゃないの)

繰り返し思考して出した答えへの、僅かな迷い。妹を生き残らせたい気持ちは変わらないが、それでも、生粋の狂人や殺し屋ではない結蓮の人間性はふわりと目覚めはじめた。

二発目、今度は真っ直ぐに女騎士めがけて弾は泳ぐ。女騎士の目は弾を見据え、微動だにせず、手にした剣を振りかぶる。
髪と揃いの金色の蛇腹剣は、冠する蛇の名に相応しく体をうねらせて彼女の周囲を舞った。刹那、弾は彼女よりも遥かに手前で爆発し煙を起こす。

女騎士、テンペルリッターは科学兵器を馬鹿にしたように嘲笑い、噴煙を飛び抜け標的を変えた。こちらにくるつもりなのだろう。
結蓮は自分の迷いと愚かさに呆れた。やはり狙うべくは男の方だったのだ。たとえ境遇が近いかもしれない相手でも、無意味だったのだ。
迫る危険に対抗すべく武器を持ちかえる。先ほどの男の姿は見えない。テンペルリッターとの悶着の隙に逃げおおせたのか、結蓮は我知らず安堵した。

がたり、ドアを揺らす音。きたか、と身構えたがおかしいとすぐに気付いた。テンペルリッターは空を飛ぶ、何も律儀にドアから侵入などは試みない。今は結蓮のいる部屋を探して飛んでいるはずだ。

「すまない、もう一度歌ってくれないか?あいつをおびき寄せなくちゃあならない……その、いきなりで不躾かもしれないし、私が誰かも知らないだろうが協力してくれ!」

いきなりの嘆願に結蓮は絶句した。ある種の挟み撃ちか。

結蓮が答えるまで、ドアが開けられることはないだろう。相手は馬鹿丁寧に、ミサイルを撃ってきた相手がいるドア越しに『お願い』してくるような人間なのだから。
ふう、小さなため息を皮切りに、一時だけ悪魔の仮面を外す。

「……リクエストは、あるかしら?」




【D-6/鎌石小中学校・放送室/1日目・午前】
【アーデルハイド・バーンシュタイン@THE KING OF FIGHTERS】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ローズ人形、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:殺し合いとルガールの抑止
現在:結蓮と協力しテンペルリッターの撃退
[備考]
1:ローズ人形は手放すつもりはない

【結蓮@堕落天使】
[状態]:健康
[装備]:アコースティックギター@現実、ザンテツソード(10/10)@メタルスラッグ、エネミーチェイサー(38/40)@メタルスラッグ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:結蘭のために人を殺す
現在:アーデルハイドにひとまず協力
1:人を呼ぶために、歌う。

【D-6/鎌石小中学校・校庭上空/1日目・午前】
【テンペルリッター(四番部隊隊長)@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:蛇腹剣@エヌアイン完全世界
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本:参加者を斬って愉しみ、優勝した暁には完全者も手にかける。オロチの血に興味。
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022:ジャーマンルーレット・マイライフ
時系列順
028:お前の態度が気に食わない
025:情報開示
投下順
027:彼は誰かに、詩唄う。
始動
アーデルハイド・バーンシュタイン
037:空白の選択肢
002:あの甘美をもう一度
テンペルリッター(四番部隊隊長)
008:ミッドナイト・シャッフル
結蓮

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