俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

まったく、ツイてない。
ダルマがプリントされたおめでたいシャツにジャケットの男、ジョン・スミスは頭を抱える。
人殺しの要望が入ったと思いきや、妙な連中に誘拐された先の場所で「殺し合え」と言われた。
前者はまだ報酬があったものの、今の自分がこなさなければいけないコトは一銭の報酬すら出ることはない。
それどころか、自分の命を失ってしまう可能性だってある。
がんばっても金ももらえないし、誰かに殺されてしまうかもしれない。
踏んだり蹴ったりとは、このコトだろうか。
「どうするか、ねえ」
タブレットを一通り眺めてからデイパックに突っ込んだ後、彼は特に目的もなくフラフラと歩き出す。
自分の命を守るために、他者を積極的に殺して回るべきか。
それとも正義の旗を掲げ、殺し合いなど下らないと反逆していくべきか。
現状はどちらを取ろうと、報酬はゼロ。
だから、どちらにもやる気など起こるわけがない。
どこか適当な場所に隠れて過ごすのもアリかもしれない。
この場所で、何か金目の物を探す旅に出るのもいい。
殺し合い以外にも他に手段はあると、そんなことを考えていたとき。
目の前で信じがたい光景を目にする。
今、ジョン・スミスが身を置くのは他者が他者と殺し合う地獄のような空間だ。
一瞬の油断が死へとつながる可能性が常にある緊張した場所。
そんな場所で、暢気にランチョンマットの上でゆったりと食事をとっている人間がいようなどと。
頭の片隅、ほんの一部でも考えはしなかった。

「あ」
大きく口を開け、サンドイッチを頬張ろうとした女性と視線が合う。
見られていた方は当然、見ていた方もなんだか申し訳ない気分になって来ている。
何事もなかったかのように、体力の消費を避けてこの場から立ち去るべきか。
それとも、この無防備な状況を生かしてこの女性の息の根を止めてしまうべきか。
選択しうる全ての可能性と選択肢が頭で渦巻く。
そんなジョンの頭の中など知る由もなく、女性はサンドイッチを一旦置き、ジョンへと話しかける。
「あの」
ジョンの身が強ばり、意識が現世へと戻ってくる。
次に起こるアクションがなんなのか、神経を集中させて待つ。
「一緒に食べませんか?」
時が止まる。
無限の選択肢を張り巡らせ、思考していたジョンの頭が煙を上げる。
思考の外の外の外、まったく考慮していない質問が飛び出して来たのだから。

結局、戸惑いの声を上げながらジョンは共に食事を取ることにした。
曰く大人数用のマットで一人食事しているのがたまらなく寂しく、誰か一緒に食べてくれる人がいないか待っていたのだという。
この場でそんな思考が出来る肝の据わった人間か、はたまた現状を全く理解できていないバカか。
ハッキリと言えることは、ジョンが彼女のペースに飲み込まれ始めているということだ。
彼女の狙いは何か? それを探ろうとジョンは意識をそらさない。
まっすぐと見つめるジョンの姿が、自分の話を真摯に聞いてくれていると感じた彼女は次々に会話を弾ませていく。
「あっ」
また何かを思い出したように、右手の拳をぽんと左手で受け止める。
そして口に付いたパン粉を丁寧にふき取り、服の埃を少し払ってから先ほどより落ち着いた口調で喋り始めた。
「申し遅れました、私はフィオ、正規軍情報部特殊部隊スパローズ所属のフィオリーナ=ジェルミです」
言い終えると同時に、深々と座礼をする。
あーはいはいと話半分で聞ききながら、ジョンの口から口に含もうとしていたコーヒーが勢いよく飛び出していく。
「ジェ、ジェルミぃ〜〜!?」
思わず立ち上がりながら大声を張り上げてしまう。
そんなジョンの様子をフィオはきょとんとした眼差しで見つめ続けている。
ジェルミ家。多少そちら方面に詳しい人間なら、一度は耳にしたことのあるイタリアの富豪の家系。
先祖代々軍人上がりということで、生まれた一人娘も軍隊に半ば強制的に加入させられたと聞いたことはあった。
だが、詳細な人物像まで把握していたわけではない。
あまりにも突拍子すぎるカミングアウトに、ジョンはまた違った方向に頭を悩ませることになる。

「あの」
そんな悩みを抱えているとは露知らず、フィオはジョンへと話しかける。
「お願いがあります。私と一緒に、この殺し合いを止めてくれませんか」
 旧人類狩りがまだ横行していたことも含め、正規軍としてあの少女の行為は見過ごすわけにはいきません。
 でも私一人、いや私達正規軍の力だけでも解決できるかどうかは分かりません。
 だから、あなたの力を貸してください」
先ほどまでのおっとりとした雰囲気を取っ払い、凛とした空気を漂わせながらジョンへと問いかける。
真っ先に出会った人間は、殺し合いを良しとしない者。
その類に手を貸してくれといわれることまでは想定内だ。
だから、ジョンは次の手札を切る。
「悪いが、俺は報酬で動く男でね。
 こんな場でも報酬がなきゃやってられないんだが、そっちの方は大丈夫なのかい?」
彼を突き動かす原動力、報酬の存在の有無について。
「それで手を貸してくれるというのならば、報酬は幾らでも」
ジェルミ家の人間だというのならば、予想通りの答え。
分かりきっていた答えだったが、いざ受け取るとなると安心が持てる。
「オーケイ、なら契約成立だ。ジョン・スミスの力を最大限まで貸してやるぜ!」
笑顔を向けながら親指を立てるジョンを見て、フィオも笑う。
報酬が出ると決まればコレは「仕事」だ。
そして相手は軍と大富豪の娘だ。
事の成り行き次第では十数年分の年収に匹敵する財産が得られるだろう。
より多くの報酬を得るために、最大限かつ最高の仕事を成し遂げていく。
「完全者ミュカレの討伐」という、今回の仕事を。

「じゃあ、お食事の続きにしましょう! 私、紅茶入れますね!」
嬉しさのあまりか、そそくさとデイパックから紅茶の茶葉を出す。
が、お湯が無いことを思い出して落胆してしまう。
先ほどの静かな雰囲気はどこへやら、また最初ののほほんとした彼女に逆戻りしていた。
「今回のクライアントは、肝が据わってらっしゃる……」
恐るべき程の速さに、ジョンは思わず溜息をついてしまう。
先が思いやられる仕事だな、と思いながらもジョンはまずはクライアントと共に食事を再開することにした。

【D-8/平原/1日目・朝】
【フィオ=ジェルミ@メタルスラッグ】
[状態]:健康
[装備]:ランチョンマット、紅茶セット
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本:正規軍として殺し合いを止める。

【ジョン・スミス@アウトフォクシーズ】
[状態]:健康
[装備]:缶コーヒー(いっぱい)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本:報酬のため、クライアントの依頼を達成する。
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フィオ=ジェルミ
047:そんなん考慮しとらんよ
ジョン・スミス

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