逆2回戦でアクセルリリィを破った百は心の底で安堵していた。
組織の暗殺者のプロモーションとして参加したにも関わらず、1回戦敗退という醜態。
制裁として別ナンバーの暗殺者の襲撃があるかと身構えたが、一向にその気配は無い。
つまり本来組織の意向に反するはずの百の敗北に問題は無かったということであり、
それはより上位の存在、即ち大会運営の首脳が月乃の勝利を是としたということである。
(…よくわかんない)
上の人間が何を考えていようと、百にとってはとにかく生き延びられていることが肝要だ。
その為にも残りの試合こそは絶対に負けられなかった。
既に敗者用のトーナメントが存在する以上、今勝ち進んでいる選手とも今後戦う可能性は十分にある。
そう考え、百はこの3位決定戦も対策として観戦に来たのだった。
試合は一方的に璃依那が攻め立てていた。
彼女は前試合にて終始試合を優勢に進め、最後こそ締め落とされたものの肉体的ダメージはほとんど無い。
対する美咲は全力でぶつかった末、完膚なきまでに叩きのめされた形だ。
多少体を休める時間があったとて、二人の間のコンディションの差はそうそう埋まるものではない。
それに加えて、おちゃらけた風貌だが璃依那は確かに強い。何せ百が辛勝したアクセルリリィを何もさせず嬲り倒したのだ。
戦いの場数は相当に踏んだであろう美咲ですら、攻撃を捌ききれず徐々に傷が増えていく。
「ホラホラどうしたのさ!2回戦の頑張りをもっとボクにも見せてよ!」
璃依那の戦闘スタイルに明確な型は無いが、相手の視線を外すようなトリッキーな動きで対応し辛い。
その上あの身長差だ。美咲が璃依那を捉えるのは容易ではないだろう。
自分とそこまで体格的には差は無いのに、あそこまで動けるのかと正直舌を巻く。
というか、今大会で最も圧倒的強さを見せつけている綾小路 聖子に至っては、百よりも更に一回り小さい体つきだ。
璃依那は裏では既に名の知れた存在らしく、正直実年齢はいくつか怪しいところだが、聖子は紛れもなく小学生。
しかもドーピングや肉体改造の記録は無い。
(…なんかずるい)
一人むくれる百を余所に、ついに美咲が猛攻に耐え切れず膝を突く。
璃依那がその隙を逃すはずもなく、瞬きの間に背後へ回り込むとチョークスリーパーを極めた。
気管が圧迫され必死にもがく美咲だが、あそこまで奇麗に技が入っては勝負あったろう。
いよいよ美咲の動きが鈍り始め、これで終わりかと百が踵を返そうとしたとき、璃依那が驚くべき行動に出た。
「はーい、それじゃみんな!今回のお楽しみタイムだよ♪」
あろうことかホールドしていた左腕を解くと、右腕一本で首を締め上げつつ美咲のタンクトップを捲り上げ始めたのだ。
沸き上がる歓声。美咲も一瞬遅れて状況を察すると、必死に璃依那の左腕を止めにかかる。
顔が真っ赤に染まっているのは酸欠によるものだけではないだろう。
そういえば月乃さんにも似たようなことをやっていたな、と思い出す百。きっと彼女のお約束の試合運びなのだ。
対戦相手をあの手この手で辱めている動画やら写真やらを裏方で売っているのを見た気がする。
つまり彼女にターゲットとされ試合に敗北すると―――
「―――ッ。ぜったい負けない」
危うくブルマを脱がされパンツ丸出しで失神している自分の写真が脳裏をよぎりそうになり、慌てて振り払う。
一方美咲は肉体的ダメージに加え酸欠により意識が朦朧としており、片腕で締め上げられているのに振りほどけない。
かといって両手を使えばたちまちタンクトップは宙に舞うだろう。
しかしこのままではいずれ窒息だ。どうするのかと会場全体が(色々な意味で)固唾を飲んで見守っていると、鈍い音が響いた。
目をやるとフラフラになりながら立ち上がろうとする美咲と、顔面を抑えてのけぞっている璃依那。
美咲は霞がかった思考ながら両手で抗っても無駄と判断し、後頭部でヘッドバットを見舞ったのだ。
「いたたた…。女の子の顔狙うなんてヒドいなぁ。痕が残ったらどうするのさ」
嘯く璃依那の表情には余裕が溢れているのに対し、美咲は最早誰の目にも限界寸前だ。
しかしその目は未だ揺るぎ無い決意を湛え、真っ直ぐに相手を見つめている。
(月乃さんも、必死に反撃してきたアクセルリリィさんも、あんな目してた…)
百にはそれがとても眩しいものに映った。
が、同時にそれは璃依那にとって極上の餌であることも百は理解してしまった。
璃依那は愉悦の表情を浮かべ、これから繰り出されるであろう最後の一撃に備えている。
「…いくわよ」
「いらっしゃーい♪」
既に小細工を弄する力は残されていない。美咲は己の全霊を込め拳を繰り出す。
その真っ直ぐな攻撃を璃依那は軽やかに躱すと、引き締まった腹部にカウンターで拳を叩き込み、差し出された顎に流れるようにアッパーを決めた。
ゆっくりと仰向けに倒れ込む美咲。試合終了のゴングが鳴る。
「それじゃ記念に1枚っと。あーぁ、月乃ちゃんも撮りたかったなぁ…」
璃依那はポケットからスマホを取り出すと、失神した美咲を撮影し始めた。
他者にかける情なんてない。その考えに変わりは無いと百は考えていたが、何故か今回は心の靄が晴れなかった。
組織の暗殺者のプロモーションとして参加したにも関わらず、1回戦敗退という醜態。
制裁として別ナンバーの暗殺者の襲撃があるかと身構えたが、一向にその気配は無い。
つまり本来組織の意向に反するはずの百の敗北に問題は無かったということであり、
それはより上位の存在、即ち大会運営の首脳が月乃の勝利を是としたということである。
(…よくわかんない)
上の人間が何を考えていようと、百にとってはとにかく生き延びられていることが肝要だ。
その為にも残りの試合こそは絶対に負けられなかった。
既に敗者用のトーナメントが存在する以上、今勝ち進んでいる選手とも今後戦う可能性は十分にある。
そう考え、百はこの3位決定戦も対策として観戦に来たのだった。
試合は一方的に璃依那が攻め立てていた。
彼女は前試合にて終始試合を優勢に進め、最後こそ締め落とされたものの肉体的ダメージはほとんど無い。
対する美咲は全力でぶつかった末、完膚なきまでに叩きのめされた形だ。
多少体を休める時間があったとて、二人の間のコンディションの差はそうそう埋まるものではない。
それに加えて、おちゃらけた風貌だが璃依那は確かに強い。何せ百が辛勝したアクセルリリィを何もさせず嬲り倒したのだ。
戦いの場数は相当に踏んだであろう美咲ですら、攻撃を捌ききれず徐々に傷が増えていく。
「ホラホラどうしたのさ!2回戦の頑張りをもっとボクにも見せてよ!」
璃依那の戦闘スタイルに明確な型は無いが、相手の視線を外すようなトリッキーな動きで対応し辛い。
その上あの身長差だ。美咲が璃依那を捉えるのは容易ではないだろう。
自分とそこまで体格的には差は無いのに、あそこまで動けるのかと正直舌を巻く。
というか、今大会で最も圧倒的強さを見せつけている綾小路 聖子に至っては、百よりも更に一回り小さい体つきだ。
璃依那は裏では既に名の知れた存在らしく、正直実年齢はいくつか怪しいところだが、聖子は紛れもなく小学生。
しかもドーピングや肉体改造の記録は無い。
(…なんかずるい)
一人むくれる百を余所に、ついに美咲が猛攻に耐え切れず膝を突く。
璃依那がその隙を逃すはずもなく、瞬きの間に背後へ回り込むとチョークスリーパーを極めた。
気管が圧迫され必死にもがく美咲だが、あそこまで奇麗に技が入っては勝負あったろう。
いよいよ美咲の動きが鈍り始め、これで終わりかと百が踵を返そうとしたとき、璃依那が驚くべき行動に出た。
「はーい、それじゃみんな!今回のお楽しみタイムだよ♪」
あろうことかホールドしていた左腕を解くと、右腕一本で首を締め上げつつ美咲のタンクトップを捲り上げ始めたのだ。
沸き上がる歓声。美咲も一瞬遅れて状況を察すると、必死に璃依那の左腕を止めにかかる。
顔が真っ赤に染まっているのは酸欠によるものだけではないだろう。
そういえば月乃さんにも似たようなことをやっていたな、と思い出す百。きっと彼女のお約束の試合運びなのだ。
対戦相手をあの手この手で辱めている動画やら写真やらを裏方で売っているのを見た気がする。
つまり彼女にターゲットとされ試合に敗北すると―――
「―――ッ。ぜったい負けない」
危うくブルマを脱がされパンツ丸出しで失神している自分の写真が脳裏をよぎりそうになり、慌てて振り払う。
一方美咲は肉体的ダメージに加え酸欠により意識が朦朧としており、片腕で締め上げられているのに振りほどけない。
かといって両手を使えばたちまちタンクトップは宙に舞うだろう。
しかしこのままではいずれ窒息だ。どうするのかと会場全体が(色々な意味で)固唾を飲んで見守っていると、鈍い音が響いた。
目をやるとフラフラになりながら立ち上がろうとする美咲と、顔面を抑えてのけぞっている璃依那。
美咲は霞がかった思考ながら両手で抗っても無駄と判断し、後頭部でヘッドバットを見舞ったのだ。
「いたたた…。女の子の顔狙うなんてヒドいなぁ。痕が残ったらどうするのさ」
嘯く璃依那の表情には余裕が溢れているのに対し、美咲は最早誰の目にも限界寸前だ。
しかしその目は未だ揺るぎ無い決意を湛え、真っ直ぐに相手を見つめている。
(月乃さんも、必死に反撃してきたアクセルリリィさんも、あんな目してた…)
百にはそれがとても眩しいものに映った。
が、同時にそれは璃依那にとって極上の餌であることも百は理解してしまった。
璃依那は愉悦の表情を浮かべ、これから繰り出されるであろう最後の一撃に備えている。
「…いくわよ」
「いらっしゃーい♪」
既に小細工を弄する力は残されていない。美咲は己の全霊を込め拳を繰り出す。
その真っ直ぐな攻撃を璃依那は軽やかに躱すと、引き締まった腹部にカウンターで拳を叩き込み、差し出された顎に流れるようにアッパーを決めた。
ゆっくりと仰向けに倒れ込む美咲。試合終了のゴングが鳴る。
「それじゃ記念に1枚っと。あーぁ、月乃ちゃんも撮りたかったなぁ…」
璃依那はポケットからスマホを取り出すと、失神した美咲を撮影し始めた。
他者にかける情なんてない。その考えに変わりは無いと百は考えていたが、何故か今回は心の靄が晴れなかった。
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