クトゥルフ神話TRPGやろうずWiki

人形店『ピグマリオン』。



「御機嫌ようアリス、アリス・ローズウォーター？　それとも薄暗い人形店の陰気な魔女さん？」

　歌うように呼びかける声に、作業台に向かう人影は振り返らないまま答えた。
「…………何の用……？」
「何の用じゃないわよ、この引きこもり。家にも帰らずなにやってんだか」
「……………あなたには……関係ない、でしょう」
「関係ないわけないっての、まったく。いいからこっち向きなさい。最低限の礼儀よ」
「…………あなたに……礼儀を説かれるとはね……」
　ようやく振り向いたアリスの姿を見て、内心で舌打ちをする。目の下に刻まれた濃いクマ。痩せこけた頬と服の袖から覗く枝のような手首。金に輝いていた髪はくすんでベタつき、不自然に短く切り揃えている。アリス・ローズウォーターはこの部屋で人形を作ること以外、まともな生活を送っていなかったのだろう。
「もてなしの準備もできないなんて、呆れたものね。……まあいいわ。今回は特別に、このあたしが手ずからお茶を淹れてあげる。平伏して味わいなさい」
「………あなたの淹れるお茶は、飲めたものじゃないわ…」
軽口を叩けることに安堵しつつ工房の隅に置かれた茶器を確認し、今度こそ舌打ちをした。使ったまま洗われた様子がない。どころか、その状態で何度も使用したらしい。こびりついた汚れはもう二度と落ちないだろう。
仕方なく持ち込んだ水筒の蓋に紅茶を注ぐ。だいぶぬるくなっていたが、飲ませることができれば何でもいいのだ。




「それで、店に引きこもって何をしてたの？」
紅茶を注いだ水筒の蓋をアリスに押し付け、寝台に腰を下ろす。
作業台の椅子に腰かけたままのアリスは、紅茶をゆっくりと飲み下し、口を開いた。

「……妹に、人形を作っていたのよ。……あの子の誕生日に渡せるように、新しいお人形を……子供のころに……あげた、青い人形は…、もうずいぶん、古くなってしまって……」

長い言葉を紡ぐことすら久々なのだろう。声域も頼りない様子で、また一口紅茶を含み口を湿らす。

「私も初めて作った人形だったから、出来も良くなかったのだけれど、それでもあの子は喜んでくれたわ……素敵なお友達が出来たって、ありがとうって、笑ってくれたの」

　妹の笑顔を思い浮かべ、アリスもまた笑みを作ったのだろう。
　虚ろでひび割れたそれは、幽鬼のような表情にしか見えなかったが。
　作業台に置かれた一体の人形を抱き上げると、それを彼女に手渡した。ちょうど彼女が尋ねた時に完成したのだろう。緑色のドレスを纏った金髪の人形は、いつか見たアリスの妹に似ていると言えた。
　ただ、人形としてはあまりに生々しく、人としては整いすぎたそれは、見る者によってはグロテスクとも評されるだろう。


「ねぇ、見て？　とても綺麗でしょう？　あの子そっくりに作ったのよ？　納得のできる完成度に仕上がらなくって、ずいぶん作り直したの。髪色や質感が最後までうまく再現できなくて苦労したけど、材料を変えてからはすぐだったわ。当然よね、あの子とおそろいの、私の髪を使ったのだもの。私と似ていないなんて悩んでいたあの子に、私が教えてあげたのよ。髪の色はそっくりそのままじゃないって。あの子は喜んでくれるかしら……」


　以前より短くなった金髪に慈しむようにして指を絡めるアリスを、彼女は何も言わずに見つめる。
　自分の手に抱かれた人形を、もう少しで投げ捨てるところだった。



「あの子のお誕生日にこれをプレゼントできたら、あの子は帰ってくるのかしら？　いえ、きっとそうよ！　ああ、マリー……お姉ちゃんからのプレゼント、受け取ってくれるかしら？　そうしたらきっと、あなたは帰ってくるのでしょう!？」



アリスは興奮したように捲し立てる。人形のようなその虚ろな瞳には、ありもしない妹との再会を写しているのだろうか。


――ああ、なんて哀れ。なんてくだらない。

くだらない妄想にとどめをさす言葉を、彼女は紡いだ。




「あたしが知る限りだと、貴女の妹の誕生日は来年になるまで訪れないわね。カレンダーを見る暇もなかったの？　ああ、違うわね、見ていたとしてもあなたはそう言ったのでしょうね。死んだ妹の誕生日を、いつまで待ち続けるのかしら？」





その瞬間、アリスの顔から感情というものが一切失われた。


「……なに、を……いっている、の……？」
出来の悪い操り人形のようにアリスは体勢を崩す。
訳が分からないといった様子で呟いたのち、床に崩れ落ちたアリスはそのまま静かに寝息を立て始めた。




「ったく、何が悲しくて友達に薬盛らなきゃならないんだか」
紅茶に混ぜた睡眠薬が効いたのだろう、床に伏せたアリスを引きずって移動させ、小さな寝台に放り込んだ。思いのほか重労働であったため、自分も再び寝台に腰を下ろし一息つく。
床に落ちたアリスの妹を慎重に拾い上げ埃を掃うと、作業台の方に目を向けた。

作業台の横には、アリスが捨てた『妹のなり損ない』は小さな山のように積み上げられていた。腕や足、衣服や頭が材料の統一もされずでたらめに積み重なったそれは、人の形をしたものが零れ落ちる様に突き出すように押し潰すようにして、一つの塊を作り上げている。

「踏み外した想いってものは、ここまで醜悪な形を見せるのね。どちらかというと、こっちの方があなたの作品のようだわ」

　床に転がっている人形の指を『成り損ない』に投げつけてその一部に加えると、『成り損ない』は小さく身動ぎするように揺れた。
　嗚呼、その様のなんとおぞましいことか！
　ふと、小さな呻き声を彼女はきいた。それは今の今まで睨み付けていた『成り損ない』からではなく、寝台に眠る生みの親が発したものだった。
愛しい妹の名を呼び続ける、苦悶に歪んだ顔。薄汚れたその頬を、雫が清めた。
眠りすら、彼女に安息をもたらすことはなかったのだろう。短くなったアリスの髪を、ゆっくりと撫でつける。

「早く目を醒ましなさいな。あなたのいるそこは、悪夢でしかないのだから」
小さな呟きは、誰にも聞かれることなく融けて消えた。

お　　　　　　　　そ　　　　ろ　　　　　い　　　　　ね

あ　　 　た　　　　　　し　 たち

ふ　 　　たり　　　き　 り で

ず っと ず つ と

いっ しょ ね

こ れで い い の

こ うか いな ん てな い

　　　こ れ がわ たしのけ っか

"ホテル・エンデの支配人”
　Simon -ｻｲﾓﾝ-

Chapter.1に登場。
多くの犠牲を払いながらも無事に事件を解決した探索者たちを労い、彼らの望む報酬を支払った。
その後もアーカムにてホテル経営は続けており、エンデには度々、奇怪な事件が舞い込んでいるようだ。

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"ベルスタッフ"
　Alucard -ｱﾙｶｰﾄﾞ-

Chapter.1に登場。
一先ずのところ無事に朱人とナオミが戻ってきたことに安堵し、探索者たちに礼を言った。
もっとも、探索者たちの中に既に彼の頼みを知る者はいなかったわけではあるが。
その後も今までと変わらず、ホテル・エンデのベルスタッフとして働いている。

ところで、朱人にスリーピー・ホロウ村のことを話したのは、どうやらアルカードのようだが……。

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"忌まわしき狩人"
　Freke Sturluson -ﾌﾚｷ･ｽﾄｩﾙﾙｿﾝ-

Chapter.1から登場。
事件が無事に解決し、エイル・ミドガルズオルムも人の姿を取り戻した後、彼を連れて屋敷へ戻った。
だが、その後、間もなくしてエイルと共に消息を絶つこととなる。

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"家族思いの優しい姉"
　結城 朱音 -ﾕｳｷ ｱｶﾈ-

Chapter.1から登場。
ナオミと朱人を見つけ、無事に連れ戻すことに成功した。
こっぴどく父に怒られる朱人を見ながら自業自得だと思いつつも、無事でいてくれたことに安堵している。

だが……。

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"雑貨屋店主"
　Callie -ｷｬﾘｰ-

Chapter.2から登場。
探索者たちが結界を破り、ヒプノスから人知れず村を救った後、スリーピー・ホロウ村から姿を消した。
村人たちの話では「超ジューダイな使命」とやらを果たす為、妹のマリーと共にどこかへ引っ越したらしい。

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"眠れるお花の王子様"
　Virgil Van Tassel -ｳﾞｧｰｼﾞﾙ･ｳﾞｧﾝ･ﾀｯｾﾙ-

Chapter.2から登場。
ヒプノスにより異形へと変えられた彼は、結界が破られると同時、ヒプノスの住まう領域へと連れて行かれた。
その後の彼を知る者はいない。

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"不死の白い小鳥"
　Eir Midgardsormr -ｴｲﾙ･ﾐﾄﾞｶﾞﾙｽﾞｵﾙﾑ-

Chapter.2から登場。
探索者たちの活躍により人の姿を取り戻した彼は、フレキに連れられ屋敷へ帰る。
その数日後、彼は家族達に手紙を残し、オティヌスに別れを告げて旅立った。
お花の王子様が眠る、神の領域を目指して。

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"狼になった赤頭巾"
　Tiffany Dalahiedo -ﾃｨﾌｧﾆｰ･ﾀﾞﾗﾊｲﾄﾞ-

Chapter.2から登場。
ジョエルに人間性を差し出して狼となった彼女であったが、夜の皇神のお守りにより、覚醒世界に残ることができた。
夜の間しか実体を持てぬ彼女は、昼の間はのんびりと散策し、夜は今までのように絵を描く生活を送っている。
また、何かと行動を共にしていたジョエルのことは気にかけているようで、以前より接触する機会が増えた。
が、狼であった時の触れ合いがすっかり癖になったのか、しょっちゅう撫で回しにいっているらしい。

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"教会の相談役"
　Marie -ﾏﾘｰ-

Chapter.3から登場。
探索者たちが結界を破り、ヒプノスから人知れず村を救った後、スリーピー・ホロウ村から姿を消した。
村人たちの話では「超ジューダイな使命」とやらを果たす為、姉のキャリーと共にどこかへ引っ越したらしい。
村の工芸品は彼女が作っていた為、スリーピー・ホロウ村では二人が去った後、あの工芸品は自然と廃れていく形となった。

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"母のために奔走する青年"
　結城 朱人 -ﾕｳｷ ｱﾔﾄ-

Chapter.3から登場。
母ナオミを助けるために奔走していたが、結果的に何も出来ず、帰宅。
父に酷く怒られ落ち込みはするが、彼はまだ諦めてはいない。
母の為に。母を愛する父と姉の為に。全ては青年の愛する家族の為に。
再びナオミの手を取り、彼は家を飛び出す。

そして青年の愛は、やがて皮肉な運命を導く事となる。

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"神の入れ子"
　結城 ナオミ -ﾕｳｷ ﾅｵﾐ-

Chapter.3から登場。
朱人に連れられスリーピー・ホロウ村を訪れていた彼女は、無事に家族の元へ帰る。
その容態は悪化の一途を辿るばかりであり、回復の兆しはない。
家に帰った後、再び朱人によって連れだされた彼女を待ち受けていたのは……。

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"神刀"
　葛切 頼道 -ｸｽﾞｷﾘ ﾖﾘﾐﾁ-

Chapter.3から登場。
朱音、朱人と共に結城一家の元へ再び戻る。
神より授けられた刀は鞘より抜かれるその日を待ちわびている。
刀とは、道具とは、使われるために存在しているのだから。

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"ヴァージルの父"
　Brom Van Tassel -ﾌﾞﾛﾑ･ｳﾞｧﾝ･ﾀｯｾﾙ-

Chapter.4に登場。
首なし騎士に首を切り落とされ、死亡。
その首は後にティフォーナの手により、元通りに接合される。

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"白き魔女"
　Anonymous -ｱﾉﾆﾏｽ-

Chapter.6から登場。
スリーピー・ホロウ村の建村に手を貸した魔女は、結界が破られると同時、この地に関心を失くし、旅立った。
彼女の行方を知る者はおらず、そもそも村の中に彼女の存在を知る者も既に居はしない。
魔女は移ろう時と同じように、知的好奇心を満たす為、この世を移ろい続ける。

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Extra -ｴｷｽﾄﾗ-
　街の嘘つき男――――Chapter.1に登場。
　タリー・タウンの住民――――Chapter.1に登場。
　宿屋のおかみさん――――Chapter.2から登場。
　ヴァン･タッセル家使用人――――Chapter.2から登場。
　子熊――――Chapter.4に登場。
　親熊――――Chapter.4に登場。

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Enemy -ｴﾈﾐｰ-

　首なしの騎士――――Chapter.3から登場。
　　Chapter.3にてアナスタシア・ローリーの首を切り落とし、殺害。
　　Chapter.4にてブロム・ヴァン・タッセルの首を切り落とし、殺害。
　　Chapter.6にてティフォーナ・ドゥラカチャのエレファントガンで射殺される。

　首なし騎士の亡霊――――Chapter.4に登場。

　虚ろな目をした異形――――Chapter.5に登場。
　　アラン・ムートゥーのショットガンで射殺される。

　蟹のような異形――――Chapter.5に登場。
　　結城 朱音の血の大剣により一刀両断される。

　宵闇の落とし子――――Chapter.5に登場。
　　アラン・ムートゥーを鋭い爪で斬り裂き、殺害。
　　ジャック・フォーリのエレファントガンで射殺される。

　宵闇の従者――――Chapter.5に登場。

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Director -ﾃﾞｨﾚｸﾀｰ-
　Calypso -ｶﾘﾌﾟｿ-

Screenwriter -ｼﾅﾘｵﾗｲﾀｰ-
　古都子 -ｺﾄｺ-

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Special Thanks -PL & PC-

　ヨシタロー様
　Alex Walken -ｱﾚｯｸｽ･ｳｫｰｹﾝ-
　Nicolas Morgan -ﾆｺﾗｽ･ﾓｰｶﾞﾝ-
　Alycia Craine -ｱﾘｰｼｬ･ｸﾚｲﾝ-

　最中様
　葛切 空音 -ｸｽﾞｷﾘ ｱｶﾈ-
　リコピアーノ・パスティーナ
　Mary Rosewater -ﾏﾘｰ･ﾛｰｽﾞｳｫｰﾀｰ-

　まほろ様
　Joelle Keith -ｼﾞｮｴﾙ･ｷｰｽ-

　チャコ様
　Alan Mason -ｱﾗﾝ･ﾒｲｿﾝ-
　アラン・ムートゥー

　テレッテ様
　Anastasia Raleigh -ｱﾅｽﾀｼｱ･ﾛｰﾘｰ-
　Jack Fory -ｼﾞｬｯｸ･ﾌｫｰﾘ-