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その日の午後、洗濯でも終えたんだろう。
甲板を歩く●●●を、呼び止めた。
「･･････ちょっと来い」
「ん？はい？」
訝る腕を片手で掴んで、黙って舵まで連れていく。
どこに行くのか、何をするか、全く伝えず連れてきた俺に、行き先が分かって●●●はポカンとした顔をする。
すかさずそこで舵の握り手を叩きながら、俺はフッと笑みを向けた。
「お前には手厚い看病をしてもらったからな。その礼だ。特別今、教えてやる」
掴んだ腕を強く引けば、思った通りの反応だ。
●●●は“えー!!”と声を上げた。
「･･･そんなお礼は･･･」
「ほら、遠慮はするな。とりあえず面舵と取り舵をやってみろ！」
「え･････」
可もなく不可もなく舵の前に立たせると、●●●は渋々、握り手を掴んだ。
その背後に俺は立って、しばらくその、背中を見つめる。
そして不意に、声をかけた。
「･･････●●●、」
「はい？」
「お前･･････船長が好きか？」
「へ？！！！」
俺からの突飛な問いかけに、華奢な肩が微かに揺らぐ。
そのまま●●●は振り返った。
「ちょっとシンさん、いきなり何を？？？」
「誰が手を放していいと言った！」
「うわ！すいません！！！」
目一杯怒鳴りつけ、上から睨むと
●●●は弾かれたように前を向いて舵を握る。
その背中を見つめながら
俺自身、それを訊いてどうする？･･･と呆れながらも続けた。
「俺達は海賊だ。どんな理由があるにしろ、酒場にも行けば、女も抱く」
「･･････」
「それに船長は、あの豪快さだ。必要以上に女も寄ってくるだろう」
「･･････」
「それでお前は女として･･･嫌じゃないのか？」
酷な事を訊いているのは分かる。
だが、コイツの本音を訊きたいと思った。
そしてそこに、俺の入り込む余地が、あるのか無いのかを････
暫く●●●は押し黙った後、なぜかクスッと笑った。
「ふふっ･･････そうですよね？･･････あれが海賊の仕事だってわかってても
やっぱり娼館は嫌ですよ･･･」
●●●は一呼吸置いてから、ポツリと言った。
「でも･･･好きになっちゃったんだから仕方がないです」
「ん？」
「船長の気持ちはわかりませんけど･･････私が好きなら、それでいいんです」
「･････」
「船長に嫌われるか。･･･それとも私が嫌いになるか。
･･･････それまでは、好きでいるしか、ないんですよ･･･きっと･･･」
クスクス笑って、●●●は真っ直ぐ前を見る。
「自分が好きならそれでいい、か･･･」
俺には無い選択肢だった。
黙り込む俺に、明るい声が耳に届く。
「もしかしてシンさん、好きな人でも居るんですか？」
「ん、･･･まあな･･」
「うわあああ･･･シンさんが好きになる人って、きっと綺麗な人なんでしょうね？」
「当然だ」
ついでに稀にみる、鈍感な奴だが･･･
「そいつは俺が好きだということを、まだ知らない」
「そうですか････でもきっと伝わりますよ。それにシンさんカッコいいから、きっとうまくいきますよ」
ふふっと笑って、俺を励ます言い種に･････
なぜコイツなんだと、ますます自身に溜め息がでる。
だが･･････
まったくもって不本意だが
それでもやっぱり、お前なんだよ
自虐じみた笑みが漏れたその時、
グラッと船が傾いた。
「や、･････きゃっ！！！」
「おい、手を放すな！！」
咄嗟に片手を舵に伸ばして、空いた手で●●●を支える。
すぐに船を立て直した。
「す、すいません。シンさん･･･」
腕の中に収まるカラダを、胸にぐっと引き寄せた。
「俺は海賊だからな。たとえ伝わらなくとも･･･手に入れたい物は力ずくで奪う」
それが誰のモノでもな
耳元で囁く俺に。
「ふふっ、シンさんらしい･･･」
●●●は体制を整え、腕の中からスルリと抜けて
またクスクスと笑い始める。
たく････
俺にこうされて靡かない女は、お前くらいだ
俺は浅い息を吐き出して････稀に見る鈍感の背中を、アホみたいに見つめた。
「さ、無駄口はここまでだ。さっさと面舵を切れ」
「う･････はい･･･」
また必死に舵を切り始める●●●。
お前が誰のモノでも構わない
いつか手に入れるさ。
俺がお前を、手に入れたいと思い続ける限りな
小さくそう呟いて
俺は特訓を続けた。
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その日の午後、洗濯でも終えたんだろう。
甲板を歩く●●●を、呼び止めた。
「･･････ちょっと来い」
「ん？はい？」
訝る腕を片手で掴んで、黙って舵まで連れていく。
どこに行くのか、何をするか、全く伝えず連れてきた俺に、行き先が分かって●●●はポカンとした顔をする。
すかさずそこで舵の握り手を叩きながら、俺はフッと笑みを向けた。
「お前には手厚い看病をしてもらったからな。その礼だ。特別今、教えてやる」
掴んだ腕を強く引けば、思った通りの反応だ。
●●●は“えー!!”と声を上げた。
「･･･そんなお礼は･･･」
「ほら、遠慮はするな。とりあえず面舵と取り舵をやってみろ！」
「え･････」
可もなく不可もなく舵の前に立たせると、●●●は渋々、握り手を掴んだ。
その背後に俺は立って、しばらくその、背中を見つめる。
そして不意に、声をかけた。
「･･････●●●、」
「はい？」
「お前･･････船長が好きか？」
「へ？！！！」
俺からの突飛な問いかけに、華奢な肩が微かに揺らぐ。
そのまま●●●は振り返った。
「ちょっとシンさん、いきなり何を？？？」
「誰が手を放していいと言った！」
「うわ！すいません！！！」
目一杯怒鳴りつけ、上から睨むと
●●●は弾かれたように前を向いて舵を握る。
その背中を見つめながら
俺自身、それを訊いてどうする？･･･と呆れながらも続けた。
「俺達は海賊だ。どんな理由があるにしろ、酒場にも行けば、女も抱く」
「･･････」
「それに船長は、あの豪快さだ。必要以上に女も寄ってくるだろう」
「･･････」
「それでお前は女として･･･嫌じゃないのか？」
酷な事を訊いているのは分かる。
だが、コイツの本音を訊きたいと思った。
そしてそこに、俺の入り込む余地が、あるのか無いのかを････
暫く●●●は押し黙った後、なぜかクスッと笑った。
「ふふっ･･････そうですよね？･･････あれが海賊の仕事だってわかってても
やっぱり娼館は嫌ですよ･･･」
●●●は一呼吸置いてから、ポツリと言った。
「でも･･･好きになっちゃったんだから仕方がないです」
「ん？」
「船長の気持ちはわかりませんけど･･････私が好きなら、それでいいんです」
「･････」
「船長に嫌われるか。･･･それとも私が嫌いになるか。
･･･････それまでは、好きでいるしか、ないんですよ･･･きっと･･･」
クスクス笑って、●●●は真っ直ぐ前を見る。
「自分が好きならそれでいい、か･･･」
俺には無い選択肢だった。
黙り込む俺に、明るい声が耳に届く。
「もしかしてシンさん、好きな人でも居るんですか？」
「ん、･･･まあな･･」
「うわあああ･･･シンさんが好きになる人って、きっと綺麗な人なんでしょうね？」
「当然だ」
ついでに稀にみる、鈍感な奴だが･･･
「そいつは俺が好きだということを、まだ知らない」
「そうですか････でもきっと伝わりますよ。それにシンさんカッコいいから、きっとうまくいきますよ」
ふふっと笑って、俺を励ます言い種に･････
なぜコイツなんだと、ますます自身に溜め息がでる。
だが･･････
まったくもって不本意だが
それでもやっぱり、お前なんだよ
自虐じみた笑みが漏れたその時、
グラッと船が傾いた。
「や、･････きゃっ！！！」
「おい、手を放すな！！」
咄嗟に片手を舵に伸ばして、空いた手で●●●を支える。
すぐに船を立て直した。
「す、すいません。シンさん･･･」
腕の中に収まるカラダを、胸にぐっと引き寄せた。
「俺は海賊だからな。たとえ伝わらなくとも･･･手に入れたい物は力ずくで奪う」
それが誰のモノでもな
耳元で囁く俺に。
「ふふっ、シンさんらしい･･･」
●●●は体制を整え、腕の中からスルリと抜けて
またクスクスと笑い始める。
たく････
俺にこうされて靡かない女は、お前くらいだ
俺は浅い息を吐き出して････稀に見る鈍感の背中を、アホみたいに見つめた。
「さ、無駄口はここまでだ。さっさと面舵を切れ」
「う･････はい･･･」
また必死に舵を切り始める●●●。
お前が誰のモノでも構わない
いつか手に入れるさ。
俺がお前を、手に入れたいと思い続ける限りな
小さくそう呟いて
俺は特訓を続けた。
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