□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
「Capitano−第6話」 //クラエス、トリエラ
    //壱拾参−3 ◆NqC6EL9aoU // Suspense,OC//「Capitano」//2009/11/21



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            −−「Capitano−第6話」−−


「ただいまぁ〜、ぜんぜん動かないのにヘトヘト。」

帰ってきたトリエラは、タクティカルブーツやショートパンツ等は朝の出で立ちと
変わらないものの、しっとりと落ち着いた布地の黒い長袖シャツを着ていた。
・・・しかしサングラスは無く、帽子も、ふてくされた様に斜に被り「手に持つには
疲れたから」という心境が伺えるものだった。

「話は聞いてるわ。お疲れさま。そのシャツも似合ってるわよ。」
「ありがと〜。クラエスにもカピタンにもお土産あるわよ〜。」
件の家具伝いに渡されたスロープをバセットがトコトコと降りる様を横目に、
クラエスは本を置き梯子を降りた。

「延長戦で久々の『楽しい晩餐』はいかがでしたこと?」
少し意地悪にクラエスが聞く。
「はいはい楽しゅう御座いましたよ。ジャガイモ様を目の前に他の席を
気にしながらのディナーは。でもね〜。」
そういってトリエラは溜息を付く。

「ん〜?『豪華な御デート』に更に物言い?」
「当たり前よ。"延長戦"の最接近だって着替えたけど、ドイツ人って白い服が
嫌いなの?それと夏でも首を絞めないとムズムズするって何!?」
帽子をベットに投げながらトリエラは言った。

「さぁ・・・でも、つまりヒルシャーさんも着替えたのね。」
「そうよ。ダーク系の上着を喜んで。でもネクタイをするか締め方どうするかで
ひと騒ぎ・・・そんなに首を締めたいなら、今度、首輪でも付けようかしら。」

ブンむくれで「姫」は宣い続ける。
「そのくせ、あの人!何やったと思う?食後に堂々と胸元から安煙草を出したのよ!
足蹴っ飛ばしてやったわ!もうバレバレ!」
「相手は幹部でしょ。薫りで一発ね。」

カピタンの少し不安な顔はそれだったのかしら・・・とクラエスは今朝方の事を
思い出していた。

「シガリロ持って行ってたけど、アレ吸われても目立つし・・・もう世話の掛かる
人だことまあまあ!」
「なるほど・・・で、お土産はその『おノロケ』?」

言われてトリエラはハッと我に返り大きく首を振った。
「違う違う!もう!そんなワケ無いじゃない!」
そういいながらトリエラはケーキ箱を差し出した。
「一緒に食べよ。それとカピタンにも。」

トリエラは出先で脱いだ服の入った紙袋から「犬のおもちゃ」を取り出すと
封を開けてバセットの前に持って行き軽く握った。
キューキューと高い音でおもちゃは音を出した。

置かれたおもちゃとトリエラの顔を何回か見比べるとバセットは確認するかの様に
軽くおもちゃを噛んだ。

                キュー・・・

バセットはそれをくわえるとスロープをトコトコ上って、とある棚の「カピタンの
おもちゃ置場」に置いた。
"犬洗いスタイル"ジーンズの裾を切った端切れで作った、彼が一番お気に入りの
「布玉」の側ではあるが、それらとは少しの距離を置いた「2番目以下」の
集合だった。
そして再びテケテケとスロープを降りてトリエラの前に座ると、尻尾を数回降って
彼女の顔を見つめた。

「お気には召さないけど感謝してるという事?」
「そういう事みたいね。およそ『犬らしいもの』に興味示さないから。
でも何時もありがとう。」
トリエラの微笑みの溜息にクラエスはそう答えた。

「まあ、お陰でシュタイフ製の『我らが僕達』は無事なんだけど、普通の犬って
ティディベアなんて振り回すために有ると思ってる位なのにね。」
髪をサッと解いたトリエラが返した。

「『普通の犬』か・・・まあ、そんな事だから『変な噂』も立つわね。お茶を入れるわ。」

そう言いお湯を沸かしにクラエスは部屋を出ていった。
思わず言葉を失うトリエラと、尻尾を振るバセットハウンドだけが部屋に残された。

                    ***

  「ねぇ・・・本当の事を話してよ・・・ラバロさんなんでしょ・・・あなたは。」

クラエスが部屋を出て暫く経ってから・・・振り向きもせずにトリエラは言った。

          「なぜクラエスを一人ぼっちにしてしまったの?」

振り向いたトリエラの視線に、相変わらず知らぬ存ぜぬで尻尾を振っている
バセットハウンドがいた。

 「彼女の孤独な日々と引き替えに、あなたは何をしようとしたの?答えてよ!」

褐色の肌に金髪の少女の瞳と、長く垂れた耳と黒や茶色の斑の毛色をした
犬の瞳が見つめ合った。

                  「・・・・・ぴぃ。」

バセットが、少し頭を逸らし申し訳なさそうな顔をして溜息とも鳴き声とも
言えない声で返した・・・少し潤んだ目をしてトリエラは笑った。

     「ごめんね・・・答えたくても・・・人の言葉が話せないという事ね。」

                    ***

「お待たせ。さて、奮発したケーキに合わせてお茶も奮発しなきゃね。」
「良いお茶!良いお茶!奮発プリーズ!」
帰ってきたクラエスに、バセットをティディベアのように前向きに抱いた
トリエラは前足を取り肉球を見せて左右に振った。

                    ***

「ねえ、クラエス。」
下のベッドからトリエラの声がした。
「眩しかった?ごめんなさいね。」
光軸を絞ったLEDの読書灯に浮かぶ本を見ながらクラエスが答えた。
「いや大丈夫・・・ちょっと考えごとをしてただけ。」
トリエラは疲れを含んだ声で答えた。

「それよりクラエス・・・一つ聞きたいことがあるの。」
「なにかしら?トリエラや私が考えすぎて寝られなくなる話以外なら少々は
つき合えるわ。」
クラエスにそういわれてトリエラはポツリと言った。

            「寂しい・・・って思ったことはない?」

                 「あるわよ。」

殆ど間髪を入れず遮るようにクラエスは答えた。
「・・・そうだよね。」
トリエラが申し訳なさそうに答えた。

「今日さ、例の現場近くにある、あのテラスが名物の豪華なデコレートプレート、
お土産に出来たらなって思ってたんだ。でもあれ・・・アイスなんだよね。」

一文字だったクラエスの口元が緩んだ。
「あなたの気苦労に感謝するわトリエラ。でも・・・。」
クラエスは本を胸に伏せて置いた。

「職員売店の『キャラメルコートした御高めアイスサンド』も捨てたもんじゃ
ないわよ。それに『豪華なデコレートプレート』は確かレシピ本が有るから、
今度作るわ・・・元祖と比べてみてよ。ヘンリエッタには味見も調理もさせられないし。」
「まあ・・・それは正論だわ。」
トリエラは何時かのヘンリエッタ謹製「甘過ぎ『猛毒ジェラート』」を思い出し
眉間に皺を寄せて苦笑した。

「それに・・・カピタンと・・・」
クラエスは寝床の頭の先にある、本棚の上に作られた"塒"で丸くなって寝ている
バセットを見た。

「収穫を待つ人がいる野菜畑と、読んでも読んでも尽きない本、そして自由な
時間が私にはあるの。いつまでも寂しいと思っている暇は無いわ。大丈夫よ。」

             グウ〜・・・グウ〜・・・グウ〜・・・。

クラエスとトリエラの言葉の隙間を、バセットの低く小さなイビキが埋めていた。
そんな「生命の刻む音」を聞きながら、トリエラは眠そうなとも余り納得できない
とも取れる、そんな目をしてカーテンを見ていた。

「・・・そっか。先に寝るわ。クラエスは?」
「もう少しこれを読んでから。疲れているんでしょ?ゆっくりお休みなさいな・・・。」

そこから先の台詞・・・
"この章を読み切らなければ、明日、自分が生きて目を覚ませる保証はないから"
・・・と疲れたトリエラに言うには酷に過ぎるとクラエスは思った。

             グウ〜・・・グウ〜・・・グウ〜・・・。

時を刻む息吹が頭の先で聞こえていた。

                    ***

夜明けの淡い光に・・・犬は静かに目を開けた。
ベッドの上でクラエスは胸に本を伏せてメガネを掛けたまま寝ていた。

         犬は思った・・・
           自分は彼女を出会う前から知っている・・・
                 そして何時も行く「本の部屋」の事も。

夜中に起きて何ページか読んだ後、そのまま寝てしまったのだろう。
メガネにとっては迷惑だろうが良いことだ・・・それが彼女にとっての平和・・・
確かそうだったはずだ。
   
         だが、その先が思い出せない・・・。
                強い光の先を見る様に・・・何も見えない。

         大きな哀しみと共に彼は再認した・・・
                自分はもう「一匹の犬」なのだと。

そして彼の野生は感じていた・・・彼女の余生が犬の自分よりも・・・むしろ短い事を。
ならば彼女の側に甦る運命を得て、共に朽ち最後を看取るだろう時間は、
この上ない幸せではないか。

           それ以上は自分にはどうにもならない。

見開いたバセットハウンドの目に、開けてゆく朝の光が満ちた・・・。

                    ***

フガフガ・・・耳元に触れる柔らかい感触にクラエスは目を覚ました。

バセットが「おはよう」と言いたげにそこにいた。
「おはようカピタン・・・今日も良い日だといいわね。」
クラエスの朝の挨拶にバセットはゆったりと尻尾を振った・・・。

             【第6話−END→7話へ続く】→「Capitano−第7話」

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