2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

著者:2-137氏


あたしは泣いていた。
目の前には澪、あんたが困惑してただ呆然と立ち尽くしてる。

涙の理由は明白だ。
だけど、わかっていてもあたしの口から直接聞くのは嫌なんだろうな。

わかってる。
あたしのこの感情は報われるべきでもないし、受け入れられるべきでもない。

澪は耳を塞いでしゃがみ込んでしまった。
仕舞いにはあたしと一緒に泣き出してしまって。

成す術も無く泣いたままのあたし達。
二人の泣き声だけが音楽室に静かに響いていた。


なんて。
そんな夢を見たんだ。




ぐらふぃてぃ!





全く、これ程目覚めの悪い夢があるだろうか。
夢なんていつもは忘れるのに。
こんなときばかり鮮明に覚えているのは、自分が愚かだからだろうか。
わからない。
わかっているのは、悪夢が正夢になる可能性があるってこと。
それと、寝ながらにしてあたしが涙を流したってことだけだ。

今日は平日、登校日。
いつまでも呆けているわけにはいかない。
あたしはダラダラと起きて、めんどくさそうに寝ぼけ眼で顔を洗う。
消しゴムだけが過ちを消す唯一の道具、ではない。
あたしは水で頬に伝った涙の跡をなかったことにする。
『消せるって便利だな』なんて、そんなくだらないことを考えて支度をする。



授業の時間は嫌いだ。
部活の時間が待ち遠しくてしょうがない。
適当にノートとって、プリントやって。
鐘が鳴るまでの我慢大会。
それが5、6回。
それが授業だと思っていた。

簡単に言えば、退屈な時間。
落ち着きのないあたしが最も嫌う時間だ。

ただ、今日のあたしは相当重症で、授業が始まっても机に肘をついたまま微動だにしなかった。
ノートを五線譜にすり替えてリズムパターンを考えるという、あたしのとっておきの暇つぶしも今日は全く捗らない。


そうこうしている内に、気がつけば既に帰りのホームルームが終わっていた。
慌しく部活へ帰路へ、それぞれの時間を過ごそうと散っていくクラスメートを眺めていた。


「あぁ、部活行きたくない。」
とあたしはぼやく。

もちろん、そんなわけにはいかない。
こう見えても部長なんだ。
責任なんて重苦しいものじゃないし、お手本なんて大層なもんじゃない。
だけど、『部活にいかない』なんて選択肢を選ぶつもりは毛頭無かった。


「いや、厳密に言えば澪に会いたくn」
「おい、なんだって?」

慌てて振り返るとそこにはラスボスが・・・。
澪が立っていた。

「今、あたしの名前呼ばなかったか?」
あたしの顔を覗き込みながら澪は言う。
顔が近い。
そんなことを意識するのはあたしの方だけなんだろうな。


「おぅ!呼んだぞー?愛しの澪しゃんをな!」
「うるさい。」

バスッ

ナイス手刀。
そしてナイスあたし。
不安定な自分を隠すことには慣れている。
いつも通り、いい仕事をした、かな。


「おーい!」
教室の入り口から声がした。
視線を向けるとそこには唯がいて、手を振っている。
いつの間にかそこにはムギもいて。
「みんなで部活行こう?」なんていつもの柔らかい口調で言う。

あたしは軽く返事をしながら荷物を持って廊下まで小走りする。

「あ、おい!待ってよ!」
澪が慌ててあたしの後をついてくる。


四人で廊下を歩く。
あたしは誰も見ていないことをチラリと確認して。
今朝、涙が伝った道を指で辿る。
この行動に何の意味があるのかはわからないけど、無性にそうしたくなった。
本当にらしくない。
澪と話しているだけで、いいや。
澪を見ているだけで泣きそうになる。

あぁもう。・・・厄介な夢を見たもんだ。

部室に着いてからもなんだか気乗りしない。
楽器を触っていればそのうち元気がでるかもしれない、なんて淡い期待は部室に着いて10分、見事に打ち砕かれた。
挙句の果てには「りっちゃん、紅茶飲まないの?」なんて唯に声をかけられる始末。
確かに。
部室に着いてからすぐに練習を始めるのはあたし達のスタイルじゃない。
よくもまぁこんな『当たり前』を忘れたもんだ。

「ん?あぁ、昨日スネアの調子がおかしいと思ったからさ。ちょっと確認してた。」
言い訳がましいな、きっと。
だけどそんなあたしの発言に疑問を抱く人間は軽音部にはいない。
その後、いつもと変わらない時間を過ごせたことがそれを裏付けている。


練習が終わり、片づけをしているときにふと澪が言った。
「帰りに楽器屋寄ってこようかな。」
「どうしたんだよ、急に。どっか調子悪いのか?」
あたしはスティックケースのチャックを閉めながら言う。

「いや、そういうわけじゃないんだけど。さっき律がスネアの点検してただろ?
それで、あたしもそろそろ弦交換しようと思って。」
「なるほど。そういうことなら私も一緒に行ってもいい?」

ついて行きたいと言ったのはムギだ。
いつもあたし達が行く楽器屋はムギのおかげで色々と安くなる。
詳しくは教えてくれないけど、ムギの父が経営者だからとか。
店員はムギの顔色一つで普通じゃ考えられない位の値下げをしてくれる。

さり気なくあたし達の財布を気遣っているつもりかもしれないが、結構バレバレ。
もちろん、その優しさはとても有難い。
楽器屋に行くとき、あたし達はいつもその優しさに甘えている。

澪はムギの気遣いに気付いているのか、いないのか。
「うん、じゃあ一緒に行こうか」なんて返事をする。

ベースの弦はギターの弦よりも高いからな。
ムギに感謝するんだぞ、澪。


「唯はどうする?」
「あたしはいいや。またピックとか買っちゃいそうだし・・・ごめんね?」
どうやら唯は行かないみたいだ。

「よし!じゃあ一緒に帰ろうぜっ。」
あたしは唯と真っ直ぐ帰ることにした。

帰り道、あたしは珍しく唯と二人きりだ。
よく考えると珍しい組み合わせだな、ぼんやりそんなことを感じる。

「暑くなってきたなー。」
「うん、もうそろそろ夏だね!冷たい床でゴロゴロする季節だね!」
「・・・冷たい床でゴロゴロはしないかもしれないけど。とりあえず、夏だな!」
クーラーの効いた部屋でゴロゴロする唯、けなげに世話をする憂ちゃんが目に浮かぶ。
思わずぷっと吹き出してしまった。

「あー今なんか変なこと考えてたでしょ!?」
「いやいや、あたしが見たのは唯の近い将来だよ。」
「えー、なになに?・・・あ!そういえば。」
気になって聞き出そうとしているのかと思いきや、急に真面目な顔になる。
ホント、唯は見てて飽きないな。


「そういえば?」
あたしは続きを促す。
「3組の山本さんと2組の森さん、付き合ってるんだって。りっちゃん知ってた?」

なんと。
時が止まる。
いきなり過ぎる話題にあたしは一瞬言葉を失う。
「えっと、えー・・・はい?」
「だから付き合ってるんだって!」
「・・・へ、へぇー。」
「ホントにあるんだねー。女子高ってすごい!」

あたしがギクッとしたのは言うまでも無いだろう。
唯に悪気がないのはわかっている。
だけど、今朝もあんな夢を見たばっかりだ。
あぁ、もう。なんか後ろめたい。

『ホントにあるんだねー』か・・・。
そんな風に言われると「自分の想いは報われるべきではない」と、改めて現実を突きつけられているみたいで苦しくなる。


「あ、もう着いちゃった。」
唯は少し残念そうに言う。
ここは通学路の分かれ道。

「ホントだ。喋りながら歩くと早いな。それじゃなー。」
「うん、また明日ねー!」
バイバーイと手を振る唯に合わせてあたしも手を振る。


分かれた後、すぐに暗い気持ちがあたしを襲う。

ふと足元を見ると、コンクリートにはチョークで描かれた落書きがのびて消えかけていた。
昨日は雨だったから、きっとそのせいだろう。

「ホント、消せるって便利だな。」
誰に言うでもなく、あたしは一人呟いた。
雨に流された落書きに嫉妬するあたしは心底バカだと思う。

この厄介な気持ちも、涙の跡やチョークみたいに水で洗い流せると楽なんだけどな。
例え雨に打たれても、この気持ちは消えないんだろう。
そんな分かりきった事を考えながら、あたしはとぼとぼと家路に着いた。

「あーくそー。・・・あー。」
せめて日本語喋れ、あたし。

家に着いてからも、考えることはただ一つ。
家にいる筈なのに、あたしは自分がどこにいるかわからない。

『所謂、思春期特有の・・・』
こんなフレーズが頭の中をぐるぐる。
そう、これはそういうものなんだと自分に言い聞かせる。

でも・・・もし本当にそうだったら・・・なんだか自分が許せない。
こんなに苦しいのに。
・・・こんなにも終わりの見えない気持ちが『思春期特有の』一時的なものなのか?
それすらも時間が経てば過去のものになるのか?
大人になったら笑い話にできる日が来るのか?

そんなの、イヤだ。
ずっと好きでいるのは辛いけど、でも、ずっと好きでいたい。
この気持ちを打ち明ける日は恐らく来ないだろうけど、それでも構わない。
今のあたしの想いを茶化せる日が来るなんて、到底思えないし、そんなことしたくない。

いや、でもその考え方自体が思春期特有の・・・

こんな感じでぐるぐるぐるぐる。
そろそろ、あたしの頭の中でバターが出来るんじゃないかな。

どちらにせよ、今のあたしは澪のことしか考えられない。
簡単に言うと、ただそれだけだ。

昔から。
本当にいつからかわからないけど、あたしは澪にずっと片想いをしている。
もちろん、ハッピーエンドなんて望んじゃいない。
いや、言い方を間違えたか。
ハッピーエンドを夢見るほど、あたしは馬鹿じゃない。



ずっと連れ添ってきた気持ちだから、扱い方は知っているつもりだった。
それなのに、今朝の夢であたしの気持ちはいとも簡単に暴走を始めた。

友達でいるという結論は出ている筈なのに。
自分の澪への気持ちを認めた上で一緒にいたつもりなのに。

あたしの中のもう一人のあたしが『友達?クソ食らえだ、そんなもん』と悪態をついている。
『一緒にいるだけで苦しい。好きだって気持ちがなくなればいいのに』と弱音をはいている。

おかしいな。友達としてずっと一緒にいるって、決めたのは自分なのに。
結局あたしは・・・昨日までのあたしの気持ちの処理の仕方に納得なんてしていなかったんだ。
今になってようやく、好きでいる気持ちを抑えることも、その想いを伝えことも出来ないのが本当のあたしだと知る。
臆病でちっぽけで、情けないヤツだなぁ、田井中律は。

夕飯、入浴、宿題。
どんな風にその時間を過ごしたのか、全く覚えていない。
もう駄目だ、寝よう。寝ても何も解決しないのはわかっている。
だけど、これ以上考えてもどうしようもない。
布団に入る前になんとなくノートの中身を確認する。

「あ・・・宿題はやってなかったか、たはは。」
やってないんだから覚えてるワケ無いよな・・・。
・・・ホントに、大丈夫か?あたし。

もうこの際、やってない宿題は放置。
順番的に明日は当たらないだろうしな。
あたしは全てを放棄して布団に入った。







「そうそう。今ね、新しい曲を考えてるの。」
昼休み、一緒に食事をしていたムギの一言だ。
もちろんあたしは食いつく。

「マジで!?楽しみだなー、もう完成したの?」
「うーん、あとはCメロが出来れば形になるから、近いうちに。」
「よっしゃ!どんな曲?ドラムのイメージは?」
「ドドタン!って感じかしら。」
「じゃあドシャーン!もあり!?」
「うん!ありあり!うふふ、私もみんなにお披露目するのが楽しみだわ。」

一気に会話が弾む。
こういうときにあたしは『みんな音楽好きだなー』と改めて実感するのだ。
それに、こうやって話しているだけで暗い気持ちが少しずつ前向きになっていくみたいだ。
うん、やっぱこうじゃなくちゃな。

あたし達のバンドはムギが作曲担当。
これがまた毎回いい曲を作ってくれるんだよな。
流石のムギも他のパートのことまではわからないから、こうやって事前に簡単な打ち合わせをするのがうちらのルール。
後は流れを確認しながら、何度も合わせて曲を作っていく。
この過程があたしは大好きだ。もちろん、ライブはもっと好きだけどなっ。

「あー早く聴きたいなー、ムギの新曲。」
急かすことがよくないって、それくらいわかってる。
プレッシャーをかけられた状態じゃ出来るものも出来なくなるだろうし。
それでも今のあたしはそれに縋りたかった。

あたしがどんな状態だろうと、きっと音楽だけはあたしの中に入ってきてくれるだろうから。
このもやもやしたマイナスのベクトルも、そのままドラムに向けることが出来ると思うんだ。






「うん、頑張ってみるね。・・・それで、りっちゃんの元気が少しでも出てくれると嬉しい。」
あたしは耳を疑った。
頭の中を見透かされてるみたいで、正直ちょっと驚いたけど。
すぐにそれとなく誤魔化した。

「え?なんで?・・・あぁー。昨日はちょっと具合が悪くてさ。ほら、もう元気だから!」
両手をあげてジェスチャー付きでアピールするが、ムギの表情は変わらない。

「無理、しなくていいよ?私達・・・メンバーじゃない。」
『友達』じゃなくて『メンバー』と言ったムギの真意はわからないけど。
少なくともあたしには『ただの友達じゃないんだよ?』と言っているように聞こえた。

頼って、いいのかな・・・?
ムギに、もちろん唯にも。
一人じゃ立っていられなくなったとき、寄りかかっていいのかな。
ホント、あたしは幸せ者だな、うん。

ムギ。ありがとう。


でも。


「・・・おう!いざって時はよろしくな!」
これはあたし自身の問題だ。

それに、あたしはまだ立っていられる。
もし本当に駄目になっちゃったら、そのときはよろしくな。

「ん、予鈴だ。次の授業、なんだっけ?」
「あら、なんだったかしら。」
タイミングよく鳴った予鈴を使ってあたしはその話を終わらせた。

つもりだった。





「りっちゃん、・・・いざって時は、私達のことはいいからね。」
「・・・へ?」
「りっちゃんのことだから、私や唯ちゃんのことも考えてると思うけど。
私達は大丈夫、だから・・・自分のことだけ考えていいんだよ?」
「ムギ・・・。」
「さ、次は古典ね。宿題はやってきた?」
「あ!!やってない!いやいや、でも多分当たらないから大丈夫!」
「りっちゃん・・・次、当たるよ?」
「何ぃ!?なんで!?」
「だって、昨日の授業で先生のこと無視してたじゃない。先生カンカンよ?」
「う・・・わ・・・。」

ムギは言いたいことだけ言ってすぐに話を戻す。
お礼を言わせる隙を与えない、か・・・憎いヤツだな。
そんで、すげぇいいヤツだ。

きっと、いつも怪しげなフィルター越しにあたし達を見てきたムギには察しがついているのだろう。
でも今のあたしはそれで焦ったりしない。
事情を察してくれている仲間がいるんだ、頼もしい限りじゃないか。

またチャイムが鳴る。授業開始、か。
あたしはんーっと伸びをして、午後の『我慢大会』に備えた。

このページへのコメント

スレはどうやって見られるの?

0
Posted by breeze06 2009年12月18日(金) 14:40:19 返信

めちゃくちゃ好きですこの物語。続きが気になります☆

0
Posted by なお 2009年10月13日(火) 02:16:07 返信

そうなん?じゃあスレ観てみる。教えてくれてサンキュです。

0
Posted by 匿名 2009年06月28日(日) 16:32:59 返信

こっちには保管されてないみたいだが、スレには続きが投下されてたぜ。
続き物は完結してから保管されるのかね。

0
Posted by 名無し 2009年06月24日(水) 12:32:14 返信

続き書かないのかな?

0
Posted by 匿名 2009年06月20日(土) 18:22:59 返信

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