2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

「こんにちはー」

部室のドアを開けると、いつものように美味しそうな紅茶の香りが漂ってきた。

「こんにちは、梓ちゃん」
「おっす。遅かったなぁ、もう先にケーキ食べてるぞ」

椅子に座るムギ先輩と律先輩がそれぞれ挨拶を返してくれる。
私は鞄をソファーの脇に置くと、そのままテーブルに向かい、いつもの定位置に腰掛けた。

「私は律先輩と違ってケーキ食べに部室に来てるわけじゃないですから」
「むむ、失礼なヤツめ。これ食べたらちゃんと練習するぞ」
「信用できないですっ!」
「うわっ、久しぶりに聞いたなぁ、それ」

「紅茶淹れるわね」と席を立つムギ先輩に小さくお辞儀をすると、テーブルの上に用意されていたお皿を手に取る。
今日はモンブランか。『そういえば最近食べてないな』って思ってた矢先のこのチョイス。ナイスすぎます、ムギ先輩。

「へへっ、何だかんだ言って、梓もケーキ楽しみにしてたんだろー?」

ケーキを口の中に放り込みながら、ニヤニヤと私を見る律先輩。

「ち、違いますっ! ただ、せっかく私の分が用意してあるのに、食べなかったら申し訳ないなって思っただけです」
「へぇ〜、ほぉ〜、ふぅ〜ん」
「ぐっ…!」

落ち着け、私! 変に反応するから、面白がってからかってくるんだよ。ビークール、ビークール…。
私は小さく息を吐くと、側に置かれていたフォークを手に取った。

「…ところで、唯先輩たちはどうしたんですか?」
「おっ、やっぱ唯がいないと寂しい?」

ごんっ、とテーブルで思いっきり頭を打った。

「だ、誰もそんなこと言ってないじゃないですかっ!」
「またまたぁ、実は図星なんだろー……って、冗談だよ、冗談! 本気にするなよな〜!」

フォーク片手に殺気だった眼で睨む私に、さすがの律先輩もたじろいでしまったらしい。

「唯なら今日は用事で来れないってさ。澪は…クラス違うからなぁ。ホームルームでも長引いてんじゃないのか?」

それにしては長すぎるような気がする。
ひょっとして澪先輩も何か用事があるんだろうか。…いや、それならメールの一つでもするよね。
それにしても、唯先輩の用事って何だろう。

「はい、梓ちゃん」

そんなことを考えながらモグモグとモンブランを頬張っていると、いつの間にか目の前にティーカップが置かれていた。

「あ、ありがとうございます」

慌ててお礼を言うと、ムギ先輩は「どういたしまして」と微笑みながら律先輩の斜め前の席に腰掛けた。
律先輩もこれくらい謙虚になればいいのに。
ふーふーと淹れたての紅茶に息を吹きかける。

「梓って、猫舌だったっけ?」

顔を上げると、すでにケーキを食べ終えたらしい律先輩が、頬杖をつきながら私の方を見ていた。目が逢う。
何となく恥ずかしくなって、思わず俯いた。

「おかしいですか?」
「べっつにー。むしろそっちの方が梓っぽいと思うよ。にゃあ〜ん、ってな」
「……」

自分の行動や仕草が猫っぽいことに関しては、多少の自覚があるつもりだ。だからこそ、こんな風に言われると何も言えなくなってしまう。

「それにしても、澪のヤツ遅いなー」

そう言いながら、律先輩が椅子にもたれかかった。
ぴくりと動く私の耳。『これは反撃のチャンスです!』とばかりに、律先輩にとびっきりのニヤケ顔を向ける。

「あれぇ? 律先輩こそ、澪先輩がいないと寂しいんじゃないですか?」
「なっ、何おぅ!?」

おお、律先輩が珍しく赤くなってる。どうやら効果的な攻撃だったらしい。
視界の端に映る、やけに楽しそうな顔のムギ先輩はとりあえず無視して、

「よく考えたら、そうですよね。律先輩ってば、いつも澪先輩にべったりしてますもんね」
「逆だっつーのっ! あたしじゃなくて、澪の方がべったりなんだよ!」
「ああ、そういえば文化祭前に、澪先輩のことで真鍋先輩にやきもち焼いてたことありましたっけ? 構ってもらえなくて寂しかったんですよね、あれ」

チラチラと反応を窺いながら、わざと小馬鹿にするような声で言う。

なんというか……律先輩が私や澪先輩をからかいたがるのが、何となく分かる気がした。
自分の言葉に相手が過剰に反応してくれるのは、確かにかなり楽しい。

一方の律先輩は怒りと羞恥がごちゃ混ぜになったような顔でぷるぷると肩を震わせていた。

「あん時のことは、わーすーれーろっ! ありゃ風邪引いておかしくなってただけだよ! なぁ、ムギ!?」

突然話を振られたムギ先輩は、一瞬だけ面食らったような顔をすると、やがてうっとりしながら、

「私は、本人たちが良ければそれでいいと思うの」
「…素晴しいフォローありがとうございます」

律先輩の肩ががっくりと落ちる。
さすがムギ先輩、私の想像の斜め上をいく答えを返してくれます。
そのまま机に突っ伏していた律先輩は、突然顔を上げたかと思うと、次いで私の方を向いた。
うわ、かなり不服そうな顔してるよ。

「…いつもと立場が逆転して、さぞかし気持ちいいだろうな」
「ええ、それはもう―――あっ」

慌てて口を押さえる。しまった、ついつい本音が。


「うっがあああ〜! イジられキャラのくせにあたしをイジるなんて許せん! 梓、お前を今から”抱きつきの刑”に処するっ!」

「へ? 抱きつきって―――きゃあああああっ!」


突然椅子から立ち上がったかと思うと、そのまま私に襲い掛かってくる。真っ暗になる視界。
ムギ先輩の歓声も今は気にする余裕がない。

「なな何するんですか、ちょっ、離してください!」

いつも唯先輩がしてくれるように、ぎゅーっと正面から抱きしめられる。

「へっへー、どうだ、梓! 唯じゃなくてあたしにハグしてもらう気分はっ!」
「う、あ、あう…!」

ぱくぱくと口を開閉させる。
それでも、まるで条件反射のように、私の身体は相手の感触を模索していた。

胸の大きさのせいだろうか――こんなこと本人に言ったら、ただじゃ済まないんだろうけど――柔らかさでは唯先輩に負けている。
全然日なたの匂いもしないし、正直力加減が下手くそすぎて少し苦しい。


でも―――”温かい”ってところだけは、唯先輩と同じだった。


「あり? 何か急に大人しくなったな」

頭では嫌がっていても、身体は正直だ。
初めは混乱で強張っていた全身も、やがて唯先輩に抱きつかれたときと同じように、どこか穏やかな気持ちで包まれていく。

ああ……私、どうやら人肌に弱いみたいです。

「おーい、梓? …えっと、そんなに嫌だった?」
「…そんなんじゃないです」

大きな腕に包まれたまま、ぎゅうと律先輩の制服の裾を掴む。

「これって、罰なんですよね?」
「へ? うん、まぁ…」
「―――だったら、律先輩の気が済むまでこうしててもらっても構いません」

「うぇっ?」という律先輩の奇妙な呻き声が頭上から聞こえた。
私の頭は律先輩の胸に押し付けられたままだから、もちろんその表情は見えない。

ただ私を包む雰囲気から、戸惑ってるんだろうな、というのは分かった。

―――ふっふっふ、日頃の仕返しです。そのまま困っていてください。

本当は無意識に目を細めるくらい喜んでるくせに、頭ではそんな勝ち誇ったようなことを考えている。
我ながらつくづく素直じゃないなと思うけど、こればっかりはどう頑張っても直せない。性格の問題なのだ。

戸惑ったように逡巡していた律先輩の手が、やがて私の頭に置かれた。そのままゆっくり撫でられる。


「―――いい子、いい子」


聞き覚えのある言葉に、「えっ?」と思わず顔を上げた。
気恥ずかしそうな律先輩と目が逢う。

「いやー、ほら、唯の真似! ちょっとやってみたかったんだよ」

「キャラじゃないよなぁ」と笑う律先輩。
その頬が少しだけ赤くなっているのに気が付いて、私は何だか妙な気持ちになった。

…なんだろう、これ。
唯先輩に抱きつかれた時のくすぐったい感じとは違う。


ドキドキして、少し胸が苦しい。


律先輩の感触。体温。匂い。声。
その全てに私の五感がこれでもかと言うくらいに反応している。

「…っ」

そんな今までにない経験が急に怖くなって、思わず律先輩の身体を押し返してしまう。
驚いたような顔の律先輩。

それに一瞬だけ怯みながらも、何とか喉の奥から声を絞り出す。

「ば、罰はもう終わりです!」

そう言って慌てて椅子に腰掛け、すっかり温くなった紅茶に口をつける。
しばらくぽかんと立ち尽くしていた律先輩は、やがてはっとしたように目を見開くと、

「なんだよー! さっき、気が済むまでいいって言ったじゃん!」
「そ…そんなこと言いましたっけ? 律先輩の気のせいじゃないですか?」

とぼけながら、まだ少ししか口にしてなかったケーキを頬張る。
うん、やっぱり美味しい。…そういえば、まだムギ先輩に感想言ってなかったな。

「これ、すごく美味しいです、ムギ先輩」
「無視すんな、梓ー!」
「え、わっ―――きゃあっ!」

がばっ、と後ろから律先輩に抱きつかれる。
…って、ま、またあのドキドキが! しかも不意打ちだから威力倍増です!

「や、やめてくださいっ、律先輩!」
「梓が言い出したんだからな! おうとも、あたしの気が済むまでこうしててやろうじゃねーか!」
「ほ、ほんとに駄目なんですって…にゃあっ! ど、ど、どこ触って―――ムギ先輩、助けてっ!」

藁にも縋る思いで伸ばした右手の先には、


テーブルに突っ伏すように失神しているムギ先輩の姿があった。


「む、ムギ先輩!?」

律先輩に抱きつかれたまま慌てて声をかけると、ムギ先輩は最後の力を振り絞って真っ赤な顔を上げ、

「り…りっちゃん×梓ちゃんは…盲点、でした…」

謎の言葉を残してまた失神してしまった。











結局、澪先輩は部室に来なかった。
というのも、どうやら唯先輩と同じで用事があったかららしい。律先輩の携帯にそういう旨のメールが入っていた。

どうして今の今までそのメールに気付かなかったのかと律先輩に聞くと、

「いやー、朝から携帯の電源切ったままだったの忘れてたぜ!」

と正直脱力するしかない返答が返ってきた。



そして、今。

私は無事に目を覚ましたムギ先輩、先頭を行く律先輩と一緒に部室の前の階段を下りていた。
今日の部活は終了ということである。

「今日はいいものが見れました」

と、妙にご機嫌なムギ先輩の頬は未だに紅潮している。
…あの言葉は実はかなり危険な意味だったんじゃないかと思ったけど、何だか怖くなったのでこれ以上考えるのは止めにした。

私たちの前を行く律先輩は、器用にも鞄を持ったまま頭の後ろで腕を組んでいる。
その後姿をぼーっと見ていると、急に律先輩が振り返った。

「なんかさ、唯が梓に抱きつきたがる理由が分かった気がする」
「え?」

これまた器用に後ろを振り返ったまま前進する律先輩。…そんな歩き方してたら足踏み外しますよ。

「何ですか、理由って」

律先輩から目を逸らしながら尋ねる。
あの時のドキドキがまた再燃してきたような気がして、どうしても律先輩の顔が見れない。

律先輩は「んー」と少し逡巡してから、


「なんつーか、ペット抱いてる感じがするんだよなぁ」

「―――はい?」


思わず聞き返す。律先輩は私と目が合うと、にっと笑った。

「ほら、犬とか猫とかって、抱いてるとどうしても頭撫でたくなるじゃん」
「……」
「梓に抱きついてたら、頭撫でたくてうずうずしちゃってさー」
「……」
「唯も多分そんな感じなんじゃないか?」

…何だろう。何故かは分からないけれど、

「すっごい、ムカつきますっ!」
「な、なんで!?」

律先輩が困ったような顔をする。
なんでって、そんなの私にだって分かりませんよ。…分からないけど、無性にイライラするんです。

「ちょ、梓、待てって!」

すたすたと早足で歩き出した私を、律先輩が慌てて引き止めようとする。

「もしかしてペットとか言ったから怒っちゃったのか? なぁってば、謝るからさ、こっち向いてくれよ〜!」

取り繕うような律先輩の声が後ろから聞こえる。
ふんだ、そんなこと言ったって、立ち止まったりしませんよ。


本当は、何でこんなにイライラするのか、自分で分かっていた。
律先輩が私のことをペットみたいだと称したとき―――私だけあんなにドキドキしてたのが、馬鹿みたいに思えたからだ。

…なんてこと、恥ずかしいから口が裂けても言えないけれど。


無言で歩く私の横にぴったりとくっついて、「ごめんって」と笑いながら謝る律先輩。
私たちの一歩後ろで楽しそうに笑うムギ先輩。

そんな先輩たちにばれないように、心の中でふっと笑みを零す。



―――たまには、こんな抱擁も悪くないかもしれません。












(あとがき)
久々の投下で、お目汚し失礼しました。
律梓という新たな萌えを発見してしまったので、勢いのままに書きました。
いい加減な先輩としっかり者の後輩って、オイシイ組み合わせだと思います。
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このページへのコメント

ヤバいこのカプ
最強過ぎる

0
Posted by 零 2010年05月21日(金) 00:42:42 返信

盲点だった!
もっと普及願う

0
Posted by 律×梓 2009年10月22日(木) 23:59:05 返信

GJ
もっと律梓が増えればいいと思う

0
Posted by にっく 2009年10月06日(火) 03:21:53 返信

律梓最高だ
もっと増えてほしいな

0
Posted by 名無し 2009年10月02日(金) 21:11:33 返信

おお…萌え死んだ…
乙!!!!
律と梓で脳内再生余裕だった
そしてムギの扱いがGJw

0
Posted by *** 2009年10月02日(金) 02:23:38 返信

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