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タイトル:『はい、ランチタイムしゅ〜りょうっ♪』
(律和×澪?)


四時間目が終わると昼休み。それにしてもさっきの現国の授業は興味深い内容だったな。
島崎藤村の『初恋』――名詩だよな〜。私もあれくらい叙情的でロマンチックな詩が書けたらいいのに。次回作の参考にしよう。

ふーっ、とりあえずお腹もすいたし、そろそろお昼ごはん食べようかな。
私は鞄からお弁当箱を慎重に取り出した。ふふっ、今日のお弁当は一味違うんだな、これが。

「澪、お昼ごはん食べよう」
「あっ、和。さっきの授業面白かったよね」

クラスメイトの真鍋和。軽音部で同期の平沢唯の幼なじみだ。一年生の頃はあまり付き合いがなかったけど、二年生に進級してクラスが一緒だったこともあり仲良くなった。
生徒会に所属していて成績は優秀。容姿にも優れスポーツは万能。隠れファンも多いという才色兼備のパーフェクト眼鏡娘だ。

「今日は詩の授業だったね。浪漫派の歌人を中心に習ったけれど、やっぱり先生の趣味なのかな?」
「たしかにそうかも。あの先生なんだかセンチメンタルなところがあるしね」

和とは話が合う。この娘はいろんな話題に精通しており、聞いていると関心するほどだ。
生徒会や学校のことはもちろん、昔の唯の話も聞いた。なんでも小さな頃から変わった娘だったらしい……まあなんとなく予想はつくんだけど。

「和、この間借りていた本持って来たよ。面白かったな〜。まさか語り部が犯人だったなんて意表を突かれちゃった」
「そう、よかった。作品の発表当時もこのトリックの是非については物議を醸したそうよ。今となってはありがちだけれどね。それにしても、澪。あなたミステリも読むのね」

私は本をよく読む。とりわけ小説やエッセイが好きだ。入学当初は文芸部に所属しようと思っていたほどだ……さる事情から軽音部を再建させ、入部するに至ったけどね。
今では軽音部で気のいい仲間たちや後輩にも恵まれ、まったりとしながらも満ち足りた日々を過ごせている。

「うん、小さな頃からホームズやルパンものなんかを学校の図書館で借りてたの。わくわくして面白いよね」
「そうね。機知に富んだアイデアで翻弄するミステリは読んでいて飽きないわ。よかったらまた新しい本を貸してあげましょうか?」
「ありがとう、またお願いするよ。今度は恋愛小説がいいな。歌詞作りの参考になりそうなネタを探してるんだ」
「ふふっ、わかったわ。澪って熱心よね」

和はクールで物静かな印象を受けるけど、その実はとても親切で柔和な娘だ。私も同じクラスになってからは和の親切心に甘えてばかり。
なんだか申し訳ない反面、もっと早く知り合っていたら、なんてつくづく思う。
……唯ったら妹にも幼なじみにも恵まれて本当に幸せな娘だな。

「見てよっ、和。今日のお弁当は私が作ったんだよっ! この前教えてもらったレシピを実践してみたけどやっぱり難しかったなぁ」
「……すごく綺麗にできているじゃない。さすが澪ね。味見してもいい?」
「うん、いいよ」

今日のお弁当は自分で作ってきたのだ――すごく早起きしてね。
和はいつも自作しているみたいだけど、本当に立派だよな。私なんていつもお母さんに作ってもらっているのに。
このお弁当も和に触発されて作ったようなものだ。

「うん、いい味してるわ。はじめて作ったとは思えない。ふふっ、澪って料理のセンスもあるのね」
「あははっ、ありがとう。和にそう言ってもらえると作ってきた甲斐があったよ」

和に褒められた。なんだか照れくさいな……
これを機として料理を本格的に練習しておこうかなぁ。いずれ一人暮らしするようになっても便利なスキルだろうし――

「お二人さーん、相変わらず仲いいっすねー!」
「りっ、律! いつの間に……」

煙のごとく登場したのは田井中律。軽音部の部長を勤めている。
律との付き合いは長く、かれこれ十年程になるだろうか。ようするに竹馬の友ってやつだ。

やんちゃで活発な娘で、トラブルに巻き込まれやすい体質である反面、仲間から率先して行動することも多く、部の活動方針に多大な影響力を持っている。
部長としては申し分ないと思うけど、私にいろいろとちょっかいを出してくるのは考え物だ……

「律、どうしたの? なにか用事?」
「ん〜、和。あいかわらず赤いフレームの眼鏡がよく似合ってるねぇ」
「そっ、そう。ありがとう……」

相変わらず訳の分からないことを言って和を困らせている。いつもの事だがよく飽きないものだ。

そういえば学園祭の前から何かと私たちの教室に来てるな、律のやつ。一度お昼ごはんを中断させられて練習に駆り出されたこともあったっけ。
あの時の律ったら風邪を引いて学校を休むわ、唯にそれがうつるわで、一時はどうなることかと思った。ライブ当日もいろんなハプニングがあったけど、無事成功に終わって本当によかったなぁ。

しかし、学園祭が終わった後も、なぜか度々うちの教室に来て、三人でお弁当を食べるなんてことが続いている。
律のクラスにはムギや唯もいるのに、なんでわざわざ私のクラスまで来るんだろう? ……私としては律がいると場の雰囲気が賑やかになるし決して嫌じゃないけどね。

「澪しゃん、私がいなくて寂しくなかった? ほらっ、この胸に甘えてもいいのよっ♪」
「その薄い胸板に甘えろというのか……」
「うわっ、なにそれ皮肉っ? 自分はボインちゃんですっていう影ながらのアピールっ? なんか傷つくわ〜」
「そっ、そんなわけないだろっ!」

律は周りに人がいるのを憚らず、私をネタにしておどけている。
いつもの事だけど、さすがに恥ずかしいのでちょっと自重してほしいかな……
大体なんだよボインちゃんって……センスが昭和だ。

「まあまあ、二人とも落ち着いて。ほらっ、みんな見てるよ――」
「――りっ、律っ。お前のせいだぞっ!」
「あははっ、ごめんごめん。ちょっと調子に乗りすぎちゃったかな」

律はちょっとだけ頬を紅潮させ、頭をぽりぽりと掻いている。
律ったらお調子者ですぐに騒ぎを起こすから、和みたいな冷静沈着な娘と相性いいかも。
和ならすぐにたしなめてくれるしね。

「あれっ、律。今日は学食のパン? それで足りるの?」

和が律の持っていた買い物袋を見ながら言った。その中には菓子パン一つとコーヒー牛乳が入っているみたいだ。
たしかにあれじゃお腹が空くかもね。よしっ、それなら私がなにかをあげてもいいな。

「いやー、ダイエット中ってわけでもないんだけどさ。今日もお母さんが忙しくてお弁当用意できなかったみたいでねぇ。仕方ないからこれで凌ごうってわけなのよっ」
「律、よかったら私のお弁当をわけてあげてもいいぞ。ちなみに今日のお弁当は私のお手製だっ!」
「……えっ、本当っ! うわー、ありがとう澪ちゅわんっ! やっぱり持つべきものは幼なじみだわ〜」
「ふふっ、なんだか小さな子供みたいだな。よしっ、残りは全部あげよう」

私は律に半分ほど残っていたお弁当を差し出した。律ったら目をキラキラさせて喜んでいるみたい。
そんなに喜んでくれるんなら、今度は律のお弁当も作ってきてあげようかな。

「澪っ、お箸がないよ〜っ。ちょっと貸してくれない?」
「そうだったね。ほらっ」
「ふっふ〜、間接キスだね、澪しゃん♪」
「……今さら何を言ってるんだ、おまえは」

まったく、律の悪ふざけに付き合っていると切りがない。
今さら間接キスだなんて、練習のときは同じボトルの水を飲み回したりするくせに。
――和に変な誤解されたらどうするんだ。

「うんうん、澪の手料理はおいしいねえ♪ これは将来いいお嫁さんになるわ」
「……そりゃどうも。ねぇ、律。よかったら今度律のお弁当も作ってきてあげようか?」
「えっ、いいの! うわぁ〜、澪ったらほんとよくできた娘ねっ! なんだか甘えてばっかりで悪いなぁ」
「ふふっ、いいよ。律ってば変なところで気にするよね」

賑やかな昼食。まるで部室でのティータイムみたいだ。
律がいるだけでこれだけ場の雰囲気が明るくなっちゃうんだもんな……やっぱりこの娘はいいムードメーカーだな。幼なじみとして嬉しく感じる。

「――ところで澪、今度の日曜に駅前のデパートで稀覯本の展示即売会が催されるみたいなの。よかったら一緒に行かない?」
「えっ、あそこってそんなこともやってるんだ。興味深いね、それ」

和からの思わぬお誘い。この娘とはたまに遊びに行ったりしている。この前は美術館で芸術品を鑑賞し、その前は商店街でショッピングをした。
和から一方的に誘われることが多く、忙しい合間を縫って、私のために時間を割いてくれるなんて恐縮の極みだ。

それにしても、なんで和と遊ぶときは二人きりのときが多いんだろう? 放課後にお茶をするときは唯が連れ添うことも多いけどね。
和によると「澪と一緒にいると、私の知らない私に気付く」――とのことらしい。

なんだか抽象的で判然としない言葉だけど、和と遊ぶといろいろ考えさせられることもあるので、かなり有意義な時間を過ごせてきたと思う。
律とは真逆とも呼べる性格の和。今まであまり付き合ったことのないタイプなので創作活動の参考にもなるのだ。

「今では絶版になっている本を中心に展示するらしいの。ミステリやSF等の娯楽小説も取り扱っているそうよ」
「うわー、面白そうだな〜。決めた、私も行くよ。どこで待ち合わせする?」
「そうね、現地集合でいいんじゃないかしら? なんだったら澪の家まで迎えに行ってもいいけど……」
「私の家だと駅から反対方向だから遠くなっちゃうよ? まあ詳しいことはメールでやりとりしようか」

とんとん拍子で話が決まっていく。
和は決断力に秀でた娘なのだ。

「……えーとっ、お二人さん。ちょっとよろしいですかな?」
「んっ、なんだ、律? 藪から棒に」
「澪ったら忘れてたのっ! 今度の日曜は私と映画を見に行くって約束してたしっ!」
「げっ、そうだっけ。あっ、そういえばそんな約束をしたようなしてないような――」
「ずっと前からしてたってば!」

そうだ、忘れていた。今度の日曜は律と映画を見に行く約束をしていたのだった。
タイトルは『死霊どもの夜明け』……だったかな? いかにも律好みのホラー映画だ。
チケット代は律が負担してくれるらしい。律いわく「自分が誘ったんだから当然でしょ!」――とのことだ。
正直なところ、いくら無料で見られるとはいえ、私としてはあまり気乗りがしないんだけどなぁ……怖いの苦手だし。

「本当なの、澪。律と映画を見に行くって」
「あーっ、うん。……実はそうなんだ。今しがた思い出した」
「もうっ、澪ってばうっかり者なんだからっ。文化祭の前から約束してたからっ!」

律と和はちょっとだけ困った顔つきで私を見ている。
ああ、ごめんよ律・和……まさか約束事がダブルブッキングするなんて思わなかったんだ。そう、他意はない。

「困ったわね、展示即売会はその日だけなのよ」
「えっ、そうなの? 行きたいなぁ、私……」
「ちょ、ちょっと澪っ! 私との約束はどうなるのよっ」
「そうだっ、律っ。おまえも来ないか、その展示即売会にっ! 映画はまた来週ってことにしてさ」

私は思わず律に言った。
しかし、律が稀覯本の即売会なんかに興味を持つとは思えないなぁ……

「ダメだってば、澪っ! ……もうチケット予約してるし、今からだとキャンセル料とられちゃうかもっ!」
「そっか――だったら私がキャンセル料を負担するからさっ」
「だめっ、絶対にその日がいいのっ!」

律は駄々っ子のように頬をぷっくりと膨らませている。
なんで今度の日曜日にそんなに固執するんだろう……理解に苦しむ。

「ちょっと、律。澪もあれだけ言ってるんだから、ちょっとは彼女の意思を汲んであげてもいいんじゃない?」
「なんで和がそんなことをっ! 私が先に澪を誘ったんだからねっ」
「そういう意味じゃなくて。澪が本当に行きたい方を優先すべきなのじゃないかなっていう意見よ。澪っ、あなた律と映画を観に行きたかったの?」
「うーん、実はそれほどでもなかったりするのかも。あまり私の趣味じゃなさそうだし。あっ、でも決して行きたくないってわけじゃ――」
「ほらみなさいっ、澪は今度の日曜は『私』と同じ時を過ごしたいって言ってるわ!」

私が言い終わる前に、和が強引とも取れるほどに口を挟んだ。
なんで「私」の部分を強調するんだろう、和ってば。感情的になりすぎていつもの和じゃないみたいだ。顔もどことなく赤くなって冷静さに欠ける――
そもそも「私と同じ時」ってなんだ? 稀覯本の展示即売会に行くんじゃなかったのか……?

「絶対にダメだからねっ、和っ! こういう話は早い者勝ちよっ!」
「あのねっ、個々人の権利が尊重されてこその民主主義よっ! あなたの横暴な振る舞いはその基本原則に反しているわっ!」

和が大げさなことを言い出した。なんだか雲行きがおかしい。律と和はいかめしい面持ちで睨み合っている。その視線の交差するところで火花が散っている錯覚すら覚える。
オロオロとしながら二人の動向を見守る私。ああっ、なんでこんなことに……
それに律っ、早い者勝ちって……私は福引の景品じゃないんだぞ。

「だったら私の権利が尊重されてもいいよねぇ。それに、澪だって本当は私と一緒にいたいに決まってるし! なんせ十年も同じ時を過ごしてきたかけがえのない幼なじみなんだものっ!」
「……ちょっと付き合いが長いからって図に乗らないほうがいいわよ、律っ! あなたみたいな暴力的なまでに強引で落ち着きのない娘は、繊細かつ可憐な澪にふさわしくないのよっ!」
「なぁんですってぇ! この女狐顔っ! あんたちょっと澪とクラスが同じだからってベタベタし過ぎてると思ってたら案の定っ……! 監視しといて本当によかったっ!」
「めっ、女狐顔ですってっ! 訂正なさいっ! 今すぐにっ!」
「何度でも言ってあげるっ! この女狐、泥棒猫っ! すっ、すかぽんたーんっ! そもそも唯ってものがありながら、この浮気者ーっ!」
「――っ! ゆっ、唯には母性本能からくる愛情だけでそんな感情はないわっ! 口を慎みなさいっ、このデコ広女っ!」

――何が起こっているんだ? 私は思わず絶句してしまっている。
気がつくとクラス中の注目の的じゃないか。ああ、みんな。そんな白い目で私たちを見ないでおくれ……
この急展開は何かの悪い夢なんじゃないんだろうか? 頬をぎゅっと摘んでみると涙がでるほど痛かった。

そもそもなんで彼女たちはこんな――やっぱりわかんない。今度の日曜日に予定が重なってしまっただけじゃないか……
いや、律との約束を失念していた私に責があるのかもしれないけど、そんなことで悪罵が飛び交う口喧嘩をするなんて絶対におかしい……

「うぬぬぬぬぬぬ……こっ、こうなったら私とあんたのどっちが大切か、澪に問いただしてみるしかなさそうねっ!」
「そうね、望むところよっ! 澪の心中では粗暴で野卑なデコ女より、私の方が尊い存在であることは火を見るより明らかだけれどねっ!」
「言ったわねっ、このムッツリ眼鏡女っ! 今まで育んだ絆の深さを思い知らせてやるぅ!」

ちょっ、すでに争点が違うじゃないか。なんで「律と和のどちらが大切か」なんて話になってるんだ……
ああ、もうっ。二人とも完全に我を忘れてしまっている。顔は烈火に焼かれた小石のように真っ赤で、瞳にはうっすらと涙を滲ませている……
こうなったら私が冷静に対処してことを治めるしかない――

「さぁっ、澪っ! 答えてよっ! 私と和のどちらが大切なのっ! もちろん私に決まってるよねっ!」
「澪っ! あなたは幼なじみという腐れ縁に絆されているだけなのっ! あなたはもっと自分のことを考えるべきなのよっ!」
「ちょっ、どういう意味よ、それっ!」
「あなたみたいな娘と交友関係を続けても澪のためにならないってことよっ! 聞いていてわからなかったのっ!」
「キィーッ! もっ、もう許さないっ! あんたなんかに澪を任せると何されるか分かったもんじゃないっ! 一生お嫁にいけないカラダにされるかもっ!」
「――結局あなたの頭ではそういう下劣なことしか考えられないのね! 心底軽蔑したわっ!」

律ったら何を言ってるんだ……聞いてるこっちが恥ずかしい。
早いところ事態の沈静化を図らないと……

「そっ、それは……わっ、私にとってはどちらも大切な友達だよ、うんっ。どちらかを選べだなんて不可能……」
「そんな半端な意見でお茶を濁せると思った、澪っ! あなたはもう決断するしかないのっ!」
「そうだっ、澪! 優柔不断が一番ダメなんだぞっ!」
「珍しく意見が一致したわね、律。さぁ、澪! もう一度よく考えてっ!」
「えっ、えっとね。わっ、私は――」

そっ、そんなぁ……ムリだって……
律は私の幼なじみで軽音部のリーダー。つまらないケンカもするけど、これからも末永く仲良くしていきたいと思っている。
和はクラスメイトで気の合う友人。創作活動のアドバイスもしてくれるし、高校卒業後もずっと連絡を取り合いたいと思っている。

いや、そもそも選べってなんだ? 二人とも何を言ってるんだ? もう訳が分からない……
ああっ、なんだか涙が出てきた――

「ううっ……」
「あれっ? みっ、澪。泣いているの?」

思わず泣いてしまう私。溢れ出した涙は止まらない……
瞳から流れ出した涙は頬を伝い、頤から床に落ちていく。

「あっ、あんたのせいよ、和っ! あんたが澪に強引に迫るからっ! 澪って小動物みたいに気が小さくて優しい子なんだからねっ!」
「そういうあなただってきつく問いただしていたじゃない、律っ! 責任転嫁はやめてほしいわっ!」

二人ともまだケンカ腰みたい。思わず私は言った――

「……わっ、わたしはみんなで仲良くしたいだけなのに……」
「みっ、澪っ――」
「……なんで二人してケンカなんてしてるのよぉ……おかしいよ、こんなの……」
「……」

愕然として黙り込む二人。互いに目配せして意思の疎通を図っているようにも見える。

(ねぇ、律?)
(なっ、なにっ、和っ?)
(澪もああ言ってることだし、ここは一時休戦ってことにしないかしら?)
(うむっ、意義なしっ……)

急にニコリと笑って私の肩をさする二人。その額には冷や汗が浮き出ているように見えた。

「もっ、もうっ。澪ちゅわんったら――ほんの冗談だってばぁ♪」
「そっ、そうよ! さっきのは律……りっちゃんと共謀しておどけてみただけなのっ! びっ、びっくりしちゃったかしらっ?」
「私と和……ちゃんってばこんなに仲良しなのに〜。ねっ、和ちゃんっ!」
「そっ、そうそう。 私とりっちゃんといえば桜高でも屈指の仲良しコンビなのよ。……ほらほら見てっ♪」

肩を組み合って高らかに合唱する二人。その顔は薄ら笑いを浮かべている……
なっ、なんだか変っ。思わず笑いが込み上げてきた――

「……ぷっ、あはははは。なんなの二人ともぉ。そっ、その顔っ!」
「よかったぁ、澪。泣き止んでくれたのねっ! まったく、一時はどうなることかと……だよねっ、和ちゃん!」
「そうよね、りっちゃん。わっ、悪ふざけが過ぎちゃったのかしらん。あっ、あははっ」
「いっそのこと二人で役者にでもなったらっ?」
「あっ、あははははははははははは……」

そんなこんなのランチタイムだった。
結局、今度の日曜日は三人で映画を見た後、稀覯本の即売会に行くことになった。
まったく、はじめからこうしとけばよかったのになぁ……

今回のことはひとまず冗談でよかった。本当に迫真の演技なんだもの……びっくりしちゃった。
それにしても和があんな小芝居をするなんて……あの娘ってそういうキャラだったっけ? なんだか和の意外な一面を垣間見た気がするなぁ。律はいつものことだから慣れっこだけど。

しかし、律が教室を去る際の二人のやり取りがちょっとだけ気になる。
そう、私には小さな声でこう話しているように聞こえたのだ――

「今日は思わぬ事態に陥ったけれども、澪は必ずわたしのものにしてみせるから、律……」
「澪は絶対に渡さない――っ! まさかあんたと恋敵になろうとはね、和……」


おしまい

このページへのコメント

口調が違うからいまいち入り込めない

0
Posted by あ 2011年02月16日(水) 09:40:22 返信

いやはや参りました。
ここまで違和感なく文章で引っ張って行くとは思いませんでした。
和と澪って確かに友達としてしっくりきますね。実際作中でもその空気が気に入っている場面もありましたし。
しかし二人の気持ちにまったく気付かずの澪!
このままだと澪に振り回されてしまいますね・・・。それも見たいですが(ニヤ
楽しく読ませていただきました。!ありがとうございます。

ちなみに冒頭は、ポーかなって思いました。(^^

0
Posted by ぽむ 2009年07月30日(木) 22:53:25 返信

ご感想ありがとうございます、読み専Aさん。

11話を何度も鑑賞する事で妄想を膨らました挙句、今回は文章としてアウトプットしてみた次第です。
唯とのカップリングで括られがちな和ですが、彼女をもっと他キャラと絡めたいという発想は以前からありました。
そこで律×澪の対抗馬として演出してみたのですが……

ちなみに「語り部=犯人」は一応アガサ・クリスティーの某有名作を念頭に置いて書きました。
とは言え、この点は読んでくださった方のご解釈におまかせしますw

0
Posted by 作者 2009年07月28日(火) 20:11:16 返信

乙です。

和と澪、あんまり関連付けられることのない2人だけど、文学について語り合うところを見てたら、
なるほどこういう関係はこの2人の組み合わせ以外では作れないなと感心してしまった。
カップリングについては発掘され尽くしたかなーと最近思ってたけど、新たな可能性を見せてもらいました。
後半の律と和の口論も読んでて楽しいギャグになってて、大変面白かったです。

あと、冒頭の語り部=犯人は「夜歩く」で合ってる?

0
Posted by 読み専A 2009年07月28日(火) 04:27:28 返信

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