2chエロパロ板のけいおん! 作品のまとめサイトです。

著者:2-717氏


1.

「ひゃー! やばいやばい! 冷たっ! て言うか痛っ!」
「だぁっしゅ! もう少し! あと10メートルくらいだから!」
ばっしゃ、ばっしゃ、ばっしゃ。 ダッシュダッシュ。 一歩踏み出すごとに、足元に水飛沫があがる。
うちのドアをがちゃっと開けて、澪の手を引っ張り込んで、乱暴にドアを閉める。 ふぁ〜。 ようそろ!

「もう、いきなり降ってくんなよなー! あーあー、下着までびしょびしょ。」
「やっばい……ベース大丈夫かな。 このケース、防水だっけ。」
ようやく人心地。 夏の夕立は、唐突だ。 空の底が抜けてしまったかのような豪雨にあって、私らはすっかり濡れねずみ。

「よかったぁ、きもち湿ってるけど大丈夫だ。 ハードケース買おっかなぁ。 心臓に悪すぎるよ。」
「とりあえず、そこら辺で乾かしといたら良いんでない? ちょい、じっとしてて。 髪、絞ったげる。 重いでしょ。」
「ん。 サンキュ。」
腰まで届く綺麗なロングヘア。 普段から肩こりを誘うほど重いそれは、水を吸ったら冗談抜きのヘビー級。
ぎゅー。 だばば。 おぉー。 絞れる、絞れる。 スカートも、ぎゅー。 だばばば。 玄関もすっかり水浸し。
お母さんが持ってきてくれたタオルで、体中を拭く。 あー、張り付いた服、鬱陶しい。

「化粧、アイプチ、まつ毛のエクステ。 おぉ、哀れな少女たちよ。 今こそ本当の顔で恋人と向き合う時なのだ……。」
「くすっ。 なぁに言ってんだか。 ま、すっぴんの私らには関係ないけどね。」
「お互いキュートなすっぴんでよござんしたねー。 うわっ! ひょっとして今の私、やばすぎ? いわゆる、水も滴るいい女?」
「んんー。 仮に私がそう思ったとして。 私の感性は痒くて当てにならないって、誰かさんが言ってたっけなぁー。」
ぽこぽこぽん。 くすりと笑う澪の頭にファイブストローク。 ぴぴぴ。 ぴぴぴ。 んっ。 この電子音は。

「お母さん、ナーイス。 みおー。 お風呂入れてくれたみたいだから、入ろっぜぃ……くしゅん!」
「あー、助かる。 ありがとうございまーす……くしゅん!」
二人でくしゃみしながら、だだだと脱衣所に駆け込む。 もー、なんで濡れた服ってこんなに脱ぎにくいんだろ。
くつした。 スポブラ。 ぱんつ。 半ば力任せに引っぺがす。 ふぅ。 マッパになったら、ようやく気持ちが落ち着いた。
澪は、と……あははは! ブラウスのボタンも外さずにTシャツ脱ぎしようとしたのか、澪は茶巾状態でふらふらしていた。
なんだそれ! お前ねー、髪がばらばら垂れて、なんか妖怪みたいになってるよ。

「り、りつー。 なんとかしてぇ。」
「こら、動くな。 今、ボタン外してやるから。 くす。 あんた、髪長いんだからこんな脱ぎ方すんなよ。 横着すぎ!」
「ふ、普段はしないぞ! 今はもう、一秒でも早く脱ぎたかったの!」
にひっ。 わぁかってるって。 澪が髪の毛をとても大事にしてるのは先刻ご承知。 全てはこのいきなりの夕立のせい、だよね。
脱いだものをポイポイ洗濯機に放り込む。 気持ちをさっぱりさせる準備はオーケー。 んし、それじゃあ。

「たんま、律。 カチューシャつけっぱだぞ。」
ととと。 澪がカチューシャを外してくれる。 出鼻をくじかれたけど、今度こそ。 お風呂に入ると致しましょっか!


2.

「いてて! もー、なんで冷えた体へのシャワーってこんなに痛いのかねー。」
「あ、それ知ってる。 あのね……。」
「あ、教えてくれなくていいよ。 言ってみただけで、興味は無いから。」
ぽかりと小突かれる。 やったなぁ。 お返しに、顔にシャワーを当ててやる。 きゃあきゃあと騒ぎながら、体を洗う。
はぁー、生き返る。 冷えた体に血が通ってくるのが分かるよ。

「なんか律んちのお風呂入るの久し振りだね。 こんなんだったっけか。」
「なにぃー。 覚えてたよりも風呂が小さいだとぉ! 悪かったな!」
「そんな事言ってないだろ! 合宿で一緒にお風呂入ったりしたけど、違う感じ。 子供の頃に戻ったみたい。」
ん。 言われてみれば、そうだね。 ごく自然に洗いっこするのも、考えてみれば子供の頃以来。
高校生の女の子二人では、少し手狭に感じる洗い場。 澪の髪に薄めたトリートメントを撫でつけながら、嘆息する。

「……子供の頃はこんなに差、無かったのになぁ。 ふ。 やはり男子に触られると違うのね。 よよよ。」
「どこ見て言ってるんだよ! 触られてないってーの。 これはじ・ま・え・だ!!!」
わしゃわしゃ髪を洗ってくれていた手が、突然ぎゅーと引き絞られる。 痛い痛い! やめて! はげちゃう!
こうして向かい合ってると、私は自然と見上げる形になる。 旦那さまってこんな感じなのかしらん。 なんちって!

「よーし、しゃがめー。 頭からいくぞー。 準備はいいかー!」
「ばっちこーい!」
風呂桶いっぱいの湯を、頭からざばーとかける。 私の頭にもざぱーとお湯がかけられる。 よっし。 洗うのおーわりっ。
今日のお仕事はおしまいですよーっと。 髪から水気をきって、バスタブに浸かって。 澪が言いにくそうに目線を投げてきた。

「その……あのさ、律。」
「皆まで言うな、澪。 ……敗北を、認めるわ。 やっぱり。 うちの風呂は狭かった……。」
向かい合って入ってみたものの、これは辛い。 碌に足、伸ばせやしない。 これはお互いの成長を喜ぶべきなんだろうか……。
解決策を考えてみて、一人頬を染める。 んん。 さすがにこれは、ちょっと恥ずかしい、けど。

「ん、しゃーない。 これしかない。 スパッとやってやろうじゃないの!」
「こら! 立ち上がるなら、前隠せ!」
赤くなって叫ぶ澪の前で、くるっとターン。 事態が理解できていないであろう澪に向けて、ぽそりと呟く。

「澪。 もうちょい、足開いて。」
「へ。 え? なんで? ……こう?」
戸惑う声が聞こえたけれど、眼下にすすすと動く足。 ……。 えぇーい。 何ためらってるんだよ、私。
恥ずかしくない。 これしか無いんだから! 澪の視線が、私のお尻に集中してる気がする。
うん。 そっちの方が、よっぽど恥ずかしい。 すぅぅ。 はぁぁ。 一回だけ、深呼吸。 覚悟を決めて、かがみこむ。
私は、背を向ける形で、澪の両足の間にすっぽりと収まった。


3.

沈黙。 小窓の向こう、夕立が降りつける音がうるさい。 それ以上に。 私と、澪の、呼吸。 うるさくて。
足に、背中に、お尻に、澪の柔らかさが触れるのが分かる。 ううん。 触れるなんて、控えめすぎる表現。 融けている。
意識しないようにすればするほど、逆に強く意識してしまう。

わたし、いま。 澪と、恋人座りしてる。

「り、律……これは、その。 こういうのって……。」
「ほかに、無いじゃん。 あーもう! 澪のむっつり! 変な事考えるな! 私と澪の仲だろー!」
ぎゅむーと背中を思いっきり押し付ける。 中途半端に恥ずかしがってるから、あぶない感じになるんだ。
分かるよ。 分かってるよ。 もう高校生だもん。 いくら親友でも、幼馴染でも、これはちょっとデンジャラスなふんいき。
でも、妙な意地があった。 ここで恥ずかしがったら、認めてしまう気がする。
大人になったから、澪との距離が開いたんだって。 それは癪だった。 距離が開くなら、それは私の意志でなきゃいけない。
私は私。 澪は澪。 振る舞い方は、自分で決める。 他の何かに決められて、たまるもんか。

また沈黙。 密着してしまったぶん、お互いの息遣いが嫌になるほどはっきり分かる。 どき、どき、どき。
澪の脈拍、速い。 私も多分、速い。 聞こえる脈は一つ。 それはつまり、私と澪のハートは、同じリズムで動いてるという事。
ぴかっ。 どどどーーん。

「きゃぁ!」
「わぁ!」
いなびかり。 轟音。 近くに雷、落ちたみたい。 ぐぎゅ、と私にしがみついて震えている澪。
体を少し倒して斜めに振り返れば、息のかかるくらい近くに、目をつむって怯える顔。 ぷっ。 ほらね。 私の知ってる、澪じゃんか。

「ほら、もう雷、鳴ってないから。 目ぇ開けなよ。」
「ほんと……? ……え。 あははははは! なひ、その顔! あはははは!」
目を開けた澪の前に、とっておきの面白い顔を置いておく。 気詰まりが笑い声に溶けていくのが嬉しくて、微笑む。
しょうがなさそうに笑う澪の指がぴん、と私の鼻の頭を弾く。 澪のてのひらが、優しく私の前髪をあげる。
んねっ。 変わってないじゃん、私ら。 リラックスできたのか、澪は私のお腹に手を回して抱き締めたまま、少し体を伸ばした。
今なら変な気構え無しに、このいとおしさを受け容れられる。 さっきとは違う、沈黙。 幸福な静けさが、満ちた。

「やっぱり、額出してる方が律らしい。 律、肌、きれいだね。」
「なんだよー。 せっかく方向修正してやったのに、またまたあぶないぞー。 いいんですかこれ? ふたりモードですか?」
「そ。 ふたりモードです。 今更かっこつける意味なんて、あっりませーん。」
二人して、けらけら笑う。 澪はすらりと背が高くて、こうして抱きかかえられていると、本当に恋人になったような気分。
ま、いいよね。 今、ふたりモードだもん。 優しげな時間、だったのに。 私の不用意な一言で、それは、壊れてしまった。

「こんな時間もきっと、高校終わるまでだね。 そしたら……ちょっとずつ、疎遠になってくのかも。」


4.

二つ返事で否定とも肯定ともつかない言葉が返ってくる……そんな私の予想は外れた。 澪は返事をしなかった。
訝しく思って、また体を横倒しにして、斜めに振り返る。 固い表情。 澪は、私の言葉を、適当に受け止めてはいなかった。

「なんで……そうなるわけ? これまでも、クラスとか違ったけど、疎遠にはならなかっただろ。 これからも、そうだよ。」
「そうかなぁ。 友情とか、恋愛とか。 私、遠距離なんて、信じてない。 会えなかったら、薄れるよ。」
「私は信じてる。 薄れないと思う。 もう十年来の付き合いじゃないか。 そんなの、簡単に薄れたら、たまらない。」
ここまで強い調子の言葉が返ってくるとは、思ってなかった。 まずったかな。
澪は現実にリアルに向き合ってるように見えて、根っこの部分でどうしようもなく乙女。 なんて言えば、伝わるだろうか。

「その十年、ずっと一緒にいたからだよ。 ただの、一般論。 同じもの見て、同じ事して。 私たち、誰よりも近かった。
 これからは、無理だよ。 例えば五年。 一度も同じ時間を共有してない人より、身近にいる人の印象の方が、強くなるよ。」
「……なんで突然そんな事言うんだよ。」
いたっ。 左足の内ももに置かれた、澪の手。 その爪が、食い込んだ。 なぜ? なぜって? ……なんでだろ。 分かんない。

「私は信じる。 でも、律が信じないなら。 律が遠ざかるつもりなら、どうしようもないじゃないか。 ばか律。
 なんでそんな事言うんだよ。 距離とか、時間とか。 そんなの言い訳じゃないか。 律は。 どうしたいんだよ……。」
はっとする。 澪。 ふるえてる。 傷つけた。 私の想像より、ずっとずっと深く、澪は私との時間を大切に想ってくれていた、のに。
澪の言う事は、さっきの私の気持ちそのままだった。 どうするかは、自分で決める、なんて。
裏を返せば、それは根拠の無い意地。 おさなさ。 時間と、生活と、折り合うために。 きっともう、捨てなくてはいけないもの。
分かった気がする。 私は否定したかったんだ。 大人になる事を。 とどめておきたかったんだ。 過ぎていく幸福を。
変化も、挑戦も、嫌いじゃない。 そんな自分の根幹が歪んでいるのに、気付かないほど。
幸せだったんだ。 澪。 唯。 ムギ。 和。 梓。 さわちゃん。 みんなと過ごす時間が。 大切すぎたんだ。
だから私は、ささやかな嘘を、口にする。 おさなさを、優しく眠らせるために。 ちゃんと未来に、踏み出していけるように。

「変な事言って、ごめん。 私は。 澪と一緒にいたいな。 ずっと。 おばあちゃんになっても。 澪は、特別、だから。」
そらぞらしさが、悲しい。 分かってる。 二人で完結させるには、私達の世界は広すぎる。
私がそうするように。 澪も羽ばたいていって、私よりも上等な止まり木に出会うのだろう。 でも、今はこれでいい。
一つだけ、ほんとを混ぜた。 それは。 私は少なくとも今、誰よりも澪の特別なのだという、小さな自負。

「……律の嘘、すぐ分かる。 それが律の考えだって言うなら、もういい。 でも、一個だけ、知っててほしいよ。
 私も律のこと、特別だと思ってる。 ほんとだよ。 今までも。 これからも。 いつまでも。 律が、私を。 忘れても。」
聞かなければよかった。 そしたら。 きっと大人に、なれたのに。
このおさなさを、眠らせる事ができたのに。 いつまでも、どこにも行かないで、なんて。 馬鹿を言わずに済んだのに。
つまらない意地も、すかした嘘も、失くしちゃって。 ほんとの気持ちだけが手元に残って。

「……き、だよ。 りつ……。」
澪の顔が近付いてきた時。 ぽそりと何か、耳元で、囁かれても。 目を閉じたりしないで済んだのに、な。


5.

離れても、甘い痺れが、頭の芯に残ったような感じ。 ふたりモード、やっぱり、あぶない。
心が震えるから、声も出せないくらい、なんて。 こんな気持ち、初めて。
あぁ。 私、この感じも知らずに、なに分かったふうな事、言ってたんだか。 澪は、知ってたんだ。 だから、ああ言ったんだ。
今なら私も、遠恋、信じると思う。 いま、わたし。 澪にそれを信じさせたのが、私だったらいいな、なんて。 思ってる。

「……これで、私ら、特別だから。 もう、律の一般論の、外だから。 だから、もう。 変な心配しないで、いいよ。」
ぽそり、と呟く声。 へっ? なんだ、その理屈。 これ以上なく真っ赤な顔。 これ以上なく、真面目な瞳。
……そだね。 澪って、こういう奴。 とてもいとおしく、思う。 微笑みが零れた私は、小さく、うん、って返事した。
額を澪の頬に擦り付ける。 どこかに走り出していきたいような、変なエネルギー溢れてきて、どうしようもないけれど。
逃げずにいよう。 隠さずにいよう。 あるがままの、私でいよう。 澪の前でなら。 それでいい。

「……爪たてて、ごめん。 痛かった?」
「ちょっと。 今度やったら、噛み付いちゃうぞ。」
かじ、と優しく首に歯を当てて、噛み付くふりをした。 びびってほしかったのに、なんでか澪は、ちょっぴり赤くなっただけ。
なんだよ。 普段はびびりのくせに。 へんなやつ。 ぴったりくっついて、身を委ねる。
爪をたてた場所から、澪の指が、つつつ、と内股をなぞり上げる。 わゎ。 今度は私の方が赤くなる。 今日の澪さん、大人!

「そ、それで、あのさ、律。 ……返事は?」
「へっ。 返事って、何の?」
「だーかーらー! さっき言っただろ! その……ス、する、前に。 す、す……だって。」
へ? さっき言った、何か? ……すする前に、スス? なんだそれ。 ぼそぼそ言われても、さっぱり分からないぞ。
きょとんとしていると、段々と澪の眉間にシワが寄ってきた。 あれ。 不機嫌になってきてる!? まずげな空気に、慌てて言い繕う。

「まま待って! ほら、私にも心の準備とか、あるじゃん? 100数えて、あったまろ? 数え終わったら、返事するから。」
「……べ、別に、そんなに急がなくてもいいけど。 そろそろお風呂出る頃だし、100数えるってのはいいかもね。 ……いーち。」
い、いーち。 危なかった。 なんとか100カウントの間、延命した。 この間に思い出さなければ、私はまた宙吊りに……ノォー!
返事? 何か、返事を要求されるような事、言われたっけ? ……さっぱり思い出せにゃい。 あ、あと90カウントしかないぃ。

「じゅーいち。 じゅーさん。」
「待て待て待て! 今カウントとばしただろ! ズルすんな!」
「え? 私がいつズルしたって言うんだよ。 じゅーよん。 じゅーご。」
うそーん。 澪の表情に、悪気は見られない。 甘かった。 これ、ナチュラルに間違えられたら、訂正する方法がなぁーい!
つまりカウントよりも実際の猶予は少ないわけで。 すする前にスス……すする前にスス……うあぁ! 何の暗号だよ、これー!

「にーじゅう。 さーんじゅう。 よーんじゅう。」
「オマエ絶対わざとやってるだろ!!!」
上機嫌でカウントを間違える澪の横で、私は絶望的な気分で頭を抱えるのだった。


6.

湯あがり、さっぱり、雨あがり。 夏至も近付く夕まずめ。
夕立が去って雲が晴れてみれば、まだまだ空が明るいって辺りに、季節を感じる。

だんまり。 二人して、ふてくされた表情で歩く。 結局、100数えても言われた事を思い出せなくて、澪はへそを曲げた。
教えてと言っても教えてくれないので、私もへそを曲げた。 つむじ曲がり同士、コンビニへ向かって並んで歩く。
しょせん私らを繋ぐものなんて、お風呂あがりのおやつだけですよーだ。 ふんっ。

かちゃかちゃ。 石鹸水の入った容器をストローでかき混ぜる私を、澪が不機嫌そうに見やる。
気付かないふりして、ストローから吸い上げた水を飛ばす。 ぷゎぷゎぷゎ。 綺麗なシャボン玉が、夕明かりの空に舞う。

「……泊まってけば。」
「やだ。」
このやり取り、何回目だろ。 相変わらず、澪の声は不機嫌そう。 まだ、返事もできてないままだし。
そんなの抜きにしても、今日は、もう少しだけ。 ううん。 ずっと、一緒に、いたい。 この、わからずや。
誰ともすれ違わない、初夏の夕暮れ。 私達は仏頂面のまま、コンビニに到着した。

「これ持って入るわけにいかないし、私、買ってくる。 持ってて。」
「……私、ブラックサンダー。」
容器を受け取って、ぶっきらぼうに澪が言う。 実にらしいセレクション。 お菓子コーナーをぶらり。
このコンビニの品揃えは、なかなかにマニアック。 平たく言えば、微妙。 私は……おや。 ……これに、しよっと。
会計を済ませて外に出ると、澪もぷゎぷゎとシャボンを吹いていた。 くちびる。 お風呂での事を思い出して、一人で赤くなる。

「はい。 チョコ、買ってきた。」
「あれ。 ブラックサンダーじゃないじゃ……。」
商品名を見て、澪の言葉が止まる。 赤い顔で私を見る。 私だって恥ずかしい。 ぼそりと商品名を読み上げる、澪。

「チョコラーメン……好きやっちゅうねん。」
「……私。 言われた事、頑張って、思い出すよ。 ね。 ……泊まってけば。」
「……。」
もっぺん言ってみる。 ほんのり染まった澪は、しばらく私を睨むようにしていたけれど、やがて黙って携帯電話を取り出した。
これ見よがしに、画面を覗いてやる。 澪はちら、と私を見ると、登録した電話帳を繰り始めた。
ん。 あれ。 じろじろ見てると、へんな事に気付いた。 こいつ、家の電話が001で、私が、000。 ……ふーん。

澪、わざと見せたのかな。 ……別に、どうでも、いいし。 ちょっぴり浮き立った心を誤魔化すように、石鹸水をかき混ぜる。
ぷゎ、ぷゎ。 背中合わせ。 今なら、むくれた顔する必要も、無い。 石鹸の匂いに、目を細める。

そう、律んち。 うん。 教科書は、ロッカーに置いてるから……。 澪はまだ001番とお話中。 000番はとってもおひま。
薫る黒髪にもたれた私は、夜風と落日の彩りの中、シャボン玉をぷゎぷゎと吹き続けた。

おしまい

このページへのコメント

非常に切なく甘いお話でした!

0
Posted by jiji 2011年12月13日(火) 13:27:10 返信

人気あるな(笑)

0
Posted by ユウ 2010年02月20日(土) 05:05:25 返信

(*´д`*)ふおぉぉぉ!

0
Posted by (*´ω`*)百合カワユス 2009年11月23日(月) 22:55:42 返信

このお話が一番好き
作者さんの律澪がもっと読みたいです

0
Posted by 律澪好き 2009年09月12日(土) 23:48:17 返信

本当に、本当に、す……っっごく良かったです。
続きが読みたいです。ほんっとに。

0
Posted by 正直 2009年08月24日(月) 23:51:01 返信

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